S原:さあ、今回は黒澤明の「用心棒」をモチーフにしたこの映画!
Y木:へえ、「用心棒」か。
(あらすじ)
とある荒涼とした港町。そこでは原子力発電所の建設を巡り、賛成派と反対派が激しく対立していた。その町に流れ着いた正体不明の若い男、谺丈二は、利権争いに巻き込まれる。しかし彼はある人物の消息を探っていたのだった。
S原:これ、アニメ作品が先です。タイトルも同じ「旋風(かぜ)の用心棒」ね。結構、評判が良いみたい。それで、「次は実写化を!」っていう流れちやうかな。
Y木:ふーん。
S原:でも、この実写映画は、ほとんどレビューがないねん。
Y木:超マイナー作品ってことか。
S原:たぶん。マイナーでもメジャーでも面白ければええねんけどな。ただ、レビューが少ないのも妙に納得してしまうという。
Y木:うん?
S原:なんとなくレビューがしにくいねん。出来が悪いとかじゃなくて、どうも話しにくいというか印象が薄いというか。
Y木:はあ、なるほど。
S原:モチーフは黒澤監督の「用心棒」。九州の港町で、原発を誘致しようとする街の有力者(田野倉)がいます。反原発組織の「イエロープラネット」の主催の村岡という女性もいます。そこへブラリと現れる男(丈二)、これが主人公です。
Y木:2つの組織をつぶしてしまうんやな。
S原:基本的にはそう。単純な話のはずなんやけど、どうも吞み込みにくい。黒澤版では、三船敏郎が2つのやくざ組織に近づいて、手玉に取るところがハラハラドキドキやったやん。しかも、のらりくらりとしながら実は凄腕で頭も切れるから、最後の対決とかしびれるやろ?
Y木:あー広い大通りを真正面から、向き合って歩く場面やろ。あそこはええよな。
S原:シャーッ!シャーッ!とシンバルが鳴って、ワクワクするやろ。でも、ああいう「美味しい場面」がないねん。
Y木:黒澤と比べたら可哀そうやろ。
S原:黒澤の演出よりも劣るという話ではなくて、監督や製作者たちがやりたいことがハッキリしないのが歯がゆいのよ。「用心棒」をベースにして現代に置き換えてるから、もっと自分たちなりの「ここをみてくれ!」「これがやりたい!」というのを観たかったなあ。あ、映画としては決して下手とか失敗作ではないよ。ちゃんと演出も演技もしているし、ロケにも力が入っている。主人公役は、 新人の仲村靖秀。大抜擢やと思うけど、顔つきや表情が良いと思う。ほかにも、川原亜矢子、伊崎充則、かとうかずこ、大和田伸也、村田雄浩といったベテランが脇を固めています。でもなあ……
Y木:具体的には、どういうところが不満なん?
S原:まず、人間関係がわかるようで分からない。原発推進派、反対派の女リーダーと弟、妻を拉致された夫、ラーメン店の女店主(主人公を助ける)とその子供、主人公にまとわりつく刑事、その他がでてくるねんけどな。みんな、それぞれの思惑で動く。だけど、どういう気持ちでなにを求めているのか曖昧にしているねん。もちろん演出なんやけど、観ている方は感情移入しにくい。「私怨」でも「経済効果」でも「賄賂(金儲け」でも目的はなんでもええねんど……
Y木:ふーん。主人公が立ち向かう「悪役」がいないってこと?
S原:一応、おるんやけど。うーん、そうやな。主人公はどういう目的でこの街に来たのかは、後半にならないと分からない。なので、余計に主人公以外のキャラや人間関係をすっきりさせてほしかった。観客にとっては、主人公が凄腕なのかどうかもよくわからんしな。黒澤版では、飯屋(呑み屋)の親父に、三船が話を聞くやろ。この町がどんな場所なのかとか、ヤクザ組織の対立とか。反対に、三船は自分の意図を呑み屋の親父に説明したりするやん。それが、観客にわかりやすくて、三船の次の行動の背景が理解できるねん。
Y木:結局、説明不足ってことちゃうの?
S原:そうなんやけど……ただ、映画オタクは「説明台詞」をバカにする傾向があるやろ。
Y木:ああ、そうやな。
S原:たぶん、監督(川原圭敬)は、わざとらしい説明をしたくなかったんやと思う。でも、今回はそれが感情移入できない原因になったのかも……
Y木:なかなか、映画作りも難しいな。
S原:というわけで、みなさん。決して悪くないですが普通に観て面白いとまで言えないのが残念です。おそらく製作費が少ない中でキャストもスタッフも良く完成させたと思いますし、異色作なのは間違いありませんので、ご興味ある人はぜひご覧あれ~。