S原:さあ、みなさん、今回はいつもと違う感じでお届けします。今回は、日本のオムニバス映画をまとめて紹介します。いつものダラダラトークでは、オムニバス映画は、あまりうまく紹介できる気がしないので、このシリーズはS原が短く感想を語るという形でお送りします。
今回のシリーズで紹介するのは、かなりマイナーであまり知られていない作品と思います。オムニバスは、いろいろなタイプの作品を集めるのが普通(観客にいろんな味を楽しんでもらう)なので、どうしても好みが出るのは仕方がないのですが、できるだけ正直にレビューします。では、スタート!
(愛と不思議と恐怖の物語のあらすじ)
2002年8月に関西テレビで放映された、7人の巨匠が贈る摩訶不思議なオムニバスショートストーリー。黒沢清監督、大杉漣主演による「タイムスリップ」をはじめ、鴻上尚史監督、伊藤淳史主演「宇宙に一番近い場所」ほか、全7話を収録する。
「 愛と不思議と恐怖の物語 」
①瀕死体験(鶴田法男監督)
幽体離脱してしまった男が、なんとか自分の体に戻ろうとする話。
死んだ妻もでてくるけど、妻と主人公のやりとりがあんまり上手でなくて、ドキドキもワクワクもホロリもアハハもなかった。ワンアイデアだけの無味乾燥な味やった。
②KACHOSAN(下村勇二監督)
会社ではバカにされているダサい課長が、バーでぼったくられそうになったときに、ヒーローに変身する話。
これもワンアイデアものやけど、演出・俳優・セット・特撮のどれもが、あまりにチープすぎて失笑しかでてこなかった。ただ、このチープさが笑えるわー、という人もいるとは思う。
③「暮らし」と「住まい」(片岡英子監督)
アパートの上のベランダから、女性用下着が落ちてきて、(上の住民に)拾って届けるのか悩む青年の話。
短いわりにテンポが良くなくて、観ているとどうでも良くなってくる。そもそも下着が落ちてくる話自体、おもろいか…?。最後は下着が土に埋まって、花が咲く。ここだけは良いとは思うけど、それだけではなあ…というのが本音。
④宇宙に一番近い場所(鴻上尚史監督)
ビルの屋上に男性がいる。そこへ昔の恋人がやってくる。どうも最近フラれて、自殺も考えてビルにやってきたらしい。男性は一所懸命に自殺を思いとどめようとするが、女性はまったく聞こうとしない。じつはすでに男性は死んでいて、女性には声は届かない…という話。
個人的にはこれが一番好きかな。演出も良い出来とは思えないし、あらすじも大したことないけど、俳優2人(伊藤敦史と菊池百合子)のたたずまいというか雰囲気が、なかなか良い。この2人の魅力を味わう作品だと思う。
⑤進路指導室(中田秀夫監督)
進学する予定の高校3年生女子が、就職すると言い出して、父親が慌てる話。
津軽弁での会話はちょっとだけ面白いけど、内容は「そんなん、どうでもええがな…」「おまえらだけで話し合えよ…」と突っ込みたくなるくらい他愛のないもので、文部省推薦の文化映画みたい。ただしラストの父娘が歩く田舎景色はキレイで素晴らしい。
⑥浴槽の死美人(ケネディ・テイラー監督)
女性が死亡(殺人事件?)した家に、警察関係のビデオ記録係がやってくる。ビデオ係はどんくさくて、刑事たちに冷たくしらわれるが、じつは(家の隠し部屋に隠れていた)犯人を逃がすことが目的だった…という話。
ハッキリ言って、ひどい。とくに面白くない題材を、何の意図もなく冗長に撮るなんて…この監督のセンスを疑う。
⑦タイムスリップ(黒沢清監督)
教授が、大学の講義でタイムスリップについて話をしようとするたびに、教授自身がタイムスリップして、何回も同じ場面になってしまう、という話。
このなかでは一番の異色作。大杉連が、どんどん脱線していくアドリブ風の演技・演出は好き嫌いがハッキリすると思う。ぼくは残念ながら、ただ単に「雑な作りの作品」だと感じてしまった。
(全体として)
正直に言って、面白いエピソードが少なかったという印象。「愛と不思議と恐怖の物語」というタイトルに、内容が全然合っていないと思うけども。
(JamFilms S のあらすじ)
映画監督たちが手掛けた短編を収録したコンピレーション・オムニバス・フィルムの第3弾。今回は“最も才能を感じるクリエイター”として人選した、新進気鋭の7人の監督の個性豊かな独自の世界を収録。
「 JamFilms S 」
①Tuesday(薗田賢次監督)
自分が住むマンションの他人の部屋を勝手に出入りする男の話。
