あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「女性」「性」がテーマの映画を観てみる!「マルガリータで乾杯を!」(2014)の巻

マルガリータで乾杯を! [DVD]

S原:今回で「女性」「性」がテーマの映画特集は最後。これはインド映画ですよ!

Y木:インド映画。へえ。

 

(あらすじ)
ライラは生まれつきの障がいがあるが、前向きな明るさと旺盛なチャレンジ精神、好奇心の持ち主。両親と弟、親友のサポートを受けながら大学に通い、青春を謳歌している。米国の大学に留学できるように計らってくれた母と一緒に、希望を胸にNYへ乗り込んだライラだったが――。

 

S原:これは、なかなか面白い。観る価値のある映画と思う。

Y木:えー、『良い映画』をこのブログで取り上げるんや?

S原:おいおい、別にボロクソにいいたくて、映画をチョイスしてるわけちゃうねんで。ただ、ワゴンセールのコーナーでDVDを買ってたら、珍作に出会ってしまう確率が上がるというだけで…(笑)どっちにせよ、今回はどうしてもこの映画を取り上げたい。「性」「女性」というテーマにピッタリやし。

Y木:インド映画といえど、歌って踊る映画じゃねいねんな?

S原:そうそう。ああいう能天気でハッピーな映画じゃない。まずストーリーが面白い。

Y木:(予告編やDVDの裏面をみて)主人公は障がい者なんやな。

S原:うん。主人公は19歳の女性、ライラ。生まれつき障害があって身体が不自由で、車いすにのっています。言葉も上手く話すことが出来にくい。ところが、このライラはとにかく明るくて、デリー大学に行くくらい頭も良い。まったく自分の不遇や不便さを悲観することなく、楽しそうに大学に通っています。笑顔がすごくええねん。笑顔が素敵な女性って、昔の合コンでもててたやん?ああいう感じやな。

Y木:良い映画の話をしてるのに、なんで昔の合コンで例えるねん。

S原:ライラは、同級生のバンドのボーカルに恋心を抱いていて、歌詞を書いたらすごく褒められる。おまけに、その曲でバンドはコンテストに優勝する。もうライラは有頂天になる。ところがステージで審査員から「障がい者が作詞したから優勝を決めた」と言われてショックを受ける。おまけに、バンドのボーカルにも、ふられてしまう。ライラは当然落ち込んで大学にも行かないと母親に愚痴る。でもそんなときに、ニューヨークの大学へ留学する話がくる。父親は反対するけど、母親は後押しをしてくれる。ライラは心機一転、ニューヨークへ!っていうわけやな。

Y木:へえ、おもしろそう。

S原:母親と一緒にニューヨークへ行くんやけどな。そこで、ライラは、目の不自由な女性(ハヌム)と出会って、友人になる。このハヌスがアクティブな女性でな。彼女の影響で、初めてクラブに行ったり、いろいろな新しい体験をしていく。はじめての飲酒で、マルガリータを頼んでストローをつけてもらう。障がいがあってストローでないと飲みにくいわけやけど、これがラストシーンの伏線になる。やがて、ライラは恋愛や性にもどんどん興味を持ちだすねん。

Y木:ま、年頃の娘やったら、それは普通やろな。

S原:でも母親としては、気が気じゃない。インドからニューヨークへ来て、遊んでいる娘を見たらそりゃ心配やで。

Y木:まあな。

S原:母親はライラとギクシャクして、結局インドに帰国する。ここからの展開がまたすごい。ライラは、やがて目の不自由なハヌスと恋に落ちて、同棲することになる。同性愛に目覚めるわけやな。

Y木:同性愛。おお、それは…

S原:そのあと、ライラはハヌスとの関係を分かってほしくて、ハヌスと一緒にインドに戻る。自分が同性愛者であることを素直に伝えるが、とても母親は受け入れられない。

Y木:黙ってたらええのに。

S原:ライラは、ちゃんと自分のことを母親に伝えたかったんやろうな。まっすぐというか素直というか。同じころに、ライラが(男性と)浮気したことをハヌスに告白するんやけど、ハヌスはすごくショックを受ける。そうこうしているうちにに、母親が結腸癌で余命が少ないことがわかるねん。ライラは、看病のためにインドに残ることにする。

Y木:ハヌスは?

S原:ニューヨークへ帰る。

Y木:そうなんや。それで?

S原:母親は亡くなる。ハヌスとの今後の関係もわからないし、ニューヨークに戻るかどうかもわからない。次は、もうラストシーンになる。ライラが1人でお店に車いすで行く。マルガリータを注文する。そのときに「コップに移し替えて」と頼む。マルガリータを(障がい者でも扱えるような)コップに移し替える。ここで、ライラはストローをだすねん。このストローがくるくる回ったデザインで可愛い(笑)ライラは、マルガリータを飲んでニッコリと笑う。このラストシーンのライラの笑顔をみるだけでも、この映画を観る価値があると思う。ちなみに、原題は「Margarita With a Straw」(ストロー付のマルガリータ)。ええ感じやろ?

