あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

日本産オムニバス映画祭り!「愛と不思議と恐怖の物語」(2005年)「JamFilms S」(2004年)の巻

愛と不思議と恐怖の物語 [DVD]

 Jam Films S [DVD]

 

S原:さあ、みなさん、今回はいつもと違う感じでお届けします。今回は、日本のオムニバス映画をまとめて紹介します。いつものダラダラトークでは、オムニバス映画は、あまりうまく紹介できる気がしないので、このシリーズはS原が短く感想を語るという形でお送りします。

今回のシリーズで紹介するのは、かなりマイナーであまり知られていない作品と思います。オムニバスは、いろいろなタイプの作品を集めるのが普通(観客にいろんな味を楽しんでもらう)なので、どうしても好みが出るのは仕方がないのですが、できるだけ正直にレビューします。では、スタート!

 

(愛と不思議と恐怖の物語のあらすじ)

2002年8月に関西テレビで放映された、7人の巨匠が贈る摩訶不思議なオムニバスショートストーリー。黒沢清監督、大杉漣主演による「タイムスリップ」をはじめ、鴻上尚史監督、伊藤淳史主演「宇宙に一番近い場所」ほか、全7話を収録する。

 

 

「 愛と不思議と恐怖の物語 」

 

①瀕死体験(鶴田法男監督)

幽体離脱してしまった男が、なんとか自分の体に戻ろうとする話。

死んだ妻もでてくるけど、妻と主人公のやりとりがあんまり上手でなくて、ドキドキもワクワクもホロリもアハハもなかった。ワンアイデアだけの無味乾燥な味やった。

②KACHOSAN(下村勇二監督)

会社ではバカにされているダサい課長が、バーでぼったくられそうになったときに、ヒーローに変身する話。

これもワンアイデアものやけど、演出・俳優・セット・特撮のどれもが、あまりにチープすぎて失笑しかでてこなかった。ただ、このチープさが笑えるわー、という人もいるとは思う。

③「暮らし」と「住まい」(片岡英子監督)

アパートの上のベランダから、女性用下着が落ちてきて、(上の住民に)拾って届けるのか悩む青年の話。

短いわりにテンポが良くなくて、観ているとどうでも良くなってくる。そもそも下着が落ちてくる話自体、おもろいか…?。最後は下着が土に埋まって、花が咲く。ここだけは良いとは思うけど、それだけではなあ…というのが本音。

④宇宙に一番近い場所(鴻上尚史監督)

ビルの屋上に男性がいる。そこへ昔の恋人がやってくる。どうも最近フラれて、自殺も考えてビルにやってきたらしい。男性は一所懸命に自殺を思いとどめようとするが、女性はまったく聞こうとしない。じつはすでに男性は死んでいて、女性には声は届かない…という話。

個人的にはこれが一番好きかな。演出も良い出来とは思えないし、あらすじも大したことないけど、俳優2人(伊藤敦史と菊池百合子)のたたずまいというか雰囲気が、なかなか良い。この2人の魅力を味わう作品だと思う。

⑤進路指導室(中田秀夫監督)

進学する予定の高校3年生女子が、就職すると言い出して、父親が慌てる話。

津軽弁での会話はちょっとだけ面白いけど、内容は「そんなん、どうでもええがな…」「おまえらだけで話し合えよ…」と突っ込みたくなるくらい他愛のないもので、文部省推薦の文化映画みたい。ただしラストの父娘が歩く田舎景色はキレイで素晴らしい。

⑥浴槽の死美人(ケネディ・テイラー監督)

女性が死亡(殺人事件?)した家に、警察関係のビデオ記録係がやってくる。ビデオ係はどんくさくて、刑事たちに冷たくしらわれるが、じつは(家の隠し部屋に隠れていた)犯人を逃がすことが目的だった…という話。

ハッキリ言って、ひどい。とくに面白くない題材を、何の意図もなく冗長に撮るなんて…この監督のセンスを疑う。

⑦タイムスリップ(黒沢清監督)

教授が、大学の講義でタイムスリップについて話をしようとするたびに、教授自身がタイムスリップして、何回も同じ場面になってしまう、という話。

このなかでは一番の異色作。大杉連が、どんどん脱線していくアドリブ風の演技・演出は好き嫌いがハッキリすると思う。ぼくは残念ながら、ただ単に「雑な作りの作品」だと感じてしまった。

(全体として)

正直に言って、面白いエピソードが少なかったという印象。「愛と不思議と恐怖の物語」というタイトルに、内容が全然合っていないと思うけども。

 

(JamFilms S のあらすじ)

映画監督たちが手掛けた短編を収録したコンピレーション・オムニバス・フィルムの第3弾。今回は“最も才能を感じるクリエイター”として人選した、新進気鋭の7人の監督の個性豊かな独自の世界を収録。

 

「 JamFilms S 」

 

①Tuesday(薗田賢次監督)

自分が住むマンションの他人の部屋を勝手に出入りする男の話。

男の行動が悪趣味で共感できなかったり、目的がわからないまま(スリルを味わっているため?)なのは、百歩譲ったとしても、いくらなんでも、わけがわからなすぎる。とにかく淡々と進むだけで抑揚がない。でも、とくに監督独自の世界観やこだわりがあったり、オフビートな可笑しみやシュールな面白さを狙っているわけでもなさそう。なんのために、というか、どこをどう面白くしようとして、この作品を撮ったのか…理解不能なり。

②HEAVN SENT(高津隆一監督)

高層ビルの屋上で死ぬ寸前の殺し屋(ギャング?)のまえに、女性悪魔が出現して、3つの願いを叶えるといわれる話。

これはなかなか面白かった。ストーリーもとくにひねってなくて、俳優2人(遠藤憲一乙葉)のやりとりの妙をみる作品。ロケ地に、開放感のある高層ビルを選んだのが成功した要因やと思う(たぶん地下室では面白くなかったはず)ラストも良いです。

③ブラウス(石川均監督)

小さなクリーニング店に、毎回白いブラウスを持ってやってくる女性。クリーニング店主は、ある衝動にかられてブラウスをそっくりな別のブラウスと「交換」して、渡してしまう。そのあと、女性がクリーニング店にやってきて…という話。

日常と非日常のすきまを突いたような作品で、なかなか演出も手堅いしテンポも良い。大杉連はいつものように上手いが、小雪があんなにキレイだと思わんかった。ラストは、個人的にはちょっと納得がいかないが、賛否があって良いと思う。ぼくはこれが一番印象に残った。

④NEW HRIZON(手島領監督)

夜が3日間続いている世界(朝が来ない世界)で、綾瀬はるかが子供に絵本を読んだり、老人に覗きをされたりする話。

とにかく体のライン(とくに胸と足)を強調したワンピースを着た綾瀬はるかが、すごい破壊力。アニメなど凝った演出があるのに、よくわからないまま、話が終わってしまった。伏線が結びついて夜が明けるという構成が複雑で凝っている作品なのに、薄味という不思議な作品です。

⑤すべり台(阿部雄一監督)

転校をする女子(小学6年?)が、かつてすべり台で大怪我をさせてしまった男子を呼び出す。女子は男子に謝って何でもする、と言うと、男子は「じゃあ、やらせて」とあっけらかんとお願いをする。女子も「いいよ」と答えてしまって…という話。

