あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

アイデアで勝負!な映画たち「美女捨山」(2016)の巻

美女捨山 [DVD]

S原:さあ、今回からしばらくアイデアで勝負する映画を紹介しますよ。まずはこちらの不思議な映画!

Y木:楢山節考のパロディか。

 

(あらすじ) 

美女はしたたかで欲深く男を破滅させる悪しき魔物とし、この国では20歳の誕生日を迎えた美しい女は強制的に山に遺棄することが義務づけられていた。美女を山頂まで運ぶ大役を務める夫とその妻の醜女は人望が厚いおしどり夫婦だが、ある日、夫の行動を不審に思って山へ尾行した醜女が目撃したのは、人知れず法令に抗う夫のもうひとつの顔であった…。

 

S原:これ、60分くらいしかないねん。

Y木:へえ。

S原:監督(竹重洋平)は舞台の演出や脚本を中心に活動している人らしい。あらすじを読むとなかなか興味深い設定やろ?

Y木:うん。結構、面白そうやな。

S原:映画全体としては、予想してたよりは淡泊な感じやったけどな。それでも他のありがちな映画とはちょっと違う味やったな。

Y木:どのへんが違う味?

S原:やっぱり、20歳になったら美女は山中に捨てられるという設定がユニークやし、主人公が、白装束の美女を背負って山を歩く場面は独特の雰囲気で面白い。

Y木:結局、なんで美女が山に捨てられるの?

S原:「美女がいると男を破滅させるから」らしい。20歳頃に「美女の毒」がでて、それで男性はダメになってしまうという設定やな。

Y木:パロディ…ではないんやな。

S原:根底には「風刺」があると思う。やたらと美女礼賛する世の中に風潮を皮肉っているんやろうな。

Y木:美女を捨てると、世の中は「美女でない女性」ばっかりになるやん。

S原:そうそう。だから主人公の妻は醜女(しこめ)やねん。でも、じつは主人公は捨てるはずだった美女10人くらいを、山中の一軒家にかくまっているのよ。

Y木:あーハーレムか。

S原:いや、性的な目的ではないみたい。はっきりとは描かれてないけど、主人公は、美女を捨てる法律自体がおかしいと考えているみたいやねん。

Y木:なるほど。

S原:主人公は、彼女たちの山中での生活のために時々化粧品や食料品を持っていく。あるとき主人公の妻が怪しんで、美女が住んでいる小屋を発見する。当然、夫に裏切られたとショックを受けて、包丁を持って美女を殺しに行く。

Y木:うわー。

S原:でも、川で洗濯しているような地味な生活をしている姿を見て思いとどまる。やがて妻と美女たちは仲良くなる。美女たちは妻に化粧のやりかたを教えたりする。化粧でキレイになった妻は、嬉しくて主人公にみせたりする。

Y木:ほう、フランス映画みたいやん。

S原:このへんは、美女でない女性としての妻の心情が上手く表現出来れば、この独特の世界観にぐっと深みが出たはず。だけど、あんまり上手くいってないかな。ここが一番惜しい。そうこうしているうちに、男性たちが謎の病気になる。どうも「美女足らず」という病らしい。

Y木:美女に会えないから病気になるってことか。

S原:その通り。美女と少しの間でも一緒にいると男性は元気になるというわけやな。ラストで主人公は、「美女足らず」の治療のために女性たちを小屋から解放する。綺麗に着飾った女性たちが、さっそうと階段をおりていくところで、おしまい。このラストショットはなかなか良いで。

Y木:しかしなー、美女に会えないと病気になるか。要するに「美女でしか治せない病気」があるってことやろ。考えようによっては女性を容姿で差別している映画とも解釈できるよな。

S原:そやねん。同じことを考えた。いまの世間一般では、美女が重視されすぎているという映画としてのアイロニーの部分と、やっぱり美女が必要であるという設定が、なんともアンバランスに感じる。ブスでは治せない病気なら、この世にブスは必要ないとまでは言えないけど……なんか違和感があるねん。ぼくがひねくれてるんかな。

Y木:まあ、おれは観てないからこれ以上は言えん。

S原:例えば、ラストで美女たちが小屋から出ていくのを、美女でない女性たちが見たら、どう思うんやろ?男性のためには仕方がないとあきらめるのか、結局は男性は美人が好きなんやとくやしいと思うのか、美女でなくても別の生き方があると自信を持っているのか…そのへんは描かれていない。テーマとしては複眼的やのに、描き方は単眼的と言えばええんかな。

Y木:言わんとすることはわからんでもないけど、それもなんか違うような気がする。別に監督をフォローするわけじゃないけど、「美女にまつわる不思議な世界」を描きたいんとちゃう?おとぎ話みたいな。

S原:おとぎ話か。そうなんかなー。なんかスカッとしないねん。醜女(しこめ)役の女優達も生身の人間やしな…おとぎ話にしてはファンタジー色が少ないし、大真面目とコメディとの中間と言うのか…うまく言えん(苦笑)

Y木:いや、観た人にそこまで考えさせたら、作品としては成功とちゃう?

S原:そうやな。自分の好みはともかく妙な印象が残る不思議な映画やった。いやー、この映画は他の人の感想を聞きたい!

Y木:そうなんや。ま、おれは観ないけどな(笑)

S原:たまには観てくれよ(苦笑)さあ、みなさん。なんとも不思議な映画ですが、観る人によって印象がかなり変わるでしょう。他のどこにでもあるようなありがちなB級映画を観るなら、ぜひこれをチョイスしてください。え?美女だけがいるはずの小屋に、美女でない女性がいるって?そんなことはノープロブレムですよ。ワゴンで見つけたら、これはぜひゲットしてくださいませ!