S原:いやー気分の悪い映画やったわー!
Y木:なんやねん、いきなり。
(あらすじ)
深い井戸の底に監禁された男の恐怖を描くシチュエーションスリラー。目覚めると井戸の底で横たわっていたミゲル。目出し帽で顔を隠したふたりの男に監禁された彼は、蝋燭とマッチ、わずかな食料などを与えられながら次第に精神を蝕まれていく。
S原:これは、ほんまにジメジメして陰鬱やねんって。観た後に、暗い気分になる。なんで、こんな映画観なあかんねん!胸やけするわ!
Y木:知らんわ。おまえが勝手に観てるんやろ!要するに「暗い映画」なんやろ?
S原:暗い映画なのはええねん。ハッキリ言うと、映画の出来が悪いのよ。
Y木:そうなんか。これは、いわゆるワンアイデアの映画やな。
S原:うん。ひとつのシチュエーションだけで、話が進む。起承転結の「起」の意外性をみせる映画やな。
Y木:映画の出だしで「お!」と思わせると。
S原:そうそう。でも、この映画では「起」だけで話が終わってしまうねん。これ、ほんまやで。普通は、「おれを穴に閉じ込めたヤツらは何者か?」「一体、何の目的なのか?」と思うやろ。
Y木:そりゃそうや。
S原:そのあと、「どうやって脱出するか?」「相手の隙をみて逆襲してやる」とか展開するやん。
Y木:まあな。
S原:それが全くないのよ。
Y木:あー、そういうベタな展開が、監督としては「ハリウッド的」で嫌やったんやろ。
S原:そうなんやろか。とても考えているようには見えないけど…(苦笑)これ、スペイン映画やねん。カルロス・マルティン・フェレーラという監督やけど、どんな奴かまったく分からん。調べてもほとんど情報なし。ま、もう業界では干されてるやろな。
Y木:どうでもええわ。
S原:ストーリーはもう説明も必要ないくらい単純。ある日、主人公が監禁される。理由はわからない。目だし帽を被った男達が、蝋燭とかマッチとかわずかな食料や水、タバコ、バケツをくれる。
Y木:そういう小道具が、「仕掛け」になるんとちゃうの?例えばマッチと蝋燭は、どう使うの?
S原:マッチで、蝋燭に火をつける。タバコも吸う。それだけ。
Y木:えー…それだけ?バケツは?
S原:トイレに使います。
Y木:え…トイレ…
S原:食料は食べます。水は飲みます。
Y木:えー…
S原:おしまい。
Y木:おしまい…なにそれ?
S原:ほんまにそんな映画やねんって!信じられへんかもしれへんけど、これが現実やねん。直視せなあかんねんって!
Y木:なんで力説してるねん。
S原:ああー……
Y木:なんやねん。
S原:空しい……
Y木:こっちのセリフや!
S原:まあ、百歩譲って少しマジメに考察すると、あらすじにも書いている通り、たぶん「主人公の精神が蝕まれていく」という描写を主軸にしたんやと思う。単純なスリラーにしたくなかったんやろうな。でも、いくらなんでも稚拙というか表層的すぎるわ。深みも何にもないもんなあ。
Y木:深みか。
S原:例えば、阿部公房とか不条理な小説でも、描写が独特でぐいぐい引き込まれるやん。意味が分からんけど、なんとなくすげえみたいな(笑)不条理すぎると評価が割れた松本人志監督の「しんぼる」(2009)でさえ、もっとちゃんと出来てるで。
Y木:要するに、ワンアイデアやのに、底が浅くて完成度も低いと言いたいんやな。
S原:イエース、ザッツライト。
Y木:ラストはどうなるの?ほんまに説明とかないの?
S原:突然、主人公は開放される。でも監禁された理由や開放された説明はない。そしてナレーション。「目を開き、あたりを見渡してやっと理解した。だが、手遅れだ。もう君の人生は崩れ去った。残るは自由の苦い味のみ。あの穴(ホール)はどこにある。答えは必要ない。穴はずっと君とともにある。だから寂しくはない。誰にでも…君にも起こりうる…」おしまい。
Y木:意味わからんわ。
S原:いやーこれは疲れた…(ため息)パッケージには、『CUBEに匹敵する発見だ!』とコメントが載ってるけど、いやー発見してほしくなかったなー…(苦笑)
Y木:そんな映画がワゴンコーナーにあるのを、発見してるのはお前やろ。
S原:さーみなさん。これは、本当につらい映画ですが、とにかく男が虐げられるのが好きな人にはたまらないでしょう。サスペンス映画としてはダメですが、SM映画が好きな人にはOKでしょう。とくにむさくるしい主人公が困った表情をするのはたっぷりと観ることが出来ますよ。変な映画ですが、とくに印象にも残らないし、スルーしてくださいませ!