S原:サッカー映画、3本勝負。最後の1本はこれ!
Y木:へー、ちゃんとお金がかかってそうな映画やんか。
(あらすじ)
プロを夢見てL.A.の地元サッカーチームで活躍するラテン系青年サンティアゴ(クノ・ベッカー)は、ある日スカウトに才能を見出され、ニューカッスル・ユナイテッドの入団試験を受けるチャンスを得る。父の反対を押し切り単身渡英し、逆境に苦しみつつも入団を果たした彼は、今まで以上に熾烈(しれつ)な競争と困難に立ち向かっていく。
S原:おっしゃる通り、結構お金がかかっています。FIFA(国際サッカー連盟)公認のまともな映画です。有名なサッカー選手(ベッカム、ジダンなど)もチラッとでます。
Y木:さすがにベッカムくらいは名前を聞いたことはあるけど、サッカーを知らんから、どれくらいスゴイかわからん。
S原:あなたの好きな野球(ソフトバンク・ホークス)で例えると、工藤公康とか門田博光とか秋山幸二がゲスト出演し、セリフも言うって感じやな。
Y木:ごっついやん!言いたいことはわかった。それで、この映画はどうやった?
S原:うーん、正当なつくりと言うか…野球で言うとこれはストレートどまんなかの映画やなあ。村田兆治の全盛期のような。
Y木:なんか、野球の例えも古い選手ばっかりやがな。
S原:最近、全然野球みてないからごめんねー。
Y木:まあええわ。この映画はストーリー展開がストレートってこと?
S原:ストーリー、キャラクター、演出すべてにおいて、映画学校の教科書のような映画やった(笑)
Y木:FIFA公認やから、そういう映画にならざるを得ないんと違うの?
S原:でも残念ながら、この映画は面白くないねん。
Y木:えー、そうなん?せっかくの公認映画やのに。
S原:要するに主人公がサッカー選手として成功していく話やけど、正攻法というのか、立身出世物語というのか…
Y木:そういう映画やろ、だって。
S原:いくらなんでも、トントン拍子すぎるわー。「キャプテン翼」でももう少し葛藤があるで。だってな、あの若島津くんだって「なぜ、おれは日本代表の正ゴールキーパーじゃないんだ!」と怒ってロッカールームから出ていったやろ?
Y木:もちろん、おれは「キャプテン翼」なんか読んでないけどな。
S原:若島津は、「キョえ~!」って空手の手刀でボールを弾くねんでー。
Y木:なんやねん、そのキャラ。
S原:マンガの脇役でも葛藤があるってことなのよ。とにかく、さっきも言ったけど主人公がサッカー選手として、英国のプレミアリーグ (ニューカッスル・ユナイテッドFC)に挑戦するストーリーなんやけど、挫折らしい挫折がないねん。本当は、もっと苦労するはずなんやけどな。
Y木:予定調和?
S原:うーん予定調和でも、演出が上手かったらやっぱり面白いやん。今回は失敗してると思うわ。いや、ちゃんと、飽きずに最後まで観ることはできるねんで。ストーリーも分かるし、キャラクターも区別できる。ロケにもお金をかけてる。でも肝心の主人公のキャラクター設定がなー…たとえば、主人公は子供のころに家族と一緒に、命からがらメキシコからアメリカの国境を違法に乗り越える経験をしてるねん。アメリカで試合するときも、脛あて(レガース)も買えないから、段ボールで代用したりするくらい貧乏なのに、あとで全然それが生かされない。そんな境遇なら、金とか食べ物に対する執着とか普通にあるやろ?他にも、成功者への妬みとか、ライバルの才能をみて焦るとか、そういう人間らしい感情があるはずやろ?それがないねん。
Y木:ふーん。まじめってこと?
S原:まじめなんはええけど、おめーは高僧かよって観てる途中に突っ込んだわ。人間なら誰でも内心ではドロドロしたものがあって当然やし、そもそもこの主人公は金もないのに単身イギリスに行って、サッカーで成功を目指すんやで。人生がかかってる状況やのに。こんな、漂白剤みたいに真っ白な主人公には、感情移入できないわ。
Y木:まーそういう暗い部分を排除したかったんでしょ、この映画では。
S原:百歩譲って、主人公はまっすぐで素直でもええとしよう。でも、周りもええ奴ばっかりやねん。すぐに主人公を助けるしな。頑固そうな監督とかええ味があるねんけど、うまく絡まへんねん。
Y木:人と人のぶつかりあいがないってこと?
