あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

ほぼ誰も知らない邦画 20連発!「はなればなれに」(2012)の巻

はなればなれに [DVD]

 

S原:今回はこちらです!

Y木:ラブストーリー?

 

(あらすじ)

パン職人を目指していたが、勤め先のパン屋を解雇されたクロ。結婚を意識していた恋人と、喧嘩別れをしたカメラマンの英斗。主演女優のレイが降板し、舞台の上演が危ぶまれる演出家の豪。それぞれ別の人生の目的を持った、接点のない3人が、ひょんなことから出会い、東京を飛び出す。行き場をなくした3人は、海辺の閉鎖された旅館で共同生活を始めることになるのだが…。

 

S原:これは、DVDのジャケットで損してるわー。まるで3角関係のラブストーリーやと思うやろ?

Y木:そう思った。

S原:全然、ちゃうねん。この映画の雰囲気が、まったく伝わってないもん。なんでこんなデザインにしたんやろうか…これだけでかなり損してるわ、かわいそうに。

Y木:こんなシーンはないの?

S原:ないよー、こんな映画とちゃうもん。この監督(下手大輔)は、映画の研究とくに小津安二郎の研究をしてた人らしい。たしかに、随所にああ映画を研究してきた人なんやな、とわかる。

Y木:理屈っぽい?

S原:というか「狙って演出してまっせ!」という感じやな。

Y木:あーでも、あれちゃう?おれらは自主映画サークルにいたし、そういうマニアな視点もある程度わかってしまうから、余計にそう感じるんじゃないの?

S原:うん。「こういうのが好きなのねえ」「こんな風に撮りたかったのねえ」と思いつつ、観てしまう(笑)

Y木:それで、どんな話?

S原:上のあらすじの通りやけど、話らしい話はないねん。起承転結でなくて、起承…で終わる感じの映画やな。

Y木:アートシアター系の静かな映画みたいな感じ?

S原:そうやな。ああいうのが好きな人にはたまらんと思う。主役(女性)が、かなりユニークやねん。貧乏なんやけど、あっさりと(下心のある)男性を騙して財布からお金だけを盗んだり、結構えげつないことをしてるねん。

Y木:犯罪やがな。

S原:主役の女優自体がかなり飄々とした雰囲気で、嫌味には感じないけどな。淡々と大胆なことをしてしまう描写というのか、そういうのは面白い。

Y木:そうなんや。

S原:そのあと、男性2人(舞台の演出家とカメラマン)も訳ありで加わってきて、海辺の廃旅館で一緒に住むことになる。そこでもとくに何をするわけでなく、淡々と日常が流れる。演出家の男性だけは、一緒に住む女性(主役)をモデルにして脚本を書いてるけど、それもそんなにドラマチックに展開するわけでないねん。

Y木:それからどうなるの?

S原:最後はそれぞれの日常に戻る。今回の奇妙な経験が、すこしだけ3人を「大人」にした、という感じで映画はアッサリと終わる。

Y木:あ、おれ、この映画好きかもしれん(笑)

S原:たぶん、あなたは好きよ。セリフもほとんどないし大半はワンシーンワンカットやし、あなたが学生時代に大好きやったテイストがあるで(笑)

Y木:でも最近、映画自体観てないからなあ…いまこういう映画を観て、自分がどう思うのか予想がつかんな。

S原:機会があればいつでもDVDを貸しまっせ(笑)

Y木:たぶん借りないけどな(笑)でも、なんかヌーヴェルバーグっぽくない?タイトルもゴダールの映画そのままやし。

S原:小津やゴダールへのオマージュがあると指摘している評もあるけど、ぼくはそんなに感じんかったな。まあ、小津もゴダールも数本ずつしか観てないから、ぼくには詳しいことはわからん。あなた、結構好きやったやろ、ゴダールとか。

