S原:さあ、フランス映画カルト作品を紹介するシリーズ、最初はこちらですよ、モナミ!
Y木:あー、名前だけは聞いたことあるぞ。DVD出てたんや。
(あらすじ)
厳しい寄宿学校の生徒、アンヌとロールは「悪の華」を耽溺する15歳の少女。悪に魅せられた二人の少女は、バカンスを利用して悪の限りをつくし、ついには殺人にまで手を伸ばす…。フランスでは上映禁止、イタリアやイギリスには輸出禁止と、当時公開されたのは日本とアメリカだけだった禁断の映画が遂に蘇る。
S原:いきなりやけど、カルト映画って(このブログの読者に)意味わかるやろうか?
Y木:カルトといっても、いろんな定義があるけど、ここでは単純に「一部に熱心なファンがいる」「賛否の物議を醸しだす」ような映画でええんとちゃう?
S原:そうやな。実は、大学(映画サークル)にはいって、すぐに洗礼をうけたのがふたつあるねん。それが「シュールレアリスム」と「カルト」やった。全然、そういう世界を知らんかったから、うわーと驚いたわ。
Y木:たしか、おまえ高校生の時から映画ファンやったんやろ?そういうマイナーな映画があるとは、知ってたんとちゃうの?
S原:正確に言うと「名前だけ知ってる映画」やったから。だから、観たいなー、どんな映画なんやろー、とよく想像してたなあ。
Y木:たとえば?
S原:たくさんあるけど、「エル・トポ」「惑星ソラリス」「まぼろしの市街戦」「アンダルシアの犬」とか。映画の本で紹介されているけど、実際はなかなか見ることが出来なかった映画やな。いつまで待ってもテレビでも放映せえへんしな(笑)
Y木:そりゃせえへんわ(笑)たしかに、当時は「観たいけど観れない映画」ってあったからなあ。いまはかなり観ることが出来るようになったと思うけど…この「小さな悪の華」もそんな感じの1本やったってこと?
S原:いや正直に言うと、この映画自体を知らんかった…(笑)DVDの裏面をみて、へーこんな映画があったんや、と。
Y木:おれはタイトルだけ知ってたな。フランス映画が好きやったし。でもおまえがこの話をするまで、一生思い出さんかったと思う(笑)これは、結局どういう話なん?
S原:主人公2人は、修道院の生徒やねん。ボードレール、ランボー、ロートレアモンの詩にのめりこんでて、魔術というか背徳というかそういう世界に憧れる。2人だけの秘密の儀式をしたり…そのあたりも妖しいけど、やがて、農夫に自分の裸身をみせて誘い込んだり(襲われる寸前で逃げる)、枯れ草を燃やしたり、小鳥を殺したり(それをみて悲しむ人の姿をみて愉しむ)、どんどん行為がエスカレートしていく。
Y木:ほう。
S原:サタニズムというのか悪魔崇拝というのか、そういう世界にハマってしまって、本人たちは「悪いことをしてしまった」という罪悪感はないねん。
Y木:なるほど。
S原:いつものようにふざけて(大人の男性を)誘惑しているうちに、少女のうちの1人が男に襲われそうになるんやけど、大人の力が強くて今度はいよいよ危ない…というところで、もう1人が陶器で頭を殴打して、男は死んでしまう…
Y木:とうとう人を殺してしまうんか。
S原:あわてて隠ぺいするねんけど、当然警察は捜査する。やがて2人は怪しまれるわけ。それで、警察に捕まるくらいなら、いっしょに死のうと2人で決めるわけやな。保護者たちが来る発表会で、舞台にたった2人は抱き合ったまま体に油をかけて、自分たちの体を燃やしてしまう…でおしまい。
Y木:へえ、話自体は一直線というか単純というか…それでも、なんか話をきくだけで気持ちがなんか暗くなるなあ。悪魔崇拝かあ。
S原:いやー、ぼくも中学生時代も悪魔的なものとか病んでいる物語・設定に魅かれてたから…そんな詩を書いたりな。あー恥ずかしい(笑)だから、あんまりこの映画の2人のことを馬鹿にできないねん。もちろん、こんな悪戯というか犯罪はしなかったけど、今でいう完全な「中二病」(厨二病)ってやつやな。
Y木:まあ、中学生あるあるやな。おれは、そういうのはなかったけど(笑)
S原:さっきも言ったけど、この映画は「カルト映画」とよく紹介されるらしい。きわどいヌード描写があることを指摘するレビューは多いけど、いまはもっと過激なものもあるし、さすがに時代を感じるかなあ。
Y木:性的なところよりも、やっぱり反宗教的な部分が問題視されたんとちゃう?
S原:うん、そう思う。ヌードはともかく、こどもが大人を誘ったりする淫靡なところや2人で焼身自殺するというところが、上映禁止になった理由やと思う。当時公開できたのは日本とアメリカだけやったらしい。たしかに、この映画では「2人が間違っている」という描き方でもないしな。
Y木:でも、「2人は正しい」という描き方でもないやろ?
S原:映画としては、別に2人の行為の善悪に触れてないねん。なんというか、意外と淡々と描いてるというか。だから、ぼくは主人公たちに感情移入もせんかった。でも、ここは人によると思うで。トラウマになるほどのショックを受ける人もおるやろうし。ラストよりも、さりげなくスゴイのは、小鳥を殺す場面やと思う。ここは、ほんまに(小鳥を)殺していると思う。
Y木:それは…人によっては、動物虐待やと憤慨するやろうな。
S原:そういうのも上映禁止の一因かもしれん。ぼくは、この小鳥のシーンで「泥の河」(1981)を思い出したのよ。これは観たやろ?
Y木:観た。いやあ、あの映画は良かった。
S原:あの映画では、こどもがカニを燃やす場面があるんやけど、まるで幻想のようやったやろ。こどもの無邪気さと怖さの隠喩のような、どこか悲しい感じもして…あんな感じではなくて、(小鳥を殺すのは)単に飼い主を悲しませるだけが目的やから、単純と言えば単純かな。
Y木:まあ「泥の河」とはテーマが全然違うから比べてもしゃーないかもしれんけど。
S原:そやな。ほかの映画の比較で言うと、「乙女の祈り」(1994)がよく似ている。実話がベースで、自分たちの世界にどんどん入り込む少女2人が主人公なんやけど、この映画では2人が作り上げた幻想の世界(粘土で作ったキャラクターが生きている架空の世界)に入りこむところがSFXで表現されていて、ここが見どころになってた。同じような題材でも、こうも違うんかと感じたな。
Y木:作られた時代もあると思うけどな。それで、最後の2人の体に火をつけるクライマックスシーンはどうなん?
S原:うーん、あんまり演出が上手くないねん。最後に2人が死ぬときに、(観客が)かっこよく感じるみたいな感じもないし…ここが上手く描くことが出来ていれば、映画としてはかなり印象が違ったはずやと思う。「せつなくて可哀そう」とか「残酷だがむしろ2人にとってはこれで良い」とか、いろいろな感想がでてきそうやったのに、ちょっと残念。
Y木:それでも「問題作」という感じはするな。そういう意味ではカルトかもな。
S原:さあ、みなさん。すこし変わった映画を観たい人、1970年当時の映画演出に興味がある人はおススメです。あまり期待しすぎると肩透かしを感じるかもしれませんが、どこかザラッとした印象が残ります。好き嫌いがはっきりしますが、お店でみかけたらぜひ手に取ってください。マストバイかどうかは、あなた次第よい週末を!ボンウィケン!