あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「マジック」(1979年)の巻

 

マジック [DVD]

S原:今回はこちら!

Y木:あ、なんか今回はまともな映画のような気がする。

 

(あらすじ)アマゾンより引用

ナイトクラブの売れないマジシャンコーキー。ファッツという人形を使って腹話術を使ったカードマジックを始めたところ、爆発的な人気を呼び、たちまちスターとなる。凄腕のエージェント、ベン・グリーンの薦めでニューヨークに進出し、テレビショーへの出演も決まりかけるが、コーキーは急に恐れをなして姿を消してしまう。
生まれ故郷に帰り、同級生夫婦のコテージに身を落ち着けるコーキー。夫デュークに幻滅していた妻ペギーを人形ファッツを通じてなぐさめるうち、2人はいつしか愛し合うようになっていた。静かなコテージでの生活の中で、次第にファッツと同化してゆくコーキー。だが、やがて彼を執念深く追いかけていたベン・グリーンがコテージに現われ―。(アマゾンより引用) 

 

S原:これ、都築道夫が映画エッセイ本で紹介してて観たかったのよ。これをワゴンセールで見つけたときは、我が目を疑ったわ。自分のほっぺをつねったで。

Y木:80年代の漫画か。ワゴンセール、というとB級映画ばっかりのような感じもするけど、こんな映画もあるんやな。

S原:このブログでは、普通に面白い映画も紹介します。たまに(笑)

Y木:へーこれはちゃんとした映画なんや。

S原:すごくちゃんと作ってます。リチャード・アッテンボロー監督、アンソニー・ホプキンス主演。なかなかのゴールデンコンビです。

Y木:「ガンジー」の監督か!あれはマジな映画やった。アカデミーも獲ったしな。

S原:アッテンボローの映画はすごく丁寧というか、正攻法で作っているやろ。あの作風がピッタリとこの映画に合ってるねんな。

Y木:たぶん真面目な人なんやろな。「遠い夜明け」とか「ガンジー」とかの撮影中に、役者が下ネタとか言ったら叱られそうやもんな(笑)

S原:誰でも怒るわ。いや、キューブリックやったら、逆に気に入ってシーンに入れたりして(笑)

Y木:その下ネタを140テイクくらい撮影したりな(笑)

S原:アッテンボローの他の映画では個人的に「コーラスライン」が好きやな。あれもすごく構成とかキャラクターが作りこまれた映画やった。あー当時、レーザーディスクが欲しかったなあ…(遠い目)

Y木:昔、観たけど忘れたわ。

S原:あなたは、ほんまによく忘れるなあ。アッテンボローはイギリス人やけど、なんとなくイギリス出身の監督はこだわりがありつつ、ガッチリと映画製作をするというイメージがあるやろ?昔なら、ヒッチコックとかデイヴィッド・リーン、最近ならクリストファー・ノーランとか。

Y木:ケン・ラッセルとかニコラス・ローグとかな。

S原:あいつらは、変態だっつーの!まあ、この映画の話をすると、ホラーというよりも腹話術の人形が絡む人間心理サスペンスという感じやねん。

Y木:写真で見る限り、人形が気味悪いわ…

S原:ホプキンスに似せてオリジナルの人形を製作してるみたい。劇中でも独特の雰囲気やで。

Y木:人形が勝手に動くとか?

S原:実は動かへん。そういうタイプの映画ではないねん。だから人形ホラーとして期待した人は肩透かしをくらうかも。結局、全部主人公が腹話術で会話しているだけやから、捉えたかによっては「人間ドラマ」なんやけどな。完全に人格が2つに分かれてると同時に、主人公と人形が相互依存しているみたいで、なんとも言えない雰囲気やねん。

Y木:おまえ、むかしから人形が出てくる映画が好きやろ?

S原:うん。

Y木:個人的には、人形が出る映画はあんまり興味ないねんな。とくに怖いと感じへんしな。

S原:そうなんや。ぼくは昔から博多人形とかフランス人形なんかも気味が悪いと思ってたから。だからディズニーランドとか苦手やねん。人形だらけやろ?

Y木:あそこは別に怖いないやろ。

S原:あのキャラたちが、夜になってゆっくりと無人のディズニーランドを徘徊すると思うと、ちょっとな…

Y木:徘徊するか!

S原:あなた、人形の映画に興味がないということは、「チャイルドプレイ」とか観てないのね?

Y木:観てないなあ。

S原:「チャイルドプレイ2」の工場のシーンとかすごく良いよ。

Y木:知らんがな。

S原:じゃあ、「パペットマスター 悪魔のオモチャ工場」は?

