S原:タイ映画3番勝負、最後はこちらです。
Y木:ブラックタイガー…エビ?
S原:エビちゃうわ。
(あらすじ)
タイから初めてカンヌ映画祭に出品された、ガンアクションにラブロマンスやコメディの要素を詰め込んだエンタテインメント作品。父の仇をとるために盗賊になったダム。一方、ダムの恋人・ラムプイは盗賊の逮捕に燃える警部と婚約させられてしまい…。
S原:今回のタイ映画3本のうち、結論から言うとこれが一番好きやな。DVDのパッケージの通り、西部劇やねん。
Y木:タイに西部劇のような時代はないやろ!とつっこむのは野暮ってことね?
S原:その通り。完全にマンガのような架空の世界。これは完全に好みやねんけど、カラーが独特で良い味わいやねん。むかしの「総天然色」って感じで。あとで調べると、モノクロフィルムでいったん撮影したあとに、着色したらしい。このアイデアもええよなー。たぶん美術スタッフはノリノリやったんと違うかな。ノリノリすぎてところどころ人物の顔がピンクに色付けされたりしてるけど(笑)ロケでない場面の背景やセットも、わざとチープに作っていて、それが雰囲気をだしているで。背景が手書きの空やったりな。
Y木:ほー、低予算を逆手にとった作り方やな。
S原:うん。この監督がこの世界観を好きなのは間違いない。もう画面からにじみでてるから(笑)
Y木:やっぱり早打ちとか、ギャングの親分とかでてくるんやろ?
S原:そうそう。それがええねんな。セリフとかも、わざと古臭い言い回しで、おもしろい。日本語吹き替えも、「おれさまに盾突くとはー!」とかちょっと昔の洋画テイストで(笑)
Y木:へー。それで映画としてはどうなん?面白かった?
S原:まあ、そんなに面白くなかったかな。
Y木:どないやねん。
S原:でも、楽しい映画ではあるよ。日頃からゾンビとか巨大生物とか襲ってくる映画ばかり見てると、脳みそが委縮してるから、こういう映画はホッとするねん。
Y木:なんか低い基準で、評価していないか?
S原:なんというか、全然知られてないけど「愛すべき小品」って感じかな。ただ単純に西部劇の真似事をしていだけじゃなくて、タイならでは場面もあるねん。兄弟の契りを交わすために、大きな仏陀像(?)の前で兄弟の契りを交わす場面とか。
Y木:なんかシュールやな(笑)
S原:その場面は面白いで。ストーリーは単純でな。復讐ものと、純愛ものがストレートに展開される。でも、戦闘シーンは結構激しい。かなり大規模に撮影していて、ここはかなり残酷な描写になっている。血がドバドバーとでたり、手がちぎれたり、銃弾が顔を貫通したり、ロケット弾で体が粉々になったり。しかも手作り感がすごい(笑)こういう人体破壊が苦手な人は、やめたほうがええやろうな。
Y木:タランティーノとか、ああいう感じ?あんまり、あれも知らんのけど。
S原:そりゃ、タランティーノのほうが、段違いに映画の作り方が上手い(笑)しいて言うと、サム・ライミとかロバート・ロドリゲスの初期作品(低予算のころ)に近いテイストに近いかな。やけど、そもそも製作規模が違うから、ちょっと比べるとかわいそうな気がするなー。比べるとしたら、日本映画の「スキヤキウエスタン ジャンゴ」(2007)のほうやろな。
Y木:なに、その映画?
S原:日本で、西部劇を作ったことがあったのよ。伊藤英明とか佐藤浩市とか有名な俳優も出てる。でも「スキヤキウエスタン ジャンゴ」は全然印象に残ってない…(苦笑)まあ、それはええとして、さっきも言ったけど「怪盗ブラックタイガー」もそんなに完成度が高いわけではないねん。演出もところどころは面白いけど、全体的にスマートという感じではないしな。あと、ちょっと音楽の使い方もイマイチかな。「遠き山に日が落ちて」が何回か流れるけど、昔の音楽の授業を思い出す(笑)いまの教科書に載ってるかどうかは知らんけど。
Y木:西部劇やったら、いかにもな映画音楽を使いそうやけど。イーストウッドの若いころの映画音楽のような感じのやつ。
S原:エンニオ・モリコーネとかな。あれも熱心なファンがいて、いまだにサントラとか出ている。
Y木:この映画の音楽は、ザ・西部劇って感じでもないんや?
S原:ちょっと違うかな。ここは工夫次第でいくらでもよくなったやろうから、タイのミュージシャンに頑張ってほしかったな。
Y木:おまえの感想を聞いていると、良い点も悪い点もあるって感じやな。それで今回のタイ映画3本勝負はどうやった?
S原:どれも面白かったで。完成度が高いのは「アタックナンバーハーフ」、映画ファンでも家族でも楽しめるんとちゃうかな。いい意味でふざけた出来なのが「怪盗ブラックタイガー」、これはマニア向けかもしれん。従来の映画とは毛色が違うのが「オーメン 予兆」、不機嫌なおばあさんが陰の主役かな。
Y木:なんか、変なまとめかたやなあ。
S原:さあ、みなさん!今回の「怪盗ブラックタイガー」は、ちょっと毛色の変わった映画を観たい人にはおススメです。アジア俳優の濃い顔のオンパレードが好きな人、普通のカラー映画では飽き足らなくなった人、人は、マストバイです!タイ映画3本勝負はこれにておしまい!