あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「THE SNOW ザ・スノウ 」(2004年)の巻

THE SNOW [DVD]

S原:今回はこちら!江戸川乱歩原作です!

Y木:へえ、乱歩かあ。

 

 (あらすじ)

一面銀世界の雪国。資産家の林はパーティーの席上で絶世の美女・瑠璃子を見初め、結婚する。林の親友・川村は祝福するが、留守中に瑠璃子と肉体関係を結び、さらに事故に見せかけて林を殺した。だが、林は奇跡的に助かる。そして死の恐怖から一夜にして白髪になったことを逆手にとり、林の叔父を名乗って憎き川村と瑠璃子へ近づく。それから、恐るべき復讐を開始した…。

 『拳神/KENSHIN』のスティーヴン・フォン主演、共演に伊東美咲谷原章介、石堂夏央ら日本の若手スターを配したゴシックホラーサスペンス。愛する妻と友人の裏切りにより、家庭と財産を奪われた男の復讐を描いた江戸川乱歩の名作「白髪鬼」を映画化。

 

 

S原:あなた、古本屋さんとか好きやろ?

Y木:好きやな。

S原:江戸川乱歩とかはどう?わりと古書店では根強い人気があると思うけど。

Y木:乱歩なあ。確かに古書店ではよくみかけるけど、めちゃくちゃ種類があるし、「古書としての価値」云々はわからん。一時期かなりミステリーをよく読んでて、おれも読んだことあるけど、全然覚えてない。そんなに面白なかったことは覚えてる。

S原:昔、ポプラ社のシリーズがあったやん。あれは面白かったわ。でも小学生の頃は表紙が怖かった…(苦笑)今考えれば、かなり子供向けに改変してたんやな。

Y木:あのポプラ社が好きで、いまでも乱歩を読む層というのはおると思うで。刷り込みというか。でも大人になって読むとまた違う読後感になるやろな。特に、エログロというか耽美の要素が色濃くでてるから。

S原:個人的には、あまりエロのほうは好きでないねん。単純に好みなんやけどな。乱歩ファンからは、「おまえは分かっていない!」って怒られそうやけど(笑)ところで、乱歩原作の映画は観たことある?

Y木:いやー1本くらいは観たことあるかもしれへんけど、どうやったかな。あ、「RAMPO」(1994)を観たかな。竹中直人のやつ。でも全然印象に残っていない(笑)乱歩原作の映画って、たくさんあるんやろ?

S原:すごい数が多い。ぼくも少ししか観てない。たしか「D坂の殺人事件」(1998)とか「双生児-GAMINI-」(1999)とか「屋根裏の散歩者」(1992)とかを観たかな。どれも面白かったけど、どこか消化不良というか不満が残るような出来やったな。

Y木:やっぱりあの世界観をだすのに苦労してる感じ?

S原:それもあるけど、単純に昭和初期の街並みとかがもうないからロケできなくて、あの当時の雰囲気がでないというのも理由とちゃうかな。身体障碍とか小人とかの映像表現や言葉使いも配慮が必要な時代になったし。かといって、現代に置き換えたりすると、たちまち物語が古びてしまって違和感がでてしまう…

Y木:潤沢な予算があって乱歩の世界の街並みが再現できればええんやろうけど、まあそういうのはなかなか難しいからな。CGという手もあるけど…それで、この映画はどうやった?

S原:頑張ってたで。全然知られていないマイナーな映画やけど、意外とちゃんと製作されている。原作は「白髪鬼」。殺されかけた男が、妻を奪った友人に復讐する話やねん。死んだと思って埋葬されたときの影響で、白髪になるというわけやな。

Y木:ふーん。

S原:結論から言うと、他の乱歩映画と一緒で、面白いところも残念なところも多い映画やったな。

Y木:例えばどこ?

S原:面白い点から話そうか。この映画では、おもに屋敷(昔の邸宅)が舞台なんやけど、このセットは良く出来ている。登場人物はほぼ3人やけど、3人ともなかなかよかった。当時の衣装も脇役までちゃんと似合っていて、ここは感心したな。とくに伊東美咲の衣装は良かった。前半はゆったりとしたムードですすむんやけど、この映画のミステリアスな作風とあってると思う。問題は後半やな。

Y木:復讐をはじめてから、失速するってこと?

S原:そうそう。主人公は生き延びて「死んだ主人公の叔父」と名乗って、屋敷に潜り込む。でもちょっと不自然やねん。いきなりゴム製の覆面をかぶって、知らない人が(主人公の)葬式に現れるから、ふつうはもっと周囲の人たちが「あの人はだれ?」「本当に叔父さんか?」と疑惑をもつはずやろ?このへんは意外とあっさりしてたわ。当然持たれる疑惑を主人公が、逆に上手に利用するという展開があれば、もっと主人公の復讐心が際立ったと思う。

Y木:なんで覆面?顔を知られたくないため?

