あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

フランス映画カルト3番勝負!「奇人たちの晩餐会」(1998年)の巻

 

S原:ボンジュール!フランス映画カルトシリーズ、今回はこちら!

Y木:あ、なんかいかにもフランス映画って感じかも。

 

(あらすじ) 

パリに住む出版社社長のピエールは、毎週友人たちとディナーを取ることを習慣としていた。しかし、そのディナーは単なる食事ではなく、仲間内では「奇人たち(バカ)の晩餐会」と呼ばれていた。それは、毎回メンバーがこれはと思うゲストを一人ずつ連れてきて、その奇人変人ぶりを皆で笑うという悪趣味なものであった。

 

S原:結論からいうと、この映画は面白いねん。

Y木:そうなんや。たしかに、ストーリーを読むと皮肉やユーモアやドタバタドラマが混ざり合っていて、フランスらしいな。

S原:この映画を語る前に、すこし説明をしておくと、じつはこのブログでは、バカとかアホとか使わないようにしてるねん。我々2人は生まれも育ちも関西人なので、実際の会話では「アホやなあ」とか「おまえ、アホちゃうか」とか言ってるけど、文字にすると印象が違うから、というのが理由やねん。これはY木氏のアドバイスね。

Y木:そうやったかな。たしかに、文字と言葉では印象が違うからな。

S原:あ。関東の人は「バカ」を使いますけど、われわれ関西人は、「バカ」じゃなくて「アホ」を使いまんねん。そこんとこは堪忍しておくれやっしゃ。

Y木:そんな言い方は、関西でも普段言わへんやろ。

S原:でも、この映画を話すときは、バカとかアホという言葉を使わな説明できない。だって、この映画は、バカとかアホがテーマやから(笑)

Y木:今回ばかりは例外ってことやな。

S原:この映画やけど、いつものように予備知識なしで観たら、ほんまにアホみたいで面白かった。あ、これは誉め言葉ね!

Y木:この映画は、コメディやろ?「裸の銃を持つ男」みたいな感じ?

S原:登場人物が「天然」で、周りの登場人物たちが振り回されるという意味では一緒やけど、テイストは全然違う。なんというか、こっちのほうが単純やけど凝ってると言えばええんかな。

Y木:へー、そうなんや。

S原:まず設定がおもろい。だって「晩餐会に(出席者が1名ずつ順番に)バカを1名呼んできて、(バカ具合を楽しみながら)一緒に食事を楽しむ」やで!この設定を考えたやつは天才やわ。これに匹敵する設定って思いつく?

Y木:そうやな。「悪魔の毒毒ハイスクール」(1986)くらいとちゃう?だって、あの映画の設定は『普通の高校の生徒が、高校の隣にある原子力発電所の影響でパンクになってしまう』やから(笑)

S原:あー!あれは滅茶苦茶な設定やったなー!(笑)放射能の影響でパンクロッカーになるって。どの角度から見てもダメやろー(笑)

Y木:なんか、おまえ今回はテンションが高いな…

S原:この映画の話をすると盛り上がるでえー。主人公がバカな男(ピニョン)を見つけて、例の晩餐会に連れて行こうとするのがストーリーなんやけど、そのバカな男に散々主人公が振り回される…ありがちなコメディといえば、その通り。でもピニョンの設定が最高やねん。だって、このピニョンは、税務署勤務で『マッチ棒で建物等を作る趣味』があるバカやねんで!また自分でつくった建物(マッチ棒を何万本も使ったエッフェル塔とか)を写真で撮って、延々と自慢する。晩餐会に行きたい理由は、お偉いさんたちに自分の作品の写真集をだしてもらうためというところが、なんともまた(笑)

Y木:ジャケットの人やろ。結構、微妙な感じが…(笑)

S原:「この人もしかして…?」というギリギリのラインやねん(笑)しかも、いつ晩餐会に連れて行くんだろうと思って観ていたら、結局晩餐会にか行かなかった(笑)あとで調べると元は舞台らしい。そういわれれば、納得。たしかに、ほとんど部屋の中での会話劇やから。

Y木:三谷幸喜みたいな感じ?まあ、もちろんおれは観てないけど。

S原:あくまで個人の印象やけど、三谷幸喜のほうが、ガッチリつくっている感じはする。まあ三谷も、珍作映画を作っているらしいから(笑)あ、珍作というのは「ギャラクシー街道」(2015)のことね。この映画ともいつかワゴンコーナーで出会えるんだろうなあ、楽しみだなー、ワクワク!

Y木:いやな楽しみ方やなあ…結局、この映画は会話劇の面白さってこと?

S原:そうそう。ピニョンが良かれと思ったことをするんやけど、どんどん悪い方向へ転がっていく…というベタな展開やけど、うまく出来ていて単純に面白い。

Y木:そのへんはやっぱり舞台の脚本を上手く料理してるんやろうな。 

S原:そう思うわ。例えば、ピニョンを晩餐会に連れて行こうとした主人公は、ギックリ腰で歩けなくなるねん。ピニョンは根が優しいから、主人公のためにいろいろなことをしてくれる。ところが、ちょっとオツムが足りないから(善意での行為のはずなのに)ことごとく裏目に出る。妻で愛人(浮気相手)と間違って、家から放り出したり、主人公を助けるために(作家に)電話をしたら映画化の権利を買ったり、税務査察官に対して、(主人公が)脱税している証拠を全部見せたり…

 Y木:なるほど。なんとなく面白さが分かるわ。

S原:あ、ひょっとしたら、まじめな人は「他人をバカだと笑う」ということで気を悪くする人もいるかもしれんな。でも、ちゃうねん。この映画では「他人をバカだと笑う周りの金持ち達もバカだよ」「こんなバカな映画を作る俺たちもバカさ。そして、こんな映画を観ているあんたもバカなのさ」というメッセージが、ほんの少しだけあるねんな。

Y木:ほんまか、それ?

S原:いや、わからん(笑)

Y木:なんやねん。

S原:まあでも、一回観てほしいなあ。ピニョンの破壊力はなかなかすごいから(笑)このレベルって、もう「アパッチ野球軍」(1970~1972)くらいしか思いつかないで。

Y木:うひょひょーすごいなー、アパッチ野球軍かー(笑)

S原:なんか大げさかもしれんけど、こんな『バカな映画をちゃんと作る』って、やっぱりフランス文化の奥深さみたいなのを感じたなあ。

Y木:大げさやなあ。

S原:でもな、アメリカ(ハリウッド)は、いろんなジャンルはあるけど、よく似てるやろ。基本的に多くの観客に受けるように作るし。でも、フランス映画は、シリアスもコメディもアクションも普遍性と作家性が混じってるような作風が多くて、このへんが中毒になるのかもな。

Y木:言いたいことはわからんでもない。 

S原:しかも、この映画は80分でコンパクトにまとまっているというのもグーやわ。ダラダラせずにスパッと終わるしな。

 Y木:今回は褒めるなあ。

S原:この映画を観ていろいろ考えたのよ。どうせ、100年度はみんな生きてないやろ?それやったら楽しく生きるほうがええやん!