きわどい話を、いやらしくなく撮れているのは上手いと思う。だけど、あんな幼い男子小学生は、あの会話の流れで「じゃあ、やらせて」は言わないはず。石原さとみに「いいよ」と言わせたいがためのストーリー展開とは思うが、演出が妙にリアルな分、浮いたように感じた。それにしても、ぼくがオッサンになったからかもしれんけど…子供同士のこんな会話を(映画としても)面白いとは感じない…同じ公園にいて、会話を盗み聞きした山崎まさよしが、とぼけた味をだしているのがせめてもの救い。

⑥α(奥田大三郎監督)

人々が、画一化された社会(近未来?)で、一組のカップルの行動を描いた話。

ぼくの頭が悪いせいなのか、あんまり意味もわからなかった。この2人(内山理名スネオヘアー)はミスキャストじゃなかろうか。2人の行動が、この管理社会から逸脱してしまう可能性のあるほどのものなのに、観ていると「なんか、どうでもよいなあ…」と感じてしまう。SF的な凝った設定や世界観(町の人々が無表情など)にも、のめり込めなかった。好きな人は好きと思うけど…ぼくはこの監督とは肌が合わんかったとしか言いようがない。

⑦スーツ-suit-(浜本正機監督)

突如、(日本の危機と戦うため)ヒーローに選ばれた男。男は自宅でキャバクラ嬢と浮気中だったが、突然のことにわけがわからない。やがて関係機関(政府)がスーツ(パワードスーツ)を準備。本人の同意のないまま、むりやりスーツを着せられて戦場に駆り出される…という話。

主人公が、ドタバタに巻き込まれていく過程や会話が平凡で、抑揚なくすすむのがもったいない。笑わせるなら、もっと頭を捻らないとダメじゃなかろうか。キャバ嬢役の小西真奈美は、ほぼバスタオル姿でよく頑張ったと思う。テレビのコントみたいやけど、工夫次第で面白くなりそうな題材やったから、ちょっと残念。

(全体として)

印象がデコボコしているが、それで良いと思う。上手いと思ったのは「ブラウス」。好きなのは「HEAVN SENT」。好きではないが、印象に残っているのは「すべり台」。あとはあんまり…というのが素直な感想です。

 

 

 さいごに(S原より)

オムニバス作品に限らず、最終的には映画は「好み」なんやと思います。

日本の製作現場では予算がないのは十分わかるから、当たりはずれで言うと、ちょっと失礼かもしれないけど、残念ながらこの2本は当たりではありません。でも妙に印象にのこる作品があるのも確かです。オムニバス作品、短い映画が好きな人はぜひ観てください。ワゴンで見つけたら、マストバイとまでは言いにくいですが、一度手に取ってくださいませ!

 

 

 

 

 

タイムリープ映画3番勝負!「今日も僕は殺される」(2007年)の巻

 

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S原:タイムリープ映画特集、最後はこちらです!

Y木:なんか、すごいタイトルやな。

 

(あらすじ)

繰り返される死のループから抜け出そうとする主人公の物語を描いたエンドレス・デス・サスペンス!恋人ジェニーと幸せな日々を送っていたアイスホッケー選手のイアン。ある夜、道の真ん中で倒れている不審な人物に遭遇したときから彼の人生は一変する。突然何者かに襲われ、線路の上に投げ出され、列車にひき殺されてしまう。しかし、気がつくと彼はオフィスで働いており…。

 

S原:これはですねえ、スタン・ウィンストン製作やねん。あの「ターミネーター」(1984~)シリーズとか「エイリアン2」(1986)のSFXを作った人やな。こっそりと「スペースインベーダー」(1986)も担当しているお茶目な人やな。この宇宙人は肉団子みたいでなかなか可愛かった(笑)

Y木:特撮はやっぱり力が入ってる感じ?

S原:そうやな。でも、今回の映画ではもっと「抑えた」表現のほうが良かったと思う。ところどころで、エイリアン風味が見え隠れするから。まあ、やっぱり本人はああいうデザインが好きなんやろうな(笑)

Y木:映画自体はどうなん?

S原:いままで紹介した「シャッフル」とも「プライマー」とも毛色が変わる映画やったな。結論から言うと、その2本よりもガクンと落ちます。

Y木:主人公は、毎日殺されるんやろ?そんな毎日、いややなあ。

S原:そりゃそうや(笑)主人公は大学生でアイスホッケーの選手やねん。試合の後、恋人を車で送った後に、線路で倒れている浮浪者らしきものが倒れているのを見つけるねん。助けようとするけど、なんか異様な雰囲気を感じてあわてて車に戻る。ところが、その浮浪者が奇妙な黒い影(生物?)に突然変わる。その影が主人公を線路まで引きずって、あっという間に主人公は列車にひかれて死亡。その瞬間、ハッと目を覚ますと会社員で働いている状況になっている。でも恋人は会社の同僚として近くにいる。腕時計がなぜか止まるとか、時間にまつわる出来事がいろいろある。家に帰るとすでに結婚をしていて、今度は自分の妻がまた黒い影のように変身して、あっさりと主人公は殺される。死んだ瞬間と同時に今度は、タクシードライバーで働いていて…というわけやな。

Y木:どこまで続くの?映画としては、延々とループさせてもしょうがいないやろ?

S原:大丈夫。わりと早い段階で、見知らぬ老人が説明してくれる(笑)その老人曰く①時計が止まると連中が現れる ②影のような姿の集団は、ハーヴェスターという ③ハーヴェスターは、主人公の命を狙っている。④それは主人公の「記憶」を恐れていて、それを消去しようとしているため ⑤この世界はハーヴェスターが作り出した世界。そこに主人公は存在している。

Y木:なんか、SFとしてはよくある設定やな。でも、なんで主人公が何回も「死」を繰り返す現象が起きているのかわからんぞ。

S原:ぼくもわからん。だって説明がないから(笑)どうも、主人公が以前の記憶を思い出すと時間が止まって、ハーヴェスターが殺しに来るらしい。たとえば、ひょんなことから(前世の)ホッケーの試合のことを思い出すねんけど、そのとたんに襲われる。じつは、主人公の恋人がキーパーソンで、主人公は絶対に恋人を守らないといけないというルールがあるねん。だから、何回よみがえっても恋人が近くにいるという設定になっているねん。

Y木:なんかよくわからんなー。なんか設定が変じゃない?

S原:たしかにわかりそうで、わからんかな。すこし話を端折ると、ハーヴェスターは人間の「恐怖」を糧に生きる不死の存在やねんけど、最近は人間の「苦痛」も糧としているらしい。死ぬ瞬間の恐怖や苦痛が、ハーヴェスターにとって好物やねん。でも、一部のハーヴェスターが暴走して(?)どんどん人間を殺害していくようになってる。人間以外にも、快楽をむさぼるやつらがいるってことやな。

Y木:でも、なんで主人公たちが何度も狙われるんや?ほかの人間を襲えばええやん。

S原:実は主人公たちも、ハーヴェスターやねん。人間を(自分たちの欲望のためだけに)殺していくハーヴェスターたちと対立してたわけやな。

Y木:それってデビルマンと一緒やがな。

S原:はい。そっくりです(笑)ただし、ハーヴェスター=悪魔族たちが直接攻撃するわけでなく、架空の世界を設定して主人公を殺そうとするねん。

Y木:えーやっぱりおかしいやろ?なんで、そんなまわりくどいことすんの?べつに普通に主人公たちを攻撃したらええやん?悪魔やし。

S原:うーん、実はそうやねん…別にタイムリープするという設定は必要ないねん。

Y木:まえに取り上げた「シャッフル」も「プライマー」も、一応タイムリープする(なってしまう)ことで、ドラマが動くという感じやったけど、今回はぜんぜんちゃうやん。

S原:たしかにこの映画では、タイムリープの面白さよりも、悪魔たちが襲ってくる場面を主眼に置いてる感じやな。それでも前半は、時間が巻き戻っていく感じがよくでていたけどな。緊張感があって良い雰囲気やったし。でも、後半はなんというかミステリーではなくて、ホラー風味のアクションになるというか。でもなー、実はそんなことは些細なことやねんで。じつは、この映画では最大のポイントがあるねんで。

Y木:ポイント?

