あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「ワンダーランド」(2005年)「ハードコア・デイズ」(2001年)の巻

 ワンダーランド [DVD]ハードコア・デイズ [DVD]

 

S原:今回はこちらですよ。

Y木:へー、全然知らん映画やわ。

S原:今回は、アメリカのポルノ映画界を舞台にした作品2本を語ります。

 

(ワンダーランドのあらすじ)

1981年、ハリウッドのアパートで4人の惨殺死体が見つかった。第一容疑者に上がったのは、全長35cmの“モノ”を売りに70年代ポルノ界の頂点に立った伝説の男“ジョン・ホームズ”出演映画2000本以上、抱いた女14,000人という、かつてのスーパースターの事件にショウビズ界は騒然、全米を巻き込み一大スキャンダルへと発展する。やがてホームズの金とドラッグに溺れた人生と、二人の女の存在が明らかになってゆくのだが・・・。

 

(ハードコア・デイズのあらすじ)

ポルノ業界に生きる3人の若者が経験する愛の挫折と大人への旅立ちを描いたセンシティブドラマ。映画業界で働くことを夢見る青年・ショーンは間違えて借りたゲイポルノビデオの俳優に惹かれ業界に飛び込む。だが、彼はストレートで妊娠中の恋人もおり…。

 

S原:「ワンダーランド」も「ハードコア・デイズ」も両方ともぼくも知らんかった。もともとポルノと言うのかAV業界自体に興味がないから、そういう世界を描いた映画もスルーしてしまう。少し話題になった「全裸監督」も観てないし。

Y木:あー村西監督のヤツやったっけ。

S原:うん。まあ、女性は嫌がるかもしれんけど、AVとかポルノは男性にとっては「観るだけ」の作品やろ。裏側を知りたい世界でもないしな。

Y木:でも、こういう世界の裏側に興味がある人はおるんとちゃう?今回の2本、映画としてはどうやった?

S原:どっちも「時代」を描いた作品となってたかな。「ワンダーランド」は、ジョン・ホームズという実在する(巨根の)伝説のポルノスターが関わった(かもしれない)殺人事件を描いてるねん。「ハードコア・デイズ」のほうは、監督自身が実際に体験した取材をもとに作ったフィクションやねん。

Y木:どっちもポルノスターの栄光と挫折って感じ?

S原:うーん、「ワンダーランド」は、そうじゃなかった。「ハードコア・デイズ」は、少しその要素もあるけど、あくまでゲイのポルノスターに憧れて業界に入った若い男性が主人公。どっちも視点を変えて、ポルノ業界とそこにいる人々を描こうという姿勢かな。

Y木:面倒やから、結論から教えて。2本はどうやった?面白かった?

S原:正直に言うと、「ワンダーランド」はひどかった。「ハードコア・デイズ」もそんなによくないけど、こっちのほうが単純に面白かった。

Y木:それっておまえの好みとちゃうの?

S原:いや、ポルノの製作現場にもゲイにも全く興味がないから、どっちも好みじゃない(笑)「ハードコア・デイズ」は、なんというのかキャラクターがちゃんとしているというのか、映画として最後まで観ることが出来る。チョメチョメの場面もちゃんと描いてるしな。

Y木:山城新伍か。

S原:まず「ハードコア・デイズ」のほうから話すと、変形の(ゲイ)ラブストーリーやねん。上に書いてあるあらすじの通りなんやけど、わりと当時の性風俗とかが描かれてる。あくまでもゲイのポルノスター・ジョニーに憧れる主人公の目線ですすむから、わかりやすいかな。思ったよりもえげつない場面は少ないし、感心した場面もあるねん。

Y木:どんな場面?

S原:ジョニーはカメラマンとしてこの世界に入るねん。その彼が、ゲイヌードの撮影するシーンがあるねんけどな。いろんなポーズをきめて男優のヌードを撮るんやけど、よくかんがえればグラビアアイドルと変わらんなあーと思ったりして(笑)

Y木:それはそうか。

S原:ゲイ男優が(やりたくなかった)撮影の後に、シャワーをあびているときに、主人公が優しく話しかけて、男優も少し心が軽くなる…という場面があるんやけど、地下アイドルでもグラビアでもAVでもどこでも通じる感情の交流やと思ったなあ。

Y木:おまえ、この映画のすごく良い鑑賞者とちゃうか、もしかして(笑)