Y木:なんか、前向きやなー。今回のブログの紹介で「観ようかな」と思う人もおるんとちゃうの?

S原:あ。あんまり期待しすぎたらダメよ!(笑)「どうせバカバカしい映画なんやろ?」と気軽にみてほしいかな。

Y木:たしかに期待すると、ただのアホな映画かも(笑)今回のフランスのカルト映画3本シリーズは、どうやった?

S原:単純に面白いのは「奇人たちの晩餐会」。当時のファッションとか時流に興味がある人は「アイドルたち」がおススメ。観終わった後に、だれかと何かを語りたくなるのは「小さな悪の華」かな。やっぱり、レアというかカルト作品という評判だけあって、どれも、なかなかクセのある映画ばっかりやった。

Y木:なるほど。

S原:さあ、みなさん!この映画はマストバイです!バカによるバカのための映画です。恥ずかしがらなくてよいのです。もう賢くふるまう必要はありませんよ。みんなで頭をからっぽにして映画を観ましょう。今度、一緒にマッチ棒で通天閣とかを作らへん?

Y木:作るか!

 

フランス映画カルト3番勝負!「アイドルたち」(1968年)の巻

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S原:みなさん、コマンタレブ?フランス映画カルトシリーズ、今回はこちらです。

Y木:ほー。

 

 (あらすじ)

1960年代のパリを舞台に、アイドルたちの記者会見から華やかな世界の嘘や裏側などが暴露される物語を描いた、マルク’Oが贈るフレンチ・ヴィンテージ・シネマ。ビュル・オジエピエール・クレマンティ、ジャン=ピエール・カルフォンほか出演。

 

S原:あなた、フランス映画好きやったやろ。全体としてどんな印象がある?

Y木:いや、一言では言えんなー。同じ時代でもゴダールトリュフォーはやっぱり違うし。なんというか作家ごとに違いすぎて、とても全体では話せん。

S原:たしかに。とくにフランス映画は作家性とかよくでる傾向があるかもな。この映画は知ってた?

Y木:いや知らんかったなあ、こんな映画。

S原:もとは舞台みたい。マルク‘Oという舞台演出家がそのままこの映画の監督をしている。この人は、演劇界のゴダールというニックネームらしい。

Y木:前衛的ってこと?

S原:うーん。たしかに挑戦的というか前衛的というのか、そんな映画になってるけど、どうやろうか。ちょっと観るのが辛いというのが正直な感想かな。

Y木:そうなんや。おもしろそうやけどな。

S原:ほとんどストーリーらしいストーリーはないねん。一応、イエイエという音楽ブームにのったアイドル3人の物語やけど、すこし売れ上げが落ちたり、私生活を絡めて(恋愛関係)また売り出したり、という感じで大してことはなかったな。レコード会社とか芸能事務所の描き方も、ステレオタイプやし。

Y木:みどころは、やっぱり歌やダンスのシーン?

S原:そうやな、舞台(テレビの撮影現場など)で歌うシーンが大半やけど、音楽(当時のフレンチポップス)に興味がない人には、きついと思う。当時の振り付けがちょっと面白いけど、まあ大したことないし(笑)

Y木:えーでも、カルト映画なんやろ?

S原:これは、カルトというかレアというか。なんと言えばいいのか…ただ、この映画ではものすごい長所というか売りがあるねん。

Y木:どこ?

S原:登場人物たちが着るファッション(とくにアイドルたちが着る服)が、すごい独創的で面白いねん。ファッションに疎い、もっと言うとユニクロとブランド服の区別がつかないレベルのぼくでも、ここででてくる衣装は興味深かった。あれはなかなかスゴイ。だから、そういうところは(歴史的な)価値があるかもしれん。

Y木:奇抜なファッション?

S原:うーんサイケというのか奇抜というのか、ぼくの語彙力ではうまく言えないけど、そうそう昔に「ディック・トレーシー」って漫画風の映画があったやろ?あのカラフルな衣装をちゃんと人が着れるようにアレンジしたって感じかな?

Y木:「ディック・トレーシー」か。覚えてないなー、いつものことやけど(笑)要するに、これはアイドルの話なのね?

S原:その通り。アイドルとして虚像を売り物にする(私生活も嘘で話題作りをする)という物語やねん。

Y木:どういうアイドルなん?

S原:ちゃんと個性があるねん。これは今も昔も同じやな。エキセントリックかつコケティッシュな「狂乱ジジ」、不良をモチーフにした「短刀のチャーリー」、占い師という設定の「魔術師シモン」。女性1男性2のグループやねん。

Y木:なんかネーミングが時代を感じる…(苦笑)どんな歌を歌うの?ラブソング?

S原:ラブソングも歌うけど、ほかに「タツノオトシゴの唄」とか歌うから、やっぱり皮肉というか揶揄している部分はあるんやろうな。

Y木:「タツノオトシゴの唄」?

S原:「タツノオトシゴは、足がないから靴がはけなーい」とかそういう歌やったかな。

Y木:なんか面白そうやがな(笑)イエイエという音楽はどうやった?なかなか、フランスのポップスなんか聞く機会がないやろ。

S原:初めて聞いたけど、とくにユニークには感じなかった。ところどころ、日本のアイドルソングと似てるかも、と思うくらいで。うーん…ポップ音楽の歴史のなかで、このイエイエがどんな評価されてるかは知らん。でも、1968年といえば、ビートルズが「アビイロード」、ローリングストーンズが「レット・イット・ブリード」を出した年やで。マイルス・デイビスは「イン・ア・サイレントウェイ」を発表してる。このへんと比べると可哀そうかもしれんけど…結局、イエイエは一時期流行しただけの音楽のままで終わって、いまは誰も聞いていないのが現実やろ。それも、なんとなく納得できるなー。

Y木:要するに、大したことないんや。

S原:ぼくはそう思う。例えていうなら、いま竹本孝之の「とっておきの君」をだれもカラオケで歌わへんのと一緒とちゃうかな?

Y木:そんな歌、知らんから、おまえの例えが正しいのかさえも判断でけへん…

S原:まあ、この映画の欠点は、アイドル本人たちが何を考えて、どう感じているのかがイマイチわかりにくいってことかな。(売れるために)割り切っているわけでもないし、葛藤しているわけでもないし、キャーキャー言われるて嬉しい・うっとおしいというのも、ぼくにはわからんかったな。お金儲けでもないみたいやし。

Y木:それこそ、わざとやろ?それが狙いというか。本人たちは何もない空虚な存在ってことじゃないの?

