Y木:これは犬の映画?
S原:今回は、なんとも形容しがたい映画を紹介しますよ。
(あらすじ)
3歳のリリは母親の出張のため、数日間、折り合いの悪い別居中の父親のもとに預けられることになる。久々に対面した父親はリリの愛犬ハーゲンのことが煩わしくてしょうがない。最近、この国では雑種犬の飼い主に重税を課す法律が施行されていた。当局からの税金の督促と、リリの反抗的な態度に怒った父親は、高架下にハーゲンを置き去りにしてしまう。「必ず迎えに来るから! 」と涙するリリ。孤立感に打ちひしがれたリリは、必死にハーゲンを捜し続けていた。
その頃、ハーゲンは執拗な野犬狩りを行う当局に追われ迷い込んだ路地でホームレスに拾われ、野犬ブローカーに売り飛ばされてしまう。 流浪の果てに裏社会の闘犬場へと駆り出され、獰猛な野生に目覚める。やがて脱走したハーゲンは、虐げられてきた犬の群れを率いて人類への反乱を引き起こすのだった…。
S原:これは、わりと有名らしい。ぼくは全然知らんかったから、ホラー/サスペンスかと思って観たんやけどな。
Y木:あらすじを読むと、ホラー……ではないな。
S原:なんとも不思議な映画でな。寓話性のあるサスペンスというのか、怖い絵本のような映画というのか…
Y木:面白いの?
S原:結構イケます。とくに主人公リリ(ジョーフィア・プソッタ)と主人公の愛犬(ハーゲン)は本当に素晴らしい。いわゆる少女映画が好きな人にはたまらんと思う。いや、変な場面はないで。あとはハーゲン役の犬の「演技」やな。どうやって撮影したのかと驚くこと間違いなし。ほんまにどうやって演技させたんやろ?
Y木:ドッグトレーナーが訓練したんやろ。
S原:もちろんそうなんやろうけど、それにしても凄い。はじめは可愛くて従順な愛犬だったのが、徐々に人間に対して敵意を持っていく……本当に同じ犬かと信じられないくらいの表情の違いでな。下手な人間の役者よりも上手いで(笑)
Y木:へえ、じゃあ犬好きにもおススメちゃうの?
S原:それがなあ……犬が好きな人にはおススメできないなあ。というのは、中盤で犬が虐待される場面がかなりしつこいのよ。ちょっと気が滅入るくらい長い。ここが中だるみしていると僕は思う。もちろん、こういう場面があるからこそ、人間に敵意を持つわけやけど……
Y木:上のあらすじでは「やがて脱走したハーゲンは、虐げられてきた犬の群れを率いて人類への反乱を引き起こすのだった…。」って書いてあるけど、ここが見どころやろ?
S原:うん。無人の街を自転車で走る主人公の後ろをたくさんの犬たち(約250匹)が追いかけていく場面が一番すごい。ここもどうやって撮影したんやろかと感心したわ。
Y木:ラストはどうなるの?
S原:言えません。ぜひ観てほしい。ハリウッド映画では絶対にしないようなラストやな。ここは人によって解釈が変わると思う。
Y木:へえ、解釈か。そういえば最初に寓話性とか言ってたけど、そのへんはどうなん?
S原:単純に言えば、動物虐待の問題提起なんやけど、牛を解体する(もちろん人間が食べる高級肉になる)場面を即物的に挿入したりかなり多様なテーマが含まれていると思う。あと、これはハンガリー映画やねん。詳しくしらんけど、たぶん欧州での移民問題を暗示(暗喩)していると思う。やたらと「雑種だから、不要な犬である」という意味のセリフがでてくるしな。
Y木:確かに、よく考えれば「雑種犬を片っ端から殺処分する」という設定がかなりぶっ飛んでるよな。
S原:さあ、みなさま。いろいろ考えさせられる映画なので、機会があれば予告編でもよいのでぜひ観てください。観れば、誰かに話したくなること間違いなし!です。それにしても、久しぶりに『画面の力強さ』を感じた映画でしたー!