Y木:そもそもそんな映画の存在を知らんわ。

S原:そうか、結構ええねんで。ちゃんと人形がカクカク動くしな。

Y木:どういう評価やねん。ま、人形映画好きのあなたにとっては、「マジック」は珠玉の1本やな。

S原:珠玉、というと言いすぎやけど、なかなか良い映画やと思うよ。

Y木:登場人物もすごく少ないねんな。

S原:そうやねん。主人公は内気でな3流マジシャンです。舞台でも全然受けなかってんけど、腹話術とマジックを混ぜた芸で段々と売れ出します。ある日、マネージャーから大きな仕事のチャンスをもらうけど、身体検査が怖くて田舎に逃げてしまうねん。

Y木:身体検査?なんで?

S原:はっきりしないけど、人形(腹話術)に依存している生活をしているから、自分の精神がおかしいと指摘されると恐れているかのかも。あるいは、もしかしたら自分自身が人形になっているんじゃないかと怖かったか…そういう描写はないねんけど、とにかく逃げてしまう。

Y木:文字通り、逃避やな。

S原:そう。ほんまに湖しかないような田舎に行ってな。主人公が、昔から好感を持ってた女性(いまは人妻)と恋に落ちたりして、ちょっと自信を持つねん。

Y木:よかったやん。

S原:キレイな女優さんでな。アン=マーグリットという歌手と女優をしてた人みたいやけど、そんなに知られてないんと違うかな?

Y木:へー。

S原:ちょっと幸薄そうな雰囲気でな。私生活でもあんまり旦那とうまくいってなかったんかもな。

Y木:ほっといたれ。でも、当然人形が嫉妬するという展開やろ?

S原:嫉妬というか、バランスが崩れるというか。撮り方自体はごく普通やねんけど、印象的なシーンが多くてな。たとえば、誰もいないところで腹話術をしながら1人で人形と本音を話していると、いつの間にかマネージャーが玄関口に立ってるねん。ドアにもたれかかって、主人公を無言でじっと見つめているシーンとか、ええ雰囲気やねん。

Y木:マネージャーには、気が狂ってると思われるんと違うの?

S原:とっさにごまかすねん。でも、そのマネージャーに『おまえが正常と証明するために、5分間だけ人形を黙らせてみろ』と言われてしまうのよ。主人公は『そんな簡単なこと!5年でも黙っているぞ!』と大見得を切ったあとに、たった5分間を冷や汗をかきながら延々と我慢する。何回も何回も「いま何分経った?」とか確認したりしてな。そのシーンで、スーッとカメラが横移動して、人形と主人公の顔が重なるカットがあるんけど、ここは映画ファンならしびれると思う。このシーンはじっくりと俳優2人の演技を撮っていて見応えがあるよ。

Y木:面白そうやな。それで、5分間我慢できるの?

S原:出来ない。

Y木:もう異常ってことやん…

S原:マネージャーにもそう言われる。「医者にかかれ」って。今風に言えば「心の病」なんやけど、主人公は気の弱い人間やから、ちょっとかわいそうな感じでな。

Y木:観客にそこまで思わすことが出来れば、映画としては成功でしょ。

S原:そやな。人形と本人が2人で話すシーンが多いねんけど、映画が進むにつれて段々関係のバランスが崩れていく…そのあたりがこの映画の面白さかな。

Y木:変則の1人2役か。

S原:あるとき、人形と主人公が言い合いになるねん。もちろん主人公が腹話術で言ってるねんで。人形に『そんなにあの女が好きなら、おまえだけここに残れよ。おれだけ街に戻る!』と言われるねん。でも主人公は無言になって言い返されへんねん。こういうシーンとか、上手いと思うな。

Y木:さすがホプキンス。やりがいがあったやろな。

S原:さっき人形は動かないって言ったけど、ワンカットだけ(ホプキンスが触っていないのに)人形がギョロッと目を動かすショットがあるねん。でも人形が意思を持って自ら動かしたのか、自然に人形の重心の移動で目が動いたのか微妙に演出してて、これも怖くて上手い。

Y木:ほー。

S原:描写もかなり控えめやし、いまのホラーに慣れた若い人は物足りないかもしれんけど。

Y木:どうなんやろ。昔の映画って、いまの映画よりも派手さはないやろ。そもそも特撮技術もレベルが違うし。

S原:うん。リズムがやや遅くて地味なものが多いけど、ちゃんと面白い映画もあるから。ぜひ、若い人には昔の映画も敬遠しないでほしい。あ、マジメなことを言ってしまった

Y木:おっさんの説教みたい(笑)

S原:ラストは地味に終わります。でもなんか味があるねん。

Y木:この映画はあれちゃう?あの人形をどう感じるかで、映画の評価も変わるんと違うかな。

S原:そう考えると、本当に「人形映画」って感じやな。さあ、やや昔のホラー風味をのんびりと楽しみたい方はマストバイ!本当におすすめです!