S原:もちろんゲイ同士のチョメチョメの場面もあるけど、意外に汚く撮っていないし、こういう世界に興味のある女性も大丈夫とちゃうかな。とはいうものの、いわゆる「やおい」の映像でもないし、もちろん子供は向きじゃないで(笑)上の映画のあらすじの続きを言うと、ジョニーの恋人が妊娠して、ジョニーは困惑するねん。彼はストレートやけど、所詮はゲイのポルノ男優やって劣等感があるねんな。逆に、恋人はこれを機にジョニーに再出発しようと言うねんけど、ジョニーは「これが父親になる顔か?」って不安だらけやねんな。自信が持てないというか。

Y木:えー、ジョニーって意外とまともやん。

S原:そうやな、根はマジメと言うかノーマルと言うか、そういうところが見え隠れするところが興味深いとも言えるかな。ほかに、ジョニーがゲイポルノ撮影のあとに、恋人(女性)とベッドにいるときの場面が味があるねん。ジョニーが、恋人から「オカマを抱いた後に私を抱いているのよ」と言われて、しばらく黙った後に「今のは差別発言だぞ」と静かに言う。自分は(性向は)ストレートやけど、自分の仕事には(ゲイ男優としての)プライドを持ってるって感じで。

Y木:ほー。

S原:あとは、主人公がゲイバーに行ってカウンターで話しかけられるとか、撮影機材を片付けているときに男優らしき男と雑談する場面とか、なんかすぐに性的な話題や行為に結び付きそうで、ちょっとドキドキするねん。あ、こいつは主人公のことを狙ってかも、って(笑)このへんは、ちょっと独特の雰囲気やったな。

Y木:えーすぐにそんな関係になるの?

S原:いや、そんなことはない。勝手にこっちが想像してるだけ(笑)だから、なかなか撮り方が上手いともいえる。でも同時に、こっちの偏見もあるとも言える。ゲイはすぐにチョメチョメする、という偏見が…このへんは本物のゲイが聞いたら気分を害するかもな。申し訳ない。

Y木:まーそういうテーマの映画やろうしな。

S原:あとは、この世界にはやっぱりドラッグが蔓延しているのがよく分る。

Y木:なるほどな。

S原:ジョニーの恋人は、いろいろあって結局、子供も堕ろしてしまう…恋人は「何かが変わると思ったのに…」と泣くねん。でもそのあとに(中絶の)お金が要るから、恋人は怪しげな店で風俗まがいのことをして小銭を稼ぐ…このあたりは観ていてやるせなくなる。ぼくの根がマジメで笑い飛ばすこと出来ないだけかもしれんけど。

Y木:ふーん。それでどうなるの?

S原:やがて、(ポルノ映画の業界人の)殺人事件らしきものが起きる。犯人はジョニーが疑われるねん。それで主人公が手助けして南米に一緒に逃げようとする。もちろん主人公は、下心があるねん。憧れのジョニーと「恋人関係」になりたいという下心やな。でも、一緒に逃避したメキシコの安モーテルで、ジョニーにお金を持ち逃げされて、異国の地で一人ぼっちになってしまう…そこでおしまい。

Y木:なるほどなー。かなり変則のラブストーリーという感じややな。

S原:そうやな。これを男女に置き換えると、また違った印象になるやろうな。

Y木:「ワンダーランド」はどうやった?おんなじ感じ?

S原:ぜんぜん違う。こっちの映画は、巨根ポルノスターのジョンがもう落ちぶれた時点から始まるねん。すでにヤク中でどうしようもないクズやねんな。それが殺人事件の容疑者になるという話。

Y木:ふーん、ちょっと変わってるなあ。

S原:巨根のポルノスターの映画では「ブギーナイツ」(1997)っていうのがあって、たぶんモデルは一緒とちがうかな。そっちの評価が高いから、比べると可哀そうかもしれんけどなー…

Y木:こっちの映画は「外れ」やったのね?

S原:いやあ、くだらなかった!ほんまに最低ランクの出来やと思うで。久しぶりに、こんなしょーもない映画を観たわ。もしも、この映画のファンがいたらごめん(笑)

Y木:でも、おまえは最低映画をたくさん観てるやんか。

S原:こういう映画が、ぼくにとって最低ランクの映画やねん。「ハードコア・デイズ」よりも、なんか頭が良いように見せてる分、余計に腹が立つ(笑)中途半端に人間模様を描こうとして失敗してる映画。ドラッグを中途半端に扱った映画。80年代の風景を描こうとして失敗した映画。予算もちゃんとあるし、キャストもスタッフもちゃんとしている(はず)やのに「なにこれ?くだらねー…」という印象しかのこらない映画。こういうのが一番、罪やと思うで。

Y木:えらい評価が低いなー。実際の殺人事件を扱った映画なんやろ?一応、ミステリー?

