S原:今回は、あまり評判の良くないサスペンス映画について語りますよ。
Y木:「フレンチコネクション」(1971)っぽいな。
(あらすじ)
第二次大戦末期、ナチスの秘密文書が小箱に収められ、ザルツブルグの湖に沈められた。そして現代、その文書の存在を知った元イギリス情報部員の写真家が、ネオ・ナチの手で暗殺される……。ナチの秘密文書をめぐって展開するスパイ・アクション。
S原:タイトルは「フレンチコネクション」に似ていますが、内容は全然違います。
Y木:ザルツブルグ…ってどこやったけ?
S原:オーストリアです。スパイ天国らしい。ぼく、こういうストーリーの映画大好きやねん。
Y木:小説でも面白いのがたくさんあるもんな。サスペンス、ミステリーの王道と言うか。
S原:しかも、舞台は1970年代やろ。かなり期待したんやけどな。
Y木:どうやった?
S原:まあまあかな。酷評されるほどではないと思うけど、とびきり面白い!って感じではなかった。少しストーリーを話すと、舞台はザルツブルグ。冷戦時代。男(ブライアント)が、湖の底からなにやらワケありの箱を回収しようとしています。それを向こう岸の山中から望遠鏡で監視している男たち。男は監視に気づき山中に箱を隠しますが、あっさり殺されます。これが最初の場面です。
Y木:ミステリーっぽい導入部やん。
S原:さて、主人公(マチソン)が仕事でザルツブルグに来ます。主人公は弁護士です。ニューヨークの出版社からの依頼で、殺されたブライアントを訪ねてきたのです。ブライアントは写真店を経営していました。そのお店で、奥様(アンナ)と弟(ヨーハン)が対応します。主人公は「ブライアントは出版社と湖の風景写真を出版するという契約を結んでいた」「しかし、出版社はそのことを知らなかった」「契約書のコピーなどをみせてほしい」と説明します。いろいろと話を聞いて店をでます。そのあと主人公は、いつのまにか見知らぬ男たちに尾行されていることに気付いて…と展開していきます。
Y木:ほー。結構、面白そうやん。
S原:このへんまでは、ええ感じやねんけどな。上手く言えんけど、どうにも演出の切れ味が悪いというか。
Y木:わかりにくい?
S原:そうやな。もうネタバレになるけど、最初にでてきた「箱」というのは、第二次世界大戦中にナチに力を貸した人々の名前を記録したリストが入った箱やねん。「過去」をだされると困る人たちがたくさんいるし、国際問題の再燃につながるので、各国のスパイたちが箱の奪取を狙うというわけ。
Y木:なるほど。
S原:ネタとしては単純でええしムードも悪くない。でも、どうもわかりにくい。いろんな立場の連中(スパイ、秘密組織、警察など)が暗躍するけど、なんのため行動しているのか呑み込めないのよ。
Y木:それは、この手の映画では致命傷ちゃうの?
S原:そうやな。何をしているか理解できないから、ハラハラドキドキしない(苦笑)途中で、主人公にお色気ムードで迫ってくる女スパイが実は二重スパイだった、とか主人公とアンナにほのかな恋心が芽生えるとか、そのアンナの弟が箱を盗み出して秘密組織から拷問を受けるとか、面白くなる要素がたくさんあるのに、上手くかみ合っていません。
Y木:そうか。失敗作ってことか。
S原:失敗作と切って捨てるのは惜しいねんけどな。観ている間はそれなりに楽しいし。でも、ちょっと違和感を感じたまま映画は終わってしまった。これ、いまサスペンスの得意な職人監督がリメイクしたら、おもしろいと思うねんけどなあ。
Y木:冷戦時代のミステリーをリメイク……どうやろ。
S原:あーそうそう。途中で、カーチェイスがあるねん。主人公が、さらわれたアンナを助けるために狭い街並みを追いかけるねん。ここが面白くてな。普通は、スピード感をだす演出にするやろ?ところが、街で人も歩いてるし道路も狭いから、すごいスローなカーチェイスなのよ。いつも、スピードだけの車の場面に飽き飽きしてたから、ここは新鮮やった。
Y木:へえ。
S原:そう思ってたら、ネットでは「史上最悪のカーチェイス」「ぬるくて爆笑」とか書かれたわ(笑)
Y木:あかんやん。
S原:やっぱり人によって受け取りかたが違うよなあ。あの場面は、逆に面白かったけど。
Y木:そんなもんやろな。
S原:さあ、みなさま。いまのミステリー/サスペンス映画とは、かなり違いますが、新鮮に感じる人もいると思います。「ウエルメイドな映画」を求めなければ、十分に楽しめますよ。マストバイとは言いにくいですが、興味のあるかたは、少し変わった映画を一度ご賞味あれ!70年代のザルツブルグの風景もいいですよ~!