あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

あなたはどっち?賛否両論映画特集!「魍魎の匣」(2007)の巻

魍魎の匣 スタンダード・エディション [DVD]

S原:今回は、これ!

Y木:おお、京極夏彦

(あらすじ)

戦後間もない1952年、東京。世間では謎の美少女連続殺害事件が発生し、不幸をハコに閉じ込めるという怪しげな宗教団体が勢いを増していた。それぞれの謎を追っていた探偵・榎木津や作家・関口、記者・敦子、木場刑事らは、真相解明を求めて京極堂のもとに集う。

 

S原:あなた、一時期、ミステリーをよく読んでたやろ?京極夏彦は読んだ?

Y木:読んだで。たしかこの原作も読んだ。面白かった印象はあるけど、ストーリーはほとんど忘れたなあ…

S原:ぼくも同じやわ。あの独特の雰囲気しか覚えてない。

Y木:まあ、あれを映像化しようとする神経が、おれには信じられないけどな。

S原:ネットでもそういう意見が圧倒的やな。とくに、原作のファンからは総スカンって感じやな。

Y木:で、この映画はどうやった?

S原:良いところ、悪いところがハッキリとしている映画やった。

Y木:ほう。良いところって?

S原:まず俳優陣はみんな良かったと思う。この映画では撮影も演技も大変やったと思うし、プロにむかって失礼やけど、かなり気合が入ってたんとちゃうかな。昭和初期のロケやセットもなかなか良い雰囲気やった。とくに街角が完全再現されてるのは、単純にすごいと思ったで。

Y木:へえ。CGで再現?

S原:いや、中国でオープンセットを作ったらしい。他にも建物とか、凝った部屋とか階段とか、ロケやセットは全体的に結構ええ感じやねん。美術担当の頑張りは認めたい。

Y木:こういうタイプの映画では、雰囲気は重要やもんな。

S原:うん。でも、褒めるのはここまで。あとはちょっとなあ…

Y木:そうなんや。というか、そうやろな。

S原:とりあえず原作は横に置いておいて、映画単体として話します。さっきも言ったけど、猟奇的というかグロテスクなところもそんなに悪くないし、全体的なムードも最後まで続く。でもなんか、いまいち映画のリズムにのれないねん。

Y木:リズム?

S原:最初の方に、黒木瞳阿部寛に娘を探してくれと頼む場面があるねん。地味な場面やけどここは大事やと思うねん。

Y木:ほう?

S原:観客に謎を提示するとともに、いよいよミステリアスな展開になっていく…観客がその気になる場面やのに、なぜかロマンチックなBGMが流れる(苦笑)

Y木:なんで?

S原:さあ、全然わからん。別に黒木瞳阿部寛も会ったばかりで、恋愛感情もないしな。なんか変やねん。ここは説明する場面やから、音楽なんか不要で緊張感を出して会話するだけで充分やのに。

Y木:序盤からつまづいてるがな。

S原:それでも、前半はまだええねん。問題は後半やろうな。なんか映画の演出が物語とかみ合っていないというのか…

Y木:かみ合ってない?

S原:演出なんやろうけど、ところどころ時系列を変えてる。場面ごとに、登場人物の名前をだしたりして、余計にわかりにくい。凝ったつもりなんかもしれんけど、登場人物の相関関係とか把握できていないのに、こんな演出は必要やったんかなあ…

Y木:監督が張り切ってるんやろ。あの原作をこう料理しました!みたいな。

S原:そうなんかなー。細かい点を言い出すとキリがないから省くけど、要するに物語のあらすじを説明するのに精一杯で、観ている人はひたすら筋を追っていくだけで映画が終わってしまう。こういうタイプの謎解きもアリとは思う反面、いわゆる映画としてはスカッとしないから、どこか不満が残る。

Y木:スカッとしない、か。でも、そういう映画とちゃうやん。

S原:そうなんやけどな。あと登場人物たちの会話(台詞)が多くて早口やねん。これもイマイチかみ合ってない。あなた、「シン・ゴジラ」(2016)は観てないやろ?

Y木:観てない。

S原:あの映画では、早口ですごい説明的な台詞を話す場面が多いねん。それが、演出の疾走感や、登場人物の焦燥感がでて、サスペンスとして効果的やったのよ。ちゃんと聞き取れるしな。

Y木:へえ。

S原:「魍魎の匣」でも、俳優たちは大量のセリフを早口でしゃべる。プロの役者の技術として、単純に感心した。それに複雑で怪奇な物語で、事件の謎や裏側を説明する必要があるから仕方ないかな、と思う。でもなー、会話には陰陽道この時代に関する聞きなれない単語もでてくるから、すぐに理解できない。ぼくは、はじめに戻ってDVDの「日本語字幕付き」で見直した(苦笑)これ、映画館で観た人は全部わかったんやろか。セリフや内容が完全に理解できないまま、話がどんどん進むから、観客にはストーリーやキャラクターについていけなくて消化不良になるんとちゃうかな。ゴジラと同じ演出でも、演出効果はこうも違うのかと思ったわ。うまく言えんけど、要するに「面白さ」が全体的にぼやけてしまってると思うなあ。

Y木:面白いと思えるポイントが、ハッキリと定まっていないってこと?

S原:そうそう。もっとこの映画の魅力は明快にしたほうがよかったんとちゃうやろか。怪奇風味のミステリーなのか、凝りに凝った物語をみせるのか、トリック等でアッと言わせるのか、変なキャラクターたちの関係や行動で面白みを出すのか…いろいろ欲張ったんかもしれんけど、結局は散漫で印象に残らず、分かりにくい映画になってしまった。もったいない…

Y木:なるほど。日本映画特有の『中途半端な映画』やな。

S原:この映画もたくさん出資者がいるみたいやから、思い通りに撮れなかったんかもしれんけどな。でも、お金を出した人(会社)も完成品をみて「え?なんか違うねんけど…」って思ったはず。

Y木:出資している人なんか、儲かればええんやろ。

S原:いや、この映画では儲からんよ(苦笑)京極ファンや、ミステリー映画ファンがDVDを買うようなもんでもないし。

Y木:細かいことはもう飛ばすとして、京極本では、最後に「憑きもの落とし」をするやろ?そこはどうやった?

S原:クライマックスやな…どうなんかなあ…(ため息)

Y木:ダメやったのね。

S原:あれを「憑きもの落とし」と呼ぶのかどうか。どっちにせよ悪くないねんけど、なんかグッと来ないねんなー。

Y木:監督(原田眞人)のせい?

S原:そうなんかなあ。なんかこうもっと…あー!この違和感を上手く言えない自分に腹が立つ!(笑)

Y木:なんやねん、語彙力を磨けよ。

S原:まあ、そんな感じでとにかく最後まで歯痒い映画やった。これ、かなりお金がかかってると思うんやけどな。美術もロケも役者も頑張った。でも完成したらこんな感じになってしまう。これが日本映画の持つ体質なんかな、とちょっと寂しいな。 

Y木:おれなんか、日本映画にこれっぽっちも期待していないから、出来の悪さにガッカリするなんて絶対ないけどな。 

S原:さあみなさん。全体的にちゃんと作ってるのに、どうも居心地の悪い映画になっていますが、この雰囲気が好きな人にはたまらんでしょう。京極夏彦ファンからは、無視されている映画ですが、一度は体験するのもアリだと思います。意外とレンタル店も置いていないので、ワゴンコーナーで見つけたらゲットですよ~!猟奇的な場面が嫌いな人は見ちゃダメ~!