S原:さっき説明したハーヴェスターは、不老不死やねん。でも主人公は、なぜかハーヴェスターを殺すことが出来る。その理由はなんなのか?とハーヴェスターたちは疑問をもつ。だから余計に主人公たちを恐れるねん。

Y木:なんで主人公は、ハーヴェスターを殺すことが出来るの?

S原:それは……「愛」です!

Y木:は?

S原:「人を愛する気持ち」は、「恐怖」や「苦痛」よりも強力なのです。主人公は、愛で悪魔たちを蹴散らすのです。

Y木:ほんまにそんな話なんか…(絶句)

S原:ほんまです。最後に愛は勝つ

Y木:…(茫然)

S原:最後の対決で、主人公はハーヴェスターを殺します。しかし、同時に恋人も死んでしまう。ああ、どうなるのでしょう?でも心配はご無用です。「愛」の力で恋人は蘇りました。そして、時間がループするのも止まりました。最後は主人公と恋人が濃厚な接吻をしておしまい。もう一度、セイアゲイン、最後に愛は勝つ

Y木:しつこいねん!それにしても、そんなラストとは…(ため息)

S原:おどろきやろ?(笑)さーみなさん、今回のタイムリープ映画特集はいかがだったでしょうか?一番頭を使うのは「プライマー」、ハリウッド的に楽しめるのは「シャッフル」、後半からどんどん知能指数の低い映画になっていくのが「今日も僕は殺される」です。3本ともに共通しているのは、「観た後誰かに話をしたくなる」「ツジツマを確認したくなる」ということでしょうか。なので、友達や恋人と観るのにぴったりですよ。まあ、ぼくは独りぼっちで観ましたがね!

Y木:むなしいやっちゃ。

S原:そして、今回ぼくが一番感じたのは、「ワゴンセールの映画」を観て、時間を浪費してしまったと後悔しても時間は巻き戻らない、ってことですね!ウフッ♡

Y木:え…いまさら…?

 

タイムリープ映画3本勝負!「シャッフル」(2007年)の巻

 

S原:タイムリープ映画3本勝負。2本目はこちら!

Y木:「シャッフル」?

 

(あらすじ)

親子4人で幸せに暮らすリンダのもとに、夫が自動車事故で死亡したという知らせが届く。ところが翌朝、死んだはずの夫が何事もなかったかのように目の前に現れる。しかし、その翌日には夫の葬儀のために、喪服に身を包んだ大勢の人々が集まっていた。さらにその日以来、全く身に覚えのない“不可解な出来事”が次々と起こり始め…。

 

 

S原:ぼく、結構サンドラ・ブロック好きやねん。モデルみたいな美形じゃないところがええし、かなり幅広い分野の映画に出演しているところも良いと思う。実際は、どうしても(出演作の)当たり外れがあるけども…アカデミー主演女優賞と最低映画賞(ゴールデンラズベリー賞)を同時受賞したのは、この人くらいちゃう?これって、プロの俳優としては、すごいスタンスやと思うなー。

Y木:ほう。それで今回の映画は、あたり?はずれ?

S原:人によって評価が分かれると思う。ぼくは楽しめたで。

Y木:シャッフルというタイトル通り、時間がシャッフルするんやな?

S原:シャッフルするというか、『朝が覚めると特定の1週間のうちのどれかの曜日になっている』というほうが正解かな。

Y木:ん?

S原:サンドラ・ブロックの旦那が交通事故で死んでしまう日から映画は始まるねん。車を運転してて、トレーラーとぶつかって即死やと聞かされる。これが水曜日。ところが、翌朝目覚めると、旦那さんがリビングにいてコーヒーを飲んでるねん。おどろくんやけど、悪い夢だったのかな…って感じでその日を過ごす。ところが、また翌朝目覚めると、今度は旦那が死んだ後で、親戚や友人が葬儀の準備をしている日になってるねん。さっき言った「特定の一週間」というのは「旦那が死亡した日を中心にした1週間」ってこと。その7日間をシャッフルして体験してしまうんやな。

Y木:あーそういうことか。

S原:だから、目が覚めて、その日が「未来の日」やった場合は、自分でも記憶にないことが起きてるねん。つまり自分は、「過去の日」を経験してないから、その出来事を体験してないんやな。このアイデアは面白いやろ?

Y木:アイデア賞かもな。

S原:過去・未来と行き来するから、小さな出来事が伏線になっていく。ハリウッド映画はこの辺は上手なんやけど、この映画ではいまいちスマートではなかったかな。わかりそうで、わかりにくい部分もあって、そこがちょっと残念やった。「ああ、そういうことかー!」と、うなる部分が少ないというか。ぼくの理解力の問題もあるけど。

Y木:ふーん。

S原:ほかにもイマイチな点もあるねん。まず旦那役の俳優がダサいこと。なんかトム・ハンクスを水で薄めたような顔やねん(笑)こいつは売れへんやろうなー。

Y木:そっとしておいてやれ。たぶん機嫌よく生きてるんやから。あとは?

S原:あとは、主人公が「曜日シャッフル現象」に気付くのが遅いこと。ここは欠点やと思う。主人公がどんくさく感じてイライラする(笑)

Y木:主人公がシャフル現象に気付いた後は、どうすんの?

S原:当然、旦那の交通事故を防ごうと努力する。果たしてどうやって事故を防ぐのか?ここがこの映画の面白さになるわけやな。ただ、ちょっと変な点も多いねん。例えば、朝起きてスマホとかテレビをみれば、今日が何曜日かわかるやろ?主人公は、友人に電話して何曜日か確認する。ここはみんな突っ込むんと違うかな(笑)あと、個人的に一番不自然やと感じたのは、「旦那が死んだ後の曜日」に目覚めたとするやろ?そこでも、主人公はすごく取り乱して、周りが困惑するねん。「本当は死ななくても良かった!」とか「わたしが死なないようにする!」とか叫んだりして。結局、興奮しすぎて精神病院に強制入院させられてしまう。

Y木:えー、ほんまに?精神病院に?

S原:ほんまやで。かわいそうやねんけど、「死んだ後の日」ではおとなしくしてるほうがええと思うねん(笑)だって、その日は事故が起こってしまった後やから、どうあがいても事故は防がれへんやろ?暴れたりせずに、過去に戻った時点で旦那を助ける方法をじっりと考えたほうがクレバーやと思うわ。

Y木:なるほど。でも映画としては地味な展開になるんかもしれんな。それで結局、つじつまは合うの?