S原:一応そうなんやろうか。いや、そうでもないかなー…芥川の「藪の中」ってあるやろ?

Y木:ああ、登場人物が少しずつ違うことを言って、真相がわからないっていうヤツね。

S原:この映画もあのスタイルやねん。黒澤明も「羅生門」で扱ってたけど、あれに比べると全然やったなー。そもそもこの事件自体よく知らんしな。映画では事件内容の説明もあまりしないから、余計にわからん。たぶん、それだけアメリカでは有名なんやろうけど…

Y木:ふーん。

S原:この映画でもやっぱりドラッグが関係するんやけど、それが関係するわけもなく、単に汚らしい登場人物がぶつかりあってるだけ…

Y木:要するに中途半端ってこと?

S原:そうそう。ミステリーとしては単純な話のはずやのにわかりにくい。ショウビズの汚れた裏側にいる人物達やのに、それも曖昧に描いている。自分勝手な登場人物の欲望まみれの人間ドラマでもない。事件ドキュメントとしてもつまらん。登場人物の動機や行動がまったく理解できない。人間の不条理を表現しているのでもない。ポルノスターが落ちぶれた悲哀も描くつもりもない。

Y木:ボロクソやないか。

S原:いやもう理解不能としかいいようがない…しいていうなら、主人公の妻と愛人の存在がちょっと興味をひくくらいかな。どうしようもない主人公を見捨てることが出来ずに助けるねんけど…いや、それも観ていると、はっきり言ってどうでもええしな。

Y木:「ワンダーランド」のほうは、褒めるところがないみたいやな。それはええねんけど、なんかおまえの恨みをただ書いてるだけで、全然楽しめないぞ。

S原:うーん、みなさん、すいません。でもなあ、ちゃんと(この映画では)製作費があるんやで。有名な俳優(ヴァル・キルマー)を使ってるし。その分、余計に腹が立つねん。

Y木:「ワンダーランド」の主人公はポルノスターで巨根なんやろ?そういう面白さはあるんと違うの?下ネタ的な猥雑さとか。

S原:それもないねん。べつに巨根も映らへんしな。「ハードコア・デイズ」でも撮影場面がちゃんとでていたし、「ブギーナイツ」では巨大なペニスを映してた。日本版では当然モザイクやったけど、そこが印象に残る。でも、「ワンダーランド」はそのモザイクもない。そもそも監督にとっては、主人公がポルノスターでも巨根でもなんでもええんやろーな。でも、この場合の「巨根」ってポルノ界で栄光をつかんだ主人公の自負の象徴というか、プライドとか存在理由のはずやろ?観客だって「巨根のヤツが主人公」と思って観てるはずやのに、そこにも切り込まへんって一体何がしたいや、この監督は?

Y木:監督のこだわりが、悪いほうへ転がったんかもな。

S原:うーん…監督にこだわりがあるのはええねん。映画製作の「原動力」っていうんかな、そういうのは大事やろ?あの「スネークトレイン」(2006)なら『女優がヘビを生呑みする場面が撮りたいっちゃ!』とか、「ふぞろいな秘密」(2007)なら『玉置浩二への怨みを晴らさでおくべきか!』とかテーマがあるやろ?そんなテーマもないねんで!石原真理子に謝れや!

Y木:なんか違う気がするけどな。

S原:映画の中にでてくる警察からの事情聴取とか、事件のために小細工するとか、証言を頼むとか、ほんまにどうでもええねん!…どういうつもりで作ったんかなー…(遠い目)

Y木:なんかこっちの紹介は疲れてるなー。

S原:さあみなさん!アメリカの性風俗とかポルノ業界とかに興味のある人はおススメです。ぼくは「ハードコア・デイズ」のほうが好きですが、これは個人の好みでしょう。ノーマルな性向のひとは、観ないほうがいいでしょう。とりあえずワゴンコーナーで見つけたら、一度手に取ってゲットするかどうか決めてくださいませ。マストバイするかどうか、それはあなた次第です!