S原:今回からスポーツ映画をまとめて紹介しますよ。第一弾は、陣内孝則監督作品!
Y木:へえ。映画監督してたんや。
(あらすじ)
フィギュアのコーチの恋人を追いかけて北海道へやってきた元タップダンサー。ひょんなことから全戦全敗のアイスホッケーチーム、スマイラーズの監督に就任することに。
素人監督の下、少年たちがアイスホッケーの楽しさに目覚め、クリスマスの大会に向け猛特訓を続け
る中、仲間のフィギュアの少女が病に侵されてしまう…。
「オマエの病気なんて、俺達が勝つより簡単だろ!! 弱気なこと言ってんじゃねぇよ!!」
素人監督と弱小スマイラーズは、少女に病気と戦う勇気を与えるために、初めての勝利を誓うのだが…。
S原:これ、結構評価が高いねん。
Y木:へえ、そうなんや。
S原:陣内孝則のロッカーズは、世代的にぼくらよりも上の世代が聞いてたやろ。だから音楽はあんまり知らんけど、映画俳優としては結構好きやねん。倉本聰が監督した「時計 Adieu l'Hiver」(1986)とか「ちょうちん」(1987)を観て以来、良い役者やと評価をしています。この人は、とくにハンサムじゃないやろ。そういうところも良いです(笑)
Y木:あーおまえはイケメン俳優に冷たいからな。
S原:だって、普通の生活でもイケメンはなにかと有利やん。合コンで話しかけても、笑顔で会話してくれるやん?
Y木:また合コンの話かいな。もう、おまえのモテなかったトラウマ話は飽きたわ。
S原:嗚呼……神よ!一度でいいから、モテたいのです!(遠い空をみる目)
Y木:思春期の中学生男子か。で、この映画は?
S原:さっきも言ったけど、観る前から高評価なのは知っていたから期待したんやけどな。なんというか……「普通」やった。
Y木:でも役者が監督したら結構変な映画になることって多いやん。普通の出来やったら上出来でしょ。
S原:そうやな。共同で脚本も書いているからな。陣内孝則にセンスがあるのか、かなり映画を勉強して自分の演出プランを練ったのかどちらかやと思う。どちらにせよ偉いよ。ただ映画の出来としては……
Y木:悪くないんやろ?
S原:悪くないです。とくに主役の森山未來、加藤ローサはハマっているし、この2人は表情が良いねんなあ。すっかり評価を改めました。谷啓、坂口憲二、高樹沙耶、松重豊、モロ師岡、俳優陣はみんな良いです。これが陣内監督の才能なら大したもんやと思う。でもなんというかストーリーが無難すぎて、昔のNHKの子供向けドラマみたいやねん。
Y木:白血病もでてくるし?(笑)
S原:そうそう。すごく「日本映画的」やろ。話は単純でもええねんけどな。主人公(森山未來)はアイスホッケーに関してはずぶの素人やねん。それがひょんなことから、スマイラーズという弱小少年チームのコーチを引き受ける。
Y木:王道のストーリーやん。
S原:やろ?ここから「素人コーチが選手をいかに奮い立たせるか?」「素人ならでは発想で、どうやって試合に勝つか?」がみたいわけやん。そのうえで「主人公もまた子供たちから何かを学んでいく」みたいな展開を観たかったんやけどな。
Y木:ちゃうの?
S原:うん。主人公はさっそく初試合に臨みます。前半は負けてるねんけど、休憩時間に主人公が「がんばれ!」「あきらめるな!」「勝つと信じれば勝つ!」みたいなことを言ったら逆転した(笑)まあ単純でええねんけどな。もうちょっと工夫が欲しかった。
Y木:それなりに工夫はあるんやろ?
S原:主人公はタップダンスが出来るという設定で、タップのリズムで攻撃するとか、控えの選手をだすことでほかの選手の動きが変わるとか、ゴールキーパーが攻撃のポジションに変わってチームの形が変わるとか細かいところは面白い。でも、どうもダイナミックに絡まないから、映画としては小粒に感じます。
Y木:なるほど。昔、掛布が野球の解説で「小さくまとまって欲しくないですねえ」とよく言ってたけど、あれやな。
S原:そうやな。個人的に一番好印象だったのは、ホッケーチームのエース(昌也)と、フィギュア少女(礼奈)の淡い初恋のパートやな。お尻がムズムズしてくる青い春の感じで、ここは素敵です。2人ともすごく良い。映画館のスクリーンの裏でキッスする場面なんか「さすが陣内さん、わかってる~!」みたいな。
Y木:きもいわ。でも、この少女が白血病になるんやろ?ちょっとベタすぎるよな。
S原:そうなのよー…手堅すぎるというか予定調和というか。でも反対に手堅く作らず、ちょっと変わった演出をすると「自分の好みで変な映画を作りやがって」「これだから素人監督は」とか「奇をてらわず王道の演出のほうが良かった」とかつっこまれるもんな。出来た後に好き放題に言われる。映画監督ちゅーのはなかなか辛いで。
Y木:確かにな。というか、このブログもそれ系の内容やん。
S原:あーそうやな。気分を害した人がいたら申し訳ない。で、この映画では手堅いだけじゃなくて、変化球もあるねんけどな。コントみたいな場面はあまり上手くいってないと思う。でも、アイスホッケーの場面はちゃんと撮ってるし(アイスホッケーが出来る子を役者にしたらしい)、とんとん拍子で勝っていくのもベタやけどまあ良いです。でも、何度も言うようにアクセントがなさすぎる。森山未來は面白い存在やけど、それだけでは足りません。もうちょっと印象に残るサムシングが欲しかった。
Y木:サムシングか。難しいな。最後の試合は勝つんやろ?
S原:はい、勝ちます。試合の休憩時間に白血病少女からの手紙を読みます。みんな発奮します。0-4から逆転します。残り1秒でゴールしておしまい。
Y木:えーいまどき、そういう演出…?
S原:昔のジャンプみたいやろ?試合に関してやけど、個人的には勝ちではなく、「引き分け」とか「負け」でも良かったんちゃうかな。昔、スタローンがでてた「勝利への脱出」(1981)ってあったやん。あれは試合を投げ出さず(脱走するチャンスをわざと逸して)、引き分けに持ち込むところがクライマックスやねん。あの映画で「あー最後、勝って欲しかったなー」と思う人はまずいないはず。やっぱり勝ち負けでないカタルシスもあるから。この映画でも勝利ではないカタルシスを目指して欲しかった。少年少女のチームやし、そのほうが良いと思うんやけど…
Y木:「勝利への脱出」は、同点がどうこうもあるけど試合の後に集団で脱走するラストになって、そこにカタルシスがあるやん。けど、この映画ではどうなんやろ。監督がやりたかったことは、最後に勝利するってことやろ。それでええやん。
S原:そうやなあ、あとは好みの問題かな。たぶん勝利で終わってスカッとしないのは、自分がほとんど「負けた側」にいたからかもな…ふふふ…(虚しく笑う)
Y木:寂しい男やな。ラストはどうなん?
S原:内容は言いません。これもこじんまりとまとまっています。
Y木:今回は無難な映画みたいやな。
S原:イエース。さあみなさん。小学生が観るには最適です。アイスホッケーに興味がある人、出演している役者のファンも楽しめると思います。どこか薄味に感じてしまう映画ですが、決して悪くないです。陣内さーん!今度は、もう少しぶっとんだ映画を期待していまーす!