【閑話休題】 「パルプ・フィクション」風にB級映画を語るの巻

　S原とY木、車を運転している。

S原：よし、それじゃ、もう一度例のワゴンセールコーナーの話をしてくれ。

Y木：ああ、何が知りてえ？

S原：そうだな、中古DVDのワゴンコーナーってのは、あっちでは合法なんだろ？

Y木：ああ、合法さ。だが100％合法ってわけじゃねえ。つまり、いま劇場で公開されてる映画の海賊版をそのまま飾っておくって具合にはいかねえ。そう、店頭にあったり特定の場所で、正規で販売された中古品を安く並べて置くんだ。

S原：それが、ワゴンコーナーってわけか？

Y木：そうだな、詳しく説明するとワゴンコーナーでDVDを漁るのも合法、手に取って値段を確認するのも合法、それにレジにもっていて買うのも合法だ。持って帰ることも出来る。しかし、そんなのは大した問題じゃねえ。というのは、もしワゴンコーナーに寄ったあとに日本で警官に止められたとしても、ヤツらは所持品検査はできねえ、違法なんだ。つまり日本のサツに、俺たちがどんなDVDを買ったのかチェックする権利はねえんだよ。

S原：ああ、そうか。俺は日本に行くぜ。それで決まりだ。俺は絶対に行くぜ。

Y木：ああ、最高に楽しめるぜ。だが日本で何が一番面白いかわかるか？

S原：何だ？

Y木：ちょっとした違いさ。ほら、あっちでもこっちでも同じもんがあるんだ。ただ、ちょっとばかし違っているのさ。

S原：例えば？

Y木：そうだな。日本では、ワゴンコーナーに行くと5枚で1000円とかまとめてお得セールがあることがあるし、GEOのレンタル落ちDVDならPontaポイントで買うことも出来る。それから日本の映倫ではエロ系の規制が厳しいが、残酷描写には甘い。ゾンビ映画のThe Return of the Living Deadのことを何て言うか知ってるか？

S原：The Return of the Living Deadじゃあねえのか。

Y木：いいや、あっちでは東宝東和が丁寧な仕事してっから、原題そのままなんことはねえ。

S原：じゃあ、何て呼ぶんだ？

Y木：「バタリアン」だ。

S原：「バタリアン」か（笑う）

S原：じゃあ、Dead & Buriedは何て呼ぶんだ？

Y木：「ゾンゲリア」だ。

S原：「ゾンゲリア」。全然違うじゃねえか（笑う）。

Y木：じゃあ、「Death Warmed Up」は？

Y木：「マイドク」だ。

S原：マイドク？　なんだそりゃ？

Y木：正式タイトルは「マイドク/いかにしてマイケルはドクター・ハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦いを挑んだか」だ。

S原：やめてくれよ！

Y木：俺はこの眼で見たんだぜ。変なタイトルばっか付けやがってよ。

S原：うげー。

　S原とY木、部屋に入っていく。

　部屋にはヤングな男3人がいる。

S原：やあ、みんな。（周りをみまわして）どうだ元気か？　そのままくつろいでいてくれ。俺たちが誰だかわかるか。てめえらのビジネス・パートナー、映画倫理委員会のダーハマ会長のところのものだ。自分たちのビジネス・パートナーくらい覚えてるだろ、え？　じゃあ、勘で当ててみよう。（ひとりを指さして）お前がひかる一平……だろ？

ひかる：ああ。

S原：だと思った。てめえらのビジネス・パートナーのダーハマは覚えてるだろ、一平？

ひかる：ああ、その、覚えてるよ。

S原：よろしい。みたところ、俺とY木は朝の映画鑑賞中に来ちまったようだな。午前10時の映画祭ってわけか。すまない。なにを観てたんだ？

ひかる：ホ、ホラーだ。

S原：ホラーか！　午前中に観る映画の代表じゃねえか。なんの映画だ？

ひかる：えーと、イタリアのホラー。

S原：いやいや、タイトルを聞いてるんだ。サスペリア、デモンズ、フェノミナ、どれなんだ？

ひかる：サ、サンゲリア。

S原：サンゲリアか！　サメとゾンビが戦う場面があるらしいな。俺はまだ観たことねえが。面白いのか？

ひかる：あ、面白いよ。

S原：俺もそのサメとゾンビが戦う場面を観せてもらってかまわないかな？

ひかる：どうぞ。

　S原とひかる一平、サンゲリアを観る。

S原：うーん、こいつはスゲエ映画だ。おまえサンゲリアを観たことあるか、Y木？　どうだ、本当にサメと戦ってるぜ。

Y木：いま、ホラーの気分じゃねえ。

S原：そうか。ホラーが好きならいつか観てみなって。おれは普段ホラーは観れねえんだ。つまり、妻と娘が韓国ドラマとかK-POPの動画ばかり観ているからな。でもサメとゾンビが戦う映画はたまんねえ。（ひかる一平に）おい、The Return of the Living Deadは、日本では何と呼ばれてるか知ってるか？

ひかる：さあ。

S原：こいつらに教えてやれよ、Y木。

Y木：「バタリアン」。

S原：「バタリアン」だよ！　なんでそんなタイトルをつけたの知ってるか？

ひかる：えーと、東宝東和が勝手にタイトルを変えるから？

S原：（驚いて）こいつ、脳みそいっぱい詰まってるぜ！　アイドル時代はどうしようもないバカだったのにな！　そう、東宝東和だからだよ。（他のヤングを指さして）おい、チョコボール向井みたいなおまえ！　おれたちがここに来た理由は知ってるか？　俺のダチに教えてやれ、どこにブツを隠してあるかをな。

チョコボール：戸棚の中だ……いや違う、足元にある方だ。

　Y木、スーツケースを開ける。

S原：ハッピーか？

Y木：ああ、ハッピーだ。

　Y木、スーツケースを閉める。

　そのとたん、スーツケースが爆破する。

　S原、Y木、ヤングたち全員吹っ飛んで死ぬ。

いかりや長介：ダメだこりゃ！