S原:うーん。そうなんかな。一応、本人たちも少しは悩むねんけど、まあ観客としてはどうでもええというか(笑)普通の映画と思っては楽しめないと思う。あくまでも、当時の芸能・カルチャーを楽しむ映画とちゃうやろか。

 Y木:なるほどー、貴重といえば貴重かもな。

S原:たまらなく面白く感じる人もいると思うけど、今回ばっかりは「人それぞれ」としかいいようがないなー。

Y木:まあ、こういう映画もあるってことやな。

S原:さあ、みなさん。カルトというよりもレアな映画ですが、当時のファッションに興味がある人におススメですよ、モナミ。ちょっと変わった映画を観たい人やフランスポップカルチャーに興味がある人はマストバイですよ!それ以外の人は…正直に言ってお勧めしません!では、オフボワール(さようなら)!

 

 

 

 

フランス映画カルト3番勝負!「小さな悪の華」(1970年)の巻

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S原:さあ、フランス映画カルト作品を紹介するシリーズ、最初はこちらですよ、モナミ!

Y木:あー、名前だけは聞いたことあるぞ。DVD出てたんや。 

  

 (あらすじ)

厳しい寄宿学校の生徒、アンヌとロールは「悪の華」を耽溺する15歳の少女。悪に魅せられた二人の少女は、バカンスを利用して悪の限りをつくし、ついには殺人にまで手を伸ばす…。フランスでは上映禁止、イタリアやイギリスには輸出禁止と、当時公開されたのは日本とアメリカだけだった禁断の映画が遂に蘇る。

 

S原:いきなりやけど、カルト映画って(このブログの読者に)意味わかるやろうか?

Y木:カルトといっても、いろんな定義があるけど、ここでは単純に「一部に熱心なファンがいる」「賛否の物議を醸しだす」ような映画でええんとちゃう?

S原:そうやな。実は、大学(映画サークル)にはいって、すぐに洗礼をうけたのがふたつあるねん。それが「シュールレアリスム」と「カルト」やった。全然、そういう世界を知らんかったから、うわーと驚いたわ。

Y木:たしか、おまえ高校生の時から映画ファンやったんやろ?そういうマイナーな映画があるとは、知ってたんとちゃうの?

S原:正確に言うと「名前だけ知ってる映画」やったから。だから、観たいなー、どんな映画なんやろー、とよく想像してたなあ。

Y木:たとえば?

S原:たくさんあるけど、「エル・トポ」「惑星ソラリス」「まぼろしの市街戦」「アンダルシアの犬」とか。映画の本で紹介されているけど、実際はなかなか見ることが出来なかった映画やな。いつまで待ってもテレビでも放映せえへんしな(笑)

Y木:そりゃせえへんわ(笑)たしかに、当時は「観たいけど観れない映画」ってあったからなあ。いまはかなり観ることが出来るようになったと思うけど…この「小さな悪の華」もそんな感じの1本やったってこと?

S原:いや正直に言うと、この映画自体を知らんかった…(笑)DVDの裏面をみて、へーこんな映画があったんや、と。

Y木:おれはタイトルだけ知ってたな。フランス映画が好きやったし。でもおまえがこの話をするまで、一生思い出さんかったと思う(笑)これは、結局どういう話なん?

S原:主人公2人は、修道院の生徒やねん。ボードレールランボーロートレアモンの詩にのめりこんでて、魔術というか背徳というかそういう世界に憧れる。2人だけの秘密の儀式をしたり…そのあたりも妖しいけど、やがて、農夫に自分の裸身をみせて誘い込んだり(襲われる寸前で逃げる)、枯れ草を燃やしたり、小鳥を殺したり(それをみて悲しむ人の姿をみて愉しむ)、どんどん行為がエスカレートしていく。

Y木:ほう。

S原:サタニズムというのか悪魔崇拝というのか、そういう世界にハマってしまって、本人たちは「悪いことをしてしまった」という罪悪感はないねん。

Y木:なるほど。

S原:いつものようにふざけて(大人の男性を)誘惑しているうちに、少女のうちの1人が男に襲われそうになるんやけど、大人の力が強くて今度はいよいよ危ない…というところで、もう1人が陶器で頭を殴打して、男は死んでしまう…

Y木:とうとう人を殺してしまうんか。

S原:あわてて隠ぺいするねんけど、当然警察は捜査する。やがて2人は怪しまれるわけ。それで、警察に捕まるくらいなら、いっしょに死のうと2人で決めるわけやな。保護者たちが来る発表会で、舞台にたった2人は抱き合ったまま体に油をかけて、自分たちの体を燃やしてしまう…でおしまい。

Y木:へえ、話自体は一直線というか単純というか…それでも、なんか話をきくだけで気持ちがなんか暗くなるなあ。悪魔崇拝かあ。

S原:いやー、ぼくも中学生時代も悪魔的なものとか病んでいる物語・設定に魅かれてたから…そんな詩を書いたりな。あー恥ずかしい(笑)だから、あんまりこの映画の2人のことを馬鹿にできないねん。もちろん、こんな悪戯というか犯罪はしなかったけど、今でいう完全な「中二病」(厨二病)ってやつやな。

Y木:まあ、中学生あるあるやな。おれは、そういうのはなかったけど(笑)

S原:さっきも言ったけど、この映画は「カルト映画」とよく紹介されるらしい。きわどいヌード描写があることを指摘するレビューは多いけど、いまはもっと過激なものもあるし、さすがに時代を感じるかなあ。

Y木:性的なところよりも、やっぱり反宗教的な部分が問題視されたんとちゃう?

S原:うん、そう思う。ヌードはともかく、こどもが大人を誘ったりする淫靡なところや2人で焼身自殺するというところが、上映禁止になった理由やと思う。当時公開できたのは日本とアメリカだけやったらしい。たしかに、この映画では「2人が間違っている」という描き方でもないしな。

Y木:でも、「2人は正しい」という描き方でもないやろ?

S原:映画としては、別に2人の行為の善悪に触れてないねん。なんというか、意外と淡々と描いてるというか。だから、ぼくは主人公たちに感情移入もせんかった。でも、ここは人によると思うで。トラウマになるほどのショックを受ける人もおるやろうし。ラストよりも、さりげなくスゴイのは、小鳥を殺す場面やと思う。ここは、ほんまに(小鳥を)殺していると思う。

Y木:それは…人によっては、動物虐待やと憤慨するやろうな。

S原:そういうのも上映禁止の一因かもしれん。ぼくは、この小鳥のシーンで「泥の河」(1981)を思い出したのよ。これは観たやろ?