Y木:なるほどなあ。

S原:ほかにも印象に残る場面も多いで。「健常者と付き合っても健常者にはなれないぞ」と言われて、ライラが「嫌なやつ!」と言い返す場面とか、おばあちゃんの形見のペンダントを売って、iPadを買ってしまう場面とか。

Y木:おいおい、それはあかんやろ。

S原:若さゆえの過ちってことやな。あとで後悔すると思うけど(笑)映画としては、なんというんかな、ストーリーやテーマに多層性があるというか。インドという地での「性」の問題、障がい者としての「性」の問題(性交場面もある)、10代女性としての「性」、同性愛としての「性」、すごく欲張りな映画やねん。そのくせ、観客に感動を強要しているわけじゃなくって、どこか淡々と描いている。監督が、女性(ショナリ・ボース)だからこその視点があって、これは本当に感心したわ。いやー、こういう映画もあるんやなあ。

Y木:この主人公は、実際に障がいのある人?

S原:いや、障がいは演技らしい。カルキ・ケクランという、ちゃんとした女優です。特典映像の来日時のインタビューを観ると、頭の良い人だとすぐに分かるで。

Y木:へえ。

S原:たしか「愛は静けさの中に」(1986)では、マーリー・マトリンという女優がろうあ者を演じて、アカデミー女優賞を獲ったんやけど、彼女は実際にろうあ者やねん。そうそう、「愛は静けさの中に」も良い映画でな。ぼく、すごく好きやねん。地味で素朴な作りやけど、いまでもすごく印象に残っている。

Y木:この映画はどう?「愛は静けさの中に」の素朴な良さとは、違う?それとも一緒?

S原:うーん、違うような同じのような……不思議な感覚やな。さっきも言ったけど、要するにこの映画では、たくさんの障がいとかタブーを描いてるねん。それが奇をてらうわけじゃなくて、すごくシンプルに表現してるねん。ここがまず良い。あとはやっぱり主人公のキャラクターの魅力やな。

Y木:ダメなところは?

S原:小さなツッコミを言い出したらキリがない。例えば、主人公以外はいかにもインド人(顔)なのに、1人だけ人種が違うようにみえるとか(主演女優はフランス人)、全員英語を話しているとか(インドでも英語を話している地域はあるらしい)。でも、そんなことはあんまり気にならない。とにかく暗い話にせずに、ポジティブというか明朗というか本当に楽しそうに生きている姿を観る映画やと思う。なんか……仕事中に魚が死んだような眼をしている自分自身を反省する良い機会になったわ(苦笑)

Y木:おまえ…大丈夫か?まあそれはそれとして、おまえが(この映画に)感心したのもよく分かるんやけどな。どうなんやろ、ちょっと話としては詰め込み過ぎというか、テーマが多いというか、ごった煮すぎへんか?

S原:そうやな。宣伝文句は「障害を持つ少女の青春と成長の物語」。でもそれだけじゃなくて、19歳のまっすぐな恋愛あり、障がい者としての性(行為)あり、異国への旅立ちあり、同性愛あり、親の難病あり、女性としての自立あり、やもんな。でも考えてみてよ。これ、日本のメジャー映画で作れると思う?

Y木:絶対無理やろな。

S原:さえない感じの映画監督志望が、この企画を持っていったときの会議室でのやりとりが目に浮かぶわ。電通博報堂の奴らが「おいおい、なんだこの企画は」「こんな映画で客を呼べねーよ」「なんで、女優が車いすにのってるんだよ、美脚が見えねーじゃねえか」「もっと旬の女優がヌードになりたくなるような企画を考えてこいよ、バーカ!」とダメ出しされて、おしまい。

Y木:具体的な妄想やな。

S原:そのあとに「こんな話じゃなくて、そうだな、あーそうそう、青空の下でイケメンと女子高生がデートする映画ってのはどうだ?」「お、男子がツンデレでな」「いいねえ、バッチグー」「おいおい、表現が古いっつーの!」「ハッハッハ!」と会話が続くねん。

Y木:なんやねん、そのちょっと前のテレビ業界みたいなやりとりは。

S原:いやー、あの頃から絶対に変わってないって。だって、フジテレビなんていまだに同じことを続けてるやん。

Y木:わかったわかった。

S原:さーみなさま。ひさびさに、見応えのある映画を観たような気がしますが、これが自分だけの感動なのか、他の人も同じように感じる普遍性があるのかちょっとわかりません。映画製作や役者になりたい人は必見です。単に観る前のぼくのハードルが低かっただけかもしれませんが、とにかく幅広く観てほしい1本です。レンタルでも良いですので、ぜひご覧くださいませ!これにて、「女性」「性」がテーマの映画特集はおしまい!普段観ない映画たちに出会えて、なかなか刺激的な企画でした!