S原:ほぼ誰にも知られていない日本映画!今回はこちらです!
Y木:知らんなー。
(あらすじ)
売れない自主映画監督のサワダは、大学の同級生サナガワと一緒に作った映画でインディーズ映画祭のグランプリを獲得し、その賞金100万円をもとに更に大きな映画を作ろうと意気込む。アルバイト先の居酒屋で出会った小劇団のメンバーたちと意気投合し、自分の映画に出演してもらうことに。劇団のメンバーには、売れっ子お笑い芸人や人気モデルなど、サワダにとってもまたとないチャンスで、書き上げた脚本は『7s』という7人の天才詐欺集団の映画だった。いよいよ映画がクランクイン。
序盤の撮影は順調そのものだったが、徐々にその空気に暗雲が立ち込め映画『7s』は未完のまま撮影がストップしてしまう…。
S原:これは映画製作をする映画やねん。ぼくらの大学時代みたいやろ?(笑)
Y木:まあ、おれらはバカなことばっかりして遊んでたけどな。
S原:ぼくは、大学に入るまでは映画製作に燃えるつもりやったんやけどな。それが自主映画サークルに入ってたら、濃い連中とアホな話で盛り上がっているうちに、アッという間に学生時代は終わってしまった(笑)
Y木:水は低いほうに流れるからな(笑)まあ、それはええとしてこの映画はどんな感じ?
S原:群像劇というんかな。たくさんの人々が交わるドラマという感じやった。
Y木:どうやったの?
S原:うーん、これはなあ…
Y木:失敗作?
S原:いや、むしろよく出来てるほうとちゃうかな。ただ、イマイチ乗り切れないポイントがあるねん。
Y木:どこ?
S原:この映画はかなり好き嫌いが分かれるような気がするねん。
Y木:へえ。
S原:これは映画製作が題材やけど、『みんなで何かを作る』ということがいかに大変かを、身に染みて分かっているかどうかで、感じ方が変わると思う。とくに、本気で何かをしようとしたことがある人は面白いと思うんとちゃうかな。バンドでも、演劇でも、山登りでも、草野球チームでもええねんけどな。
Y木:なるほどな。そういう映画なんや。ちょっと青臭さがあるの?
S原:青臭さというか青春のような雰囲気は意外とないと思う。結構、大人が自主映画の製作をしてるしな。その分、10代にはないような焦りみたいなものもあって、映画としては複雑は色合いになってると思う。
Y木:焦りって?
S原:このまま役者として芽が出ないかも、とか、この映画に失敗したらどうしようとか。
Y木:あーそれは現実問題としてあるやろうな。
S原:そのへんの焦燥感はあるねんけど、なんか観ていてイマイチ乗り切れないんねん。
Y木:そうなんや。どのへんが?
S原:そうやな…乗り切れないポイントを言うと、まず、登場人物が多くて有名な人がいないから、一度に覚えきれないねん。
Y木:まあ群像劇やからな。
S原:あと、何人か雰囲気や容姿が似ている人が何人かいるねん。なので、とくに初めはキャラクターの区別がつかずに混乱してしまう。眼鏡でも髪の毛の色でももっとわかりやすいとええんやけど…
Y木:なるほど。
S原:群像劇やから、それぞれの人が何を考えているか?どんな気持ちなのか?こういうところが分からないと、人間関係も呑み込めない。このへんは、やっぱり観ていて辛いかな。
Y木:人物をさばき切れていないってことか。
S原:そうやなあ。それぞれの役者はええ味やねん。だから余計に惜しい。
Y木:役者は、ええの?
S原:知らん人ばっかりやったけど、男女ともにみんな良かったで。この監督は「役者を撮る」ことに長けてるんとちゃうかな。
Y木:へえ。
S原:ただ役者は良いけど、物語のダイナミズムというのか、観ていて「おお!」とか「これって、このあとどうなるの?」とかいうドキドキはなかったかな。
Y木:いやあ、前もそんな話になったけど、そういう監督なら、物語性というかそっちを目指していないんやと思う。人間模様とかドラマとか心情を描きたいんとちゃう?
S原:そうかもしれんけど、それにしてはストーリーは起承転結やからな。やっぱり、もうちょっとストーリーに緊張感みたいなものがあれば「隠れた傑作」になったかも…と思うわ。
Y木:えー、そんな可能性を秘めた映画やったの?
