S原:今回は三味線!
Y木:三味線かー。
(あらすじ)
“もっともギターが上手い俳優”と評判の高い柏原収史が主演を務め、津軽三味線に魅せられた自称天才ギタリストの成長と挫折を描いたスポ根ならぬ“三味根”青春ストーリー。CGやアニメーションを盛り込んだ奇想天外な三味線バトルが展開する。
S原:昔「クロスロード」(1986)っていう映画があったやろ。
Y木:あーギターバトルする映画な。
S原:あれにちょっとだけ似てるかな。あれも面白かったけど、これもええ味やねん。一般的にどれくらい知られてるかわからんけど、面白いで。
Y木:三味線が題材か。ちょっと珍しいな。
S原:うん。三味線の世界は、よくわからんけど、どうも達人たちが大挙して出演してるらしい。これは素人なりに音を聞くだけでわかる。いやはや、三味線がこんなに良いとは思わんかった。
Y木:そうなんや。

S原:この映画では、じつはユニークな演出があるねん。三味線という伝統音楽をまっすぐ扱う一方、途中でアニメがあったり、漫画的な演出があったり、コメディ+ファンタジー+音楽という感じで、良い意味でごった煮というか雑多な印象やねん。
Y木:漫画チックな映画?
S原:そうなんやけど、三味線シーンだけは本物やと思う。そこが面白い。ここまでやれば面白い映画がちゃんと出来るという見本かもしれん。期待してなかったから、びっくりしたわ。
Y木:ほう。「ごった煮の演出」って、具体的には?
S原:内容を説明する場面があるねんけど、これがラップ風で三味線ダンスミュージックで、これも良かった。バカみたいな歌詞やけど(笑)
Y木:いい意味でナンセンスなんやな。
S原:そうそう。どうも主演の柏原収史はギターが演奏できるらしい。それで、この映画では柏原自身が吹き替えなしで、三味線を弾いてる。4か月の特訓をして撮影に臨んだらしいけど、三味線の師範が驚くレベルやったんだとか。
Y木:それは宣伝材料やろ(笑)
S原:まあな。でも、こういう宣伝的なエピソードも信じてしまうくらい柏原収史の三味線の演奏はサマになっている。かなり努力したんとちゃうかな。
Y木:へーそうなんや。
S原:というか、この映画の魅力は2つ。ひとつは柏原収史の演技、もう半分は三味線を含むダイナミックな音楽、やと思う。
Y木:普通に見ておもしろい映画なんやな?
S原:その通り。キャストがみんなええねん。何度も言うけど、柏原収史は出色の出来。ほかにも、ミッキー・カーチスは相変わらず飄々とした存在感やし、賀集利樹もハンサムだけでない役どころをうまく演じている。主人公に複雑な感情を持つ鈴木蘭々も好感が持てるし、審査員の石橋蓮司まではまっている(笑) ただ、主人公が恋心(下心?)を抱く杏さゆりだけがちょっと、重荷やったように思えて可哀そうやったかな。
Y木:なんで?
S原:青森の田舎娘にしては、ちょっと化粧が濃い。
Y木:ほっといたれ。
S原:とにかくキャストが、役にピッタリとはまると面白くなるという見本みたいやった。で。あと、主人公のライバルで悪魔の三味線奏者がええでー。俳優じゃなくてプロの三味線奏者の新田弘志という人。セリフなんかなくても、すごい存在感やねん。ルックスもすごい。メタルみたいな長髪に真っ白なメイクですよ、あなた!
Y木:そりゃキッスやがな。
S原:森の十字路で、悪魔に魂を売ったという設定らしい。
Y木:おいおい…(苦笑) 映画としては、どんな話?
S原:主人公は3人組バンドのギタリストでそれなりに人気があるねんけど、最近ギクシャクしてる。記者会見でも失敗して、芸能記者に追いかけられる。あわてて乗ったタクシーに「下北(下北沢)まで」と言って、そのまま寝てしまう。気が付いたら「下北半島」に着いてるという(笑) なんだかんだあって、主人公は三味線の修行をすることになる。そこには、師範の孫娘がいて下心(恋心)を抱いたりしながらも、やがて三味線バトル大会に出場を目指す、という話やな。
Y木:単純というか漫画チックというか、やっぱり三味線を演奏するのがメインの映画なんやな。
S原:その通り。だからストーリーは大したことない。だけど、演奏シーンになると、雰囲気が一変する。ちょうどブルース・リーの映画に似てるかもしれん。
Y木:ブルース・リー?
S原:あれもカンフーの場面になると、途端に面白くなるやん。というか、「三味線は指で引くのでなく、魂で弾く」「考えるんじゃなく、感じるのだ!」というセリフがあるから、監督も意識してると思うで。
Y木:カンフーなんか興味ないからよくわからん。

Y木:もうちょっと、演奏シーンを具体的に教えてや。
S原:主人公がはじめて三味線で他流試合的なものをする場面があるねんけどな。相手は同世代のまじめそうな三味線奏者やねん。相手は伝統的な音楽を三味線を弾く → 主人公はギタリストやから「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を三味線で弾く → 瞬時に相手は「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を日本古来風の三味線アレンジに変えて演奏 → 主人公がショックを受けてガックリ…「負けた…」
Y木:あ、結構面白そうかも。
S原:やろ?

S原:他にも良い場面があるねん。映画の中盤で、さっき言った悪魔の三味線奏者と森の中で対峙するねん。強風が吹き暗雲がせまってくるなか、主人公と悪魔が三味線を弾きまくる。ここは森の緑もすごくキレイに撮れているし、カメラワーク、肝心の演奏といい、単純に素晴らしい。撮影には苦労したんとちゃうかな。
Y木:ほー。短所もあるんやろ?
S原:あるよ。ちょっと長いかなーと思う(127分)。単純なストーリーやから、もっとリズミカルにしてほしかったけど、どうしてもしっかりと演奏シーンを入れるとこれくらいになるんかもな。
Y木:なるほどな。ラストの大会は、どうやって勝負するの?
S原:ギターソロ合戦みたいに、三味線でバトルする。トーナメント方式やねん。主人公は、決勝戦で「悪魔の三味線奏者」といよいよ対決する。やっぱり空に雲がかかり稲光が光ります。主人公は、隠していたエレキ三味線(しかもギターと三味線のダブルネック)で挑戦するけど、ギターの弦が切れてしまう。果たして…?というのが、クライマックスやな。
Y木:なんかクライマックスもちゃんと盛り上げてる感じやな。
S原:そうやねん。でもよく考えれば、これって三味線の映画やで? ヤングが見に行くとも思えんし、よくもまあこんな映画にちゃんとお金をかけて製作するよなって、いい意味で呆れたわ。
Y木:たしかに、ヤングたちは観に行かないかもな。というか、三味線というだけで敬遠する人がほとんどちゃうの?
S原:そうかもなー。なんとなく敬遠してた人はぜひ観てくださいませ。三味線に興味がある人、柏原収史のファンはマストバイやと思う。ほかにも、三味線などの邦楽と洋楽の融合とかに興味がある人にもおススメです!