男の行動が悪趣味で共感できなかったり、目的がわからないまま(スリルを味わっているため?)なのは、百歩譲ったとしても、いくらなんでも、わけがわからなすぎる。とにかく淡々と進むだけで抑揚がない。でも、とくに監督独自の世界観やこだわりがあったり、オフビートな可笑しみやシュールな面白さを狙っているわけでもなさそう。なんのために、というか、どこをどう面白くしようとして、この作品を撮ったのか…理解不能なり。
②HEAVN SENT(高津隆一監督)
高層ビルの屋上で死ぬ寸前の殺し屋(ギャング?)のまえに、女性悪魔が出現して、3つの願いを叶えるといわれる話。
これはなかなか面白かった。ストーリーもとくにひねってなくて、俳優2人(遠藤憲一、乙葉)のやりとりの妙をみる作品。ロケ地に、開放感のある高層ビルを選んだのが成功した要因やと思う(たぶん地下室では面白くなかったはず)ラストも良いです。
③ブラウス(石川均監督)
小さなクリーニング店に、毎回白いブラウスを持ってやってくる女性。クリーニング店主は、ある衝動にかられてブラウスをそっくりな別のブラウスと「交換」して、渡してしまう。そのあと、女性がクリーニング店にやってきて…という話。
日常と非日常のすきまを突いたような作品で、なかなか演出も手堅いしテンポも良い。大杉連はいつものように上手いが、小雪があんなにキレイだと思わんかった。ラストは、個人的にはちょっと納得がいかないが、賛否があって良いと思う。ぼくはこれが一番印象に残った。
④NEW HRIZON(手島領監督)
夜が3日間続いている世界(朝が来ない世界)で、綾瀬はるかが子供に絵本を読んだり、老人に覗きをされたりする話。
とにかく体のライン(とくに胸と足)を強調したワンピースを着た綾瀬はるかが、すごい破壊力。アニメなど凝った演出があるのに、よくわからないまま、話が終わってしまった。伏線が結びついて夜が明けるという構成が複雑で凝っている作品なのに、薄味という不思議な作品です。
⑤すべり台(阿部雄一監督)
転校をする女子(小学6年?)が、かつてすべり台で大怪我をさせてしまった男子を呼び出す。女子は男子に謝って何でもする、と言うと、男子は「じゃあ、やらせて」とあっけらかんとお願いをする。女子も「いいよ」と答えてしまって…という話。
きわどい話を、いやらしくなく撮れているのは上手いと思う。だけど、あんな幼い男子小学生は、あの会話の流れで「じゃあ、やらせて」は言わないはず。石原さとみに「いいよ」と言わせたいがためのストーリー展開とは思うが、演出が妙にリアルな分、浮いたように感じた。それにしても、ぼくがオッサンになったからかもしれんけど…子供同士のこんな会話を(映画としても)面白いとは感じない…同じ公園にいて、会話を盗み聞きした山崎まさよしが、とぼけた味をだしているのがせめてもの救い。
⑥α(奥田大三郎監督)
人々が、画一化された社会(近未来?)で、一組のカップルの行動を描いた話。
ぼくの頭が悪いせいなのか、あんまり意味もわからなかった。この2人(内山理名とスネオヘアー)はミスキャストじゃなかろうか。2人の行動が、この管理社会から逸脱してしまう可能性のあるほどのものなのに、観ていると「なんか、どうでもよいなあ…」と感じてしまう。SF的な凝った設定や世界観(町の人々が無表情など)にも、のめり込めなかった。好きな人は好きと思うけど…ぼくはこの監督とは肌が合わんかったとしか言いようがない。
⑦スーツ-suit-(浜本正機監督)
突如、(日本の危機と戦うため)ヒーローに選ばれた男。男は自宅でキャバクラ嬢と浮気中だったが、突然のことにわけがわからない。やがて関係機関(政府)がスーツ(パワードスーツ)を準備。本人の同意のないまま、むりやりスーツを着せられて戦場に駆り出される…という話。
主人公が、ドタバタに巻き込まれていく過程や会話が平凡で、抑揚なくすすむのがもったいない。笑わせるなら、もっと頭を捻らないとダメじゃなかろうか。キャバ嬢役の小西真奈美は、ほぼバスタオル姿でよく頑張ったと思う。テレビのコントみたいやけど、工夫次第で面白くなりそうな題材やったから、ちょっと残念。
(全体として)
印象がデコボコしているが、それで良いと思う。上手いと思ったのは「ブラウス」。好きなのは「HEAVN SENT」。好きではないが、印象に残っているのは「すべり台」。あとはあんまり…というのが素直な感想です。
さいごに(S原より)
オムニバス作品に限らず、最終的には映画は「好み」なんやと思います。
日本の製作現場では予算がないのは十分わかるから、当たりはずれで言うと、ちょっと失礼かもしれないけど、残念ながらこの2本は当たりではありません。でも妙に印象にのこる作品があるのも確かです。オムニバス作品、短い映画が好きな人はぜひ観てください。ワゴンで見つけたら、マストバイとまでは言いにくいですが、一度手に取ってくださいませ!