あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

1960年代の邦画を観てみる!「獣の戯れ」(1964)の巻

獣の戯れ [レンタル落ち]

S原:今回は三島由紀夫原作!

Y木:知らんわ、この映画は…

(あらすじ)

三島由紀夫原作のラブロマンス。若尾文子演じる美貌の妻と半身不随の夫、彼女を愛する若い男の関係を描く。

優子は夫の浮気に悩んでいた。ある日、彼女を慕う青年・幸二が夫に重傷を負わせ半身不随にさせてしまう。その罪で幸二は刑務所に入るが、出所後に行くあてはない。優子は幸二を誘い、3人は同居生活を始める……

 

S原:これは、なかなかの映画やったわ~。

Y木:面白かったってこと?

S原:面白かった!ただ単純な面白さじゃなくて、問題作と言うか何というか。原作の凄さなんかもしれんけどな。まあ、あらすじを読んだら一筋縄ではいなかってわかるやろ。

Y木:たしかに、かなり背徳感のあるストーリーやな。

S原:1964年の映画やから、賛否が出るのは分かっていて、というか批判覚悟で作ったんとちゃうかな。当時の映画会社(これは大映)って、こういう企画をちゃんと作るんやもんな。いまではとても作れないやろ?

Y木:いや意外に作れると思うで。変形のラブストーリーというかメロドラマ風やん。若松孝二の「キャタピラー」(2010)とかも、そういう映画やん。

S原:あーあれ、観てないのよ。予告編でお腹がいっぱいというか。なんか変な映画やろ?

Y木:どの口が言うねん。変な映画ばっかり観てるくせに。まあ、この映画はたしかに変わってるわな。

S原:ほとんど俳優3人しか出ないねん。若尾文子河津清三郎、伊藤孝雄の3人。映画は、伊藤孝雄が船で伊豆にむかう場面から始まります。伊藤は、懲役3年の刑を終えたところやねん。獄中で、若尾文子から手紙を受け取ってるねん。そこには「出所したら、伊豆の別荘に来てほしい」と書いてます。なので、若尾文子のところに行くわけ。

Y木:ほう。

S原:そこから回想シーンになる。実は、若尾文子は、実業家の河津清三郎と結婚してます。その夫が好色で、平気で愛人をつくって、2~3日帰ってこない、そんな結婚生活をしているねん。若尾文子は、それに気づいているねんけど、夫には何も言わない。仕事の関係から、伊藤は若尾文子夫妻と知り合う。伊藤は生真面目な青年でな。夫に冷たくされている若尾に同情するねんけど、それがいつしか恋心に変わっていく。

Y木:それで?

S原:ある日、愛人の家にいる河津を若尾が訪ねます。そこへ伊藤も一緒に行くねんけど、家に帰ってほしいと懇願する若尾を河津は殴るのよ。あまりの横暴さに怒って、伊藤は持っていたスパナで河津を殴りつけてしまう……

Y木:あーそれで刑務所に入ったんか。

S原:うん。で、出所して伊豆に着いた伊藤は、さっそく別荘に行きます。若尾文子は歓迎してくれるけど、夫の河津は……

Y木:恨みに思ってるんやろ?

S原:いや、かつて伊藤に殴られたせいで半身付随になってるねん。しかも、言葉も上手く話せないし、知能も低下しているのよ。それをみて、さすがに伊藤はショックを受ける。

Y木:若尾文子は、どうしてるの?

S原:そんな夫をかいがいしく世話しています。ご飯の世話とか、体を拭いたりして。他の使用人というかお世話係もおるねんけどな。結局、若尾が声をかけて、伊藤もそこで働くことになる。

Y木:優しいというかなんというか……夫は、伊藤を見てもなにも反応せえへんの?かつて自分を殺しかけた男やのに。

S原:ニヤニヤしてるだけ。それがかえって伊藤を苦しめます。それが知力が弱くなっただけと、伊藤は割り切ることが出来ないのよ。

Y木:自責の念か。そんなんやったら、(若尾文子の別荘から)出ていけばええのに。

S原:やろ?近くに住んでいる僧侶にもそう言われる。悩むねんけど、結局出ていかずに一緒に住み続ける。こういう部分が面白いねん。これって、日本っぽくないよな。フランス映画とかそんな感じがせえへん?

Y木:どうかな。逆に「日本映画」って感じがするけどな。いや、観てないから演出とか撮り方はわからんねんけど。

S原:(ちょっと考えて)そういえば、日本映画といえば日本映画かも……この作品は異色作やと思う。普遍的なメロドラマの部分と、アブノーマルな人間関係が表裏一体になってると言えばええんかな。3人の俳優も良い。とくに若尾文子は出色やと思う。この人いまだにファンが多いけど、分かるわ。すごい存在感やもん。

Y木:そうなんや。映画は最後はどうなるの?

S原:結局、河津の眼が怖くて、伊藤が殴り殺してしまう。その死体が横たわったそばで、若尾と伊藤は激しく愛し合います。

Y木:うわー……

S原:で、結局、伊藤は死刑になります。若尾も死んでしまいます。若尾の遺言で、3人の墓を並べて作ってほしいと僧侶に頼むのよ。

Y木:え、3人の墓!?それはどうなんやろ。若尾はともかくほかの2人は喜ぶか?

S原:このへんが問題提起っぽくて面白い。いろんな解釈ができるしな。このへんは、意図を説明するセリフが多い。分かりやすいねんけど。もうすこしセリフを削ったほうが良かったと思う。静謐な雰囲気で、観客に想像をゆだねる映画ってあるやん。そういう作りのほうが余韻が残ると思うねんけどな。

Y木:なるほどな。

S原:さあ、みなさん。今観ても十分に面白いし、刺激的です。白黒映画ファンは必見です。複雑な性格の登場人物を演じきった3人はすごいです。俳優志望の人がみたらゾクゾクするでしょうね。世代を超えて(例えば、親子)で観ても、カップルで観てもバッチグーだと思います。マストバイ、とまで言いにくいですが、観る機会があればお見逃しなく~!