あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「思い出の夏」(2001)の巻

思い出の夏 [DVD]

S原:今回は中国の素朴な映画ですよ。

Y木:へえ、このブログでは珍しいかも。

(あらすじ)

急激な高度成長によって生み出された都市部と農村部の経済格差を背景に、小さな村にやって来た映画の撮影隊と地元の少年との交流を丁寧な筆致で描く。監督は、本作で劇場映画監督デビューのリー・チーシアン。

 

S原:結論から言うと、これは出来は良くないです。でもひょっとしたら傑作になってたかも、と思う。ちょっと惜しい映画やった。

Y木:へえ。どういうところが?

S原:この映画の面白いポイントは、すごくハッキリしているねん。ひとつめは、中国の田舎の風景。ふたつめは、そこで暮らす素朴な少年と都会から来た撮影隊の交流。この2つだけやねん。

Y木:なるほど、面白さのコンセプトがしっかりしてるんやな。

S原:そうそう。で、ひとつめの田舎の風景はかなり良い。でも、息を吞むくらいの自然というよりも、どちらかと言うと素朴な感じかな。古い城壁があったり舗装されていない道を牛が歩いたり。いまの日本ではまず見れない景色の連続で、さすが中国大陸は広いと思ったわ。

Y木:ほう。2つめは?

S原:そこに住む少年と映画撮影チームの助監督のドラマが、面白くなりそうでならない。心の動きをうまく描写できなかった、というか。

Y木:なるほどな。でも中国の映画って、淡々とすすめて人間の心模様などがじわ~っとにじみ出る映画あるやん。「菊豆」(1990)とか「黄色い大地」(1984)とか。

S原:「山の郵便配達」(1999)とかな。ああいう高品質な感じでなくてもええねんけど、もっと上手く表現してほしかったわ。

Y木:もう少しストーリーを詳しく教えてや。

S原:ある夏の日。中国の田舎の村。主人公(ショーシェン)は小学4年生。あまり勉強が好きでなく、とくに教科書の暗記ができない。田舎では娯楽が少なくて、野外の映画上映会をみんな楽しみにしている。ある日、映画の撮影隊の一行に出会う。この村で、主人公の弟役をオーディションで選んで、この地域でロケをするといううわさを聞く。主人公はなんとか映画に出演したいと思う。ところが、すでに、その役はクラスの級長(リーウェイ)に決まっていて…というのが導入部。

Y木:おもしろそうやん。もちろん、主人公が映画に出ることになるんやろ?

S原:うん。級長が番をしていた牛を(わざと)逃がして、級長は追いかけて行方不明になる。その間に、オーディションがある。主人公は晴れて合格というわけ。

Y木:セリフは?暗記が苦手とちゃうの?

S原:勉強の暗記は出来ないけど、映画のセリフはト書きまですべて暗記してしまう。それだけ出演したかったんやろうな。

Y木:それで?

S原:そうはいっても素人やから、助監督(リウ)が、主人公の演技指導や世話をしてくれる。だけど、主人公は大事な場面で、いつも同じ箇所でセリフが言えなくなってしまう。何度やっても言葉がでてこない。

Y木:どんなセリフ?

S原:「都会には行かない。姉ちゃんと一緒にいたい」

Y木:あー…

S原:主人公はこう思ってるねん。「このセリフはウソだ」「街へ行ったら、誰も村には帰りたくなくなるはず」「村の生活よりも街のほうが絶対にいい」

Y木:都会に行きたいと思っているから、この言葉がひっかかるんやな。

S原:その通り。助監督はもちろん「これは映画だから」と説得するけど、主人公は、セリフが言えない。主人公は自分だけがおかしいのか?と自問自答をして、学校の友だちや村の人々からアンケートをとった。その結果、誰一人として村に帰りたいと答えた人はいなかった。主人公は、アンケートの結果(署名)を助監督に見せる。でも、もちろん助監督は納得しない。「これは映画の中の世界で、君が生きている現実とはちがう」「君が考えていないことでも、あくまでセリフだから言ってほしい」と怒られる。いよいよ本番の時間が来る…

Y木:本番はどうなるの?

