S原:今回はこちらです。
Y木:SF時代劇か?
(あらすじ)
平成の世にタイムスリップした幕末の志士たちと現代の青年の魂の交流を描いた異色作。孤独に生きる青年・櫻井が暮らすマンション付近で殺傷事件が起こる。そんな中、帰宅した彼は久坂玄瑞、土方歳三、中岡慎太郎、中村半次郎という4人の侍と出会う。
S原:これは、すっごい変わった映画やった。
Y木:あらすじを読むとタイムスリップものか?
S原:そうなんやけど……ストーリーは、たしかに上の通りなんやけどな。いやーこれを言葉で説明するのは難しい。主人公は、東京で一人暮らしをしている男性。たぶん、友達もあんまりいない感じで、コンビニで立ち読みした後にトボトボとワンルームに帰るような内向的な生活をしています。ある日、侍というか浪人というか幕末時代劇にでてくるような男たち4人が部屋(ワンルーム)に乱入してくる。彼らは真剣(日本刀)を持っていて、主人公ののど元に突きつける。主人公は混乱しビビります。
Y木:そりゃそうやろ。
S原:彼らは、土方歳三、久坂玄瑞、中村半次郎、中岡慎太郎と名乗って、お互いを牽制しあう。主人公が呆然としている間、彼らはだんだんと「未来」に来てしまったことを認識していく。
Y木:たしかに変わってるな。
S原:かなりユニークな映画なんやけど、実は、これはほぼ密室劇やねん。
Y木:密室劇?
S原:うん。チャンバラもほとんどないし、街に出て侍たちが困惑する場面もほぼない。要するにタイムスリップをした侍たちのドラマというよりは、主人公と昔の時代に熱く生きている男4人との交流がメインになってます。
Y木:舞台みたいな感じか。
S原:前半はそうやな。最初は「変な映画やなー」と思って観ていると、だんだんとこの4人と主人公に感情移入していくのよ。
Y木:観ていて感情移入するんなら、この映画は成功でしょ。
S原:ある意味、実験的やし、セリフだけで登場人物たちの気持ちを表現しないといけないから難しかったと思う。そういう意味では、監督はよくチャレンジをしたで。印象に残る良い場面も多いしな。
Y木:印象に残る場面?例えば?
S原:例えば、主人公が中岡慎太郎についての「歴史解説」を読む場面があるねん。それを侍たちは聞いている。当然、中岡慎太郎は歴史に残る大人物として紹介されているから、中岡本人は照れると同時に誇らしく思う。
Y木:ほう。
S原:そのあと「若くして暗殺される」と聞いて、困った顔していたけどな(笑)
Y木:ほかには?
S原:あとは侍たちが、主人公に「おまんの夢は?」と聞く場面があるねん。だけど、とくに夢がない主人公は答えられない。男なのに夢がないという状態が、侍たちは全く理解できない。夢に向かって命を張るのが当然ではないかと首をかしげる。
Y木:ちょっと現代への皮肉もあるんかな。
S原:その通り。ほかにも良い場面が多いで。映画の後半で、幕末に帰れない侍たちに、主人公が「みんなで暮らしましょう、土佐とか長州じゃなくて、みんな日本人じゃないですか」と提案する。だけど侍たちは全く反応しない。そのとき、侍の一人が窓の外を眺めて、月をながめる。月は幕末も現代も同じ月やろ? このへんの演出は上手いと思ったな。
Y木:しかし、ずっと会話劇ではないやろ?
S原:途中から、刑事が事件(冒頭で侍が日本刀でカップルを殺してしまう)を捜査していく展開が絡んでいきます。この刑事達も良い味やねん。短い時間しかでないけど、ちゃんと警察関係者にみえます。
Y木:今回は、結構褒めるやん。
S原:ぼくは、この映画を支持したいし、応援したい。もうかなり前の映画やけど、このまま埋もれるのは惜しいで。映画自体は本当に変わっているし、スカッとする感じではない。全体的に「閉鎖的」というんかな。その辺で評価が分かれると思うけどな。
Y木:そうなんや。閉鎖的か。最後はどうなるの?
S原:ここでは言いたくないです。というのは、これは興味がある人にはぜひ観てほしいから。この映画の魅力は、やっぱり「キャスト」やなあ。ぼくは知らない俳優達やけど、こういう有名でない(失礼)俳優たちもおるんやなあ、とつくづく感心した。ハマれば、絶対に面白く感じる人も多いはず。反対に、俳優たちにシンパシーを感じなければ、ただの変な低予算の映画なだけかも。
Y木:なるほど。まあ言いたいことは分かった。
S原:さあ、みなさん。低予算で変なのは間違いないですし、ハリウッド製のドカンドカンと爆発する映画とは真逆ですが、興味ある人はぜひどうぞ! 意外にアニメとか好きな女子もハマるような気がします。あまり手に入らないDVDだと思いますので、久しぶりに言いますよ。見つけたら、マストバイです~!