あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

燃える(萌える)親父の映画たち!「ラスト・ムービースター」(2018)の巻

ラスト・ムービースター [DVD]

 

S原:今回は、バート・レイノルズ

Y木:うわ、年取ったなあ!

 

(あらすじ)

かつて一世を風靡した映画界のスーパースター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から功労賞受賞の招待状が届く。歴代受賞者がデ・ニーロやイーストウッドだと聞いて、しぶしぶ参加したものの、騙しに近い名もない映画祭だと知ると、エドワーズは憤慨する。だが、映画祭が行われていた場所は、彼が生まれ育った街ノックスビルに近く、過去の思い出が甦り、運転主役のリル(アリエル・ウィンター)に命じて向かった先は、育った家、大学のフットボールで活躍したスタジアム、最初の妻にプロポーズした岸辺。自身の人生を振り返ったエドワーズはある行動を起こす。

 

S原:これは良い映画です!本当に良い!好き!

Y木:わかったわかった。ノスタルジー映画やな。

S原:完全にそう。観るつもりのある人は、ここで読むのをやめてほしい。絶対に予備知識がないほうが楽しめるから。

Y木:そうなんや。

S原:出来がどうこうではなくて、この映画は本当に好きやな。ヤングな読者に少し説明すると、バート・レイノルズは人気俳優やったのよ。アクションも出来て、どことなくユーモアのある役が得意やった人やな。今で言うと誰かなあ…というか今の俳優は知らんなあ…(苦笑)

Y木:このブログでもたしか「トランザム7000」(1977)を取り上げたな。

S原:うん。日本でも人気があったけど、アメリカではものすごい人気やったらしい。そのバート・レイノルズがもう本当にヨボヨボになりかかかっている容姿を堂々とさらしています。しかも、すっかりスターの面影のない、でもプライドはまだ残っている老いたアクションスターの役。

Y木:バート・レイノルズ本人そのまんまってことか。

S原:その通り。なので、80年代アクション映画ファンはたぶん泣きます。劇中でもイーストウッドデニーロのことをしきりに引き合いにだすねん。「あの2人に比べて、いまのおれは…」というわけ。

Y木:なるほど。ストーリーは上の通りやな。

S原:そうそう。主人公はかつてのアクションスター、ヴィック・エドワーズ。もちろん、これがバート・レイノルズね。いまは年をとり一人暮らし。体もちょっとがたついてきてます。ある日、テネシー州ナシュビルの国際映画祭での特別功労賞の受賞の招待状を受け取ります。はじめは行く気がしなかったけど、同世代の友人と話しているうちに行く気になります。飛行機でナッシュビルに行くと、リルという若い女性が迎えに来ています。この娘はパンクみたいな恰好のちょいと太めの娘で、ちょっとぶっとんでてな。ボロボロの車でスマホ片手の乱暴な運転をするねん。しかも彼氏とケンカ中で、主人公よりもそっちのほうが気になって仕方がない。しかも主人公がかつてのスターということも知らず、ただのジジイ扱いをする。そのまま映画祭に連れて行かれて、会場について主人公は呆然とします。映画祭とはいうものの、場所は飲み屋(バー)で壁にスクリーンを張ってビデオを写すようなチープなレベルやねん。

Y木:へえ。それで?

S原:当然主人公は面白くない。でも、田舎町でこの映画祭というか自主上映会を企画した男たちは純粋でな。ほんまに主人公のファンやねん。でも、主人公はやけ酒で酔ってしまう。次の日、リルが主人公を迎えに行く。主人公は突然「今日のイベントには出席しない」「近くのノックスビルまで連れて行ってくれ」と言い出す。ノックスビルは主人公のホームタウンで、郷愁にかられて育った家やスタジアムに行きます(主人公はアメフト選手だったという設定)。

Y木:なるほど。変形のロードムービーやな。

S原:そうそう。で、主人公は1人目の妻に会いに行くことにします。主人公は5回結婚してるんやけど、最初の妻は売れる前からの付き合いで、本当に愛し合って結婚したのよ。元妻は高齢者施設にいる。元妻は認知症がすすんでいて主人公のことは分からない様子やけど、主人公は静かに、でも誠実に自分の思いを語り続ける……この場面がすごく良い。なんかジーンとくるねん。とくにドラマチックな演出もないけど、老いたスターが淡々と語り、横で老婆が聞いている。なんというか微妙な心の波があって、観ているほうも心がザワザワするねん。

Y木:ほう。

S原:さっきあなたが言った通り、基本的には「老いた元スター」を描くドラマで、変形のロードムービーなんやけどな。単純に起承転結がすごくきちんとしていて安心して観れます。それでいて、老いた映画スターの郷愁もあるし、老人と小娘とのバディムービーでもあるし、田舎の映画ファンの純粋さも描かれている。すごくシンプルなのに、いろんなテーマがかさなっている。本当にこういう映画は久しぶりに観たわ。

Y木:まあ良い映画なんやろうけど、どうやろ。これって観る人によって変わるんとちゃう?観る人の年代とか。

S原:ぼくらがオッサンになったから良く感じるってこと?

Y木:そうそう。おれら世代は、かつてのバート・レイノルズも知ってるし、もうええ年とってるやん。そういう人間が観るのと、例えば映画好きの高校生が観るのとでは違うんちゃうかな。

S原:あーそうかもな。でも、こういう映画もたまにはええで。期待せずになんとなく観始めたから余計に面白かったんかもしれんけど。

Y木:最後はどうなるの?

S原:結局、バカにしていた手作り映画祭に戻る。そこでちゃんと特別功労表彰を受ける。そこで静かに語るねん。「わたしの作品は結末のわかるものばかりだ」「人生も同じで結末はみんな分かっている」「でも、途中のあらすじは自分で変えられる」と語って、小さな会場にいる観客を感動させる。観ているこっちもババ泣きやで!

Y木:泣いたんか、おまえ……

S原:鼻水も出ました!

Y木:鼻水……ま、それくらい感情移入したんやな。

S原:もちろん主人公に自己投影したわけじゃないで。でも、なんというか「老いること」「自分の過去にむきあうこと」を考えさせられたわ。

Y木:いやそこまで観客に考えさせるんなら、なかなかの映画やろ。

S原:うん。映画としての見どころも多いねん。例えば、昔の自分(映画の中の自分)と一緒にカースタントをする場面(たぶん「トランザム7000」)、川でボートに乗りながら話し合う場面(たぶん「脱出」)があるねんけど、昔のバート・レイノルズもちゃんと会話するねん。どうやって作ったのか感心するくらい良く出来ています。

Y木:へえ。いまの技術ではそんなこともできるんやな。

S原:あとはホテルで飛び入り参加して歌うところや、はじめてスイートルームに泊まって喜ぶ小娘を嬉しそうに眺める表情もいいねん。主人公は、かつてスターだった頃にスイートルームを使ってたから勝手を知ってるんやな。あとはラストシーンが良い。

Y木:ラストはどうなるの?死ぬの?

S原:死にません。椅子に座ってカメラにむかって笑顔で終わる。「いろいろあったけど悪くない映画俳優人生だったぜ」と言ってるような笑顔でな。いつまでも余韻が残ります。このラストもそうやけど、なんというか、やっぱりアメリカ映画界は、こういう映画を作る底力がまだ残ってるんやなあと感心したでござるよ。

Y木:今回は単純に良い映画やったみたいやな。

S原:さあ、みなさん。今回の映画はおススメです。ただの老人がウロウロするだけと感じるのか、人生の終盤での出来事を切り取ったと感じるのか、それはあなた次第!今回は久しぶりに言いますよ。マストバイです!