
S原:今回は、こちら。7人のおばちゃんたち!
Y木:へえ。
(あらすじ)
幻の滝を見にいく温泉付き紅葉ツアーに参加した7人のおばちゃんたち。現地に到着した彼女たちは、頼りないガイドと一緒に、滝を目指して山登りを始める。木の実を摘んだり、写真を撮ったり、おしゃべりしたり、それぞれの楽しみ方で山道を進む7人。ところが、先を見に行ったガイドがいつまでたっても戻らない。「ねぇ、遅くない?」「迷ってたりして」気がつけばおばちゃんたちは山の中に取り残されていた!携帯は圏外。食糧もなければ寝床もない。突然のサバイバル生活に放り出されたおばちゃんたちは、果たして人生最大のピンチを乗り切れるのか?
S原:これも味のある良い映画やった。ぼくは好きです。
Y木:そうなんや。
S原:映画って、いろんな種類があるけど、その中で「なにもない映画」ってあるやん?
Y木:あーとくに何か大きな事が起きるわけじゃなく、ってことか。
S原:そうそう。この映画はそれに近いです。
Y木:遭難するんやろ。一大事やん。
S原:いや遭難するだけで、とくに大問題になるわけじゃない。そのへんがすごく緩くて、この映画の特徴になっています。
Y木:飄々としている感じ?
S原:うん。ストーリーは本当に上の通りで、それ以上のことはとくに起きない。おばちゃんたち7人が、山中で一晩過ごすだけです。まず、風景とくに山の中のショットがすごく綺麗で、空気感が伝わってきます。立ち位置も計算されている絵葉書みたいなカットと、なんとなく普通に撮っている(ようにみえる)カットとのバランスが素晴らしい。
S原:でも、この映画の最大のポイントはキャストやと思う。
Y木:ハマってるってことか。
S原:ハマってるというか、「そのまま」やねん。だって、みんなほぼ素人やもん。
Y木:あーわざと素人を起用しているんやな。
S原:全員オーディションで選んだみたい。募集要項は「40歳以上の女性、演技経験問わず」。
Y木:プロの俳優を使いたくなかったんやろうな。
S原:たぶんそうやろうな。結果、それが功を奏している。だって顔も名前も知らん人やから、全員が「そのまま」。一人だけ有名な女優がおるとかとちゃうで。7人ともそのへんのスーパーで会うような人ばっかり。それが、不思議とすごく良い雰囲気やねん。
Y木:素人のおばちゃんばかりか。へえ、完全に狙ってるよなあ。
S原:考えてみてよ。ここに吉永小百合とか三田佳子とか岩下志麻とかいたら、全然違う映画になるやん?
Y木:たしかに。
S原:あらすじは、山で迷って一晩過ごすだけやから単純明快。なので、各場面とキャラクターを楽しめるかどうか。で、まずキャラで言うと、そんなに語られない。例えば、「じつは〇〇で…」とか「〇〇さんと✕✕さんの関係は実は…」とか、ほとんどない。なので人間ドラマとしては、薄味と言っていいと思う。
Y木:そうなんや。
S原:でも場面が面白い。たとえば、山で遭難したときに大縄跳びをするねん。そこがすっごい可愛いねん。それに普段の生活でなかなか観られへんで? おばちゃんたちの大縄跳びって。
Y木:べつに観たくないけどな(笑)
S原:焚火をして盛り上がるとか、ええ感じやで。

S原:あー面白い台詞もあるねん。「女は、40超えたら、みんな同い年じゃ~!ボケ~!」って。あれは笑った。出色なのは、みんなで野宿して並んで寝転がっている場面。みんな星空をみています。ひとりが「恋の奴隷」を歌いだすねん。
Y木:「恋の奴隷」! 奥村チヨか!(注:Y木は、昭和歌謡に詳しい)
S原:「あなたと逢った その日から 恋の奴隷に なりました ♪」「悪い時は どうぞぶってね ♪ 」「あなた好みの女に あなた好みの女に なりたい~ ♪」これを、おばちゃんたちが合唱するねんで。ここは最高やったわ。
Y木:へえ。面白そうやな。
S原:面白いよ、これ。
S原:ただ「駄作」「くだらん」と言い切る人もおると思う。この映画に関しては観てもらうしかない。ネットで調べると、糸井重里もこの映画を気に入って、キャッチコピーを(勝手に)作ったらしい。『おばさんと少女はおなじものなんです。』
Y木:ほー。なんとなくそれで伝わるなあ。
S原:うん、とにかくおばちゃんたちがキュートに撮られている。いや魅力的という意味じゃなくて、「おばさんのまま」撮られているという意味ね。実際、監督(沖田修一)も演技指導とかあんまりせずに、「自分でいてください」ってアドバイスをしてたみたい。
Y木:まあ、日本映画では珍しいタイプの映画かもな。

S原:さあ、みなさん。沖田修一監督のフィルモグラフィーの中では断トツのマイナー作ですが、チャンスがあればぜひ観てほしいです。とくに、俳優志望の人、映画製作を目指している人、ちょっと変わった映画が好きな人はマストバイ! 観れば好きになる人が多いはず。この映画、もっと有名になってほしい~!
(素敵なおまけ)
同じサブカル系のブロガーの魚さんが、この映画の感想を書いています。
この視点の違いが、男女の差のような、そうでないような……
とにかく良いレビューです。おススメ!