~レンタルビデオ店にて~
S原:はじめまして、今日から働くS原です。よろしくお願いします。
Y木:あー店長が新人のバイトが来るって言ってたな。そうか。じゃ、よろしく頼むな。
S原:はい。あのー……(店内をみまわして)
Y木:うん?
S原:お客さん、いませんね。
Y木:そうだな。この時間は空いてるんだよ。
S原:もしかして、なんすけど。
Y木:どうした?
S原:もしかして、ぼくたち……だれもいない世界に入り込んだんじゃないでしょうね?
Y木:何言ってんだ、おまえ。
S原:先輩……怖いっすよ……これ、パラレルワールドってやつですよ!
Y木:違うよ!お客さんがいないだけだよ。くだらないことを言ってないで、ほら仕事を手伝えよ。
S原:え、お客さん、いないのに仕事があるんすか?
Y木:あるよ、もちろん。
S原:はあ~、めんどくせえ~。
Y木:勤務初日に言うことじゃねえだろ!最低だな、おまえ。
S原:いや、結婚はしてないっす。
Y木:妻帯じゃねえ。最低だっつってんの。
S原:最低って……もっと、自分に自信をもってくださいよ、先輩。
Y木:おれのことじゃねえ。おまえが最低って言ってんだよ。
S原:あーそうすか。すいません。
Y木:たのむよ、本当に。
S原:ところで、駐車場にとめてあるあの車。先輩の車でしょ?
Y木:そうだよ。
S原:いや~、かっこいいですよねえ。
Y木:あーそう? ありがとね。
S原:最近の車って、AIっていうんですか。結構、話すじゃないですか?
Y木:そうそう。ナビのときとかな。
S原:どんどん進化してますよね。
Y木:そうだな。
S原:やっぱり、「今日の調子はどうですか?マイケル」とか話しかけてくるんですか?
Y木:それは、ナイトライダーの車じゃねえか!
S原:話さないんですか、マイケル?
Y木:誰がマイケルだ。そういうトークまでは、さすがに出来ないよ。
S原:あーそうなんすか。でも、先輩の車って、あの赤色の感じがいいですよねえ。
Y木:あの色ね。
S原:ちょっと、ワインレッド風の赤でね。
Y木:ああ。
S原:外車でしょ?
Y木:一応な。
S原:すごいっすよ、先輩。
Y木:いや別にすごくはないけど。
S原:やっぱり、夜中にひとりで動いて同級生を殺したりするんすか?
Y木:「クリスティーン」か!
S原:車内で葉巻を吸ったら、車の機嫌がわるくなるんすか?
Y木:「クリスティーン」か!
S原:恋人とキスしようとしたら、ラジオで邪魔するとか?
Y木:「クリスティーン」か!
Y木:もういいから仕事しろよ、もう。あーそうだ。ちょっとハサミをとってくれる?ここに販促グッズをつくるから。
S原:え?
Y木:ハサミだよ、そこの引き出しに入ってるから。
S原:えー?勘弁してくださいよ。
Y木:何がだよ。
S原:だって、植木ハサミをもって僕を殺すつもりでしょ?
Y木:「バーニング」か!
S原:昔、火だるまになったりしたでしょ?
Y木:「バーニング」か!
S原:あーハサミじゃなくて、ジョギリですね!
Y木:「サランドラ」か!
S原:まさか僕の眼球に刺すつもりじゃないでしょうね!
Y木:「ゾンゲリア」か!というか、あれはハサミじゃねよ!
Y木:もういいよ、ちょっと掃除を頼むよ。
S原、掃除をはじめる。
Y木:……(様子をみて)なんか、おまえ嬉しそうだな。
S原:はい。
Y木:なんで、そんなに満面の笑みで掃除してんだ?
S原:うまれて初めて掃除をするんで、新鮮でうれしいんすよ。
Y木:「星の王子 ニューヨークへ行く」か!
S原:お客さんが歩くときは、歩く前に花をまいたほうがいいっすね。
Y木:「星の王子 ニューヨークへ行く」か!
S原:じつは、知らない間に息子がいたんすよねえ。
Y木:「星の王子 ニューヨークへ行く2」か!
Y木:なんなんだよ、おまえは。
S原:あ、言い忘れてた。明日、病院のいくことになったんで、シフト交代してもらっていいっすか?
Y木:交代? いいよ。なに、調子がよくないの?
S原:はい。どうも頭痛がするんすよね。
Y木:そうか。どこの病院にいくの?
S原:頭蓋骨病院です。
Y木:「マイドク」か!
S原:主治医は、ドクター・ハウエルなんですけどね。
Y木:「マイドク」か!
S原:なぜか改造人間軍団もいるんすよね。
Y木:「マイドク」か!
Y木:くだらねえこと、言ってねえで、ちょっと新作のDVDを並べてくれよ。
S原:はい。あー、これ!懐かしいなあ。
Y木:「妖怪人間ベム」のことだろ。また再販されたんだよ。
S原:かなり昔のやつでしょ。
Y木:うん。いまだに根強いファンがいるからな。店長が仕入れたんだよ。
S原:ラストがかわいそうなんですよねえ。
Y木:あのラストな。
S原:死んでしまいますからね。
Y木:はっきりとは描いてないけどな。
S原:体が溶けちゃうんですよねえ。
Y木:「溶解人間」か!
S原:ちょっと土星に、行ってただけなのにねえ。
Y木:「溶解人間」か!
S原:ちぎれた首が、川を流れたりしてましたよねえ。
Y木:「溶解人間」か!
S原:リック・ベイカーの特典インタビューは素晴らしかったですよねえ。
Y木:「溶解人間」か!
Y木:もういいよ、おまえ。どうも仕事ができないみたいだから、帰れよ。
S原:え、帰っていいんすか? ラッキー。
Y木:なんだよ、嬉しそうにするなよ。
S原:でも、家にいる間にもバイト代をくれるってことですよね?
Y木:バイト代なんかでねえよ!クビだよ、クビ!
S原:あーそうなんすか。クビすっか。
Y木:そうだよ。
S原:あーでも、どうしようかな。
Y木:なんだよ。
S原:帰れるかな……?
Y木:は? なんだよ、帰れるかなって。
S原:だって、ここパラレルワールドでしょ。
Y木:だから、違うっていってるだろ!
S原:また、そんなこと言って。先輩。
Y木:え?
S原:どうせ、明日になったら同じ会話をループするんですよ。
Y木:「うる星やつら2」か! いいかげんにしろ!