あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

まだまだ知らない日本映画を10本発掘!「カミナリ走ル夏」(2003)の巻

カミナリ走ル夏 [DVD]

S原:今回はこれですよ。

Y木:また誰も知らない映画を見つけて…

(あらすじ)

甲子園出場の夢に挫折し、やる気なくバッティングセンターで働いていた青年が、孤独な少女との出会いから青春をとりもどそうと奔走する姿を描いた青春映画。出演は塚本高史伴杏里ほか。

 

S原:これはですねえ、変わった映画やった。

Y木:青春映画とちゃうの?

S原:一応そうやねん。でも、正直に言って、失敗作やと思う。

Y木:それは残念。

S原:ところがなー、なんともいえん個性があるねん。完成度は低いけど、どこか不思議な印象に残る…そんな映画やった。

Y木:へえ。俳優がええの?

S原:うん。主演は塚本高史やねんけど、世間的にどういう評価をうけてるかは知りません。でも、なかなか良かった。やる気がないバイト(バッティングセンター)の雰囲気とか、何に対しても心動かない(動かさないようにしている)若者の感じが良く出てる。なによりも表情と立ち姿が良い。やる気がないのに、眼だけはギラギラしている危ない感じで、アンバランスな印象が残るねん。

Y木:へえ。

S原:共演は、伴杏里と言う女優。高校生役やけど、こっちも良く頑張ってたと思う。

Y木:ストーリーは上を読んでもわからんな。

S原:バイトでやる気なく働いている主人公が、あるときにバッティングセンターの客でヤクザ(?)をバットで殴ってしまう。

Y木:ヤクザは死ぬの?

S原:たぶん死んでる。その勢いのまま、車(セドリック)を盗んで逃亡する。そのときに、一緒についてきてしまうのが、女子高生(伴杏里)やねん。

Y木:恋人…じゃないんやろ?

S原:うん。たまたまそこに居合わせただけの女子高生。なんとなく勢いでついていく。なぜ、主人公と逃走することになるのか理由をハッキリとさせないまま話は進んでいく。

Y木:昔、ニューシネマとかあったやん。自滅と言うか破滅に向かっていく青春みたいな感じ?

S原:それを狙ったのかどうかはわからん。この前半、意味なく逃走する場面はなかなか良いと思う。ただ逃げてからが退屈になる。

Y木:目的がないまま放浪する感じ?

S原:そうやなあ。一応、主人公は元高校野球選手やったみたいで、挫折を経験していまは心を閉ざしている。ひょんなことから女子高生と逃亡することで心の変化が生まれていく、と思ったけど、全然そんな感じじゃなくて、どんよりとしたムードのまま話が進む…

Y木:それ、ダラダラしてるだけちゃうの?

S原:あーその表現がぴったりかも。ダラダラした雰囲気のまま、最後までいきます。編集とか一部凝っているところもあるんやけど、どうにも「上手い」という感じじゃない。でも役者の良さは堪能できる。塚本高史以外では、少しだけ出てくる千原浩史もなかなか良いで。主人公の元チームメイトで、女子高生に塚本のことを話す場面が印象的やねん。千原曰く、塚本はピッチャーで、県予選の決勝戦、つまり甲子園出場一歩手間での大事な場面でカーブを投げた(それで甲子園に行けなかった)ことをいまだに引きずってる、と。

Y木:なるほど。

S原:千原は、いまは八百屋で働いてる。訪ねてきた主人公を軽蔑するような、一方で心配するような表情でな。こんな演技ができるんやと感心したわ。

Y木:へえ。映画はどうなるの?

S原:ラスト近く、ガス欠になった車を乗り捨てて、主人公はバットを持って走り出す。そこにロックが流れる。フラッシュバックする決勝戦の場面。塚本は大声で叫びながら走る。たぶん監督は、この場面を撮りたかったんやと思うけど、うーん…あんまり良くないかな。

Y木:でも、主人公が走り出すって、どこにも行くところないやろ。

S原:地元千葉の野球場に向かう。そこで、車の持ち主であるヤクザ2人に追いつかれる。女子高生はヤクザに捕まってしまう。

Y木:それで?

S原:主人公がヤクザをバットで殴る。

Y木:えー、なんかひどいな。

S原:うん。ヤクザも血だらけになりながら「おれ、なんか悪いことした?」って(笑)

Y木:それはそうや(笑)

S原:つぎはラストシーン。女子高生からボールをもらった主人公がはじめて笑顔を見せて、野球場に向かって走っていくところで、おしまい。

Y木:なんか地味な映画やな。

S原:なんとも不思議な映画やった。もっと上手く「苛立ち」が表現出来ていれば、これは良い映画になったかもしれん。まあ結果論になってしまうねんけど、それくらい可能性を感じたわ。惜しいよ。

Y木:ほんまかいな。

S原:さあ、みなさん。普通にみれば「変な映画」「面白くない映画」ですが、鑑賞後にザラついた印象が残るタイプの映画です。完成度には目をつぶって、ぜひトライしてくださいませ!