S原:シャッフル現象では、最後の曜日(7日目)が事故の当日やねん。この日が当然クライマックスになるから、これはまあ、ご都合主義やな(笑)朝、目が覚めて、今日が「事故の当日」と気付いた主人公は、(旦那の死を防ぐために)交通事故にあった場所まで急いで駆けつけるねん。自分が運転して、旦那の車を追いかける。車の中を携帯電話を鳴らす。おどろく旦那をなんとか引き留める。間一髪助かった!…というところで、いままでの主人公の行動がきっかけになって、旦那は(当初の通り)事故死してしまう。要するに主人公は、旦那の死を止められないねん。

Y木:うーん、そうか。つじつまが合うというか、そういうことやねんな。

S原:それでも普通のサスペンス映画にしなかった点もあるねん。家族愛というか、そんな要素も入れててな。じつは最近、旦那と主人公は上手くいってなかったのよ。旦那がちょっと浮気寸前やったり、主人公もそれに気づいたりして、ギクシャクしてた。それが、最後に旦那も浮気をやめて家族が大切だと気付いて、それを主人公に伝えるねん。

Y木:ほー。

S原:まあ、伝えたあとに旦那は死ぬんやけど、それでも主人公としてはまだ救われる部分があった、とも言えるかな。ちょっと象徴的なのは、教会で神父(牧師?)が、主人公に「毎日生きてることが奇跡なのです」みたいなことを伝えるねん。ここは隠喩かもしれんけど、かなり賛否分かれるところやろうな。

Y木:ほー。まあ、今回の映画は欠点もあるけど、結構楽しめたってこと?

S原:うん。この映画に限らず、タイムマシン/タイムリープものって、後から、いろいろと考えさせられるやろ?おもに矛盾点が気になるんやけど(笑)、それでもやっぱり観ていると楽しいな。あと、サンドラ・ブロックの背中がやたらと映るんやけど、監督の好みやろか…

Y木:知らんがな。

S原:さあ、みなさん!これは、気軽に観れる時間移動映画です。観終わったあとに、ああだこうだと言いたくなる映画なのは間違いありません。頭を空っぽにして楽しみつつ、一方で頭で理屈を考えるようなタイプの映画が好きな人、そんな人はマストバイです!

タイムリープ映画3本勝負!「プライマー」(2004年)の巻

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S原:タイムリープ映画3番勝負。はじめはこちらです。

Y木:「プライマー」?全然しらんなー。

S原:これは、問題作ですよー。

 

(あらすじ)

2004年のサンダンス映画祭で脚光を浴びたSFサスペンス。若きエンジニアふたりが研究中に偶然タイムマシンを作り出し、過去に戻って株で大儲けをする。だが、タイムトラベルのタブーである過去の自分たちとの出会いが運命を大きく狂わせていく。
2004年サンダンス映画祭で、審査員大賞/アルフレット・P・スローン賞をW受賞

 

S原:いやー、久しぶりに監督が『全力投球』する映画に出会ったわ。とにかく、これが撮りたいんや!という魂の叫びが聞こえてくるような作品やったなー。

Y木:へー、タイムマシンの映画?

S原:うん。凝りに凝ってる設定で理系の映画といえばええのか、タイムリープに正面から取り組んだ野心作というのか。観客に対して挑戦状を叩きつける!って感じでな。
Y木:へーいまどき珍しい。

S原:ただ単純に面白いといわけでもないねん。ぼくは、映画の途中からほとんど理解できんかったし…(苦笑)予備知識がないほうが映画は楽しめるというのが、ぼくの持論やねんけど、この映画だけは例外かもしれん。

Y木:どういう映画?

S原:ある日、偶然に主人公がタイムマシン(箱)を2台開発できてしまう。それを友達に教えるねん。はじめは小さな箱やったんやけど、友達の協力で人が入れるくらい大きく出来るのよ。2つタイムマシンがあるから、2人同時に過去に戻って、お金儲けしようとするんねん。でも、この箱には制限があってな、大昔に戻れるわけじゃなくて、(タイムマシンを)起動した時点までにしか過去(たとえば6時間前)に戻られへんねん。で、過去に戻ったら、(6時間後に)価格が上がる株を事前にチェックして購入したりする。でも、当然同じ自分たちが(その時間には)存在するから、顔を合わせないように注意しながら行動するわけやな。2人でホテルで同じ時間を閉じこもったりして。ここまではわかる?

Y木:なんとなくわかる。じゃあ、そのあと(タイムマシンで過去に戻った後)は、いつまでも同じ人物が2人存在するってこと?

S原:ここが分かりにくいんやけど、どうも「過去に戻る前の時間」(過去に戻ってから6時間後)になれば「リセット」されるらしい。2名分の存在が1名分になるみたい。ここもあまり説明はないから、解釈が間違ってるかもしれんけど。

Y木:ちょっとわかりにくいな。

S原:ここからがさらに、ややこしい。まず、主人公たち2人はお互いに黙って(好き勝手に)箱に入って過去に戻ってるみたいやねん。この理由ははっきりわからんけど、お互いを出し抜こうと(お金儲けしようと?)するためみたい。これから展開する場面ごとの主人公たちが『いつの時間の主人公たち』なのかが(観客に)説明がない。

Y木:わからんようになってきたぞ…

S原:要するに、この映画は「時間軸」を丁寧に説明していないのよ。観客は、いま自分が観ている登場人物たちが、「そのときに時間を普通に過ごしている主人公」なのか、「過去に戻って、もう一度やり直している主人公」なのか、「お互いを騙して、過去に戻った主人公」なのか、わからへんねん。まずここが観ている人に、不親切かもしれん。

Y木:たしかに混乱しそうやな。

S原:何回も見直したら、設定もストーリーもちゃんと理解できるらしい。そのあと、何度も過去に戻った影響で主人公の耳から血が出たり、字が書けなくなっていく…これもはっきりとした説明はない。でも、タイプリープは危険やと分かったから、タイムマシンを使う前(主人公が友人に話す前)に行こうとしたり、その前にそれを察したもう一人の主人公が先回りしたり…どんどん複雑になっていく。

Y木:でも、タイムマシンの矛盾は?『同じ時間に同じ自分が存在する矛盾』はどうなるの?

S原:はじめに言ったとおり、ぼくもわからんかった。だから、映画を観た後にSNSで他人の感想をかなり読んだ。普段はほとんどそういうことをしないねんけどな。そのなかでは、「この映画では未来が枝分かれしていく」という見解があって、なるほどと思ったなあ。主人公たちが過去に戻って、起こした出来事が(未来の)つじつまを合わせるんでなくて、別々の未来になっていく。多次元世界というんかな。次々と「別の未来(時間軸)があるようになるという設定」というわけやな。

Y木:へー、ネットでは、この映画を解説と言うか解釈している人もおるんや。

S原:この映画をきちんと解説している人はすごいと思う(笑)あと映画のほかのエピソードでは、ひとつの箱を分解して、その箱と一緒にもうひとつの箱(タイムマシーン)で過去に戻るというエピソードとか、主人公たち以外にこっそりとタイムマシンを使っている人がいるのではないか?という謎もあったりして、どんどん複雑怪奇になっていく…

Y木:ごめん、わからん…(苦笑)

S原:わかりにくい分、どこか閉塞感のある雰囲気やねんけど、好きな人は好きやと思う。

Y木:今回ばかりは観てみないとわからん。

S原:この映画チャレンジするテーマとしては、さすがサンダンス映画祭の審査員賞というレベルやねん。でも、欠点もあってなー。まず、キャラクターとしては弱いねん。二人の個性なんかがハッキリしてなくて、行動の動機がいまいちつかみにくいねんな。主人公たちのうまくいかない焦りというか、タイムパラドックスに触れてしまう怖さとかは、あまり描けてないと思う。あとは、やっぱり設定と展開が難解すぎてついていけないことかな。ただ、後者に関しては監督の狙い通りとも言える。

