S原:今回から、しばらく「女性」や「性」がキーワードになる映画を紹介します。はじめはこちら!
Y木:「女性映画」か…
(あらすじ)
俵万智の『トリアングル』を原作に、作詞家の阿木曜子が映画監督に挑戦したヒロイン映画。33歳のフリーライター薫里(黒谷友香)は年上のカメラマン(村上弘明)との不倫、ヴァイオリニストの卵(黄河田将也)と、2人の男の間で揺れ動いていく・・・
Y木:おまえが、こんな恋愛系というかエロい映画(?)をチョイスするのも珍しい。
S原:単純に「エロ」とか「官能」とかいう映画じゃなくて、ちょっと変化球というか、ひっかかりがあるような映画をチョイスしたつもりやねんけどな。だけど、ぼくはこの分野は疎いから、かなり偏ってるかもしれん。
Y木:ほー、ひっかかりのある映画か。たんにスケベ心では観ていない、と?(笑)
S原:もちろん、エロ自体はキライとちゃうねんで(笑)普段はゾンビとか宇宙人とかそんなんばっかりるのに忙しくて、ラブストーリーまで手が届かないだけやねん。実はこれ、作詞家の阿木曜子が監督してます。旦那の宇崎竜童も協力してるで。
Y木:へえ、映画監督なんかしてたんや。これは短歌がテーマ?
S原:原作が、歌人の俵万智の小説で、映画の中でも短歌が挿入されてます。これがなかなか情熱的やねん。例えば…
『 幾千の 種子の限りを 覚まされて 発芽してゆく 我の肉体 』
『 水蜜桃の汁 吸うごとく 愛されて 前世も我は 女と思う 』
『 きつくきつく 我の鋳型を とるように 君は最後の 抱擁をする』
Y木:うわっ、すごいな。
S原:なんというか女の肉体の情念のような、すごい短歌やろ?昔、ぼくは『チョコレート革命』という句集を読んで「これは女にしか書けな歌集やな」と感心したけど、俵万智本人はさらに深く先にすすでいるみたい。そんな原作を女性監督が撮る、しかも、女優が大胆な濡れ場が挑戦する、当然映画としては、ここが見どころになるわけやな。
Y木:おもしろくなりそうやん。
S原:でもなー、残念ながら、短歌ほどのパワーはなかった。短歌で言うと
『 映画より 短歌のほうが 良いですね 』
って感じやな。
Y木:……それ、短歌とちゃうやん。5・7調で感想を言ってるだけやがな。でも、男としては、わりと単純に「エロ目的」で観る人もおるんとちゃうの?
S原:『 ネットでの エロい動画と比べたら 映画の濡れ場は 演技ですよね 』
Y木:当たり前やろ。本番AVとはちゃうわ。
S原:でも、こういう映画の撮り方って難しいと思ったで。確かに「激しい濡れ場」がセールポイントになるねんけど、そこばかりが話題になって、肝心の心の動きは話題にならない。でも、一方でこういう話やったらやっぱり濡れ場がないのも変やし…
Y木:これは、「あの女優が脱いだ!」ってことで話題にしようとしたんとちゃうの?
S原:主演は、黒谷友香。すごく綺麗やしスタイル抜群で、濡れ場も逃げずに頑張ってます。でもなー、もう結論を言ってしまうと情熱的な話やのに、どうも淡泊に感じる。短歌で言うと
『 なんとなく 薄味カレー みたいだね 女の気持ち これでは分からん 』
っていう感じ。分かる?
Y木:だから、5・7調で言うなって、キモイから。
S原:上手く言えないけど、『女』の持つメラメラと燃え上がるような情念とか、不倫を続ける悦楽や不安・焦燥感は感じんかったな。
Y木:女性監督やから、ベッドシーンはキレイに撮ってるんとちゃうの?
S原:うん、キレイ。でもかなり激しいで。なんと言うか「男性目線」から感じるエロさとはまた違っていて、ここは興味深かった。
Y木:男性目線と違うエロさ?
S原:ファーストシーンから、「へえ」と思ったんやけどな。映画が始まると、主人公が恋人(不倫相手)とのニャンニャンの最中やねん。男性は主人公に恋愛小説を朗読させる。男性は愛撫を続ける。次第に文章を読む声が途切れ途切れになって…という官能的な場面やな。こういう演出は、女性監督ならではと思う。あと、最後近くで薄い布だけ羽織ってダンスをする場面もあるけど、ここも女性らしい視点で撮れてたと思う。
Y木:なるほどな。ストーリーはどんな感じ?
S原:2人の男性(不倫相手のかっこいい中年男と若くてまっすぐな男)との恋愛(性愛)で、揺れ動く女性の生き方が描かれてる。短歌で言うと、
『 2人の間 揺れ動いていく 心と体 若いのもグー おじさんのもグー 』、こんな感じかな?
Y木:話は、わりとベタやな。
S原:確かにありがちかな。こういう映画は細部へのこだわりが大事のように思えるねんけどな。
Y木:ほう。
S原:例えば、主人公の親友で、なかなか子供に恵まれなくて悩んでいる女性がおるねん。その女性は主人公に向かって「あなたに前から一度言いたいと思ってたの。私はね、本妻の味方だから。本当はあなたみたいな生き方、認めてないから!」と言い放つ。
Y木:おお。
S原:この辺は面白いんやけどな。なんか、こういう「おおっ」と思う瞬間が他には少なくて、ちょっと単調に感じたな。
Y木:その単調さを埋めるのがベッドシーンとちゃうの?
S原:でもヌードが見れればなんでもOK!ちゃうしなあ。ちゃんと話と官能的な場面とが、かみ合ってないとやっぱり物足りん。俵万智の原作では上手く描かれてるんかな、ちょっとわからんけど。
Y木:短歌はどこででるの?
S原:映画の途中で挿入される。一応、主人公が短歌を作るのが趣味という設定みたい。映画の流れとしては、逆にぶつ切りになったかな。
Y木:ラストはどうなるの?2人と別れておしまい?
S原:『 妊娠を 示唆して終わる お腹ポン 誰の子か わからんけれど 』
Y木:うーん、そういう終わり方か…
S原:俵万智の覚悟が分かるようなラストやったけどな。たしか本人もシングルマザーやし。でも、さっきも言ったけど、ぼくは主人公を責める人妻のほうにリアルさを感じたわ。
Y木:そのへんは、人それぞれやろうな。
S原:俵万智自身も
『家計簿を きちんと付けて いるような 人を不幸に してはいけない』
と歌っているくらいなんやけどな。それでもどうしても、その男性を愛さずにはいられない、というような女の性(さが)もある。そこまで描かれていれば、この映画は傑作になったと思う。そう考えればこれはメチャクチャ惜しい。
Y木:いやー、そこまで激しい性(さが)を映画として描くなんて、それはなかなか難しいで。
S原:そうやな。せっかくの濡れ場が、かえって足を引っ張ったみたいで、ちょっと可哀そうやったかな。結局、女優が脱いだことばっかり話題になってるし、監督も女優もそういう意味では不本意やと思う。
Y木:うーん、そのへんはどうなんやろ。難しいな。
S原:色々と考えさせられる映画ではあったし、普段こういう映画は観ないから個人的には新鮮やった。ただ、映画の出来としては、う~ん…という感じやったな。
Y木:へえ。
S原:さーみなさん。観ると色々と感想が湧くタイプの映画ですよ。観終わった後に男女でああでもない・こうでもないと話は盛り上がると思います。そのまま、エッチな雰囲気になって、ベッドインしたりなんかしちゃったりして~♪
Y木:……ゲスな発想やなあ。