

![秋深き by [織田 作之助]](https://m.media-amazon.com/images/I/41NkQE1yXrL.jpg)
S原:今回はこれ。原作は織田作之助です。
Y木:渋いなあ。古本でも、めったにみかけへん作家やわ。(注:Y木は古書店通いが趣味)
(映画の解説・あらすじ)
昭和の文豪・織田作之助の短編「秋深き」「競馬」を原作に、八嶋智人、佐藤江梨子主演で描く夫婦の絆の物語。地味で平凡な中学校教師の寺田は、胸の大きな美人ホステス、一代に惚れ、勇気を振り絞ってプロポーズする。寺田の一途さに惹かれた一代はプロポーズを受け入れ、水商売から身を引いて寺田との新生活を始めることに。婚姻届を提出し、晴れて夫婦となった2人は幸せな日々を送るが、そんなある時、一代の身を思いがけない病が襲う。
S原:いきなりやけど、映画としては「秋深き」はあまり良い出来ではないねん。
Y木:そうなんや。
S原:池田敏春監督の個性があまり自分に合わないというのもあるけど、展開も演出も不自然やねん。とくに後半はかなり変になっています。
Y木:ふーん。
S原:でも……
Y木:なに?
S原:でもね……
Y木:なんやねん。
S原:この映画、大好きなんだよおお!!
Y木:やかましいわ。
S原:好きな理由は簡単やねん。もう八嶋智人と佐藤江梨子!この2人がメチャクチャはまってるのよ~!いやあこの2人は素晴らしい。キャスティングした人は偉い。ついでに後半に出てくる佐藤浩市も良い!
Y木:ハマったってことやな。

S原:そうそう。とくに一代(かずよ)を演じた佐藤江梨子は文句なしに素敵です。はじめのホステス姿もキレイですが、一緒に住み始めてから、キッチンに立っている姿、女性と付き合ったことがなくヤキモチをすぐにやく寺田(八嶋智人)に愛情をもって接するところ、「寺田の嫁」であろうとする気持ちと姿勢、寺田が実家に紹介してくれない寂しさ、それでも(ホステス時代とは違う)地味で平穏な日々に小さな幸せをみつける表情……ああーもう!サトエリさーん、最高です!
Y木:むこうは、おまえに褒められてもうれしくないやろうなあ…(苦笑)
S原:たぶんな。でも、好き! 好き好き!
Y木:わかったわかった。原作も読んだんやろ?どんな感じ?
S原:原作は織田作之助の短編「秋深き」「競馬」。どうしても読みたくて古本屋で探したけど、なかなか見つからず諦めかけてたときに、ネットの青空文庫で読めることを知った。いやー良い時代になったよなあ…(しみじみ)
S原:あーそうそう。「織田作之助」を検索すると大量のアニメ関係のサイトがでてくるねん。
Y木:なんで?
S原:アニメ「文豪ストレイドッグス」のキャラクターになってるんですな。アニメ制作者たちもなかなか渋いで。つぎは都筑道夫か山田風太郎をだしてほしい!
Y木:マニアックやなあ(笑)

S原:で、小説「秋深き」「競馬」やけど、かなり映画の内容とは違っています。「秋深き」は1942年、「競馬」は1946年が初出なので、そのまま現代に置き換えるのはさすがに難しいと思う。映画のあらすじは、どちらかいうと「競馬」をベースにしているみたいやけど、それぞれの作品から上手く引用してるのよ。
Y木:ほう。
S原:小説「競馬」は、競馬場での馬券購入にまつわる心の揺れを上手く描写しています。とくに「もう(馬券を買うのは)やめよう」と「ちょっと待てよ、もしかしたら」という気持ちはギャンブルをした人(とくに金を浪費したあとの空しさを経験した人)ならだれでも共感するやろうな。あなたも一時期競馬にハマってたやろ?
Y木:あーそうやな。確かに負けると猛烈に空しいねんなあ…(遠い目)
S原:で、そんな競馬場で寺田という男は「1番」を買い続けます。理由は、妻の名前が「一代」(かずよ)だから。そしてその妻は亡くなっています。ここから過去のエピソードになります。寺田はただの教師、一代は高級な酒場で女給をやっておりそこのナンバーワンでした。寺田は28歳まで女性と付き合ったこともないような地味な男でしたが、一代に惚れ込み店に通いつづけます。夢中になってしまうわけやな。
Y木:それで?
S原:その真摯な態度に一代も結婚を決めます。映画では、この流れが冒頭になっています。一代が結婚を決める場面が良いのよ。映画では「もうホステスの仕事は疲れたわ(だから結婚してもよい)」とサトエリが語るんやけど、小説では「一代も一皮むけば古い女だった」と書かれています。どちらも良いですが、プロポーズで位牌を渡されて吹き出してしまうサトエリがチャーミングなので、個人的には映画に軍配をあげます。
Y木:「一皮むけば古い女だった」か。たしかに、昔の小説っぽいな。
S原:映画と小説で違うのは、小説では主人公が教師を免職になって、家でゴロゴロしてしまうことやな(それでも一代とは情痴を重ねる)。反対に映画では主人公は教師を続けます。「ホステス時代とは違い、教師の薄給でも幸せに暮らす」というニュアンスがでて、この変更は自然やと思う。そのあと、一代が乳癌になるという展開になります。ここは映画も同じです。乳癌になってから一代は苦しみます。主人公はオロオロするばかり。主人公はいまでいう民間療法にすがったりしますが効果はありません。そんなときに一代宛のハガキが届きます。男の字で「去年と同じ場所で待っている。来い」と競馬場に誘う内容で……という感じですすんでいきます。
Y木:地味と言うか、男女の心の微妙な揺れを描いた小説なんかな。
S原:うん。短い小説ですが、心の動きが上手く書かれていると思う。後半はかなり映画とは変わっていきますが、これをそのまま映画にしても面白くなかったやろうな。で、もう一方の小説「秋深き」は、主人公が肺を悪くして湯治にいく話です。宿でちょっと変わった夫婦と出会います。そのやりとりがなかなか面白いねん。とくに夫は、人懐っこさとあまり頭が良くない感じが混ざっているユニークなキャラクターでな。この夫にあたるキャラクターは、映画では赤井英和が演じています。赤井英和も好演していますが、主人公のことを案じて石油を飲めと迫られて、主人公が有難迷惑だと戸惑う場面は小説のほうが良いです。
Y木:石油を飲んだら病気が治る……?
S原:すごい民間療法やろ?(笑)今回は、原作と映画は狙いもテイストもまったく違うので、とちらが良いかは言いにくい。最後は、やっぱり好みかな。
Y木:なるほどなあ。

S原:でも…やっぱり……ぼくは映画版が好きやなー。やっぱり八嶋智人と佐藤江梨子抜きでは考えれません!本当にこの2人は魅力的やねんって!未見の人はぜひ観てくださいませ~!八嶋さーん、佐藤さーん!ぼくにとってはベストカップルです!これからも映画に出て下さーい!あーそうそう!
Y木:なんやねん。
S原:この映画を観た後、自分の嫁さんに優しくしようと思ったのよ。真剣に思ったで。
Y木:そりゃよかったやん。
S原:でも1週間くらいしたら、元に戻ったけどな。
Y木:……(無言)