Y木:「監督の意図通りに、観客は混乱する」と。

S原:そうそう。ただ、この映画の難解さが「監督の意図通りの難解さ」なのか「映画の出来(演出)が上手くなくて難解になってしまった」のかは、ちょっと微妙かもしれん。ぼくとしては『凝った設定』やけど、『凝った映画』とは言いにくいな。

Y木:なるほどな。

S原:ハリウッドとかは、とにかく上手に説明しようとするやろ?観客をミスリードしつつ、最後は理解してもらうみたいな。そんなウェルメイドなミステリーを期待しては期待外れやろな。これは、頭をフル回転してパズルを解くような映画やねん。すこし前の映画「バタフライ・エフェクト」(2004)もタイムトラベルを扱ってるねん。主人公が過去に戻ってなんとか(嫌な過去を)修正しようとする映画やねんけど、やればやるほど上手くいかなくなる…過去を知ってるはずなのに…というよく出来た映画やったんやけど、同じような題材でもこうも違うんか、と思ったなー。

Y木:「バタフライ・エフェクト」は理解できるんや?

S原:出来る。映画としてはちょっと暗いけどな。でも最後までハラハラドキドキするし。でも、「プライマー」は初めからそこを目指さんかったんやろうな。だから、鑑賞後の評価・感想も真っ二つになってるみたい。

Y木:まあ、そこは監督の意図通りやろうな。

S原:そうやな。監督は、何回も観てほしいという意図があるんと違うかな?そういう映画もあってもよいと思うで。この映画を観ると、すごくこの映画についてしゃべりたくなる(笑)ただカタルシスはないから、そこは覚悟したほうがええと思うなあ。

Y木:今回は異色作の紹介やなあ。

S原:さあみなさん。脳みそフル回転でメモを取りながらお楽しみください。監督からのパズル難問に挑戦したい方は、マストバイです!全部理解できた人は、S原にも教えてくださーい(笑)

 

 

 

 

「ワンダーランド」(2005年)「ハードコア・デイズ」(2001年)の巻

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S原:今回はこちらですよ。

Y木:へー、全然知らん映画やわ。

S原:今回は、アメリカのポルノ映画界を舞台にした作品2本を語ります。

 

(ワンダーランドのあらすじ)

1981年、ハリウッドのアパートで4人の惨殺死体が見つかった。第一容疑者に上がったのは、全長35cmの“モノ”を売りに70年代ポルノ界の頂点に立った伝説の男“ジョン・ホームズ”出演映画2000本以上、抱いた女14,000人という、かつてのスーパースターの事件にショウビズ界は騒然、全米を巻き込み一大スキャンダルへと発展する。やがてホームズの金とドラッグに溺れた人生と、二人の女の存在が明らかになってゆくのだが・・・。

 

(ハードコア・デイズのあらすじ)

ポルノ業界に生きる3人の若者が経験する愛の挫折と大人への旅立ちを描いたセンシティブドラマ。映画業界で働くことを夢見る青年・ショーンは間違えて借りたゲイポルノビデオの俳優に惹かれ業界に飛び込む。だが、彼はストレートで妊娠中の恋人もおり…。

 

S原:「ワンダーランド」も「ハードコア・デイズ」も両方ともぼくも知らんかった。もともとポルノと言うのかAV業界自体に興味がないから、そういう世界を描いた映画もスルーしてしまう。少し話題になった「全裸監督」も観てないし。

Y木:あー村西監督のヤツやったっけ。

S原:うん。まあ、女性は嫌がるかもしれんけど、AVとかポルノは男性にとっては「観るだけ」の作品やろ。裏側を知りたい世界でもないしな。

Y木:でも、こういう世界の裏側に興味がある人はおるんとちゃう?今回の2本、映画としてはどうやった?

S原:どっちも「時代」を描いた作品となってたかな。「ワンダーランド」は、ジョン・ホームズという実在する(巨根の)伝説のポルノスターが関わった(かもしれない)殺人事件を描いてるねん。「ハードコア・デイズ」のほうは、監督自身が実際に体験した取材をもとに作ったフィクションやねん。

Y木:どっちもポルノスターの栄光と挫折って感じ?

S原:うーん、「ワンダーランド」は、そうじゃなかった。「ハードコア・デイズ」は、少しその要素もあるけど、あくまでゲイのポルノスターに憧れて業界に入った若い男性が主人公。どっちも視点を変えて、ポルノ業界とそこにいる人々を描こうという姿勢かな。

Y木:面倒やから、結論から教えて。2本はどうやった?面白かった?

S原:正直に言うと、「ワンダーランド」はひどかった。「ハードコア・デイズ」もそんなによくないけど、こっちのほうが単純に面白かった。

Y木:それっておまえの好みとちゃうの?

S原:いや、ポルノの製作現場にもゲイにも全く興味がないから、どっちも好みじゃない(笑)「ハードコア・デイズ」は、なんというのかキャラクターがちゃんとしているというのか、映画として最後まで観ることが出来る。チョメチョメの場面もちゃんと描いてるしな。

Y木:山城新伍か。

S原:まず「ハードコア・デイズ」のほうから話すと、変形の(ゲイ)ラブストーリーやねん。上に書いてあるあらすじの通りなんやけど、わりと当時の性風俗とかが描かれてる。あくまでもゲイのポルノスター・ジョニーに憧れる主人公の目線ですすむから、わかりやすいかな。思ったよりもえげつない場面は少ないし、感心した場面もあるねん。

Y木:どんな場面?

S原:ジョニーはカメラマンとしてこの世界に入るねん。その彼が、ゲイヌードの撮影するシーンがあるねんけどな。いろんなポーズをきめて男優のヌードを撮るんやけど、よくかんがえればグラビアアイドルと変わらんなあーと思ったりして(笑)

Y木:それはそうか。

S原:ゲイ男優が(やりたくなかった)撮影の後に、シャワーをあびているときに、主人公が優しく話しかけて、男優も少し心が軽くなる…という場面があるんやけど、地下アイドルでもグラビアでもAVでもどこでも通じる感情の交流やと思ったなあ。

Y木:おまえ、この映画のすごく良い鑑賞者とちゃうか、もしかして(笑)

S原:もちろんゲイ同士のチョメチョメの場面もあるけど、意外に汚く撮っていないし、こういう世界に興味のある女性も大丈夫とちゃうかな。とはいうものの、いわゆる「やおい」の映像でもないし、もちろん子供は向きじゃないで(笑)上の映画のあらすじの続きを言うと、ジョニーの恋人が妊娠して、ジョニーは困惑するねん。彼はストレートやけど、所詮はゲイのポルノ男優やって劣等感があるねんな。逆に、恋人はこれを機にジョニーに再出発しようと言うねんけど、ジョニーは「これが父親になる顔か?」って不安だらけやねんな。自信が持てないというか。

Y木:えー、ジョニーって意外とまともやん。

S原:そうやな、根はマジメと言うかノーマルと言うか、そういうところが見え隠れするところが興味深いとも言えるかな。ほかに、ジョニーがゲイポルノ撮影のあとに、恋人(女性)とベッドにいるときの場面が味があるねん。ジョニーが、恋人から「オカマを抱いた後に私を抱いているのよ」と言われて、しばらく黙った後に「今のは差別発言だぞ」と静かに言う。自分は(性向は)ストレートやけど、自分の仕事には(ゲイ男優としての)プライドを持ってるって感じで。

Y木:ほー。

S原:あとは、主人公がゲイバーに行ってカウンターで話しかけられるとか、撮影機材を片付けているときに男優らしき男と雑談する場面とか、なんかすぐに性的な話題や行為に結び付きそうで、ちょっとドキドキするねん。あ、こいつは主人公のことを狙ってかも、って(笑)このへんは、ちょっと独特の雰囲気やったな。

Y木:えーすぐにそんな関係になるの?