S原:あくまで、ぼくの見立てやけどな。なんか、ほんまにあと一歩って感じやねん。
Y木:そうなんや。
S原:結局、そういう映画って逆に短所が目立つことがあるやろ?
Y木:あー、そういうもんかもな。
S原:ほかに、この映画の良くないところは、出だしかな。居酒屋でしりあった演劇の連中と映画を作り出すまでが、単調で長く感じる。意外とドラマがないというか。人が集まって映画を 作りだしたら、はじめは上手くいく感じで人間関係も雰囲気も良いんやけど、俳優の1人が芸能事務所に引き抜かれたことがキッカケで、次々と小さなトラブルが起きる。やがて、ちょっとしたズレがやがて大きな軋轢になってしまう。このあたりから、結構面白くなるねん。
Y木:監督がイライラしたり?
S原:そうそう。八つ当たりして、現場の空気が悪くなったりな。
Y木:製作現場あるあるやな(笑)
S原:そのうちに映画製作自体が途中で止まってしまうねん。
Y木:人間関係が悪くなって中断?
S原:いや、いままで撮影したデータが全部消えるねん。
Y木:うわー…それはキツイ…
S原: 結局、助監督が犯人やねん。撮影中にみつからないようにデータを消したのよ。あとで、この動機も説明されるけど、それぞれのキャラが理解できてないから、やっぱりわかりにくいな。
Y木:結局、映画は完成しないの?
S原:いや、最後は完成するで。完成する前のドラマが後半のメインストーリになってるねん。前に言ったけどデータも消えたし、制作費もなくなったから中断してしまう。もちろんこの映画の監督は、製作中断で辛い思いをするねん。けど、他の奴らも一緒やねん。売れたいという気持ちとか、自分の才能を信じたい気持ちとか、実生活のために夢をあきらめるとか、ある種この映画に賭けてたところもあるから。
Y木:そうなんや。
S原:そういう小さなエピソードが、いまいち薄味やねん。
Y木:薄味?
S原:こういう夢を追いかけてる奴らって、たくさんおるやん。ほとんどは夢破れるし、そういう哀しみが伝われば、ぐっと映画の深みが増したと思う。
Y木:えー、おまえの言ってる点って、昔からの日本映画的やん。おれは嫌やなー。
S原:うーん。この映画のテーマなら、そういう部分を描くほうが、やっぱりええと思うんやけどな。べつにセンチメンタルに描かんでもええんやけど…
Y木:そうかなあ。まあ観てないから、これ以上は言ってはあかんかなあ。
S原:結局、映画製作が中断して、そのあと監督もスタッフもキャストの大半はくすぶった日々を過ごす。何人かは、すこし成功した俳優、モデルやスタッフもいるような描写があるねんけど、ここもわかりにくかったかな。3年後。あるとき監督は、撮影に参加していた俳優の一人と偶然出会う。それを機に、一念発起して、映画撮影の再びはじめる。やがて映画は完成する、というのが後半のストーリーやな。
Y木:ラストは?
S原:映像を消した助監督が、河原で撮影再開している監督とかキャスト、スタッフの姿をみつけるねん。自分のせいで映画は中断したから、当然今回の再撮影には参加していないやろうな。でも、おもわず「シーン〇〇、テイク1!」と彼らの後ろ姿に助監督として思わず声をかけるねん。監督やキャストたちはびっくりしてふりむく。目に涙を浮かべた助監督は、河原へ走っていく。でも、実はその河原には誰もいない…その遠景ショットで映画は終わる。
Y木:ほー、ラストは良い感じやん。
S原:映画全体として、何度も言うけど悪くないし、ラストも良いよ。でも映画の中に出てくる人物たちが、リアルに感じなかったといえばええのかな。ちょっと今回は感想が言いにくいわ。
Y木:うーん、結局おまえの好み、今回はとくに「キャラクター」に対する好みのような気がする。
S原:そう思うで。今回の映画は、かなり観る人によって評価が変わると思う。そういう映画があってもOKやし。
Y木:それはいえるな。
S原:でも、何年後かにふと思い出すような映画のような気もする。今回は、なんか変な体験やった(笑)
Y木:まあ印象にのこったんなら良かったんでしょ。
S原:そうやろうな。さあ、みなさん。一口に「面白かった」「つまらなかった」「出来が悪い」「感動した」と簡単にコメントのしにくい作品ですが、鑑賞後になんともいえない気持ちが残るのも事実です。商業映画に飽きて、ちょっと変わった映画を 観てみたい人は、ぜひゲットしてくださいませ!