あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

スポーツ映画祭り!第17試合「タナトス」(2011)の巻

タナトス [DVD]

S原:スポーツ映画特集は、今回で最後!

Y木:ボクシングか。

(あらすじ)

WBA世界ミドル級チャンピオンの竹原慎二が原案の人気ボクシングコミック「タナトス むしけらの拳」を実写映画化。孤独な不良少年のリクは、ある日、将来を有望視されながらも脳に障害があることから日本ではプロボクサーになれない棚夫木と出会う。棚夫木にパンチ一発で倒されてしまったリクは、棚夫木が所属する「西田ボクシングジム」の門を叩き、ボクサーとしての才能を開花させていく。一方、棚夫木は再起をかけてメキシコに渡りプロデビューを目指すが……。

 

S原:これは、面白い!今回紹介したスポーツ映画のなかで一番好き!

Y木:へえ。

S原:実は、映画の出来具合としては、そんなに良くない。実際、SNSではかなり厳しいレビューが大半やねん。でも全く期待せずに観たからかもしれんけど、すぐに引き込まれてあっという間に最後まで観てしまったわ。

Y木:具体的には、どういう点が気に入ったの?

S原:やっぱり俳優やな。主役は徳山秀典。僕にとっては、はじめましての俳優やったけど、もう圧倒された。ナイフみたいにギラギラして危ない感じと、ガラス細工みたいに脆い感じが両方あって、この役にピッタリ。もしかして根っからヤバい奴かと思ってたけど、メイキングでは普通に笑ってて安心したわ(笑)

Y木:ほんまにヤバい奴に、映画の主演をさせへんやろ。

S原:いや、「そのまま」に見えるねんって!これが監督(城定秀夫)の演出やったら、脱帽するわ。この城定監督のフィルモグラフィーをみると、エロ系も含めて変化球の作品が多いけど、こういう人にちゃんとした大きな予算の映画を任せてみたらええのに。絶対に「化ける」と思う。

Y木:えらい褒めるなあ。

S原:ほんまに、この映画での俳優たちは輝いてる。ほかの俳優もすごいねん。ボクシングのきっかけとなったアマチュア・ボクサー・棚夫木を演じた佐藤祐基の精悍さ、主人公にボクシングの道を歩むべく背中を押す渋川清彦の飄々とした存在感、この2人は本当に出色の出来やと思う。男くさい中で清涼感のある平愛梨は映画のペースチェンジになってるし、大嶋宏成(本当のボクサーらしい)のトレーナー役も「多少のことでは動じないような心構え」が見え隠れしてすごい。最後に戦うことになる大口兼悟の凛とした立ち姿、不良役の斉藤一平のヤバい感じの眼つき、他にもたくさん出てくるキャストたちに魅了されたわ。これは俳優たちを観る映画やと思うなあ。

Y木:俳優がええのはわかった。ボクシングのシーンはどうなん?

S原:すごい迫力やった。俳優たちが真剣にボクシングのトレーニングを積んでいるのがよくわかります。同じボクシング映画で評価の高い「百円の恋」(2014)の安藤サクラもすごいと思ったけど、徳山秀典はそれ以上。本物のボクサーもたくさんでてるけど、まったく違和感ないよ。リング上での撮り方も上手い。凝ったことをせずに、正面からボクシングを描こうとしているのも好きやな。

Y木:へえ。ストーリーは?

S原:上のあらすじの通りで、結構単純やねん。でも、なんというか変なリアリティがあってゴツゴツしてるのよ。「居心地が悪い」のが、魅力になっていると言えばええんかな。

Y木:主人公が成長する話なんやろ?ボクシングに出会って、大人になるっていう。

S原:そうそう。ちゃんと起承転結になってるけどな。でもストーリー展開でみせるんじゃなくて、キャストの力でグイグイ話を引っ張っていくタイプの映画やねん。ほかに、佐藤祐基が脳の病気でボクシングを諦めかけるけどメキシコ行きを考えるエピソードとか、渋川清彦がボクサー引退後、ラーメン屋を始めるエピソードとか、不良の抗争とかがが主人公に絡んでいく。これも、うまく伏線を回収するという作りじゃなくて、主人公が(本人の意図とは関係なく)それぞれの糸を手繰っていく……まるで、それが運命みたいな感じでな。

Y木:そこまで上手く描写してれば、ええ映画やろ。

S原:ええ映画やで。でも、はじめに言ったけど「ウェルメイドな映画」ではない。そのへんに理解のある人なら、絶対に楽しめるはず。これはなあ、あんまり知られてない映画やねん。でももっとたくさんの人の届いてほしいわ。「面白くない」という意見があるのも承知の上で、それでも観る価値のある作品やと思うねんけどなあ。

Y木:まあ、なんとなく言いたいことはわかった。今回は、おススメなんやな。

S原:はい。おススメです。さあ、みなさん。ボクシングと聞くだけで敬遠する人もいると思いますが、まずはこの独特の世界に飛び込んでください。ここまで「役者」に酔う映画もなかなかありませんよ。テレビ放映は難しいかもしれませんが、配信でもレンタルでもいいので、少しでも多く人に観る機会が多くなってほしい。観れば好きになる人が絶対にいるはずなんですよ。というわけで、スポーツ映画特集の最後に、良い映画に出会えました!