S原:いや、そんなことはない。勝手にこっちが想像してるだけ(笑)だから、なかなか撮り方が上手いともいえる。でも同時に、こっちの偏見もあるとも言える。ゲイはすぐにチョメチョメする、という偏見が…このへんは本物のゲイが聞いたら気分を害するかもな。申し訳ない。

Y木:まーそういうテーマの映画やろうしな。

S原:あとは、この世界にはやっぱりドラッグが蔓延しているのがよく分る。

Y木:なるほどな。

S原:ジョニーの恋人は、いろいろあって結局、子供も堕ろしてしまう…恋人は「何かが変わると思ったのに…」と泣くねん。でもそのあとに(中絶の)お金が要るから、恋人は怪しげな店で風俗まがいのことをして小銭を稼ぐ…このあたりは観ていてやるせなくなる。ぼくの根がマジメで笑い飛ばすこと出来ないだけかもしれんけど。

Y木:ふーん。それでどうなるの?

S原:やがて、(ポルノ映画の業界人の)殺人事件らしきものが起きる。犯人はジョニーが疑われるねん。それで主人公が手助けして南米に一緒に逃げようとする。もちろん主人公は、下心があるねん。憧れのジョニーと「恋人関係」になりたいという下心やな。でも、一緒に逃避したメキシコの安モーテルで、ジョニーにお金を持ち逃げされて、異国の地で一人ぼっちになってしまう…そこでおしまい。

Y木:なるほどなー。かなり変則のラブストーリーという感じややな。

S原:そうやな。これを男女に置き換えると、また違った印象になるやろうな。

Y木:「ワンダーランド」はどうやった?おんなじ感じ?

S原:ぜんぜん違う。こっちの映画は、巨根ポルノスターのジョンがもう落ちぶれた時点から始まるねん。すでにヤク中でどうしようもないクズやねんな。それが殺人事件の容疑者になるという話。

Y木:ふーん、ちょっと変わってるなあ。

S原:巨根のポルノスターの映画では「ブギーナイツ」(1997)っていうのがあって、たぶんモデルは一緒とちがうかな。そっちの評価が高いから、比べると可哀そうかもしれんけどなー…

Y木:こっちの映画は「外れ」やったのね?

S原:いやあ、くだらなかった!ほんまに最低ランクの出来やと思うで。久しぶりに、こんなしょーもない映画を観たわ。もしも、この映画のファンがいたらごめん(笑)

Y木:でも、おまえは最低映画をたくさん観てるやんか。

S原:こういう映画が、ぼくにとって最低ランクの映画やねん。「ハードコア・デイズ」よりも、なんか頭が良いように見せてる分、余計に腹が立つ(笑)中途半端に人間模様を描こうとして失敗してる映画。ドラッグを中途半端に扱った映画。80年代の風景を描こうとして失敗した映画。予算もちゃんとあるし、キャストもスタッフもちゃんとしている(はず)やのに「なにこれ?くだらねー…」という印象しかのこらない映画。こういうのが一番、罪やと思うで。

Y木:えらい評価が低いなー。実際の殺人事件を扱った映画なんやろ?一応、ミステリー?

S原:一応そうなんやろうか。いや、そうでもないかなー…芥川の「藪の中」ってあるやろ?

Y木:ああ、登場人物が少しずつ違うことを言って、真相がわからないっていうヤツね。

S原:この映画もあのスタイルやねん。黒澤明も「羅生門」で扱ってたけど、あれに比べると全然やったなー。そもそもこの事件自体よく知らんしな。映画では事件内容の説明もあまりしないから、余計にわからん。たぶん、それだけアメリカでは有名なんやろうけど…

Y木:ふーん。

S原:この映画でもやっぱりドラッグが関係するんやけど、それが関係するわけもなく、単に汚らしい登場人物がぶつかりあってるだけ…

Y木:要するに中途半端ってこと?

S原:そうそう。ミステリーとしては単純な話のはずやのにわかりにくい。ショウビズの汚れた裏側にいる人物達やのに、それも曖昧に描いている。自分勝手な登場人物の欲望まみれの人間ドラマでもない。事件ドキュメントとしてもつまらん。登場人物の動機や行動がまったく理解できない。人間の不条理を表現しているのでもない。ポルノスターが落ちぶれた悲哀も描くつもりもない。

Y木:ボロクソやないか。

S原:いやもう理解不能としかいいようがない…しいていうなら、主人公の妻と愛人の存在がちょっと興味をひくくらいかな。どうしようもない主人公を見捨てることが出来ずに助けるねんけど…いや、それも観ていると、はっきり言ってどうでもええしな。

Y木:「ワンダーランド」のほうは、褒めるところがないみたいやな。それはええねんけど、なんかおまえの恨みをただ書いてるだけで、全然楽しめないぞ。

S原:うーん、みなさん、すいません。でもなあ、ちゃんと(この映画では)製作費があるんやで。有名な俳優(ヴァル・キルマー)を使ってるし。その分、余計に腹が立つねん。

Y木:「ワンダーランド」の主人公はポルノスターで巨根なんやろ?そういう面白さはあるんと違うの?下ネタ的な猥雑さとか。

S原:それもないねん。べつに巨根も映らへんしな。「ハードコア・デイズ」でも撮影場面がちゃんとでていたし、「ブギーナイツ」では巨大なペニスを映してた。日本版では当然モザイクやったけど、そこが印象に残る。でも、「ワンダーランド」はそのモザイクもない。そもそも監督にとっては、主人公がポルノスターでも巨根でもなんでもええんやろーな。でも、この場合の「巨根」ってポルノ界で栄光をつかんだ主人公の自負の象徴というか、プライドとか存在理由のはずやろ?観客だって「巨根のヤツが主人公」と思って観てるはずやのに、そこにも切り込まへんって一体何がしたいや、この監督は?

Y木:監督のこだわりが、悪いほうへ転がったんかもな。

S原:うーん…監督にこだわりがあるのはええねん。映画製作の「原動力」っていうんかな、そういうのは大事やろ?あの「スネークトレイン」(2006)なら『女優がヘビを生呑みする場面が撮りたいっちゃ!』とか、「ふぞろいな秘密」(2007)なら『玉置浩二への怨みを晴らさでおくべきか!』とかテーマがあるやろ?そんなテーマもないねんで!石原真理子に謝れや!

Y木:なんか違う気がするけどな。

S原:映画の中にでてくる警察からの事情聴取とか、事件のために小細工するとか、証言を頼むとか、ほんまにどうでもええねん!…どういうつもりで作ったんかなー…(遠い目)

Y木:なんかこっちの紹介は疲れてるなー。

S原:さあみなさん!アメリカの性風俗とかポルノ業界とかに興味のある人はおススメです。ぼくは「ハードコア・デイズ」のほうが好きですが、これは個人の好みでしょう。ノーマルな性向のひとは、観ないほうがいいでしょう。とりあえずワゴンコーナーで見つけたら、一度手に取ってゲットするかどうか決めてくださいませ。マストバイするかどうか、それはあなた次第です!