Y木:観た。いやあ、あの映画は良かった。

S原:あの映画では、こどもがカニを燃やす場面があるんやけど、まるで幻想のようやったやろ。こどもの無邪気さと怖さの隠喩のような、どこか悲しい感じもして…あんな感じではなくて、(小鳥を殺すのは)単に飼い主を悲しませるだけが目的やから、単純と言えば単純かな。

Y木:まあ「泥の河」とはテーマが全然違うから比べてもしゃーないかもしれんけど。

S原:そやな。ほかの映画の比較で言うと、「乙女の祈り」(1994)がよく似ている。実話がベースで、自分たちの世界にどんどん入り込む少女2人が主人公なんやけど、この映画では2人が作り上げた幻想の世界(粘土で作ったキャラクターが生きている架空の世界)に入りこむところがSFXで表現されていて、ここが見どころになってた。同じような題材でも、こうも違うんかと感じたな。

Y木:作られた時代もあると思うけどな。それで、最後の2人の体に火をつけるクライマックスシーンはどうなん?

S原:うーん、あんまり演出が上手くないねん。最後に2人が死ぬときに、(観客が)かっこよく感じるみたいな感じもないし…ここが上手く描くことが出来ていれば、映画としてはかなり印象が違ったはずやと思う。「せつなくて可哀そう」とか「残酷だがむしろ2人にとってはこれで良い」とか、いろいろな感想がでてきそうやったのに、ちょっと残念。

Y木:それでも「問題作」という感じはするな。そういう意味ではカルトかもな。

S原:さあ、みなさん。すこし変わった映画を観たい人、1970年当時の映画演出に興味がある人はおススメです。あまり期待しすぎると肩透かしを感じるかもしれませんが、どこかザラッとした印象が残ります。好き嫌いがはっきりしますが、お店でみかけたらぜひ手に取ってください。マストバイかどうかは、あなた次第よい週末を!ボンウィケン!

 

「ヴィタール」(2004年)「私が、生きる肌」(2011年)の巻

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S原:今回はこちらの2本立てです。

Y木:おー、なんか2本とも問題作の予感が…

 

(ヴィタールのあらすじ)

事故ですべての記憶をなくした博史(浅野忠信)は、なぜか医学書に興味を示すようになり、医学部に入学。その解剖実習で彼の班に若い女性の遺体が割り当てられた。博史は実習にのめりこみながら失われた記憶を取り戻しつつ、いつしか現実とは異なる世界を生き始めるようになる。そこには、涼子という女性がいた…。

 

(私が、生きる肌のあらすじ)

天才的な形成外科医ロベルが夢見るのは、かつて非業の死を遂げた最愛の妻を救えるはずだった“完璧な肌”を創造すること。そのため、画期的な人工皮膚の開発に没頭していた。やがて良心の呵責を失ったロベルは、監禁した“ある人物”を実験台にし、亡き妻そっくりの美女を創り上げていく…。

 

S原:今回の2本は、両方とも「死体」「肢体」「肉体」を扱っているねん。ふつうの人は敬遠するような異色作といって良いと思う。

Y木:もしかして…死体をレイプしたりするのんか?

S原:いや、ぼくもそれを覚悟したけどそうではなかった。「ヴィタール」の監督は、塚本晋也。「私が、生きる肌」の監督は、ペドロ・アルモドバル

Y木:2人とも作風・個性は全然違うけど、両方ともに、独自の個性があって熱烈なファンがいる監督やな。塚本晋也は、おれら世代にとっては、やっぱり「鉄男」やろうな。

S原:当時かなり話題になったからなあ。「自主映画でここまでやったやつがいる!」みたいな興奮はあったなあ。ただ実際に観たら、ぼくはあまり関心しなかったけども。

Y木:おれも全然ダメやったなー。でも、それこそ映画好きのツレが「すっげえアナーキー!こんな映画観たことないで!」って興奮してたのを覚えてる。

S原:もうひとりのアルモドバルという監督は実を言うと、名前だけなんとなく知ってた…かな。

Y木:えーペドロ・アルモドバルは有名やん!「神経衰弱ぎりぎりの女たち」(1988)で話題になったやろ!

S原:あ、そう?

Y木:おまえ、ゴシップとかワゴンの世界だけ詳しくなって、なんかゆがんだ世界に生きてるなー(苦笑)

S原:うーん1994年頃というと、結構映画を観てた時期なんやけど、なぜかスルーしてるなあ。「神経衰弱ぎりぎりの女たち」はどんな映画やった?

Y木:観たかもしれんけど、覚えてない。

S原:なんやねん。お前の記憶力の低下ぶりは特筆に値するなあ。

Y木:まあでも、今スペインの巨匠といえばこの人というくらいの人なのは間違いないで。

S原:あ。でも、あとでフィルモグラフィーをみたら「トーク・トゥ・ハー」という映画があって、「あーあの映画を撮ったやつか!」と納得したな。あれも、なかなか問題提起する内容やったなあ。

Y木:まあ有名であろうとなかろうと、別に監督(の個性)とか知らなくても映画は楽しめるから。逆に予備知識がない分、映画自体に向き合えるような気がするけどな。おまえも「予備知識がないほうが映画が楽しめる」って、よく言うやん。

S原:うん。そう思うで。でもなー、ぼくらが学生時代に、監督や脚本がどうとか、カメラワークがどうとか熱く語ってたあの情熱は、いったい何処へ行ったのか…?(遠い目)

Y木:まあな…(遠い目)まあそれはええとして、この2本はどうやった?両方とも賛否を呼んだんとちゃう?

S原:「私が、生きる肌」のほうは、たくさんの賞を獲ってるみたい。

Y木:ほー。この題材で賞を獲るかー。

S原:この2本を観ての共通の感想は、『脇役が主役を喰ってる』ってことかな。要するに、主演男優(浅野忠信アントニオ・バンデラス)が、相手役の女優(KIKI(キキ)、柄本奈美、エレナ・アナヤ)に完全に喰われてるねん。

Y木:浅野もバンデラスも主演クラスやん。それが喰われるって、すごいな。

S原:まず、「ヴィタール」のほうを話すと、浅野は記憶喪失の医学生やねん。少し前に交通事故で恋人を亡くしたトラウマがあるねんな。やがて浅野は、解剖の授業や実習に異様に興味をもつ。医学部の同級生でキキがいて、いつも一人でいるような浮いた存在なんやけど、なぜか浅野にアプローチをしてくる。キキという人は初めて見たけど、なんともいえない独特の雰囲気を持つ人でな。もちろん役柄もあるんやろうけど、人を射抜くような眼をしてててすごい存在感やねん。それでいて壊れそうなガラスを胸の内に抱えてるような、そんな人やったな。モデルもしているみたいやけど、いわゆる美形でもない。この人は良かった。

Y木:へー。

S原:この映画では、カギになる女性がもう1人おるねん。柄本奈美という人でな。この人はダンサーらしい。映画出演はこれ1本のみ。いやー、この人も、ものすごい存在感やった。同じダンサーでは、草刈民代(「シャル・ウィ・ダンス?」のヒロイン)がおるけど、初見の衝撃は柄本奈美のほうが上やと思ったわ。演技とかセリフなんかもうどうでも良くて、本当にそのまま(役のまま)に見える。さすがのダンスシーンも見応えがあった。

Y木:おまえが、俳優を褒めるのは珍しい気がする。

S原:あーそうかもな。じつは浅野忠信という俳優が苦手でな。なんか意味深な演技で、観ているこっちが頭を使わないといけない劣等感を感じたりするねん。ボソボソと喋るから、聞き取りにくいしな…(苦笑)ぼく好みの容姿でもないし。だから、この映画もスルーしようかな、と迷ったくらいやねん。

Y木:浅野が、2人の女性の間で揺れ動くというストーリー?

