あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

ドキュメンタリー映画4番勝負!「マーダーボール」(2005)の巻

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S原:ドキュメンタリー映画を4本ゲットしましたので、まとめて紹介しますよ。

Y木:車いすバスケ?


(解説)

戦車のような車椅子で激しくぶつかり合うことから“マーダーボール”と呼ばれる過激な競技、ウィルチェアーラグビー(車椅子ラグビー)で世界一を目指す男たちに迫ったドキュメンタリー。“荒くれ者”マーク・ズパン率いるアメリカ代表チームと、かつてアメリカ代表選手として活躍していた“裏切り者”ジョー・ソアーズがコーチを務めるカナダ代表チームとの因縁の対決など、個性豊かな選手たちによる熱い戦いが圧倒的な迫力で描かれる。

 

S原:これは、車いすバスケではなくて「車いすラグビー」(ウエルチェア・ラグビー)やねん。別名マーダーボールと呼ばれるスポーツ。ほとんど格闘技に近いかな。初めて見たけど、これはすごかったわ。

Y木:へえ。

S原:車いすバスケの漫画で「リアル」ってあるんやけどな。「スラムダンク」の作者(井上雄彦)やから、すごく有名やねんけど知ってる?

Y木:あー古本屋さんでよく見かけるわ。

S原:「リアル」は障がい者を扱う重いテーマやけど、すごく良い漫画やねん。「なにか面白い漫画ない?」って聞かれたら、ぼくは大体これをおススメします。とくにプロレスラーのエピソード(13巻)は、ほとんどの読者は泣くと思う。

Y木:へえ。

S原:あの漫画もすごいと思ったけど、この「マーダーボール」は全く別次元の描き方をしています。もちろん、バスケとラグビーの違いはあるけど、「すごい」としかいいようがない映画やねん。

Y木:どうすごいの?

S原:まず、でてくる人たちがすごい。映画開巻は、車いすの男性が不自由な体(下半身が動かない)で、よっこらしょとズボンを着替える場面やねん。それは普通やねんけど、ズボンを脱いだら、ものすごいタトゥーがでてくる(笑)

Y木:いきなりの先制パンチやな。

S原:これで、この映画のテーマがすぐに理解できる。この人(ズパン)は、アメリカ人やねんけど、かなり気が強くてな。酒場でケンカになったときに「おい、車いすの男性は殴れないのか?殴ってみろよ、おれも、おまえを殴るから」と言い返したらしい。

Y木:すごい負けん気の強さやな。

S原:元々、気の強い人みたい。親や友人のインタビューでも、結構いろいろなヤンチャなエピソードが暴露されてたわ。

Y木:なんで車いすにのってるの?事故?

S原:交通事故が原因らしい。友人の運転(たぶん飲酒)で事故にあって、脊髄損傷になったみたい。後半になって、その友人も登場するけど、そいつは五体満足やねん。自分のせいで、友人が障がい者になっている自責の念を抱えながら生きている。最後の方で事故以後に、疎遠になっていた2人が再会するエピソードがあるねんけど、この場面はええで。それぞれの「生きざま」みたいなのが、サッと交差する瞬間みたいで、結構考えさせられます。

Y木:かなり映画としてはシビアやな。

S原:うん。でも「可哀そうでしょ」「すごい大変そうでしょ」なんて視点は全くない。例えば、ある障がい者はこう言います。「外に出ると、みんな感心して声をかけてくれるがよ。俺らは引きこもっているのが当たり前なのかよ」

Y木:たしかにな。

S原:Fワードも平気で口にする奴もおるしな。ほかに出てくる人物も個性派揃いで、面白いよ。全身タトゥーもおるし、ほんとど手も足もない選手もおるしな。しかも箱に入って(手足がないから箱に入れる)、健常者を驚かすイタズラをしてみんなで大笑いをしている。とにかく等身大の障がい者をそのまま映しています。

Y木:なんというのか、前向きやな。

S原:超前向き。「おまえら健常者なんかに、負けてたまるか」「可哀そうなんて言わせねえ」みたいな自尊心と気骨が滲み出ていて、この映画をみたら、ちょっとしたことで悩む自分が恥ずかしくなる(笑)

Y木:観ている人にそこまで思わせれば、良い映画とちゃう?

