あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

(たぶん)一部の人しか知らない日本映画を12本観てみる!「Calling」(2012)の巻

Calling [DVD]

S原:今回は野心作です!

Y木:野心作?

(あらすじ)

清掃員として辛うじて生計を立てている夫は、心を病んで笑顔を失ってしまった妻と暮らしている。画家になるという夢や、妻と離れることで生まれる新たな生活の予感が夫の目前をよぎるが、それでも妻を愛し続ける。妻の顔に再び笑みが戻る、その瞬間を信じて……

 

S原:これは、超個性的な映画やった。

Y木:ほう。

S原:ほぼ全編セリフなし。ストーリー展開もほぼなし。劇伴もなし。とにかく主人公夫妻の生活を淡々と映しています。50分しかないけど、2時間くらいに感じます。

Y木:退屈ってこと?

S原:じゃなくて凝縮されてるから、観た後にどっと疲れる。僕だけかもしれんけど。

Y木:奥さんは心の病気なんやな。

S原:そうです。ずっと人形を持ってるから、たぶん流産したのか子供が小さなときに亡くなったのか。とにかく表情がなくて、覇気のない生活をしている。

Y木:主人公は、病院とか連れて行かへんの?

S原:説明はないけど、そういう時期は過ぎている感じやな。ファーストシーンから強烈やねん。妻は花をパチンパチンと切っている。部屋に花が散らばっている。綺麗な感じじゃなくて、雑に散乱している。それだけでこの妻の心が壊れていることが分かる。そのあと主人公がご飯を作ります。2人でちゃぶ台で食べます。ご飯の途中で奥さんがわざとお茶をこぼす。主人公は黙って畳の上を拭く。また奥さんがお茶をこぼす。また主人公は黙って畳の上を拭く……

Y木:それは……なかなかの場面やな。

S原:ずっとこういう感じの生活なんやろうな、と想像できます。主人公は、奥さんが寝た後に夜中に一人で起きて、こっそりと絵(油絵のキャンバス)を眺める。おそらく、主人公が趣味(画家を目指していた?)で描いたものなのよ。他の場面では、奥さんは(おそらく心の病気で)万引きをして主人公は土下座をしたりする。ここもセリフなしやねん。

Y木:ほう。

S原:こんな感じで話は進む。ほとんど大きな出来事はないねんけどな。ただし、暗示とか隠れたメッセージは多い。そのへんが嫌な人もいるかもしれない。頭でっかちといえば、その通りやし。でもこれ、中川龍太郎という人が監督なんやけど、撮ったのは22歳のときらしい。すごいよ。僕なんか、22歳の時なんかアホみたいやったもんなー。

Y木:いまでもあんまり変わらんけどな(笑) 最後はちゃんと話が終わるの?

S原:うん。起承転結ではないけど、ちゃんと「死」について2人が対峙する場面がある。あとはラストがな。

Y木:どんなラストなん? 死ぬの?

S原:死にません。もうネタバレするけど、ラストで主人公が奥さんのためにオムライスを作るねん。上から撮ったショットで、ケチャップをかける。一瞬、ケチャップが皿からはみ出て、ちゃぶ台にこぼれる。ところが主人公はケチャップを拭かないまま、奥さんにオムライスを差し出す。

Y木:へえ。

S原:最初の場面の対比でもあるとも読み取れるし、偶然のようにも思える。このへんは、映画の深みがある感じがして上手いと思ったな。

Y木:へえ。これはおススメってこと?

S原:うーん、普通に観て面白いとは言いにくい。やっぱり閉塞感があって、観ていて心が苦しくなる映画やから。

Y木:そういう映画を観たい人にはええんとちゃうの?

S原:うん。というわけで、暗めの作品を観たい人、実験的な映画を観たい人におススメです。主役の2人もなかなかの存在感ですよ。どこかで出会ったら、一度手に取ってみてくださいませ~!