S原:簡単に言うと、そういう話。でも、ひとりはすでに死んでるから向こうの世界(死後の世界?)に会いに行くという感じかな。現実世界は解剖室で実習したり、暗い部屋に住んだりしてるけど、死んだ恋人とは開放的な海岸とかで再会するねん。ありきたりな対比やけど、悪い気はせんかった。

Y木:死後の世界にいる彼女と、現実世界での女性との変則の三角関係か。

S原:そうやな。でも死後の世界といっても、幻想なのか現実なのか浅野が考えている妄想(夢)なのか、よくわからないまま映画は進むから、関係性がハッキリしないといえばいえる。

Y木:もっと「死体」「肉体」とか「欲望」「衝動」とかを追求しているんかと思ったわ。

S原:もちろん、そういう面はあるで。解剖の場面は多いし、鉛筆で描いた解剖図(内臓とか神経とか)をスケッチも象徴的にでてくるしな。はじめに言った通り、死体解剖とかえげつない雰囲気かと思ってたけど、意外と全体的にはフワッと優しい雰囲気もあって不思議な映画やった、というのが僕の感想やな。性的なシーンはかなり重要なんやけどキレイに撮れてるし、そこも良かった。セリフも過剰に説明せずに過不足がない感じで、今まで観た塚本作品中で一番好きかもしれん。ラストも、前向きに終わるしな。

Y木:ふーん。暗くてドロドロしてそうやけど、ちゃうんや。良くないところは?

S原:塚本作品はノイズ系ミュージック(呼び方は分からん)が、よく使われるけど、本人が思っているほど効果を生んでないんとちゃうかな。これは感性の問題かもしれんけど、ときどき耳障りに感じる…あと、さっきも言ったけど、幻想と現実とが混在するような構成やから、観る人によっては「意味わからん」ってなるやろうな。でも、ぼくにとっては2人の女優の存在がすべてやったな。

Y木:なるほどな。じゃあ、もう1本の「私が、生きる肌」は?

S原:また「ヴィタール」とは全然違うねん。もっと即物的というか。バンデラスが形成外科医で、ある女性(エレナ・アナヤ)を『作っていく』というストーリーなんやけど、意外とバンデラスが狂っている感じはでていなかったと思う。

Y木:へー、ストーリーは十分狂気じみてるけどな。

S原:そうやねんけど、予想外にスタイリッシュに撮ったりして、ドロドロと言う感じではないかな。監禁される部屋も清潔感があるしな。この映画でのエレナ・アナヤは全身タイツで、ほぼ全裸に近い。無垢で外の世界をなにも知らない存在をよく演じたと思う。レイプされるシーンもあるしな。

Y木:え?レイプされるの?バンデラスが大事に作ってた「女性」やろ?

S原:だから、レイプした男はバンデラスに撃ち殺される。少しネタバレやけど、バンデラスは死んでしまった妻とそっくりに再生(複製?)するために、こんな行為(手術、実験、隔離)をしてるねんな。しかも妻は、亡くなった娘とそっくりやったから、同時に娘も再生することになるわけ。

Y木:おー…それは歪んでるなあ…

S原:本来ならバンデラスの狂気とか妄執がメインなんやけど、さっきも言った通り、エレナ・アナヤ(ベラ役)の雰囲気というか存在感がすごくて、そっちは霞んでるかな。このへんは観る人によって印象が変わるかもしれん。

Y木:うん?ちょっと待って。そもそも、再生というか改造しようとする元の体は誰の体?死んだ妻とか娘の体をそのまま使ったの?

S原:ちゃいます。

Y木:えー、まさか身元不明人というかホームレスの体とかを使ったの?

S原:ちゃうねん。これもネタバレになるけど…ネタばれが嫌な人はここで読むのをやめてほしい。じつは娘があるパーティで強姦されてしまうねん。そのショックで娘は自殺してしまう。バンデラスは、その強姦した犯人(男性)を監禁して、実験(形成手術)をしていく…

Y木:えー!じゃあ、奥さんや娘にそっくりに作っていく土台の人間(体)は、男ってこと?

S原:そうです。だから、性転換手術もします。

Y木:うわー、なんちゅう映画や…

S原:まあ、そのあたりは汚らしくは描いてはないけど、それでも「ちょっと待てよっ」と思うわな。

Y木:ラストはどうなんの?

S原:最後は、妻(娘)として「完成」したエレナ・アナヤが、バンデラスを撃ち殺す。そして、自分の実家(男性だった頃の実家)に帰る。みんなは息子が女性になっているので驚く…というところでおしまい。

Y木:そこで終わりかー。たしかに異色作かもな。今回、2本を比べてどうやった?

S原:映画の完成度では「私が、生きる肌」のほうが高いと思う。でも、個人的には「ヴィタール」のほうが印象に残ったわ。

Y木:まあ、そういうケースもあるやろな。

S原:さあ、みなさん、今回の2本はかなり強烈です。映画を観終わったときに、なにかを誰かに話したくなるのは間違いありませんよ。巷にあふれた「よく出来た映画」に飽きてきた人、個性的な監督作品を観てみたい人、「肉体」と「精神」などに興味のある人、なによりも演技の上手下手を超越した存在感を放つ女優をみたい人は、マストバイです!今回はなかなかすごかった!

「テンタクルズ」(1977年)の巻

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S原:今回はこちら。タコさんが襲ってくる映画です。

Y木:あー、これは知ってるで。

 

(あらすじ)

人間を襲う巨大ダコの恐怖を描くモンスターパニックムービー。カリフォルニアのビーチで人間が次々と行方不明になる。ひとりのベテラン記者が捜査に乗り出すが、協力者までもが何者かに襲われてしまう。そして、彼らの前に現れたのは巨大な怪物だった。

 

 Y木:あれやろ?「ジョーズ」の二番煎じやろ?