S原:そうそう。当然あるはずのドラマがないから、なんか提灯持ちのスポーツ新聞記事をみてるみたい。デイリースポーツ(関西版)の阪神タイガースの開幕前のキャンプ記事みたいな。
Y木:あー毎回、今年の阪神がいかに逸材ばかりで期待できるかを書くヤツね(笑)
S原:何度も言うけど、映画自体はちゃんと作られてるし、予算もかかってる。ニューカッスル・ユナイテッドFCとかレアル・マドリードFCとか、実在のチームも全面協力してるし、サッカーの試合もすごい大規模で撮影してる。ハッキリ言って豪華やで。まあ、野球好きのあなたに分かりやすく言うと、トム・セレックが日本の野球に挑戦した「ミスター・ベースボール」の舞台が、中日ドラゴンズやったやろ?あんな感じやねん。
Y木:あれはショボかったやん…例えが間違ってるで、たぶん(苦笑)もうちょっと、この映画での主人公とまわりの関係を具体的に教えてや。
S原:たとえばこんな感じやねん。①イギリスに行きたいがお金がない → お婆さんがお金をくれる ②イギリスに行くときに家族の反対がある → 親父がブツブツ言うだけ ③主人公は南米系でイギリスではマイナーな人種 → ちょっとからかわかれるだけ ④素敵な女性と出会う → 偶然の出会いが続いてすぐにベッドイン ⑤じつは持病(ぜんそく)があり他選手よりも不利 → 正直に報告して医師に相談して改善 ⑥出場機会があるも、チャンスをモノにできず → 一旦クビになるが、たまたまタクシーに一緒に乗ったスター選手のおかげで簡単に復帰 ⑦まじめに練習 → すぐに再チャンスが到来 ⑧でも約束の一か月で良い結果が出なかった → なんとなくサブチームに選ばれる ⑨サブチームでまじめにサッカー → 一軍に昇格 ざっとこんな感じやねんで?
Y木:たしかにとんとん拍子やな…
S原:いよいよクライマックス。ここもすごい。 ⑩一軍ではじめてプレー → ゴールアシストも出来て、うまくできました。みんなにも褒められました。 ⑪つぎはチャンピオンズリーグ出場が懸かる大事な最終戦 → うまくできました。シュートも決めました。みんなにも褒められました。⑫主人公はなにもかも手に入れました。空に向かって「ウオー!」と喜んで、おしまい。
Y木:おしまい、かー。
S原:主人公は素直で真面目な努力家、周りは(少しだけ個性的だが)主人公を信頼している善人ばかり…なんというか苦労しそうになったら、とにかく主人公には幸運が続く。借金とか抱えても、佐川清が帳消しにしてくれたアントニオ猪木の人生みたいやろ?
Y木:知らんわ。
S原:もしくは、挫折がないまま、栄光も彼女も手に入れる「のぞみウィッチイズ」の主人公ボクサーみたいな。
Y木:だから、知らんって。
S原:なんか、この映画は3部作の第1作らしい。だから、ひょっとししたら、第2作で挫折を味わうんかもしれんけど…でもぼくは、もうこの1本で充分やな。
Y木:それで、サッカー映画3番勝負はどうやった?
S原:まあ、ワゴンコーナーで立て続けにサッカー映画をゲットしたから、いっぺんにみたけど、一番安定して面白いのは「天国へのシュート」、一番出来が悪いけど、意外と印象に残るのは「1/11 じゅういちぶんのいち」、一番ちゃんと作られてるはずやのに、全然印象に残らないのが「ゴール!」やな。
Y木:ふーん。なんかその感想って興味深いな。
S原:まあ、結局は「好み」なんやろうけどな。
Y木:なるほどなー。ま、おれはサッカーに興味がないからどの映画も観ないけど(笑)
S原:なんやねん。さあ、みなさん、主人公がサクサクと出世する物語が好きな人、主人公が苦労するのをみたくない人、そんなに努力しなくても人生が成功する姿をみるのが好きな人、なによりも「挫折のない人生」を知りたい人、そんな人はマストバイです!サッカー映画3本勝負は、これにておしまい!