あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

舞台のDVDを観てみる!「浮世に鬼は泣き嗤う」(2018)の巻

舞台「浮世に鬼は哭き嗤う」公演DVD

S原:お芝居のDVDを紹介するシリーズは今回でおしまいです。

Y木:最後は鬼の話か……

(あらすじ・解説)

 辛く、儚いこの世界を人は浮世と呼ぶ。 そんな夢幻の世に生まれ落ちた人ならざる者達。 『鬼』 ある鬼は人に焦がれ、 ある鬼は死を嘆き、 ある鬼は苦悩し、 ある鬼は嘲笑う。 これは彼らが刻んだ命の物語。

 

S原:これは、ちょっと変わった芝居です。解説によると『和太鼓×殺陣×芝居という3つの要素で舞台を作り上げる「和楽劇」』ということらしい。

Y木:へー、和太鼓か。

S原:これは、本当にシンプル極まりない舞台やねん。小さなステージの真ん中後方に和楽器(和太鼓)があるだけ(2人が演奏をする)。その前で、役者が演技をするというわけ。

Y木:なるほど。

S原:役者が動ける範囲も限られるような狭さで、セットを置く余地もなし。役者のやりとりと和楽器の演奏でだけでみせていく。DVD作品としても、1カメラでフィックスで撮っているだけ。この上なくシンプルな芝居・作りやけど、結論から言うとぼくは好きやな。

Y木:へえ。

S原:「かなりステージが狭いなあ」と思って観ていて気付いたけど、これはたぶんライブハウスちゃうかな。

Y木:あー楽器を鳴らすから、普通の劇場では出来なかったってことか。

S原:たぶんな。そういう苦労をしているから、余計に応援したくなる。

Y木:製作の苦労にシンパシーを感じるのはわかった。で、話は面白いの?

S原:ちょっとわかりにくかったかな。

Y木:あかんやん。

S原:でも、この世界にぐいぐい引き込まれる魅力があるねん。なんとも「力」のある作品やで。ただ、やっぱり設定が複雑な上に、人間関係がすぐに吞み込めないから、すぐにこの物語に入りこむことが出来ないのが惜しい。いや、これは僕だけかもしれんけど。

Y木:難しいってこと?

S原:うーん、というか鬼が存在しているファンタジーな上に、3話構成の芝居やから。

Y木:へえ、3話構成の舞台か。

S原:うん。映画でいうとオムニバスやな。「外伝」という位置づけの芝居らしいから、3つのエピソードになってるのかもな。この世に鬼が存在するという設定で江戸時代あたりが舞台。各話の前に狂言回し的に赤い唐傘を持った女性が、前口上を語るねんけど、暗い中に赤色が映える雰囲気は良い。ただ、語り口が凝りすぎてて、よく分らんかったけど…(苦笑)

Y木:じゃあ、ひとつずつ教えて。はじめの話はどんな感じ?

S原:巷で恐れられている鬼がいる世界。だが、人の心が分かる鬼(紅鬼)もおり、ある時、困っている村人を助けます。感謝のしるしにと、女は膳で酒をだします。酒には毒が盛られており、鬼は苦しむ。その鬼に対して「かつて、鬼の子供を産んだ女がいるのを知っているか?」と不気味に語り始めて…という話。

Y木:へえ。鬼の子供を産んだ女か。

S原:鬼に対する女の怨念がよく描けていて、ぼくはこのエピソードが一番好きやな。ここで、紅鬼と青鬼という対照的な2人が登場して、この物語世界の軸になるのがわかる。2人の鬼の存在感がなかなか良いです。

Y木:次の話は?

S原:侍(?)や女たちが、突然いなくなった女(口のきけないツクヨミの巫女)を探しをすることになる。野武士にからまれそうになったところをみつけて、なんとか助ける。いろいろあって、町までまた逃げた女は得意の笛を吹き、町で評判を集める。そこで鬼(青い鬼)がやってきて「ツキヨミの巫女をもらっていく」と強引に連れ去ろうとして…という話。

Y木:なるほど。どうやった?

