あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

「デブラ・ウィンガーを探して」(2002年)の巻

 

S原:今回はこちら!

Y木:おードキュメンタリー、珍しい。

 

(あらすじ)

グランブルー』のロザンナ・アークエットが、女優として、女として、そして妻や母という立場に関して、素直な疑問を他の女優たちにぶつけてインタビューしたドキュメンタリー。

 

S原:これは刺激的で面白い映画やったわ。タイトルにある「デブラ・ウィンガー」は、一時期人気のあった女優。ぼくらの世代では「愛と青春の旅立ち」やな。

Y木:あー、リチャード・ギアが最後に迎えにいくやつね。

S原:デブラ・ウィンガーは、あるとき女優業をスパっと引退して結婚・子育てをしてた。「女性」としてそっちのほうが幸せかも…?という意味があるみたいね。ただ、この映画の時点では引退してたけど、そのあと復帰したみたい。

Y木:ほー。

S原:G・パルトロウ、M・ライアン、S・ストーン、総勢34名の女優がインタビューに答えているんやけど、監督のロザンナ・アークエットも女優やから、話しやすかったというのは大きいと思う。友達に話すみたいな雰囲気のインタビューもあるし。ただ、一つ言えるのはこの映画は「観る人を選ぶ」ってことかな。ハリウッド、映画のキャスティング、ショービジネス、女優たちの裏側(本音)、女性としての仕事と家庭の両立なんかに興味がないと、もうただ退屈なインタビュー映像やと思う。

Y木:なるほどね。映画としては、インタビューしているだけ?

S原:そうそう。ものすごく単純な作りやで。公園みたいなところやったり、キレイな場所やったり、バーみたいなところやったりでインタビューしてる。それも女優によって違ってて面白いよ。それにしてもやっぱりアメリカ映画は一味違うと思ったな。だって、絶対にこんな映画は日本では作られないやろ?ましてや劇場公開なんて。

Y木:それはいえるな。

S原:あなたは「女優」というものを意識したことある?

Y木:ない。男優も女優も一緒やと思っている。

S原:そうなんや。この映画に出演している女優はものすごく、自分の立ち位置、映画製作への思い、自分の人生などを考えてるで。この映画の趣旨にあわせて、とても丁寧で言葉も選んでわかりやすく話している。

Y木:そういう意味ではクレバーなんやろうけど…観てないからなんとも言いにくいけど、そもそもこのドキュメンタリー自体が落ちぶれた女優を見世物的に興味を引こうとしてるって感じがするなあ。

S原:まあ辛口に言うと、そういう面もあると思う。

Y木:そういうのは、おれ的には全く興味がないなー。

S原:言わんとすることはわかる。だから、「観る人を選ぶ映画」なんやと思う。ぼくの場合は女性が大半の職場にいるから、よけいに興味深かったのかもしれん。日々、女性としていろんな現場で苦労している姿を目の当たりにしてるしな。この映画で出てくる女優たちは海千山千やから、かなりリラックスしている感じで話をしていても、「演技」している部分もあるかもしれんな。まあ、いろんな話題が出るねんけど、ぼく自身は、映画論・演技論よりも女性・女優として迷う話が良かったかな。印象的な言葉も多いねんで。

Y木:たとえば?

S原:挙げだすときりがないけど、ジェーン・フォンダは「正直な行動をしていると、仕事も男も失ってしまう」ときっぱりと言ってたし、ダイアン・レインは少し寂しそうな表情で「子育てと仕事だけで精一杯。夫のはいる余地がなかった。冷たく聞こえるかもしれないけど…」とつぶやく。

Y木:ふーん。

S原:他にも印象的な場面は多いねん。女優同士で話をしているときに「お嬢様的なアイドルでは、女優はむりでしょ」というプライドをのぞかせたり、「お金のために最低なテレビ映画に出演するのか?」とか結構きわどい話もある。