 

 

 

 

「トランザム7000」(1977年)の巻

トランザム7000 [DVD]

 

S原:今回はこちらです。懐かしいやろ?

Y木:おー!「トランザム7000」!

 

 (あらすじ)

カーアクションの神様”と呼ばれたハル・ニーダム監督が、バート・レイノルズを主演に迎えて贈るアクションコメディ。トラック野郎のバンディットが大金持ちと8万ドルを賭けたカーチェイスを繰り広げる。

 

S原:1977年製作。いやー、このDVDのジャケットが時代を感じて良いよなあ。「トランザム7000」は、何十年ぶりに再見したけど、今の時代のカーアクション映画とはかなり違うなあ。

Y木:当時は確かカーチェイスものが流行ってたんやな。

S原:そうそう。やたらと車を壊すシーンを売り物にしたりな。「バニシング・ポイント」(1971)とか「ダーティ・メリー クレイジー・ラリー」(1974)とか数え上げたらきりがない。当時の車好きの少年たちは、勢い余って「コンボイ」(1978)まで観て「え?なんか違う…」と違和感を感じたりしてな(笑)

Y木:あれは、ペキンパー監督やから(笑)いや、おれは昔からこういうカークラッシュ映画にはピンとこないねんけどな。
S原:実は、ぼくもやねん。車に興味がないからかもしれんけど、カーチェイスとかにカタルシスは感じないねんな。

Y木:でも、どうなんやろ、カーアクションって、いまでも生き残っているジャンルなんやろ?

S原:着実に生き残ってるで。「ワイルドスピード」とか「トランスポーター」は人気シリーズやし。「なんとかレーサー」とか「なんとかスピード」とか、それこそ安売りワゴンコーナーには、必ず1本くらいある。邦画も結構あるねん。「超高速なんとか」とか「ドリフトなんとか」、誰が観るんやろ?と思ったりするけど(笑)やっぱり好きな人は、一定数でおるんやろうな。ところで、この映画は観た?

Y木:昔、何回も観たよ、テレビで何回もやったから(笑)でも、当時は派手に宣伝されてた割に、そんなにすごいカーチェイスでもなかったやろ。

S原:おっしゃる通り。たくさんの車(とくにパトカー)はクラッシュするけど、大したことないねん。とくに、いまのヤングたちには全然物足りないと思う。映画のテンポ自体がスローやし、結構クルマから降りて、散歩したりレストランに入ったりしてる。制限時間あるはずやのにな(笑)。逆にそんなところが良いよ。あと、なんといっても主人公はテンガロンハット+ヒゲ+赤シャツやし(笑)

Y木:バート・レイノルズなー。当時のセクシー俳優No.1やな。そのあとがリチャード・ギアかな。

S原:バート・レイノルズは、当時のアクションスターみたいな感じやけど、一方で全編ピンと糸が張り詰めてるような雰囲気の「脱出」(1972)にも出演してるし、なかなか雰囲気のある人やと思う。でも、当時のアメリカでは超トップスターだったわりに、日本ではまあまあの人気やったような印象があるな。

Y木:やっぱりいかにも「アメリカン」やから(笑)

S原:たしかに。赤シャツのボタンもはだけて胸毛が見えてるしな。アメリカンな胸毛は日本のヤングな女性には受けへんから(笑)

Y木:胸毛を剃ればええのにな…それとも胸毛がアメリカ人のアイデンティティなのか…いや胸毛の話はええねんって。ところで、この映画ではビールを運ぶ話やったやろ。

S原:うん。当時、クアーズビールを越境して(ミシシッピー州の東を越えて)は、ダメという法律があって、ビールを密輸するために、主人公たちが雇われるねん。『28時間以内に、テクサーカナまでトラックを飛ばし、ビールをアトランタに持ち帰れれば、報酬は8万ドル』という賭けをするねん。

Y木:わかりやすいな。その設定があれば、あとはカーチェイスをみせればええもんな(笑)

S原:とにかく、このころのカーアクション映画は、かっちょいい車が爆走して、ド迫力のカーチェイスを繰り広げるというパターン。ありがちともいえるし、わかりやすいとも言える。スーパーカーブームもあったしな。

Y木:でっかいトレーラーでビールを運ぶねんな。

S原:そうそう。トランザムは、囮というか警察の眼を反らすために走りまくるねん。ちょっと無理がある設定やけどな(笑)この映画自体は、変形の珍道中ものなんやけど、牧歌的という表現がピッタリ。途中で花嫁姿の女性も仲間に加わったり、追いかけてくる保安官もテキサス出身で小太りで、わかりやすい(笑)

Y木:保安官が、頭の悪い息子と一緒に追いかけてきたたやろ。

S原:うん。花嫁姿の女性の結婚相手やねん。でも、なんで結婚式から逃げてきたのかわからん(笑)

Y木:結婚相手が嫌やったんやろ?

S原:それやったら、結婚式しなかったらええやん。

Y木:まあそれを言ったらおしまいじゃないの?(笑)

S原:パトカーがしつこく追いかけてくるのも、当時の定番やな。いろいろな場面に時代を感じて楽しいで。主人公に追いつけない保安官が「おれをコケにしやがってー」と悔しがったり、トランザムがやたらと後輪を滑らして走るとか、人を見つけてギュギュギュとドリフトして横付けして停めるとか、トランザムが川を飛び越えたあと、パトカーは川を飛び越えられず落ちるとか。もういまのB級映画でも見られないベタな場面のオンパレード(笑)でも、不思議と楽しめる。なんなんやろ、この感覚は?

Y木:まあ、この映画のリズムにのったってことでしょ?

S原:そうかもな。そう考えると古い映画も全然ありやな。

Y木:こういう映画は宣伝もしやすいし、迫力ありそうやから映画館で観てみようか、という気になるんやろうな。そう考えると、ほんまに時代を感じるなあ。

S原:いま「迫力ありそうやから映画館に観に行こか」というヤングがどのくらいいるのか…というか、いまのヤングたちは、そもそも「デートで映画に行く」っていうのもあるんやろか?

Y木:どうなんかなー。あるんやろか。

S原:あ。いま思い出した。そういえば、むかし「ウォーターワールド」をデートで観にいって、その日にフラれた友達がおったなー。あの映画を観ても、とくに会話は弾まんからなあ…選択ミスやな(笑)

Y木:おれの友達は初期の「ワハハ本舗」、作り物のうんこが客席に飛んでくる舞台を初デートに選んだやつがおったで。もちろんすぐ別れた。

S原:選択ミスやな(笑)そういえば、この映画と同じ頃に、邦画では「トラック野郎」シリーズがあったやろ。菅原文太のやつ。

Y木:監督は鈴木則文。一部で再評価されてたり、なかったり、やな。

S原:鈴木則文は、ぼくにとっては「パンツの穴」の監督やけどな。あれはものすごい破壊力やった…(笑)それで「トラック野郎」シリーズも時間内に荷物を届けるという同じ設定がたまにあるねんけど、やっぱり、こういうのはアメリカ映画のほうが上手やなあ。あっちは、メインのほかに小さなエピソードが多すぎて迷走気味でな。それもつまらないエピソードばかり。再評価の動きもあるんやな、知らんかった。というか再評価ってほんまか?(苦笑)

Y木:まあ、ああいうは、のんびりと観る映画とちゃうの?それで、この映画のラストは、たしか制限時間ギリギリに間に合うねんな。

S原:そうそう。でも、今度はボストンまで運ぶという賭けをもちかけられる。うまくいけば倍。だめならゼロ。もちろん、アメリカンな主人公たちは、賭けにのるのさ!で、おしまい。

Y木:うわー、ラストも時代を感じるなあ。

S原:さあ、みなさん。70年代のカーアクション映画をのんびりとビール片手に楽しんでください。この映画をみたら、ユニクロで赤シャツを探したくなるのは違いありません。かっちょいいトランザムのエンジン音をBGMにウトウトするのも一興ですよ。マストバイです!