S原:本番でもやっぱりセリフが言えない。撮影チームは、主人公の出演を諦める。助監督は「なぜこんな子を選んだんだ」と怒られる。撮影チームは撤収して、村の子供たちに追いかけられながら、新たなロケ地ホウプー村に向う。それを巨岩の上からじっと見つめる主人公。

Y木:それで?

S原:撮影チームがいなくなった後、主人公は映画機材(露出計)が置き忘れられているのを発見する。主人公は露出計を大事にハンカチに包み、撮影隊の後を追う。ホウプー村は遠く、お金のない主人公はなんとかして撮影チームに追いつこうとする。一方でホウブー村では、露出計がなくて困っている助監督の姿がある。主人公は、ちょっとした冒険のような出来事やヒヤッとするような事があって、最後はなんとか助監督に露出計を届けることが出来る。この再会の場面は、なかなか良いねん。セリフも一切なしで、超遠景で撮ってるねん。遠くの方で、助監督と少年が近づいていくだけ。でも観ている人は十分に2人の会話や気持ちが伝わる。単純な演出やけど、上手いと思う。

Y木:ほー。

S原:最後の場面。しばらくして主人公の学校に助監督からビデオが届く。そこには、主人公の村に滞在したときに撮られた子供や村人たちのいきいきとした姿があった。そこで、おいまいです。

Y木:たしかに地味やな。でも結構味のある話やと思うけどな。

S原:決して悪くはないよ。でも、残念ながら「地味だけど、いつまでも心に残る」という感じでもなかった。中国ではなく台湾やけど侯 孝賢(ホウ・シャオシェン)監督っておるやろ?

Y木:ホウ・シャオシェンな。結構好きやで。

S原:あの人の「冬冬の夏休み」(1984)とか「川の流れに草は青々」(1982)ってあったやろ。あれを思い出したわ。あの2作品も地味で演出もそんなに上手いとは思わんかったけど、なぜか印象に残る。映画自体はほとんど何も起こらない映画やったけど。この「思い出の夏」も、こんな感じになりそうでならないところが歯がゆいわ。

Y木:稚拙ってこと?

S原:いやーそうじゃないと思うんやけど……なんにせよ助監督と少年の交流がもっと楽しく・切なく・哀しいものであってほしかった。こういう映画はベタでもええやん。描きこみ不足なのか、テーマが素朴のわりに、演出がストレートすぎるのか、ちょっとよくわからんけど。

Y木:要するにノスタルジックというか、そういうものがちょっと足りないんやな。

S原:あー上手く言うなあ。なんで観てないのに分かるんや?(苦笑)

Y木:でも、「都市に行かないというセリフが言えない」っていうのは、微妙な設定やな。これって、中国の都市と地方との格差問題を暗示してるんやろ?

S原:たぶんな。観客からすると「おいおい、都市に憧れるのはわかるんやけどな。都市だってそんなにいいところじゃなんやで」と思うんやけど、なんせ情報のない田舎の少年やから。

Y木:まあ、そういうところも描きたかったんでしょ。

S原:さあ、みなさん。素朴で田舎の風景が大好きという人にはおススメしますが、もう少し面白くなったはずの映画だと思います。ただ映画の出来不出来は関係なく、このDVDを見つけたらゲットしておいた方がよいでしょう。え?なぜって?だって、都市の地方に格差があることを示唆する映画を習近平国家主席が許すはずがないでしょう?中国共産党は絶対に間違いを起こさず、完璧に統治しているのですから、ネ❤。というわけで、習近平さーん、今度はたっぷりの予算を使って中国製のスペースオペラを作ってくださーい!左手がサイコガンじゃなくて、如意棒になっているコブラとかどうですかー?

Y木:おまえ、習近平が来日したときにビンタされるわ。