Y木:まあ、それくらいの自負はあるやろな。

S原:異性関係の話も多い。それだけ女優達も意識してるんやろうな。ウーピー・ゴールドバーグは「自分のまえには火の輪があって、(自分のために)それをくぐってきた男性に感激する。でも、いつのまにか(その男を)精神的にも経済的にも支えている」と苦笑してたし、シャロン・ストーンなんか「普通の男性と付き合うのは無理だと思った」「有名人が男女関係を築くには、男の側にキツすぎる」と言い切っている(笑)

Y木:さすが。

S原:あとはやっぱり仕事と家庭・子育ての両立の話題が多い。印象的やったのは、シガニー・ウィーバー。「子育てばっかりをしていると、女優業をないがしろにしている気になる。(逆に)仕事をしても、子供をないがしろにしている気がする。なにをしても罪の意識がある」 

Y木:うーん。

S原:結構ズケズケという女優もおるねん。 メラニー・グルフィス「35歳になったら、『いまからどうするんだ?』と言われだした。『ほっとけ』と思ったわ」メグ・ライアン「いま仕事をセーブして気持ちが落ちついてるのに、まわりは『仕事がなくて可哀そうね』って言われる」テレサ・ラッセル「自分は、(女優の)他になにが出来る?(年をとったから)引退しろっていうなら、お金をくれって思ったわ」

Y木:最後の人は、すごいな(笑)

S原:しゃべっている場面も面白いけど、それを横で黙って聞いている女優、たとえばダリル・ハンナの表情がすごくええねん。肯定と否定が半々のような表情でな。個人的には、この映画で一番印象に残ったわ。

Y木:ダリル・ハンナか。人魚になる映画やな。

S原:「スプラッシュ」な。なかなか良い映画やった。彼女も超トップスターにはならなかったけど、全然売れなかったわけじゃないから、横で聞いてて複雑やったんかもな。あと、監督自身が(個人的にファンレターをだすくらい)大ファンだというホリー・ハンターが良いねん。ぽつりと「40代の女優は魅力的なので、もっと映画に出てもらいたい…そんなことを、わたしたち自身で、なんとかできればいいのにね…」とつぶやく場面が印象深いねん。

Y木:みんないろいろと大変なんやな…

S原:あとは、やっぱり「売れる・売れない」という部分かな。ヒット作に出演できるかどうか、代表作ができるかどうか?は大きいみたい。

Y木:そりゃそうやろ。大半は鳴かず飛ばずで終わるから。

S原:だれが言ったのかは忘れたけど、「自分の選択に後悔していない。こどもが一番。なので、良い映画の話がきても(子供のことを考えて)断ることもある。でもその映画がヒットしたら…。正直に言って複雑だわ。人をうらやましいと思うんじゃないの。でも…寂しいの…おそらく20年後も同じ気持ちだと思う」というのも本音やと思うな。

 Y木:うーん、でもこういう話題は、個人的には興味がわかんなー。

S原:そうなんや。あと、いわゆる美容整形についても結構話しているで。これはみんな知っていることやろうな。「ハリウッドは別世界。体も顔も整形する。『再生』するのよ」というセリフもある。やっぱり「若さ」というのが大きなテーマみたい。この話題の女優たちのやりとりが面白いよ。「女優は、若き新星か老いた性格俳優かどちらかしかないのよ」→「そこまで単純じゃない!」→「いや、単純よ!」とか言い合う場面もある(笑)「中年の役をやりたい。42歳の役をやりたい」とか「ぶさいくな男優でも仕事がある。『性格俳優』っていう道よ。でも女優は、キレイでないとだめ。これが現実」とかも言ってる。

Y木:うーん。ただなあ、「年齢で劣化した」ことを悪く言われることが間違ってるなら、「若い頃に美しさを賞賛される」ことも否定すべきだったと思うで。裏と表。ま、賞賛を喜んで、劣化を言われてそれに毒づくのもワンセットかもしれんけど。