S原:それもあるけど、そもそも顔の半分にものすごい傷がある。主人公は、スキー場で友人(谷原)に殺されかけるんやけど、そのときに石で顔をつぶされるねん。それで、顔を隠すために、スケキヨみたいな白いゴム製のお面をかぶる…という設定やな。確か葬式では「自分の顔にはヤケドのあとがありまして…」と説明してたかな。

Y木:なるほど。主人公は、スティーブ・フォンという人?外人?

S原:香港の人らしい。この映画は日本香港の合作やねん。復讐に燃える主人公はスティーブ・フォン、妻は伊東美咲、主人公を殺そうとした男が谷原章介。舞台は日本やねんけど、スティーブ・フォンのセリフだけ日本語吹き替えやねん。やっぱりここは変な感じがする。しかも、モノラル(笑)

Y木:えー、いまどきステレオじゃないの?

S原:2004年の映画なんやけどな(苦笑)映画の後半では、主人公が覆面をかぶるから吹替に関しては気にならなくなるけど、言葉の違いをスムースに解消するような工夫はできなかったものか…と思うわ。

Y木:香港の俳優と日本の俳優を共演させたかったんやろうな。

S原:たぶんそうやろうな。まだほかに残念なところがあるねん。物語の後半は、谷原がどんどん狂気に満ちて顔が変わっていく。知らず知らずに毒薬を呑まされたんやな。最後は気が狂ったように死ぬ。それで復讐は完結する。

Y木:結構、単純な話やな。殺されかけた男が、復讐するっていうだけか。

S原:そうやねん。単純なのはええねんけど、はじめから観客は「覆面の男=主人公」と分かっているから、サスペンスの要素はほとんどない。復讐しにきた男は、果たして主人公か?それとも別人か?…という展開の方が観客にとっては面白いように思う。

Y木:まーそれもありがちやけどな。

S原:こういう映画はありがちでもええと思うねん。あと、復讐ものはええねんけど、肝心の主人公の悲哀があまり上手く描けてなくてそこが残念やったかな。復讐を果たしても、観客にはあまり感情が伝わってこないというか…

Y木:スタイリッシュに撮ってるの?

S原:いやーどちらかと言うと、ややバタ臭いかな。うーん、全体のムードとしてはそういう臭めの演出が、この雰囲気に合っているんやけど、どう言えばええんやろか。監督は外人(ウォン・マンワン・黄分雲)のせいか、日本が舞台でありながら、どこか違和感を感じるような空気もあって、ここは良いねん。でも、もっと『力強いショット』が観たかった。せっかくの乱歩やし邸宅も良くできているし、それぞれ頑張っているのでそこが一番惜しいかな。

Y木:絵葉書みたいなショットってこと?

S原:べつに絵葉書みたいにキレイでなくてもええねんけど、この作品を象徴するような、特定のワンシーンがやたらと印象に残るとか、そういう場面があると鑑賞後の感想が変わるはずやけど、そこが本当に残念やわ。 

Y木:ほう。

S原:ただなー、やっぱり後半にダメな単純なホラー風味になってしまうねんなー。白髪のおっさんが怖い顔をするねんけど、ちょっとなあ(笑)もっとミステリーのまま進んだほうが、怖かったと思うんやけど…

Y木:やっぱり(映画としては)派手にいかないとダメやったんじゃないの?

S原:そうかもな。でも、おかげで乱歩風味は全然なくなってしまった(笑)

Y木:なるほどな。いやー、結局、乱歩を映像化するときには、こうなってしまう危険性があるってことなんやろうな。

S原:そうやなあ。やっぱり乱歩の映像化は難しいんかもなあ。でもいまだに乱歩原作の映像化作品が次々と製作されているから、やっぱり表現者にとっても魅力のある題材なんやろうな。「パノラマ島奇談」とか、上手く映像化できればすごい傑作になるけど、みんな怖気づくのかもしれん。その気持ちは分かる。

Y木:まあこれからも果敢にチャレンジしていく監督たちに期待やな。あ、おれはたぶん観ないけど(笑)

S原:なんやねん。さあ、みなさん。数ある乱歩の映画でもかなりマイナーな部類にはいりますが、一部の好事家だけが楽しむのは惜しい作品です。3人の俳優が好きな人は楽しめると思います。俳優にも乱歩にも興味のない人はスルーしたほうは無難でしょう。乱歩の世界の映像化が難しいことを確認したいというマニアックな人は、マストバイですよ!