「ロスト・マイウェイ」(2004年)の巻

ロストマイウェイ [DVD]

 

S原:今回は、こちらですよ。

Y木:なにこれ?

 

(あらすじ)

『レポマン』にオマージュを捧げたスローライフPUNKムービー。メジャーデビューを夢見る3人組の中年バンド。ある日、仲間のひとりが超能力を身につけてアレックス・コックスが特別出演。

 

S原:まあ、普通の人はまずこの映画は観ない…というか知らんやろうな。主演の松重豊ファンが観るかもしれんけど、SNSでもレビューがほとんどないくらいの超マイナー映画やねん。もちろんぼくも、ワゴンコーナーで出会うまでは、全く知らんかったし。

Y木:あらすじに「レポマン」とかアレックス・コックスとか書いてるけど、懐かしいなあ。でも、観たかどうか覚えてないなあ…(苦笑)そもそもアレックス・コックスって、そんな有名か?オマージュを捧げるようなオッサンとちゃうやろ。

S原:なんかカルト映画監督ってことで、一部に熱心なファンがいるらしい。「シド・アンド・ナンシー」が有名かな。「レポマン」は、映画の本で「これは知られざる傑作だ!」みたいに紹介されてて、ぼくも観たで。

Y木:「レポマン」は、どうやった?

S原:全然おもろなかった…(苦笑)

Y木:脱力系というかダラダラと言うか、まあダラダラした映画という定義はよくわからんけど、おれはそんな方が好みかもしれん。そういうノリが苦手ってこと?

S原:苦手と言うほどでもないんやけどこの映画も全編脱力した感じやったな。

Y木:へー邦画には、そういうノリは珍しいんとちゃうの?

S原:そやな。失敗してダルい映画はたくさんあるけどな(笑)この映画では田舎が舞台やねん。ほんまにパッとせえへん感じの町で、中古車屋さんを経営している松重豊が主人公。そのまわりの知人(中年男性)たちも惰性で生きてるって感じでな。もちろんお客なんか来ないし、中古車屋の隣の空き地でバンド演奏とかしてるけど、それも下手。どうしようもない中年男性たちの物語で、わざとらしい演出やと感じると同時に、なんか妙にリアルやねんな。

Y木:実際おるからな、そういうヤツらは。

S原:あんまり僕もワゴンコーナーとか漁ってるから他人のことは言えん…(苦笑)それで、その中の1人が放射能の影響で、目からビームがでるようになる。そのビームを浴びると人間は消滅してしまうねん。

Y木:あーそこが「レポマン」やな。それにしても、目からビームって。しかも、放射能の影響って(笑)

S原:原子力発電所(?)からできてたトラックの荷台から、ドラム缶が落ちるねん。そのドラム缶を空けた影響で、目からビームをだせるようになるという設定やな。

Y木:うわー、すごい設定…

S原:でもって、目からビームがでることで、小さな騒動が起きるというストーリーやねん。

Y木:あんまり面白くなさそう…いや観てないのに、言ってはいかんな()

S原:まあな。展開の遅い映画が苦手な人にはお勧めできない。うだつの上がらないオッサンたちの物語やから、すがすがしさの欠片もない。よく言えば、テンポがゆったりとしている、悪く言えば迷走している。全編にわたり閉塞感があるし、おまけに風景までどんよりしている。でも、なんか変に印象に残る、そんな映画やな。

Y木:でも、それってワザとやろ?

S原:と思う。キャストとかも松重豊以外は、ほとんど素人みたいな感じやし、これも「狙い」やろうな。上手くいってるかどうかは、評価は分かれるやろうけど。

Y木:狙った映画として観れば、それなりに楽しめるんとちゃう?

S原:じつは、ぼくは予備知識なしで観たから結構驚いた。ほんまにダラダラしてるだけの話なんやーって(笑)おっさんがバンドで人生の再出発を目指す話やと思ってたから。

Y木:それは真逆やな(笑)

S原:一応、おっさんのひとりが借金取りに追われたり、中学生がバイト募集と間違って訪ねたら、そのままバンドメンバーになったり、中学生の母親が塾の先生と夜逃げしたりするエピソードもあるけど、とくに大きくドラマチックでもなくストーリーが動くわけでもないねん。中学生もどこか冷めてるしな。

Y木:ふーん。

S原:この映画をみてつくづく思ったんやけど、いろんなタイプの映画があってええと思うねん。好みはあるにせよ、ハリウッド風やったり高尚な映画だけではやっぱり困るやろ。そういう意味ではこの映画はOKやねん。ただなー、この映画では、惜しいというか、残念なところもあるねんなー。

Y木:どこ?

S原:ラストがなー。もうすこ上手くできたのになあ、って思う。

Y木:ラストはどうなるの?

S原:目からビームがでる特技を買われて、おっさんの1人が紛争地帯(海外?)に連れていかれるねんけど、松重豊と中学生が迎えに行くねん。そのまま、みんなで車で帰るねんけど、途中で中学生だけ車から下すねん。「これでサヨナラだ」って感じで車は去っていく。あわてて中学生は追いかけるけど、みんなビームで消滅してしまう。そこでおしまい。

Y木:そういう終わりなんや。残念なところって、どの部分?

S原:すこしくらいベタで良いから、ラストは「やや甘く」作っても良かったんとちゃうかな?と思ったわ。

Y木:甘くって?

S原:観客は、ダラダラした主人公たちが「区切り」をつけるために、最後に自死を選ぶと解釈できるように作ってるから、すこしペーソスというのか「バカバカしいけど笑える哀しみ」というのか、そんな雰囲気をだしてもよかったのに、と思う。そのほうが、前半のダラダラした感じが余計に生きるような気がするねんけどな。

Y木:えー…でも、それってなんか今までの日本映画って感じやん。たぶん、そういうセンチメンタルな感じを排除した映画を作りたかったんやろ?乾いた感じというか。

S原:うーん、そう言われればそうかもな。もしかしたら、ぼくは、「ダラダラしている中年たちの最後」というものに思い入れがあるのかもしれん。

Y木:おまえの言わんとすることはわかるけど、でもこの映画の趣旨とはちゃうと思うなー。もっといままでの、映画の文法を外したかったんちゃう?だからこそのアレックス・コックスでしょ。

S原:なるほど。

Y木:まー観てないから、おれも的外れなことを言ってるかもしれけど。

S原:じゃあ、観てみる?DVD貸そか?

Y木:いや、ええわ。

S原:なんやねん。さあ、みなさん。この映画は低予算です。出来は良くありません。普通の意味では面白くもないです。でも、変な映画なのは間違いありません。観終わった後に、言葉では言えないような印象が残ります。いままで観たことがない映画を探している人、閉塞感のあるチープな映画を求めている人は、マストバイですよ!いやあ、変な映画やったなあ…