S原:なるほどな。若い頃の美しさが武器という文脈で言っていいのかわからんけど、いわゆる枕営業とか性的なこともかなり赤裸々に話しているねんな。「きみが、彼ら(製作者たち)と寝るかどうか?それが大事だと(エージェントに)言われた」「オーディションに行ったら、顔でなく、胸のサイズを見るだけだったこともある。もちろん、わたしは落ちたわ。胸が大きくないから」「ユーモア、知性、才能、想像力、勇気、演技力、それをなくしたら、あとは女優が何をできる?ヤレるかどうかよ」

Y木:枕営業かー…役者って基本受け身なので、実績ある役者はええけど、無名の人は仕事をもらわないといけないやろ。世のフリーランスと言われる人たちと同じやな。

S原:確かに。
Y木:そんな仕事をもらうための営業活動の一つに、枕営業があるんやろうけど、それを会社に強制されるのは論外やと思うし、絶対に拒絶しないとあかん!

S原:おお、珍しく強い口調。しかも正論(笑)

Y木:まあな。ただ、これも仕組みとして強要することが常套化してるときがあるやろ?

S原:(枕営業が)あたりまえの世界になってるってこと?

Y木:そう。だから、そういうときは、声を上げて同じ立場の人間とそれこそ連帯するしかないと思う。

S原:me too運動とかが、それやろうな。でも、実際は…

Y木:そうやねん。(枕営業を)拒絶しない人もいるからなぁ。そんな人もその仕組みを支えるという意味では一味やと、おれは思う。ブラック企業で頑張る人もその一味というのと同じや。

S原:ある女優が「そういうのを全部なくしてしまって、(映画関係者と)ヤる女優もいる…でも、それを全部否定することは私にはできない…」と語る場面もあるねん。なんかこういうのを聞くと哀しいというか切なくてな。胸が痛いねん。ぼくが真面目なんかもしれんけど…

Y木:いやそもそも、(枕営業と)役者の仕事とは全然別。強い立場を利用して強制することはめちゃくちゃ卑劣やって!

S原:同感。でも、そういう部分につけこむ男っちゅうのは、いつの時代でもおるんやろな。ハリウッドであろうとどこであろうと、ほんまにクズみたいな男っておるから(ため息)

Y木:それで、肝心のデボラ・ウインガーには会えるの?

S原:会える。デボラの主な話をまとめると『女優としての自信はない。でも本当に引退するのには迷った。ただ、映画製作がどんどん早くなることも、つらかった(準備期間が短すぎる)いまは、内面が充実してる。いままで二の次にしてたことを大事にしただけ。でも実際の話をすると、家事や子育ては、やっぱりしんどい』ざっとこんな感じかな。

Y木:とくに目新しいことを言うわけじゃないんやな。

S原:そうそう。意外と普通やった(笑)それがかえって印象的やったな。「ハリウッドに対抗したんでしょ?」と質問されて、さらりと「現実的だっただけよ」と答えたり、「私が引退したのは人生にノーを言うためでなく、イエスを言うため」というのも印象的やった。

Y木:ふーん。

S原:ただ、この映画が100点満点かというとそうでもないのよ。「テレビのドキュメンタリーとどう違うの?」と言われてるとな…

Y木:ま、ドキュメンタリー映画は、そういうもんでしょ。

S原:まあな。あと最後のエンドクレジットが良くてな。女優たちが、鏡に、口紅でサインを書いていくねんけど、字にそれぞれ特徴があって興味深いねん。まあ、これは女優たちに興味がない人にはどうでもええと思うけど(笑)

Y木:いや今回はやっぱり、おまえの話を聞いても興味がわかんかったな、悪いけど。

S原:全然悪くないで。それはそれでと思う。さあ、みなさん、ハリウッドの裏に興味がある人、女優・働く女性という存在に興味がある人、女優たちが自分たちのことを話す姿をみたい人におススメの映画です。賛否のある地味な映画ですが、監督の人柄も見え隠れする作品になってると思います。マストバイ!