S原:悪くないけど、ちょっと地味すぎるような。

Y木:最後の話は?

S原:死のうとする若い女を、紅鬼が助けます。若い女は「自分は蝦夷で家族がおらず村人から虐げられており、いずれ殺されるかもしれない」と嘆く。紅鬼には、人間の苦しみ、特にこの世のしがらみに苦しむのは理解できない。「死にたくない」と強く願う女は、やがて鬼と変わり…という話。

Y木:面白そうやん。

S原:面白いよ。これが一番わかりやすかった。はじめに紅鬼、最後に青鬼がでてくる構成も上手い。でも、意外に鬼が活躍しないのが残念です。で、3話目が終わると、エピローグで狂言回しがまた登場します。そこで次章への期待を語って、おしまい。

Y木:「鬼」シリーズが続いていくんやな。

S原:実際、続いているらしい。この作品は、3話とも短い話やけど、場面転換やセリフ廻しに凝っているところも多い。さっきも言ったけど、その分話が複雑になってしまって、ぼくのような「一見さん」にとって分かりにくいのが玉にキズかな。もっとシンプルでもよかったと思うけど……

Y木:いやいやそれは違うやろ。それが作者のやりたいことやろ。それでええんちゃう?

S原:そうやねん!そうなのよなあ…こういう「わかりにくさ」も含めて個性なのよなあ。

Y木:映画ファンじゃない人から「鈴木清順とか全然わからんわー」と言われるようなもんかな。

S原:いや、あれは映画ファンが観てもわかりません(苦笑)なんにせよ、この舞台の独特の雰囲気は捨てがたい。とくに和太鼓とか好きな人は生で観たら、ちょっと病みつきになるかも、です。あとは殺陣の魅力やな。あの狭いステージで、良くあんな殺陣が出来たと思う。結構、かっこええしな。ほかに感心したのは、衣装と小道具。すごく良い雰囲気やねん。例えば、鬼の衣装は和服で、顔は完全な被りものでなくて、「お面」やねん。こういうところが、非現実的な役と芝居での容姿と上手く融合しています。

Y木:要するに、和楽器とか殺陣を融合させた芝居ってことやな。

S原:そうです。アニメ映画で「カムイの剣」(1985)ってあったやろ?映画としては、ちょっと変やったけど、音楽だけはかっこよかったやん。

Y木:宇崎竜童やろ。

S原:そうそう。「竜童組」やな。サントラもシンプルで超かっこええで。あんな感じの音楽が好きな人は楽しめると思う。ほかに鬼と言う存在も含めて、和風ファンタジーとかちょっとSFっぽい和風テイストが好きな人にはたまらんと思う。おススメです。

Y木:今回は、かなり贔屓していないか?

S原:ここまではっきりとした個性と頑張りをみせられると、心は動きます。シンプルながら効果的な照明といい、かなり気合が入っていたのはすぐに分かるし。

Y木:良くない点は?

S原:少し役者の声が聞き取りにくい。どうしても、和太鼓の生演奏とのセリフの音量のバランスが難しいやろ。和太鼓のBGMで役者は声を張るから、聞き取りにくいのが残念やった。

Y木:楽器と声量のバランスか。それはテーマかもな。

S原:さあ、みなさま。やっぱり、いい年して円盤にのって金星人が攻めてきたり、フランス人形が襲ってくるようなZ級映画ばかり観ていてはいけませんね。和太鼓やお芝居に興味がある人は必見。映画好きの人もぜひご賞味あれ!

 

Y木:今回で最後やろ。舞台/芝居のDVDをまとめて観た感想は?

S原:なんとなく買ったDVD(チャットールームでなぐり合い!)でハマって、中古店で見つけるたびに買い続けたんやけどな。どれも興味深くて映画とは違う面白みがありました。自分の知らない世界を知ることになって楽しかったです。舞台/芝居製作のみなさん、役者のみなさん、こういう時代なので厳しいと思いますが、頑張ってください!