S原:今回は、オジサンが娘の友人に恋をされてしまう話!
Y木:タイトルそのままやな。
(あらすじ)
ある日、マヤ(安藤輪子)は親友である妙子(岸井ゆきの)に、彼女の父親・恭介(吹越満)が好きだと打ち明ける。それを聞いてあきれ果てる妙子と笑う母親のミドリ(石橋けい)だが、当の本人である恭介は悪い気がしない。だが、それを機にマヤは公然と恭介に対して激しいアプローチをかける。次第に彼女の強い思いと猪突猛進な姿は、恭介とミドリ、彼の愛人を筆頭にさまざまな者たちの関係を変化させていくように。やがて、思いも寄らない恋愛模様が繰り広げられるが……。
S原:いやー、これは面白かった!
Y木:娘の友達がその父親を好きになる、か。日本映画でよくあるラブコメ風映画?
S原:まったく違います。むしろ真逆かも…
Y木:へえ。
S原:レビューの評価もおおむね悪いし、好みのストーリーでもないので全然期待してなかったけど、もうワンアンドオンリーの世界で観ているとグイグイ引き込まれます。
Y木:監督の個性ってことか。
S原:たぶんな。山内ケンジという人やけど、ほかの作品も観たくなったわ。
Y木:よくわからんから、具体的に良いところを言ってや。
S原:演出は暗めですごくリアルやねん。現実にありそうな場面・台詞ばかり。まるで隣の人の会話を聞いてるみたいな気持ちになって変な気持ちになるねん。ところが、この作品はどうしようもなく「映画」「フィクション」やねん。そのバランスがすごく良いのよ。
Y木:ほう。
S原:ワンシーンワンカットで暗めの照明、俳優たちはボソボソとしゃべる。それが奇をてらった演出でなく自然に流れていく。さっきも言ったけど、現実にいそうな登場人物ばかりなのに、全員どこか不自然に歪んでいる。葛藤を持ちリアルな心情を描写しているのに、漫画チックな雰囲気が陰鬱に漂う。もうなんというか……
Y木:へえ。面白そうやな。ストーリーは?
S原:主人公は一応、おじさん・恭介やと思う(ただし観る人によって変わるかもしれません)。恭介には妻・妙子も娘・ミドリがいる。ミドリはもうすぐ大学に行く予定。ミドリには友人のマヤがいるが、マヤが突然、妙子とミドリの2人に対して「お父さん、すてきな人ですね」と話しだす。突然のことで変な空気になるが、とりあえずは冗談としてその場は流す。マヤは平然と「(恭介のことを)異性として好きで、ハゲていても水虫でも受け入れる」と言い出す。
Y木:ちょっとおかしな娘?プッツンというか。
S原:そうやな。思込みが激しいというか。でも純粋なところもあって、自然に歪んでいるねん。そのあと、マヤは、恭介を駅で待ち伏せする。偶然出会った振りをして、声をかけて一緒に歩いたりします。恭介は、ただの娘の友人ということで当然大人な対応をしますが、あとで「マヤが好意を抱いている」と聞かされ驚きます。いっぽうで、恭介と妙子の夫婦関係は破綻しており(恭介に愛人がいる)、離婚に向けて話をすすめています。
Y木:へえ。
S原:このへんの吹越満のグズグズ加減が最高に良いです。あ、ここは強調したいんやけど、この映画に出てくる役者はみんな素晴らしいです。だって「役のまんま」にみえるもん。ちょっとヤバそうな感じの人ばかりで(笑)
Y木:で、結局娘の友人とデキちゃうのか?
S原:そのまえにマヤという女性について話しておきます。マヤは中年の高校教師・田所と交際していましたが、気持ちはすっかり冷めており、別れ話を切り出します。田所は未練タラタラですが、マヤはきっぱりと「好きな人ができたので!」と言い切ります。
Y木:あー主人公のことを本気で好きってことか。まだ18歳くらいやろ。ちょっと怖いぞ。
S原:こんな感じでメインストーリーはすすむけど、娘・ミドリの恋愛関係や、マヤにフラれた後の田所の嫉妬がからむ。ほかにも主人公の愛人・ハヅキの妊娠が判明したり、妻・ミドリが他の男に迫られたり、という濃いめのエピソードがでてくる。それも「すごいでしょ!」って感じじゃなくて、ドサッとそのまま机に置かれる感じで淡々と話が続いていく。もちろん、登場人物たちにとっては淡々と、といわけにはいかないんやけどな。
Y木:ちょっと変わった映画っぽいな。フランス映画っぽい?
S原:いやーそうでもない…かな。「日本映画」風でもあるねんけど、上手く言えなくわ。
Y木:ラストは?
S原:言いません。だって、みんなに観てほしいから。ぼくは、ラストシーンの2人の会話で背中がモゾモゾしました。ストーリーも始めの部分だけ細かく言ったけど、あとはぜひ映画を観て楽しんでください。
Y木:今回は「変やけど面白い映画」っていうことは分かったけど、どうかな。普段あんまり映画を観てない人は、退屈かもしれんなー。
S原:かもしれん。でも、そういう人の感想を聞きたい!本当にテレビ局製作の大作映画にはない空気感が充満しています。人間関係の面白さが主軸やけど、メロドラマになる寸前で、踏みとどまっている。その踏みとどまり方が絶妙で、観た後にザラザラとした気持ちが残る。こんな映画は珍しい。
Y木:じゃあ、今回の映画はおススメってことやな。
S原:はい。おススメです!完成度は高くなくて「上手な映画」ではないですが、変な気持ちになりたい人におススメです。この独特の世界に浸ってくださいませ~!