S原:今回は日活アクション!
Y木:宍戸錠かー。
(あらすじ)
宍戸錠が“ろくでなし”キャラとして暴れまわる、中平康監督によるコメディ・アクション。紙幣印刷用のスカシが入った和紙が強奪。ニセ札の贋造名人をめぐり、“エースのジョー”らが非情な殺し屋と対決する。
S原:これ、原作が都筑道夫(紙の罠)やねん。
Y木:おー、おまえが好きな作家やん。
S原:今は読んでないけど、ぼくの青春時代の作家の1人やな。都筑道夫の独特な文体が好きやったのよ。この映画はあの雰囲気をよく表現していると思う。この映画をみて都筑道夫の魅力を思い出したわ。また読み返そうかな。
Y木:へえ、映画はおもしろいの?
S原:面白い。でも、もうこういうコメディは作られへんのかなあ、と残念な気持ちになったわ。
Y木:うん?どういうこと?
S原:これって、洒脱でテンポの良いコメディやねん。軽口を叩いたり、リアルでない銃撃戦があったり。あ、ここで言う「リアルでない銃撃戦」は、褒め言葉ね。
Y木:スラップスティック調なんやろ。
S原:そうそう。すごいテンポが速くて、どんどん話がすすむ。キャラも一癖あるけど、決して深刻にならない。ルパン三世風味というか、大人の悪ふざけというか。
Y木:へえ、おもしろそう。
S原:宍戸錠とか長門裕之とかが、大真面目に漫画チックなキャラを演じてます。いま観るとすごく新鮮やで。
Y木:なんとなく言いたいことは分かった。あらすじは?
S原:ある和紙が盗まれるところから映画は始まります。その和紙は、スカシ入り紙幣印刷用(十億八千万円相当)やねん。それが強奪され運転手2人が殺される。宍戸錠は、そのニュースを聞いてニヤリと笑う。宍戸錠は拳銃の名手ながら、ガラスを擦る音には全く弱い「ガラスのジョー」やねん。ほかに、計算機の哲、ブル健がいて、3人は紙を盗んだ連中に贋幣の名人・坂本老人を高く売りこもうとする。
Y木:それで?
S原:外国から帰ってきた坂本老人を空港でドタバタしてつかまえようとするが、上手くいかず、結局、同じ坂本老人を狙っていた2人の殺し屋に連れていかれてしまう。その後、ジョーはひょんなことから、浅丘ルリ子と出会って、さらに仲間とも手を組んだり裏切りあったりして紙幣(贋作)の争奪戦になる……こういう感じです。
Y木:ほう。なんというかレトロな雰囲気やな。
S原:「田舎に帰って地方のテレビを観たら映画を放映していて、意外に面白かった」そんな感じやな。
Y木:よくわからん例えやけど、要するに「期待して観るもんじゃない」ってことね。
S原:そうそう。こういうのが好きなマニアにはたまらんと思うけど、レア作品とかマニア垂涎とか言って持ち上げるような映画じゃないと思う。まあのんびりと昔のムードを楽しんでもらえれば、と。
Y木:それでも面白い場面とかあるんやろ。
S原:あるで。ジョーが乗っている車は一人乗りやねん。『未来世紀ブラジル』(1985年)にでてきたメッサーシュミットと同じちゃうかな。しかも真っ赤でな。当時でも珍しいはず。あとは、俳優たちが、怪演と言うかノリノリやねん。セリフも独特で、さらに早口で喋って、カット割りも早い。中平康監督のセンスかもしれんけど、この時代のスタッフの地力みたいなのを感じたわ。
Y木:地力って、しっかりと作られてるってこと?
S原:うん。言ってみればアホらしいアクション・コメディなんやけど、こういう映画もちゃんと作っているというか。
Y木:いや時代でしょ。プログラムピクチャーにパワーがあった時代なんとちゃうの。
S原:そうなんやろうな。というわけで、みなさん。これは楽しい映画です。いまこれをリメイクするとすれば、一体だれが適役でしょうか…?そんなことを考えながら観るのもまた一興ですよ。昔ながらの活劇と、当時の風景/風俗を楽しんでくださいませ~!