S原:今回はこちらですよ。
Y木:アントニオ猪木!
S原:こらこら、プロレスラーには「さん」付けで呼びなさい。
(あらすじ)
元プロレスラーのアントニオ猪木が初主演するヒューマンドラマ。作家・ミュージシャンなど幅広く活躍する辻仁成が、監督・原作・脚本を務める。元覆面プロレスラーの大魔神は、息子に充分な愛情を注げなかったことを悔やみながら、寂れた団地で静かに余生を過ごしていた。そんなある日、母親に捨てられた少年タクロウが大魔神の家に転がり込んでくる。自分にだけ心を開くタクロウと親子のように暮らし始めた大魔神は、やがて本当の家族と再会する覚悟を決める。
Y木:猪木主演か。一応、演技とかしてるん?
S原:しています。もちろん、演技は上手くない。
Y木:そりゃそうやろ。
S原:そういう次元とちゃんやろうな。あなた、昔ローリングストーンズの初来日コンサートに行ったやろ?
Y木:行ったで。
S原:そのときに、ぼくが「演奏はどうやった?」って聞いたら、「いや、ストーンズに関しては演奏がどうとかいう次元じゃないねん。動いてる姿が見れたら、それでOKやねん」って言ってたやろ?
Y木:そんなことを言ってたんか。憶えてないけど、まあその通りや(笑)
S原:ストーンズも猪木さんも一緒なんやと思う。キースがギターを弾く姿をみて「すごーい、間違いをせずに曲を弾けてるー!」って感心するのと同じように、「すごーい、ちゃんとセリフを言ってるー!」(笑)
Y木:そうなんや…(苦笑)ということは、映画の出来としてはイマイチやったのね。
S原:うーん、じつはそんなにヒドイ出来ではないと思う。でも…まあ……プロレスラーが演技しても、プロレスラーにしか見えないから。
Y木:いや今回の設定は「元プロレスラー」やろ。だから、ピッタリやん。
S原:そうなんやけどな。解説では「かつて息子を失った元プロレスラーと親の愛情を知らずに育った少年との愛情と絆が描かれるヒューマンドラマ」となってるんやで。こういう話は、人生の機微とか、ちょっとした表情で人生の奥行きを表現しないとあかんやん。観客に、「ああ、この人は哀しい人生を送ってきたんだなあ…」「切ないなあ…」と想像させなあかんやろ。
Y木:「演技力」を求められてしまう役ってこと?
S原:そうそう。さすがの猪木さんも存在感だけではカバーできなかったみたい。さっき、セリフの話も言ったけど、どうせ下手なんはわかってるから、もっとセリフを削ってもよかったんとちゃうかな。意外とセリフとか演技が必要な場面が多いから。
Y木:監督(辻仁成)としては、猪木を1人の「俳優」として扱いたかったんとちゃうの?
S原:そうやろうな。実際、猪木さんの出演場面は力が入った演出やし。でも、こういうセンチメンタルな話は、素人俳優には重荷やって。いくら「元プロレスラー」と言っても、違和感あるわ。
Y木:話は?
S原:元プロレスラーが一人で静かに共同住宅(空き地に平屋の簡易住宅が並んでいるようなところ)で暮らしています。ひょんなことから、いじめられっ子の男児と会う。ケンカの仕方を教えたり、夜中に停泊している船にのりこんで遊んだりしているうちに、2人は仲良くなる。男児には父親がおらず、いつしか猪木さんは父親のような存在になる。実は、猪木さんはかつて息子(小学生くらい)を亡くしていて、心の中には哀しみがある。周りにも家族関係で悩む人間模様がある。ある日、猪木は(ずっと避けていた)元妻と会うことなって…という話です。
Y木:地味な話やな。
S原:猪木さんの存在感と言うか雰囲気はあるんやけどな。それこそ、人生でいろんな経験をした人やから。でも、やっぱり「映画」というフレームでは、なかなか生かしきれないんかもな。
Y木:まわりの俳優はどうやった?
S原:子役も含めてみんな、なかなか自然やった。ロケ地(集合住宅)も雰囲気も、なかなか良いねん。あと自然をすごく綺麗に撮ってるねん。このへんは、すごく好感がもてたわ。辻仁成監督のこだわりというのか、ところどころ「お!」と思うセンスもあるのよ。だから、もっと良いプロデューサーがつけば、大化けしたたかも?
Y木:ほんまかいな。じゃあ聞くけど、大化けをしなかった理由はなんやと思う?
S原:やっぱり、この映画のテーマというか面白さが絞り切れていないんやと思う。だから印象に残らない。もったいないと思うわ。
Y木:逆に印象に残る場面というか、見どころはどこになるの?
S原:ラスト近くで、猪木さんが1人でリングにたつ場面があるねん。ちょっと妄想と言うか夢の中みたいな感じの不思議な雰囲気でな。ここは、すごく良い。
Y木:へえ。やっぱりプロレスシーンがあるんや。
S原:対戦相手はいなくて、1人でシャドープロレスをするねん。集合住宅の空き地に、本物のリングを設営してます。このときの猪木さんの眼が、演技をしているときの眼と全く違う。派手でなくてよいから、こういう表情がもっとあればなあ…
Y木:言わんとすることはわかってきたけど…厳しい言い方をすると、アントニオ猪木主演じゃないほうが良かったんちゃうの?
S原:うーん。でも猪木さんありきの企画やろうし、だからこそ出資したわけやろうし……他の人だったらどうだったのか、それは考えてもみなかった。どうなんやろ、ちょっと想像がつかんわ。
Y木:それだけ、猪木と言う存在感が大きいと?
S原:うん。これは、猪木さんをみる映画やな。でも「静かな映画」にしたらよかったのに、と思うわ。猪木さんがいるだけで、絵になるんやから、余計な小細工なしでよかったと思う。例えば、自然のなかで2人が昼寝しているとか、猪木さんと男児が会話せずに夜空をじっと見上げてるとか。
Y木:うーん、どうなんやろ。どっちにせよ地味な感じはするな。
S原:さあ、みなさん。さっきも言いましたが、この映画の雰囲気は悪くないです。演技や演出のひこちなさんに目をつぶれば、良い映画ですよ。猪木さんも年をとったなあ、と思って寂しくなりますが、これはこれで味があると言えるんでしょうね。猪木さーん、闘病頑張ってくださーい。元気になったら、また老若男女問わずにビンタして下さーい!ぼくもこのブログを続けるのがしんどくなってきましたが、ともに頑張りましょう!ダアーーー!