あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

1940年代の邦画を観てみる!「王将」(1948)の巻

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S原:今回は、タイトルだけ知っていて、もう観る人も少ない映画、「王将」!

Y木:おれもタイトルだけやなあ…

(あらすじ)

不世出の将棋指し、坂田三吉を描く伝記ヒューマン・ドラマ。
坂田は藁草履職人で長屋暮らしをしているが、三度の飯より将棋が好き。家財道具も仏壇も幼い娘の着物までも質に入れて会費を捻出、将棋大会に出かけてしまうが、どこか憎めない。妻の小春と娘の玉江が、そんな坂田を温かく見守る。

 

Y木:通天閣打法の坂田三吉の名前の元ネタやな。

S原:イエース。これは昔どうしても観たくてな。友達の父親が映画マニアで、ビデオを貸してくれたんやけど、なんどもダビングされてたものらしくて、もう映像がザラザラやった(苦笑)当時も面白いと思ったけど、今回久しぶりに再見してやっぱり面白かったわ。ただし、今の時代から観たら、もう古さを通り越して反対に「新鮮」に感じるくらいやと思う。それくらい、いまの映画とは違うと思う。

Y木:将棋で戦う話やろ。関西VS東京みたいな。

S原:そうそう。舞台は、明治39年。大阪・天王寺坂田三吉はプロの棋士じゃなくて、素人の棋士やねん。本職は草履職人やねんけど、とにかく将棋が好きで強くて地元の将棋大会では負けなし。ある日東京からやってきた関根七段に負けてしまう。

Y木:プロと素人の差?

S原:それもあるけど、千日手(同じ手番を何回も繰り返し続ける禁忌の行為)で、規則違反で負けになってしまう。三吉は規則を知らんかったのよ。実は、三吉は学がなくて読み書きもほとんで出来ない人やったらしい。受付で「三吉」と書くときも書き順とかメチャクチャやねん。そういうのも背景にあったんかも。

Y木:なるほど。で、リベンジに燃えると?

S原:うん。いつか関根とまた勝負したい!と心に誓います。ところが、なかなか大変な問題があるねん。

Y木:なにが?

S原:まずは生活が大変。将棋好きはええねんけど節度がない。仕事を放って将棋をに熱中するから、ボロボロの長屋で妻の小春と娘の玉江は貧しく暮らしている。貧乏なくせに大事な仏壇を質屋にいれてしまうくらいやねん。さすがにこのときは小春も泣いてしまう。三吉は、妻も娘も大切に思ってるんやけどな。どうにも将棋中心の放蕩な生活になってしまう。さらに、三吉自身も問題が出てくる。三吉の視力がどんどん悪くなっているのよ。

Y木:えー…。

S原:そんななか、新聞社主催の将棋大会に参加する。その大会で三吉は連戦連勝して調子をあげていく。ところが、勝負の途中で三吉に、妻子行方不明だという連絡がはいる。

Y木:どうするの。

S原:あわてて三吉が自宅に戻る。そこへ、妻・小春と娘・玉江が無事に帰って来る。2人は母子で心中しようとしていたと話すねん。曰く「お盆に綺麗な服を着られないのなら死んでしまおう」さすがの三吉も絶句する。しかし、信心深い小春が「死んだらあかん」という妙見様の声を聞き、自殺を思い留まったといいます。

Y木:切ないなあ。

S原:今回の出来事は、三吉にもさすがにショックでな。小春に謝って将棋の駒を燃やし始める。これからは真面目に働くつもりの三吉に、小春が「日本一の棋士になって欲しい」と言うねん。で、三吉はいよいよ真剣に棋士の道を究める覚悟を決めます。

Y木:なるほどな。

S原:ここから映画は展開していくねんけど、興味のある人はぜひ観てほしい。ほかにも小さなエピソードがあるねんけど、大きくは関根との勝負。あとは妻・小春との関係が主軸になります。

Y木:映画としてはどう?「坂田三吉」という人物が、魅力になってるの?

S原:そうやな。いまならもっと違う描き方があると思う。でも、妻子を愛する気持ちも打倒関根で燃え上がる気持ちも、両方とも純粋やねん。現代の眼からみたら「どうしようもない人」なんやろうけど、こういう人もなんとなく存在できるような社会やったのかもな。あとは坂田三吉を演じる阪東妻三郎の魅力やろうな。唯一無二というか独特の存在感というか、坂田三吉が憑依しているというか。いや、坂田三吉自身のことはよく知らんけど、そういう風に見えてしまう凄味がある。でも、どこか飄々として肩の力が抜けている(ように見える)。こんな演技ができる人がおるんやなあ。役者志望の人は必見やと思う。

Y木:なるほど。将棋の場面は多いの?

S原:意外に少ない。例えば「ハスラー」(1961)とか延々と勝負の場面が続くやん。でも、将棋とかチェスとか囲碁は、映画としての画面が地味やから、こうなるんかな。そういえば、「完全なるチェックメイト」(2014)も「聖の青春」(2016)も勝負と言うよりも人間ドラマやったな。

Y木:ラストはどうなるの?

S原:妻の小春は死にます。この死ぬときの場面は印象的やで。最後は、天王寺の下町で三吉が静かにたたずんでいる場面やねん。ここはじーんとするで。

Y木:落語の人情噺みたいな感じかな。

S原:うん。ともかく「時代」を感じるけど、今観るといろいろと考えさせられます。さあ、みなさん。映画マニア、将棋ファンは必見。俳優志望も必見。地味に技巧的な伊藤大輔監督の妙味とともに、王将を味わってくださいませ~!