あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

たぶんマイナーな日本映画をまた10本発掘!「NINIFUNI ニニフニ」(2011)の巻

NINIFUNI [DVD]

S原:今回はなんとも不可思議なこの映画です。

Y木:ニニフニ?

(あらすじ)

殺風景な地方都市。だだっ広い国道を、轟音をたてて車が走り去って行く。1つの事件が起こる。事件に関与した青年(宮崎将)は、奪った車で国道を彷徨いつづける。彼がそこに生きていることなど誰も気づいていない。プロモーションビデオの撮影でその地を訪れたアイドルグループ(ももいろクローバー)。1%のかげりもなくきらきらと歌い踊る。誰にも気づかれない青年と熱い視線を浴びるアイドル。別々の世界が交差するとき、そこに見えるものとはいったい何なのだろう。

 

S原:これは、監督(真利子哲也)のやりたいことはよくわかります。でも、演出がシュールすぎるというか。

Y木:そうなんや。ストーリーはあるの?

S原:一応あります。男(主人公・宮崎 将)がふらふらと地方の都市をフラフラと歩いています。やがて強盗事件を起こし、(おそらく)金銭を盗みます。そのお金で遊ぶわけでもなく、また街をさまよいます。このへんの説明は一切ありません。カメラはほぼ手持ちで主人公を追う。後ろ姿からは、気だるいようなヤケクソのような人生に絶望しているような、そんな雰囲気が漂っています。車でコンビニによってカップ麺を食べたり、ぼんやりと空を眺めたりしているうちに、海岸に着く。これが前半。ここまでセリフはほとんどなし。風や自然の音だけが流れます。

Y木:はー、なんともまたドキュメントタッチというか。

S原:海岸では、アイドルグループのももいろクローバーのMV撮影をしています(たぶん、デビュー直前)。ぼくのお気に入り俳優、山中 崇がスタッフ役(プロデューサー?)で登場します。(S原注:山中 崇は、ぼくのお気にいり映画「ユニットバスシンドローム」の主演の人)若々しい女子たちが元気に踊っている現場のその近くで、車の中でひっそりと主人公は息を引き取ります(たぶん練炭自殺)。車のフロントガラス越しに、アイドル達が元気で踊っている姿が映ります。

Y木:なるほど。生と死の対比やな。それが監督の撮りたかった場面やろな。最後は?

S原:主人公が死んでいた車をレッカー車が運んでいる場面でおしまい。

Y木:かなり自主映画っぽいな。

S原:そうそう。監督の感性だけで押し切った感じやな。

Y木:で、感想は?

S原:まあまあ……かな。これ、ネットでのレビューはすこぶる悪い。たしかに、前半の主人公がフラフラする場面は長く感じるから、酷評する気持ちも分かるんやけどな。ただ、ももクロがでてからと、主人公があっさりと死ぬ場面は良いと思った。

Y木:ほんまかいな。

S原:いや退屈といえば退屈なんやけど、こういう映画もたまにはええと思うで。とくに映像作品を自分でも撮ってみたいとか小説を書いてみたいという人は、結構刺激を受けると思う。

Y木:でも、たいていのひとは「普通」の観客やん。

S原:そうなのよなあ。べつにマニア向けに作っているわけじゃなくて、監督の思いのまま作ったとは思うねんけど、出来上がった作品はマニアかももクロのファンしか観ないという……

Y木:確かに。普通の人はこれをわざわざレンタルで借りへんやろうな。

S原:すごく野心的な作品やから。DVD収録のメイキングや、ネットでの監督のインタビューでは、『シーンとシーンの間がブツ切りになるように意識した』とか『観ている人にわかりやすく伝わるような(役者の)行動はやめたい』と語っています。

Y木:あー完全にそういう狙いやん。

S原:他にも『ももいろクローバーも10年後に(この作品の)男のようにみんなから忘れられている存在かもしれない』『だから、同じものとして描こうというのは根底にあった』。メイキングでは『これを観て、観客に考えてほしい。なにかを感じてほしい』と言っています。

Y木:そういうことか。

S原:なので、セリフもほとんどないし演出も淡泊なんかもしれん。でもなあ、個人的にはちょっと惜しいと思うなあ。

Y木:どこが?

S原:これは「監督の心象風景」といえば一級品かもしれんけど、「映画」としてはちゃんと成立していないと思う。ちょっとでええから、観客に「おお!」と思わせる部分が欲しかった。いい意味でもう少し「ベタな部分」があっても良かったと思う。そうすれば、最後の主人公が死んでいく場面も、もっと心に突き刺さったと思うねんけど。

Y木:観てないからよくわかんらんけど…

S原:要するに観客の心に引っ掛かる工夫が少し足りないと思う。主人公を演じた宮崎 将は、独特の雰囲気があるねんけど、それと風景だけで引っ張るは観ていてちょっと辛い。ちなみに彼は、宮崎あおいのお兄さんらしい。

Y木:へえ。まあ、良いところも悪いところもあるってことか。

S原:そうですねえ。さあみなさん。変な映画と切って捨ててしまうのは簡単ですが、観終わった後に「変な気持ち」になる映画もあっていいと思います。なんか色々と惜しい映画ですが、機会があれば是非観て下さいませ~。