Y木:昔は好きやったなー。さすがに最近は全然観てないけど、そやけどゴダールかあ……

S原:ぼくはヌーヴェルバーグはあまり得意でないから、というか全然理解できんかったから、いまだにコンプレックスがある(笑)

Y木:結構そういう人は多いやろうな。だからこそ、あの時代に前衛的とか評価されたわけやし。

S原:どこまで意識や引用をしているか分からんけど、監督が映画を研究してた人やから、当然そういうことをしているやろうな。ネットのレビューをみると、どうも女性のファッションとか、そういう部分にオマージュがあるらしい。全然わからんかったけど(苦笑)

Y木:オマージュか。最近、そういうの多いよな。なんか、それもどうかなと思ったりするけどな。

S原:タランティーノとかが大胆に元ネタを明かして、換骨奪胎するあたりからオマージュといえば何でも許されるような雰囲気はあるよな(笑)

Y木:あーそうかもな。まあオマージュ云々はともかく、この映画はわりと考えて撮られているんやろ?監督の「感性」でなく「理屈」で映画を作っている、ってこと?

S原:そう思う。こっちの捉え方の問題もあると思うけどな。

Y木:なるほどな。

S原:例えば、風景の構図とか、人物の配置とか、キャストの服の色合いとか、完全に計算して撮られていると思うねん。監督の意図がすごくわかるし、凝ったカットとか編集の仕方とか、なかなか興味深いで。そういうものを堪能する映画は久しぶりやったから、そういう点では楽しめたわ。

Y木:凝ったカットか。技巧的なん?

S原:うーん、特にテクニックを見せたいわけでないと思うけど…このへんは観る人によって評価は割れるやろうな。

Y木:ほー。

S原:編集も上手いしな。だけど、そういう点が「鼻につく」人はおると思う。でも、監督は脚本も書いてるし、こういう映画を撮りたかったんやから、それでOKでしょ。

Y木:なんか今回の20本の知られていない日本映画シリーズの中では、異色とちゃう?

S原:異色やと思う。はじめにも少し話したけど、この映画は、ばっちり設計図を元に映画を作っているという感じがするな。

Y木:どうなんやろ、いまどきは、そういう映画は珍しいんかな。

S原:うーん最近流行っている映画はぼくも観てないからわからんけど、ひょっとしたらそうかもな。ほかに紹介した映画も、もちろん絵コンテとか設計してるんやろうけど、なんというか人物重視で揺れている部分もある思うねん。

Y木:揺れている?

S原:役者たちの演技とか熱量で、現場でアイデアを加えたり、あとで編集を変えたりしてる…ような気がする(笑)でも。この映画だけは、最初から最後までバッチリ設計図通りに役者を配置し動かしている…ような気がする(笑)

Y木:気がするばっかりやないか。

S原:すまんねえ。ほんとうの監督の意図はわからんから、あくまでぼくの想像やけどな。あまりインタビューを読んだりもしないから、真逆のことを言ってたらすいません(笑)

Y木:それで、おまえとしてはどっちが良い?バッチリ設計図通りの映画か、現場のノリを重視した映画か?

S原:どっちでも良いと思う。少しくらいイビツでも、感性のまま役者の勢いのまま走る映画でもええし、この映画みたいに頭で完成させた映画もええと思う。

Y木:要は面白ければ、なんでもええということやな?

S原:その通りでござる。面白さの種類は色々です、ということやな。

Y木:まあ映画ファンとしては、いろんな面白さがあるほうが魅力的やもんな。それが作家性にもつながるやろうしな。

S原:上手くまとめるなあ。

Y木:いや、べつに。普通の話やろ?(苦笑)

S原:さあみなさん。とにかく、この映画はこの3人!これに尽きます。この3人の役者が好きならゲットしてください。あとは、やっぱり映画製作に興味がある人とか、アート系の映画ファン向けだと思います。異色作と言っていいと思いますが、テレビドラマ的な演出や俳優たちに飽き気味の人にもおススメでーす!