S原:今回はこちら!
Y木:「セリフのほとんどないサイレント・ホラー・ムービー」、なかなかのキャッチコピーやんか。
(あらすじ)
森の中にある一軒家に住む老人。ある日、森の中へ逃げた飼い猫を探していると、偶然衝撃的な光景を目撃してしまう。 (アマゾンより引用)
S原:これ74分しかないねん。
Y木:ほー。
S原:主演の老人がほとんど出ずっぱりで、なかなか良い味の俳優やと思ったわ。
Y木:有名でない俳優が、役にばっちりハマるときってあるもんな。
S原:映画が始まると、いきなり第1章「愛猫の逃亡」ってテロップが出るねん。
Y木:へー小説風というか。
S原:もちろん演出なんやけどな。落ち葉や枯れた木の多い森の中で老人がひとりで暮らしてます。愛猫が逃げ出して、ゆっくりと追いかけます。セリフはありません。
Y木:ほう。
S原:第2章「奇妙な二人組との遭遇 恐ろしい事件の発生」というテロップが出ます。
Y木:ちょっと説明的すぎる…いやいや、わかった、わざとやな?
S原:そうやねん。なかなか面白い演出やろ。そこから老人は、大人と子供の2人組をおいかけるねん。寒々とした空の下、森の中へどんどんすすんでいく…
Y木:なるほど。
S原:ところが、森の奥で大人が子どもの首を絞めているのを見てしまってな。さすがに驚いて、あわてて逃げるねん。ここまで音楽もほとんどなし。自然の音だけが静かに流れている演出やねん。通りかかった人に「殺人だ…」って声をかけるねん。12分くらいたって、ここで初めてセリフがある。たしか、老人のちゃんとしたセリフはこれだけと違うかな。
Y木:野心的な演出やなあ。
S原:そのあと警察や地元の人が山を捜索したりして…と展開します。
Y木:昔のフランスのサスペンス映画みたいな感じかな。
S原:うーん、あんな感じでもないような…でもちょっと似てるかな。この演出は、低予算なのを上手くカバーしようとした結果という気もする。逆転の発想というか。予告編をみるとわかるけど、映像もフィルムの質感やな。ザラッとしてて、この映画にすごく合ってる。
Y木:観る人を選ぶ映画かもな。
S原:うん。最近のテンポの速いハリウッド映画しか観てない人は、新鮮に感じるか途中で止めてしまうかどっちかやろうな。内容に戻ると老人は殺人をみたあと、その光景が頭から離れないねん。そのあと、また森に行ったときに子どもが後ろから抱きついたりする感覚があるねん。
Y木:一応、ホラーというかサスペンスなんやろ。そのへんが怖いってこと?
S原:いや、怖さはそうでもないかな。ホラー風味に展開するねんけど、最近の怖い幽霊が突然に「ワッ!」とういう感じでもないかも。
Y木:謎解きというかミステリーの要素は?
S原:あるよ。でも評価は分かれると思う。個人的には、そっちはあまり上手いとは思えんかった。あまりネタバレしてもという気はするけど…
Y木:いまはSNSで調べれば最初から最後まで全部わかるから、ええんとちゃう?
S原:そうやな…そのあと、主人公には奇妙な現象が続きます。目撃した殺人が夢なのか現実かわからなくなります。夢の中で少女は学校みたいなところにいるんやけど、どうもそれは昔の孤児院で、いまは老人ホームになっているということが分かってくる。なんで老人ホームになっていることが分かるかというと、自分の家にパンフレットが届いたから。主人公は高齢やから届いたんやな。
Y木:それで?
S原:結局、主人公は車でその孤児院に行ってみるねん。そこからが、夢か現実かまたあいまいになるねんけど、どうも子供はこの孤児院で殺された、ってことが分かる。理由は、たぶんなにかの生贄にされたみたい。ハッキリとはわからないけど、これは監督の狙いかも。
Y木:主人公は殺されるの?
S原:襲われるけど、命からがら逃げる。それで、家に帰ってきて…ここから問題のラストシーンになるねん。ネタバレがいやな人はここで読むのをやめてほしい。
Y木:ほう?
S原。ラストは主人公が自宅に帰ってくる。そこで玄関に愛猫が待ってるねん。主人公は、なんの感情もなく猫の首をゴキッと折るねん。そしてそのまま平然と家に入っていく。おしまい。
Y木:えー…どういうこと?
S原:このラストは観客に解釈が委ねられていると思うな。
Y木:ほー。
S原:全体的には、物語よりも静かな雰囲気を味わう映画やと思う。ほかに印象に残る場面もあるねん。主人公が、昔の白黒の古い写真を拡大すると、殺された子供が写ってるに気づいて…とか定番やけど、なかなか良かった。主人公が曲がった階段を歩く短いシーンがあるねんけど微妙に不安定な感じがしたり…個人的には、あの階段の場面が一番好きやわ。
Y木:話を聞くと、あんまり茶化したりする感じの映画じゃないような気がする
S原:まあ、みんな茶化されるために映画を作ってないと思うけどな(苦笑)さあ、みなさん、知られていない作品なのは確かですが、低予算でなかなか頑張っています。あまり怖くなくて、派手なことがほとんど起こらない、静謐なサスペンスを味わいたい方は、マストバイです!