S原:今回は三島由紀夫原作!
Y木:知らんわ、この映画は…
(あらすじ)
三島由紀夫原作のラブロマンス。若尾文子演じる美貌の妻と半身不随の夫、彼女を愛する若い男の関係を描く。
優子は夫の浮気に悩んでいた。ある日、彼女を慕う青年・幸二が夫に重傷を負わせ半身不随にさせてしまう。その罪で幸二は刑務所に入るが、出所後に行くあてはない。優子は幸二を誘い、3人は同居生活を始める……
S原:これは、なかなかの映画やったわ~。
Y木:面白かったってこと?
S原:面白かった!ただ単純な面白さじゃなくて、問題作と言うか何というか。原作の凄さなんかもしれんけどな。まあ、あらすじを読んだら一筋縄ではいなかってわかるやろ。
Y木:たしかに、かなり背徳感のあるストーリーやな。
S原:1964年の映画やから、賛否が出るのは分かっていて、というか批判覚悟で作ったんとちゃうかな。当時の映画会社(これは大映)って、こういう企画をちゃんと作るんやもんな。いまではとても作れないやろ?
Y木:いや意外に作れると思うで。変形のラブストーリーというかメロドラマ風やん。若松孝二の「キャタピラー」(2010)とかも、そういう映画やん。
S原:あーあれ、観てないのよ。予告編でお腹がいっぱいというか。なんか変な映画やろ?
Y木:どの口が言うねん。変な映画ばっかり観てるくせに。まあ、この映画はたしかに変わってるわな。
S原:ほとんど俳優3人しか出ないねん。若尾文子、河津清三郎、伊藤孝雄の3人。映画は、伊藤孝雄が船で伊豆にむかう場面から始まります。伊藤は、懲役3年の刑を終えたところやねん。獄中で、若尾文子から手紙を受け取ってるねん。そこには「出所したら、伊豆の別荘に来てほしい」と書いてます。なので、若尾文子のところに行くわけ。
Y木:ほう。
S原:そこから回想シーンになる。実は、若尾文子は、実業家の河津清三郎と結婚してます。その夫が好色で、平気で愛人をつくって、2~3日帰ってこない、そんな結婚生活をしているねん。若尾文子は、それに気づいているねんけど、夫には何も言わない。仕事の関係から、伊藤は若尾文子夫妻と知り合う。伊藤は生真面目な青年でな。夫に冷たくされている若尾に同情するねんけど、それがいつしか恋心に変わっていく。
Y木:それで?
S原:ある日、愛人の家にいる河津を若尾が訪ねます。そこへ伊藤も一緒に行くねんけど、家に帰ってほしいと懇願する若尾を河津は殴るのよ。あまりの横暴さに怒って、伊藤は持っていたスパナで河津を殴りつけてしまう……
Y木:あーそれで刑務所に入ったんか。
S原:うん。で、出所して伊豆に着いた伊藤は、さっそく別荘に行きます。若尾文子は歓迎してくれるけど、夫の河津は……
Y木:恨みに思ってるんやろ?
S原:いや、かつて伊藤に殴られたせいで半身付随になってるねん。しかも、言葉も上手く話せないし、知能も低下しているのよ。それをみて、さすがに伊藤はショックを受ける。
Y木:若尾文子は、どうしてるの?
S原:そんな夫をかいがいしく世話しています。ご飯の世話とか、体を拭いたりして。他の使用人というかお世話係もおるねんけどな。結局、若尾が声をかけて、伊藤もそこで働くことになる。
Y木:優しいというかなんというか……夫は、伊藤を見てもなにも反応せえへんの?かつて自分を殺しかけた男やのに。
S原:ニヤニヤしてるだけ。それがかえって伊藤を苦しめます。それが知力が弱くなっただけと、伊藤は割り切ることが出来ないのよ。
Y木:自責の念か。そんなんやったら、(若尾文子の別荘から)出ていけばええのに。
S原:やろ?近くに住んでいる僧侶にもそう言われる。悩むねんけど、結局出ていかずに一緒に住み続ける。こういう部分が面白いねん。これって、日本っぽくないよな。フランス映画とかそんな感じがせえへん?
Y木:どうかな。逆に「日本映画」って感じがするけどな。いや、観てないから演出とか撮り方はわからんねんけど。
S原:(ちょっと考えて)そういえば、日本映画といえば日本映画かも……この作品は異色作やと思う。普遍的なメロドラマの部分と、アブノーマルな人間関係が表裏一体になってると言えばええんかな。3人の俳優も良い。とくに若尾文子は出色やと思う。この人いまだにファンが多いけど、分かるわ。すごい存在感やもん。
Y木:そうなんや。映画は最後はどうなるの?
S原:結局、河津の眼が怖くて、伊藤が殴り殺してしまう。その死体が横たわったそばで、若尾と伊藤は激しく愛し合います。
Y木:うわー……
S原:で、結局、伊藤は死刑になります。若尾も死んでしまいます。若尾の遺言で、3人の墓を並べて作ってほしいと僧侶に頼むのよ。
Y木:え、3人の墓!?それはどうなんやろ。若尾はともかくほかの2人は喜ぶか?
S原:このへんが問題提起っぽくて面白い。いろんな解釈ができるしな。このへんは、意図を説明するセリフが多い。分かりやすいねんけど。もうすこしセリフを削ったほうが良かったと思う。静謐な雰囲気で、観客に想像をゆだねる映画ってあるやん。そういう作りのほうが余韻が残ると思うねんけどな。
Y木:なるほどな。
S原:さあ、みなさん。今観ても十分に面白いし、刺激的です。白黒映画ファンは必見です。複雑な性格の登場人物を演じきった3人はすごいです。俳優志望の人がみたらゾクゾクするでしょうね。世代を超えて(例えば、親子)で観ても、カップルで観てもバッチグーだと思います。マストバイ、とまで言いにくいですが、観る機会があればお見逃しなく~!