S原:今回は原作に忠実な源氏物語ですよ。
Y木:ほう。チョイスが渋いな。
(あらすじ)
せめて一夜でも光の君と……女性なら誰でも一度は憧れた夢の恋を現代に結ぶ絢爛の大ロマン!
宮廷の全女性の憧れ、光源氏は、時の権力者左大臣の娘・葵の上を正妻とし、順風満帆たる人生を歩んでいた。ところが、父・帝の恋人である藤壷との出逢いにより、前途に陰りが見え始める。亡き母の面影をしのぶ藤壷に禁じられた想いを募らせる光源氏。その陰に嫉妬に狂う女の策略があった。これを知った朧月夜は、光源氏を救おうとするが……
S原:ぼく、じつは源氏物語って好きやねん。
Y木:へえ、意外。
S原:まあ一番好きなのは大和和紀の「あさきゆめみし」やけどな。
Y木:漫画かい(笑)せめて田辺聖子とか言ってくれよ。
S原:あ、田辺聖子も読んだで。でも、大和和紀版が一番わかりやすい(とくに人間関係)し、当時の恋愛の表現が上手いと思うねんけどな。
Y木:ふーん。興味がないから、ふーんとしか言いようがない(苦笑)で、この映画はどうなん?
S原:この映画はなあ……かなり紫式部の本に忠実なんやけど…
Y木:あかんの?
S原:源氏物語って平安時代特有の文化や風習があって、人間関係が複雑な話やねん。登場人物一人一人に背景があるのよ。なので説明をどこまでするかがポイントなんやけど……このへんは後で言います。
Y木:他はどういうところが不満?
S原:ちょっとスローかな。いろいろな出来事が起きるわりに、どうもドラマが盛り上がらない。そのゆったりとした感じが、絵巻物という雰囲気には合ってると言えなくもないけどな。
Y木:壮大な絵巻というか豪華絢爛なセットとか衣装をみせる映画とちゃうの?
S原:セットは良かった!まさに絵巻をそのまま立体にした感じでな。セットそのままなんやけど、逆にそれが奥行きがあるというか。このへんは言いにくいな。一度観てくれ、としか言いようがない。ただ、さっきも言ったけど原作に忠実やねん。その分サプライズもない……あ!でも「千年の恋 ひかる源氏物語」(2001)みたいな珍作は困るねんけどな。知ってる?天海祐希が光源氏をしたんやで?
Y木:……天海祐希って女やん。
S原:うん。だから逢引の場面や寝床の場面がものすごく窮屈な演出という(笑)あーそうそう、思い出した!松田聖子が急に出てきて小室哲哉みたいなJ-POPを歌いまくるねん。たしか空に浮かんでたんとちゃうかな?
Y木:全然わからんぞ。なんやそれは。
S原:「千年の恋 ひかる源氏物語」はずっとDVDを探してるけど、いまだに出会えていない。死ぬまでにもう一度あの珍妙な場面を観ておきたい……ガクッ!
Y木:松田聖子はどうでもええから、この映画の話をしてくれ。要するに原作を忠実に再現しているんやな。
S原:ちょっと解説すると、紫式部自身が書いた元本は見つかっておらず、写本(鎌倉時代らしい)しかないねん。なので「原作に忠実に表現」と書くと、源氏物語の研究家から怒られてしまうかもな。
Y木:いや、そんな偉い人はこんなブログ読んでないから大丈夫やって。
S原:それもそうか。で、この映画やけど、あらすじはもう省略します。たいていの人は知っているやろうし。問題は、長大な物語のどこまでを描くかってことなんやけど、この映画では光源氏が明石に流されるところ、いわゆる都落ちまでになっています。全体的にはまずまず無難なつくりやと思う。
Y木:今回は、市川雷蔵が光源氏なんやな。よかったな、男で(笑)
S原:うん。帝(光源氏の父親)は市川寿海。桐壺は寿美花代。桐壺と生き写しという設定の藤壺は、寿美花代の二役です。
Y木:あー光源氏と、義母と息子関係でありながら一線を越えてしまうという…
S原:そうそう。これが源氏物語の根幹やねん。一見華やかに女遊びをしている光源氏やけど、この事実(子供まで出来てしまう)が、心に暗い影を落とす。最後は、自身の継室(女三宮)が、なんと別の男性(柏木)との子を産む。それを光源氏は「自分の子」として胸に抱く。壮大な宿命と言うか罪というか、人間の業みたいな感じがすごいのよな。
Y木:あーそういう話やったんや。ただのプレイボーイの話とはちゃうんやな。
S原:あなた、古典の授業で読んだやろ?桐壺か六条の御息所あたりは、よく教科書に載ってるはずなんやけどな。
Y木:古典の授業なんか寝てたわ。
S原:もったいないな。で、この映画についてもう少し話すと、なんというか説明的なセリフがあるのに、肝心なところがわかりにくいというか。
Y木:よくわからん。
S原:例えば、光源氏は継母の藤壺に恋焦がれる。いまでもタブーやし、当時ならものすごい禁忌やろ?でも、あっさりとお付きの者に、自分の恋心を話してしまう。こういう演出がちょっとな……ほかにもあるで。六条の御息所は、源氏よりも年上でプライドが高いけど、本当は源氏に通ってほしい気持ちがある。でも言えない。葵の上は源氏の正室でツンツンしているけど本当は源氏に愛されたいと思ってるんやけどな。映画では、そういう女心/男心が上手く表現できていないかな。
Y木:監督はだれ?
S原:森一生です。
Y木:知らん。
S原:プログラムピクチャー中心で、渋い職人監督という感じなんかな。同じ市川雷蔵主演で「ある殺し屋」(1967)を作ってるけど、これは観たことあるねん。これ、めちゃ面白いで。それに比べると、この映画は少し落ちるなあ……全体の雰囲気は悪くないし退屈はしないけど、どうにも厚みがないというか、凡庸やった。そういえば、源氏物語ってホラー要素もあるって知ってた?
Y木:ホラー?
S原:女の怨念が生霊になるねん。生霊がスーッと動く場面はなかなか良いで。
Y木:生霊?
S原:女遊びをしている光源氏に嫉妬するんやな。しかも光源氏本人にとりつくわけでなくて、女性側に嫌がらせをする。このへんが女の業というか……平安から令和の時代なっても……嗚呼、女心の恐ろしいことよ……(遠い空をみあげる)
Y木:実感してるなあ(苦笑)
S原:ま、そういう映画やったよ。
Y木:今回はあんまりおススメちゃうんやな。
S原:さあみなさま。よほど源氏物語マニアか市川雷蔵が好きな人は楽しめると思いますが、ほかは人は厳しいでしょう。少し興味のある人は、まずはレンタルでどうぞ~!