S原:そうやな。でも、そんな激しい感情ばかり描いてるわけじゃなくてな。例えば、事故で障害が残り退院したばかりの青年が、事故を起こしたバイクを見に行く。黙ってバイクをみる…こういう静かな場面もなかなか心に残るねん。あーあと、性行為のことも描かれてます。障がい者の性行為の仕方のビデオもでてくるし、酒場でナンパをするコツもでてくる。

Y木:ナンパ?

S原:車いすの男性が、得意げに「女ってのは、『障がい者って、どうやってチョメチョメするのかしら?』って興味津々なのさ」って語る。そういうもんらしい(笑)

Y木:へえー!

S原:ほんまに、へえー!やで。そういう連中が、車いすラグビーチームで世界大会やオリンピックに出場するというストーリーやな。

Y木:変則のスポ魂もの?

S原:スポ魂って言えばそうなんやけど、勝ち負けよりも、それぞれのキャラクターが凄すぎて、ジャンプみたいな爽快感はないです。でも、クライマックスのパラリンピックの決勝戦(カナダ対アメリカ)は、ものすごく盛り上がる。ここは平凡なスポーツ映画を軽く超えています。

Y木:宿命のライバルってこと?

S原:うん。それには、カナダ代表のチームの説明がいるかな。カナダチームのコーチ(ジョー・ソアーズ)は、元アメリカの車いすラグビーの選手やねん。米国代表チームに選ばれるくらい選手やったけど、年を取ってチームから外されることになる。

Y木:それは仕方ないわな。

S原:でもこの人は納得しない。なので訴訟します。「おれをチームから外したのは不当だ」って(笑)で、結局は裁判に敗けます。

Y木:そりゃそうやろ。

S原:結局、逆ギレしてそのままカナダに行って、車いすラグビーのカナダ代表チームのヘッドコーチになります。「俺は、アメリカチームの作戦やサインを全部知っているぞ!」「あいつらを見返してやる!」

Y木:なんか器のちっちゃい男やな(苦笑)

S原:でも、ものすごい強い意志があるねん。家族(特に息子)も若干迷惑気味なくらい個性的で、自分の信念を元に生きています。対してアメリカチームの監督は、鼻で笑います。「奴は、道端で燃えている小さな火だ。踏みつぶして、消してしまえ!」「あんな年寄りの役立たずは、返り討ちだ!」

Y木:なんかスゴイやりとりやな。

S原:そんな因縁のあるアメリカとカナダの試合は、当然激しいものになる。もともと、車いすラグビーは、専用に改造された車いすで激しくぶつけ合うねん。本人たち曰く「マッドマックスみたいで、かっちょいいだろ?」

Y木:発想は中学2年生やな。

S原:でも、試合後の車いすはボロボロでな。タックルで車いすごとひっくり返ったら、自分では起き上がれないから、審判がよっこらしょと元に戻す。こういう何気ない場面も印象に残ったわ。

Y木:最後はパラリンピックの決勝戦なんやろ。カナダが勝つの?アメリカが勝つの?

S原:最後がどうなるか。この映画をぜひ観てほしい。このブログではネタバレ全開やけど、この映画はおススメなので、これから観る人のために言いません。演出もシンプルで良いねん。試合の最後が無音になる……激しく戦う選手たち……熱く見守るコーチたち……試合が終る……その後も、ほとんど音のないまま選手や監督の表情が次々と映る……ごく平凡な演出やけど、感心したわ。

Y木:そうなんや。

S原:さあみなさま。NHKで流れるようなドキュメンタリー番組と似ていますが、ここまでいろいろな要素を盛り込んだ映画はそうないでしょう。大泣きするタイプの映画ではないですが、気になる人がいればぜひ観てください。よくできたハリウッド製映画に飽き気味な人には絶対おすすめです。ワゴンコーナーでなくても、どこかで見つければマストバイです!日本代表のみなさんも頑張ってくださーい!