S原:おっしゃる通り。「ジョーズ」の大ヒットを受けて、世界中で動物パニック映画が作られてた頃の1本。これ、イタリア映画やねん。

Y木:あの頃のイタリアは、西部劇からホラーから何でもパクリまくってたから(笑)、当然こういう映画も作るやろな。

S原:この「テンタクルズ」は、DVD特別版が再発売されたりしてるから、マニアには人気があるみたい。でも、映画の出来は正直に言ってイマイチやと思う。まず、マカロニウエスタンでもよくあったように、アメリカンな俳優を連れてきて適当に作る姿勢がありありとみえるしな。

Y木:アメリカ人が俳優が出演してると、ちゃんとした映画と勘違いして(国際マーケットで)売れるという発想やろ。

S原:お金儲けしか考えてない奴らが作ってるから(笑)映画の出来なんかどうでもえんやろうな。しかし、イタリアって不思議やろ?だって、フェリーニヴィスコンティ、ベルトリッチとかおる一方で、ルチオ・フルチとか、ダリオ・アルジェントとかおるねんで(笑)

Y木:ものすごいカオス(笑)

S原:作る車は、あのカウンタックやしな。ワンアンドオンリーと言えばいいのか。たぶん当時のイタリア映画界は、混沌としたパワーが渦巻いてたんやろうな。でもそんな本流(?)とは別に、ちゃっかりと、こんな小遣い稼ぎの映画も撮るという(笑)あ、でもマカロニ魂も垣間見れる点があるで。たとえば、最初にタコに襲われるのは赤ちゃんやし、子供とか主人公の奥さんもやられちゃう。これはアメリカ製では、あまりない描写ちゃうかな。

Y木:娯楽映画なのにモラルも低い(苦笑)

S原:それにしても、味のあるジャケットやろ?イラストは生頼範義画伯。本当にこの人の絵は素晴らしい。素晴らしすぎて、この映画も面白いと誤解してしまう(笑)

Y木:ストーリーは「ジョーズ」と同じ?

S原:ほぼ一緒です。ただ、あんなに緊迫感はない…(苦笑)当時のB級パニック映画の通り、とにかく怪物(タコ)がでてこない。タコのアップ(普通のタコ)とか、断片的なカットばっかりが延々と続くねん。ちょっと良い場面もあるねんで。タコが出てくる前に、漁船に周りの海面がババババッと波打つショットとか、海底で魚が逆立ちして死んでいる場面も良かった。ちょっとシュールやしな。

Y木:え?魚が逆立ちして死んでる?

S原:一応、トンネル工事のために使用した電気振動装置のせいで、海生生物に異常な影響をあたえた、という設定みたい。その影響で巨大タコが誕生した、と。でも、そういう設定はあんまり製作者側も興味がないみたいで、ものすごい適当な感じやな。あ。そうそう、この影響で人間の死体もビヨーンって逆立ちで海面にあがってくるねん。海面から足だけ出てるねん。

Y木:それ、「犬神家の人々」のパクリやないか。あんなんまでパクるんか、イタリア人は。

S原:貪欲というか雑食やから(笑)劇中音楽が意外と面白くてな。なんか同じフレーズが繰り返される妙な感じのサントラで、はまってしまうねん。タコと闘うシーンに、変な男性コーラスが入ってたりして、「オーメン」(1976)からパクってるかも(笑)シンセの使い方は、ちょっとジョン・カーペンターみたいやねん。

Y木:カーペンターからは、パクったらあかんって。ショボいんやから

S原:この映画で「損した!」「☆ひとつの価値なし」とコメントしている人も多いけど、それは正解。とにかく、下手やから(笑)タコがたくさんの人を襲うという定番のシーンはあるねんけど、そのまえに延々とヨットレースが映ったりする。一応、ヨットレースの参加者を次々と襲っていく前というシーンなんやけど、あきらかに演出がアンバランスやねん全然、ドキドキしないしな。

Y木:人が襲われてキャー!がないのね。

S原:ないこともない。でも、観ているうちにどうでもよくなってくる…(苦笑)最後はもちろん巨大タコと対決なんやけど、主人公が世話していたシャチ2匹がタコと戦うねん。

Y木:シャチ?なんで?

S原:理由は聞いたらあかん。シャチは(主人公のために?)タコと闘うんやけど、なんやよくわからん。最後は、タコの足(触手?)にガブって喰いついて、やっつけておしまい。シャチがグイグイとタコの足を引っ張るのがクライマックス。そしてタコの足がちぎれて、おしまい。

Y木:うーん…

S原:さあ、みなさん、70年代ののんびりとしたムードと、イタリア人のバイタリティと同時に適当さ加減が味わえる映画です。巨大生物ならどんな映画でも好きな人、お寿司屋さんでイカじゃなくて、ついタコをいつも頼んでしまう人、珍妙なサントラ音楽ファンはマストバイです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロコダイルの涙」(1998年)の巻

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S原:今回はこちらです。吸血鬼の映画ですよ。

Y木:吸血鬼かー。

 

(あらすじ)  

自分を愛してくれる女性の血を飲まないと生きられない体の持ち主である、青年医師スティーヴン。しかし、彼が女性の血を吸いあげるとき、彼女たちはみな憎しみの目を向け、彼を落胆させてしまう。そんなある日、彼は不思議な女性アンと出会い、心ひかれていくのだが…。

 

S原:これは、いわゆる古風なドラキュラものではなくて、現代に隠れて生きる吸血鬼、というよりもヴァンパイアと言ったほうがええかな。一見、普通のイケメンが実は…ってことやな。

Y木:なんか、どこかで聞いた感じがするなあ。

S原:たしかに、深夜のアニメにありそうやけどな。この映画ではホラーテイストではなくて、静かな雰囲気を味わうラブストーリーって感じやねん。本で言うと、あらすじでグイグイ引っ張る小説ではなくて、文体を味わう小説という感じかな。

Y木:要するにストーリー展開はわかっているけど、映像とかキャストとかをみる映画ってことやな。主人公は、普通に生きてる人なん?

S原:職業は医師で普通に目立たないように生活してる。太陽の光も大丈夫やし、十字架も平気みたい。ところが、じつは女性の血を吸わないと生きていけない体質(種族?)であるというわけ。

Y木:血を吸われた女性は、同じよう吸血鬼になるの?

S原:ならへん。ここが従来のヴァンパイアものと違うところかな。血を吸われた女性は、失血でそのまま死んでしまう。だからジュード・ロウは殺人鬼でもあるわけやな。

Y木:片っ端から、女性の血を吸う感じ?

