あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「女性」「性」がテーマの映画を観てみる!!「スティル・ライフ・オブ・メモリーズ」(2018)の巻

スティルライフオブメモリーズ [DVD]

 

S原:さあ、今回はこちら。

Y木:このパッケージは…なんともまた…

 (あらすじ)

山梨県立写真美術館のキュレーターをつとめる怜は、偶然訪れた東京のフォトギャラリーで、新進気鋭の若手写真家・春馬の写真に心を奪われる。翌日、怜は春馬に連絡を取り、彼女自身を被写体にした写真を撮影して欲しいと依頼する。怜が撮って欲しいと切り出したのは、自身の性器であった。春馬は突然のことに戸惑いながらも怜の写真を撮りはじめ、2人は撮影を通して次第に惹かれ合っていく。そんな中、妊娠中の春馬の恋人・夏生が怜の存在を知り……。

 

S原:これは「性」とうよりも「性器」の映画やった。テーマがテーマだけに、ネットでのレビューをみると評価真っ二つ。さもありなん、やな。

Y木:へえ、そんな映画なんや。

S原:だって『カメラマンが女性器を撮る』。それだけの映画やで?(苦笑)これを劇場公開したんやで。すごくない?

Y木:たしかにすごい。それで、映画自体はどう?面白かった?

S原:わりと面白かったけど……ちょっと言いたいこともある映画やった。最初に言っておきたいのは、まったくエロくないってこと。その目的で観たら、肩透かしをくらうと思う。ヘアヌードとかでるけど、男性としてはまったく興奮しない。

Y木:へえ。即物的に撮ってるってこと?

S原:それもあるけど、なんと言えばいいのか…「美しき諍い女」(1991)っていう映画、覚えてる?

Y木:あー画家が絵を仕上げる話やろ。たしか、あれもヘアヌードが、当時は話題になったよな。

S原:そうそう。あれは絵画のモデルやから裸身になるのも良くわかるねん。映画自体もゆったりとしたリズムで、まさに芸術がテーマの映画って感じやねん。この「スティル・ライフ・オブ・メモリーズ」を観たときに、あの映画を思い出したわ。

Y木:へえ。要するに、カメラマンとモデルの芸術がテーマなんや。

S原:うーん、本音を言うと、「芸術」といわれると、躊躇するんやけどな。

Y木:ん?

S原:なんというか、「美しき諍い女」みたいに、『芸術映画』を目指していないような気がする。

Y木:ふーん。まあ観てないから、ふーんとしか言いようがないけど。

S原:この映画では、いろんな部分がすごく省略されてるねん。音楽とかセリフもそうやけど、結局は『なぜ、女性が自分の女性器を撮ってくれ、と頼んだのか?』という基本部分が最後までハッキリわからない。そういうのを「説明」しないから、すごくミステリアスにもなる反面、「その女、何がしたいねん」「結局、どういうことやねん」とイラつく人もいると思う。

Y木:なるほど。でも、そういう『説明をしない良さ』を狙ったんでしょ。

S原:たぶんな。成功しているか失敗しているか、あとは観る人が判断するしかない。でも印象的な場面は多いで。自然光のなかで、「カメラマン」と「モデル」が静かに対峙する場面は、すごく丁寧に撮られてる。モノクロからカラーにゆっくりと変化するショットや、自然の風景もきれい。監督(矢崎仁司)は、絵画的な絵作りを意識したんとちゃうかな。このへんは、好きな人にはたまらんはず。

Y木:へえ、面白そうやん。昔の俺なら、たぶん観たいと思ったやろうな。

S原:いまでも観たらええやん。

Y木:いやー、最近は映画を観るパワーがなくて…(苦笑)ま、それはええとして、でも『女性が自分の女性器を撮ってくれ、と頼む』ちゅうのはやっぱりショッキングではあるよな。

S原:それはいえる。これは、実在のカメラマンのエピソードを元にしているらしい。解説を引用すると『フランスの画家・写真家アンリ・マッケローニの写真集「とある女性の性器写真集成百枚 ただし、二千枚より厳選したる」より、一つとして同じものがない女性の肉体の豊かな表情と神々しさ、そしてマッケローニと、自らを撮らせ続けた彼の愛人が過ごした2年間に触発され、企画された』らしい。

Y木:うわー、そういうヤツもおるんやな。女性器を撮り続けるか…いやあ…

S原:この映画でも、この実在のエピソードがでてくる。始めに言ったけど映画自体は静謐なトーンで、全然いやらしくないから、スキャンダラスな感じはない。でもまあ普通の人、たとえば普段映画をそんなに観ていない人は、やっぱりビックリするストーリーやろな。

Y木:それで、話はどうなるの?

S原:カメラマンは既婚者やねんけど、妻が気付いて揉めるねん。それで、今度は撮影現場に妻も同行することになる。このへんは、3人の微妙な関係が上手く描けてると思う。

Y木:途中で、カメラマンはムラムラとこないの?

S原:最後の方で、おもわずカメラマンが、女性を抱きしめて性行為をしようとする場面がある。でも、女性は拒絶する。無言のまま、カメラを渡す。あくまで女性器を撮ってくれるように、という意味やな。

Y木:へえ。ラストはどうなるの?

S原:ハッキリしないけど、結局はカメラマンと被写体のままで、2人の関係は終わる。ラストシーンがちょっと意味深でな。数年後の場面やねん。カメラマンは、赤ちゃん(娘)と妻と一緒にドライブに行く。そこで長くて暗いトンネルに入る。まるで、それが女性器というか、産道みたいなイメージで描かれる。ここで延々と続く長く暗いトンネルのショットで、映画はおしまい。

Y木:ほう、なかなかクールな終わり方やな。

S原:ちょっとフランス映画っぽくて、かっこよいやろ。設定はたしかに奇抜やけど、むしろ『何も起こらない映画』といってよいと思う。

Y木:で、おまえの最終的な感想はどうなん?

S原:なんとも不思議な印象が残る映画やったのは事実やわ。ただ個人的には、映画としては「狙いすぎ」というか…そのへんがちょっとな。映画のテーマなのはわかるけど、性や性器、命や死とかの暗示や象徴を感じさせる場面が多すぎると思う。最初のうちは、「ほー」「へえ」という感じで観れるねんけど、最初から最後まで同じリズム、同じトーンですすむから、後半は「ずっと、同じやん…」「言いたいことは分かるけど…」と飽きてしまう。ハマる人にはハマるんやろうけど、ぼくは、この映画は好きになれない……同じように性器にこだわった「フィギュアなあなた」(2013)よりも、この作品のほうが完成度は高いと思う。もしかしたら評論家筋の受けはええんかもしれん。だけど、ぼくは不格好でイビツな「フィギュアなあなた」のほうが断然好きやな。

Y木:なるほどな。

S原:さあ、みなさん。観た後に誰かに話したくなること間違いなしの映画です。マジメな人にはショッキングな場面も多いと思いますが、これも「ドラマ」と解釈すれば、また違った見方が出来ると思います。男女で感想もわかれるはずですし、賛否どちらの意見もわかる映画です。日本映画にしては野心的な試みです。ぜひチャレンジを!