あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

1940年代の邦画を観てみる!「安城家の舞踏會」(1947)の巻

安城家の舞踏會 [DVD]

 

S原:なぜかワゴンコーナーに昔の日本映画がたくさんありましたので、ゲットしました。今回から、昔の日本映画を特集します。最初はこちら!

Y木:いきなり渋いなあ。

(あらすじ)

終戦とともに崩壊していく日本の貴族階級社会の中で、最後の舞踏会を催す伯爵家の安城家。招く側、招かれる側、さまざまな思惑が渦巻く中で、やがて舞踏会の幕が開ける・・・

 

Y木:これタイトルだけ知ってるで。皇族でなくなる家の話やろ。

S原:そうそう。吉村公三郎監督、新藤兼人脚本やな。今回初めて観たんやけけどな。ところどころ凝ったアングルとか映画技法がでてきてビックリしたわ。これは、かつては「なかなか観れない映画」という印象があったんやけど、いまでは簡単にアマゾンプライムで観れる。時代やな。

Y木:で、この映画の感想は?

S原:面白かったで。ただ、今の映画とはリズムが違うから、さすがにスローに感じるかな。

Y木:まあ、今の映画はすごくテンポが速いから。

S原:反対に、こういうゆったりとしたリズムやから、すごく「役者」を堪能できる。当主の滝沢修、長男の森雅之(放蕩息子)、長女の逢初夢子(出戻り)、次女の原節子安城家の面々はもちろん、闇屋で儲けた成り上がりの清水将夫安城家の元運転手で現在は運送会社社長の神田隆、みんな「役者の演技」を堪能できます。

Y木:へえ。没落する華族というストーリーだけみると、ちょっとヴィスコンティっぽいけど。

S原:ヴィスコンティとはかなり雰囲気が違うかな。第二次世界大戦のあと、華族制度が廃止されて、自分たちはもう華族でなくなる=ただの平民になる…という話し合いから、映画はスタートします。立派な屋敷に住んでるんやけどな、その屋敷も手放さないといけない。そんななか、成金の清水将夫安城家の財産を狙っています。原節子(次女)は、それが嫌で、元運転手でいまは実業家になった神田隆に援助を頼む。ところが、安城家当主の滝沢修は嫌だというねん。

Y木:「元運転手なんかに助けてもらうなんてイヤだ」って?

S原:うん。いまだに華族としてのプライドがあるのよ。で、最後に華族として、舞踏会を開くことにするねん。

Y木:ほう。

S原:で、そういう話とそれぞれの人間関係が描かれます。いろいろな登場人物がいて、それぞれのエピソードがあるけど、強烈なのは長男の森雅之やな。こいつがもうボンボンというか、悪い意味でのお坊ちゃんというか。女癖が悪くてどうしようもないクズなんやけど、森雅之の演技が絶妙でな。なんか観ているうちに、「ああ、いるよなあ、こういう奴…」「仕方がないなあ…」てどことなくシンパシーを感じるねん。

Y木:へえ、すごいやん。

S原:ハッキリ言って絶品です。こんなに「いいかげんな男」を上手く演じるなんて感心したで。この人、黒澤明の「羅生門」(1950)「白痴」(1951)、溝口健二の「雨月物語」(1953)、成瀬巳喜男の「浮雲」(1955)にも主役級で出てるねん。どれも印象に残る演技でな。とても「羅生門」で悔しそうに三船敏郎を睨んでいた人と同一人物とは思えない(笑)

Y木:「いいかげんな男」か。そりゃ、役者としてはやりがいがあるんちゃうの?

S原:そうやろうな。それに、やっぱりこの時代の映画って、なんというか役者のセリフとかすごく聞きやすいねん。ちょっと説明台詞もあるねんけど、「いかにも演技」でないというか。

Y木:原節子はどうなん?いまだにファンが多いやん。

S原:うーん。ぼくはこの人、あんまり好きでない。小津安二郎の映画の印象が強くて、「清楚」の象徴みたいに言われるけど、どうかな。ぼくには、性格がキツイ顔にみえるけどな。「白痴」を観てみ?すごく意地わるにみえるから。さすが黒澤明(笑)

Y木:おまえ、ファンに怒られるぞ。永遠の処女とか言われてるのに。

S原:そこやねん。たぶん、そういう「永遠の処女」という言葉が、役者としての原節子を縛ったと思うんやけどな。

Y木:おまえ、そこまで原節子の映画を観てないやろ。そのへんでやめろ。生兵法で大怪我するぞ。

S原:あー申し訳ない。でも、原節子をみて「演技が上手いなあ」とは思っても、「すごい可憐で清楚だなあ」と思ったことはないのよなあ。

Y木:ま、人それぞれでしょ。で、映画に話を戻すと舞踏会はどうなるの?

S原:舞踏会は開催されます。同時に、屋敷の売り先をどうするという駆け引きとか、今後の生活の不安とか、かつて下にみていたお手伝いさんが明日からは立場が逆転してしまうやりきれなさとかが、描かれます。もうひとつは男女の愛憎やな。

Y木:恋愛模様

S原:というか、この時代は妾を持つのも普通の時代やし、関係を持った女性が「結婚してくれるわよね?」と男に言い寄る場面とかあるねん。こういう雰囲気は今の時代では味わえない。このへんは興味深いところやな。

Y木:その時代ならでは、ってことか。最後はどうなるの?

S原:舞踏会のあと、ピストルで死のうとした滝沢修原節子が止める。原節子は父を励まして、2人でダンスをする場面でおしまい。

Y木:へえ、ええ感じのラストやん。ちょっと隠喩っぽくて。

S原:うん。ラストシーンは良いで。華族制度とか興味のある人は楽しめると思う。

Y木:普通の映画ファン、たとえば若い世代はどう?楽しめそう?

S原:かなり地味な映画やけど、観る価値はあります。同じ「映画」といっても、いまの時代とはまったく違う世界(時代)があると気付くと思うし、とくに女性なら、いろいろと思うところがあるはず。好きだという意見も、嫌いだという意見も納得してしまうような不思議な魅力の映画です。興味がある人はぜひ!