S原:女性ならだれでもええわけじゃなくて、「自分のことを愛した女性」の血でないとあかんという設定やねん。だから、次から次への女性を誘惑して、血を吸うというわけ。

Y木:なんかホストみたいやな。

S原:たしかに、ホストもヴァンパイアも同じかも…(笑)ジュード・ロウは、自分がイケメンなのを利用して次から次へと女性と付き合って、自分に恋愛感情をもたせるわけやな。

Y木:ブサイクな男やったら、すぐに死んでるってことか(笑)

S原:そうそう。この映画の最大の売りは「かっこいい男優がセクシーなバンパイアになる」ってことやろうな。まえにトム・クルーズも演じてたし。

Y木:なんか製作者側の女性に受けようとする媚びた意図がまるみえで、ちょっとなあ。

S原:それでも、世の女性たちは観ちゃうのよ。だって、このころのジュード・ロウはほんまに格好良かったから。「キャー!私の血も吸ってー♡」って思うわけやな(笑)

Y木:なんか、ちゃうような気がするけどな。

S原:まあ、いまのジュード・ロウは出歯亀みたいになっちゃったから、世界中に女性ファンは1人もいなくなったけどな。

Y木:出歯亀って。

S原:ちなみにジュード・ロウは、実生活でも大の女好きやねん。なんか女性なら誰でも良くて「欧米映画界の羽賀研二」というニックネームらしいわ。

Y木:おかしいやろ、そのニックネーム。なんで羽賀研二が世界基準になっているねん。芸能ネタはええから、この映画の話をしてくれ。

S原:あるとき、ジュード・ロウはいつものように女性の血を吸って、女性の死体を海に捨てる。ところが、ひょんなことから死体が見つかって、刑事がジュード・ロウを怪しむねん。死ぬ前まで恋人同士やったこともバレる。と同じ頃に、本気で愛してしまう女性が現れて…というストーリーやね。

Y木:たしかに女性受けしそうな展開やな。

S原:この頃のジュード・ロウは、明るいハンサムガイって感じじゃなくて、どこか屈折したような表情や役柄が得意やったから、ヴァンパイア役にピッタリと思う。でも、この映画ではジュード・ロウよりも、ヒロイン(エレナ・レーヴェンソン)が良くてな。

Y木:キレイで妖艶ってこと?

S原:逆にどこまでも「人間」って感じやねん。ジュード・ロウに翻弄されるけど、どこにでもいる女性のままなところが良いねん。最後は、彼がヴァンパイアであることに気付くんやけど、そこで逃げるしな。ベタな映画なら「あなたと一緒にいたいから自分の血を吸ってちょうだい!」となるやろ?

Y木:そうかー?おまえの妄想する設定って、なんか古臭いよなあ。

S原:自分では素直に話しているだけやけど(苦笑)このエレナ・レーヴェンソンという女優は、初めて見たけど、不思議な雰囲気の人でなあ。すごい顔が変わるねん。

Y木:顔が変わる?

S原:まず、すごく表情が変わる。あと角度によって顔の雰囲気が変わる。この映画の陰の主役は、エレナ・レーヴェンソンやと思う。ぼくが男やから、という理由かもしれんけども…

Y木:観てないからなんとも言えないけど、要するに主演2人をみる映画ってことなんやな。まあでも、よく考えたら現代に生きている吸血男性が、ふつうの女性恋におちたら最後は破滅しかないわな…

S原:いや、意外と共存できるかもよ(笑)

Y木:無理やがな。

S原:あ、ええこと思いついたで。すこしずつ飲ませてあげたら?

Y木:え?

S原:ちょっとずつ、女性がジュード・ロウに血をやったらどう?少しやったら女性側も貧血になる程度やろうし、女性も生き延びれるやん。指先から、チューチュー吸ってもらったら?

Y木:なんかやらしいな。理屈はあってるけど、絵的にはカッコよくないなあ。

S原:あ、ほかにも思いついたで。男性でもええのんとちゃうの?

Y木:え?

S原:ジュード・ロウを愛した男性もおるやろ?人の性向は自由やがな。男性でも女性でも血は一緒やろ、おんなじ人間の血液なんやから。

Y木:うーん、男性の血…男性の首筋に噛みつくのか…なんか抵抗あるなあ。いや、おれが噛みつくわけちゃうから、べつにええか(笑)まーそれにしても、自分を振り向かせておいて、あとで女性を傷つける(血を吸う)ちゅうのはなー、あかんやろ。

S原:あーあれちゃう?玉置浩二が、愛する石原真理子にプロレス技をかけてたんと一緒ちゃう?

Y木:ありゃただのDVやろ。

S原:でも、「いまでも…真理子を…愛してる」って言ってたで。

Y木:もうええって、その話は。おまえが思ってるほど、みんな盛り上がってないねんって。

S原:えー、そうなん…(しょぼん顔)

Y木:もうええから、最後の締めの言葉を言ってくれ。

S原:さーみなさん。今回の映画はジュード・ロウの立ち姿をみる映画です。ラブストーリーとしてもバンパイアものとしても、やや中途半端な出来ですが、妖しい雰囲気は充満しています。というか、それしかないです。さあ、首筋に愛する人の噛んだ後を残したい人は、マストバイですよ!

サッカー映画3本勝負「ゴール!」(2005年)の巻

 

ポスター画像

 

S原:サッカー映画、3本勝負。最後の1本はこれ!

Y木:へー、ちゃんとお金がかかってそうな映画やんか。

 

  (あらすじ)

プロを夢見てL.A.の地元サッカーチームで活躍するラテン系青年サンティアゴ(クノ・ベッカー)は、ある日スカウトに才能を見出され、ニューカッスル・ユナイテッドの入団試験を受けるチャンスを得る。父の反対を押し切り単身渡英し、逆境に苦しみつつも入団を果たした彼は、今まで以上に熾烈(しれつ)な競争と困難に立ち向かっていく。

 

S原:おっしゃる通り、結構お金がかかっています。FIFA国際サッカー連盟)公認のまともな映画です。有名なサッカー選手(ベッカムジダンなど)もチラッとでます。

Y木:さすがにベッカムくらいは名前を聞いたことはあるけど、サッカーを知らんから、どれくらいスゴイかわからん。

S原:あなたの好きな野球(ソフトバンク・ホークス)で例えると、工藤公康とか門田博光とか秋山幸二がゲスト出演し、セリフも言うって感じやな。

Y木:ごっついやん!言いたいことはわかった。それで、この映画はどうやった?

S原:うーん、正当なつくりと言うか…野球で言うとこれはストレートどまんなかの映画やなあ。村田兆治の全盛期のような。

Y木:なんか、野球の例えも古い選手ばっかりやがな。

S原:最近、全然野球みてないからごめんねー。

Y木:まあええわ。この映画はストーリー展開がストレートってこと?

S原:ストーリー、キャラクター、演出すべてにおいて、映画学校の教科書のような映画やった(笑)

Y木:FIFA公認やから、そういう映画にならざるを得ないんと違うの?

S原:でも残念ながら、この映画は面白くないねん。

Y木:えー、そうなん?せっかくの公認映画やのに。

S原:要するに主人公がサッカー選手として成功していく話やけど、正攻法というのか、立身出世物語というのか…

Y木:そういう映画やろ、だって。

S原:いくらなんでも、トントン拍子すぎるわー。「キャプテン翼」でももう少し葛藤があるで。だってな、あの若島津くんだって「なぜ、おれは日本代表の正ゴールキーパーじゃないんだ!」と怒ってロッカールームから出ていったやろ?

Y木:もちろん、おれは「キャプテン翼」なんか読んでないけどな。

S原:若島津は、「キョえ~!」って空手の手刀でボールを弾くねんでー。

Y木:なんやねん、そのキャラ。

S原:マンガの脇役でも葛藤があるってことなのよ。とにかく、さっきも言ったけど主人公がサッカー選手として、英国のプレミアリーグニューカッスル・ユナイテッドFC)に挑戦するストーリーなんやけど、挫折らしい挫折がないねん。本当は、もっと苦労するはずなんやけどな。

Y木:予定調和?

S原:うーん予定調和でも、演出が上手かったらやっぱり面白いやん。今回は失敗してると思うわ。いや、ちゃんと、飽きずに最後まで観ることはできるねんで。ストーリーも分かるし、キャラクターも区別できる。ロケにもお金をかけてる。でも肝心の主人公のキャラクター設定がなー…たとえば、主人公は子供のころに家族と一緒に、命からがらメキシコからアメリカの国境を違法に乗り越える経験をしてるねん。アメリカで試合するときも、脛あて(レガース)も買えないから、段ボールで代用したりするくらい貧乏なのに、あとで全然それが生かされない。そんな境遇なら、金とか食べ物に対する執着とか普通にあるやろ?他にも、成功者への妬みとか、ライバルの才能をみて焦るとか、そういう人間らしい感情があるはずやろ?それがないねん。

Y木:ふーん。まじめってこと?

S原:まじめなんはええけど、おめーは高僧かよって観てる途中に突っ込んだわ。人間なら誰でも内心ではドロドロしたものがあって当然やし、そもそもこの主人公は金もないのに単身イギリスに行って、サッカーで成功を目指すんやで。人生がかかってる状況やのに。こんな、漂白剤みたいに真っ白な主人公には、感情移入できないわ。

Y木:まーそういう暗い部分を排除したかったんでしょ、この映画では。

S原:百歩譲って、主人公はまっすぐで素直でもええとしよう。でも、周りもええ奴ばっかりやねん。すぐに主人公を助けるしな。頑固そうな監督とかええ味があるねんけど、うまく絡まへんねん。

Y木:人と人のぶつかりあいがないってこと?

S原:そうそう。当然あるはずのドラマがないから、なんか提灯持ちのスポーツ新聞記事をみてるみたい。デイリースポーツ(関西版)の阪神タイガースの開幕前のキャンプ記事みたいな。

Y木:あー毎回、今年の阪神がいかに逸材ばかりで期待できるかを書くヤツね(笑)

S原:何度も言うけど、映画自体はちゃんと作られてるし、予算もかかってる。ニューカッスル・ユナイテッドFCとかレアル・マドリードFCとか、実在のチームも全面協力してるし、サッカーの試合もすごい大規模で撮影してる。ハッキリ言って豪華やで。まあ、野球好きのあなたに分かりやすく言うと、トム・セレックが日本の野球に挑戦した「ミスター・ベースボール」の舞台が、中日ドラゴンズやったやろ?あんな感じやねん。

Y木:あれはショボかったやん…例えが間違ってるで、たぶん(苦笑)もうちょっと、この映画での主人公とまわりの関係を具体的に教えてや。

S原:たとえばこんな感じやねん。①イギリスに行きたいがお金がない → お婆さんがお金をくれる  ②イギリスに行くときに家族の反対がある → 親父がブツブツ言うだけ  ③主人公は南米系でイギリスではマイナーな人種 → ちょっとからかわかれるだけ ④素敵な女性と出会う → 偶然の出会いが続いてすぐにベッドイン  ⑤じつは持病(ぜんそく)があり他選手よりも不利 → 正直に報告して医師に相談して改善  ⑥出場機会があるも、チャンスをモノにできず → 一旦クビになるが、たまたまタクシーに一緒に乗ったスター選手のおかげで簡単に復帰  ⑦まじめに練習 → すぐに再チャンスが到来   ⑧でも約束の一か月で良い結果が出なかった → なんとなくサブチームに選ばれる  ⑨サブチームでまじめにサッカー → 一軍に昇格  ざっとこんな感じやねんで?

Y木:たしかにとんとん拍子やな…

S原:いよいよクライマックス。ここもすごい。 ⑩一軍ではじめてプレー → ゴールアシストも出来て、うまくできました。みんなにも褒められました。 ⑪つぎはチャンピオンズリーグ出場が懸かる大事な最終戦 → うまくできました。シュートも決めました。みんなにも褒められました。⑫主人公はなにもかも手に入れました。空に向かって「ウオー!」と喜んで、おしまい。

Y木:おしまい、かー。

S原:主人公は素直で真面目な努力家、周りは(少しだけ個性的だが)主人公を信頼している善人ばかり…なんというか苦労しそうになったら、とにかく主人公には幸運が続く。借金とか抱えても、佐川清が帳消しにしてくれたアントニオ猪木の人生みたいやろ?

Y木:知らんわ。

S原:もしくは、挫折がないまま、栄光も彼女も手に入れる「のぞみウィッチイズ」の主人公ボクサーみたいな。

Y木:だから、知らんって。

S原:なんか、この映画は3部作の第1作らしい。だから、ひょっとししたら、第2作で挫折を味わうんかもしれんけど…でもぼくは、もうこの1本で充分やな。

Y木:それで、サッカー映画3番勝負はどうやった?

S原:まあ、ワゴンコーナーで立て続けにサッカー映画をゲットしたから、いっぺんにみたけど、一番安定して面白いのは「天国へのシュート」、一番出来が悪いけど、意外と印象に残るのは「1/11 じゅういちぶんのいち」、一番ちゃんと作られてるはずやのに、全然印象に残らないのが「ゴール!」やな。

Y木:ふーん。なんかその感想って興味深いな。

S原:まあ、結局は「好み」なんやろうけどな。

Y木:なるほどなー。ま、おれはサッカーに興味がないからどの映画も観ないけど(笑)

S原:なんやねん。さあ、みなさん、主人公がサクサクと出世する物語が好きな人、主人公が苦労するのをみたくない人、そんなに努力しなくても人生が成功する姿をみるのが好きな人、なによりも「挫折のない人生」を知りたい人、そんな人はマストバイです!サッカー映画3本勝負は、これにておしまい!