
K木:こないだ話したディラン出演映画(ハート・オブ・ファイア)のサントラが、けっこう安値やったんで買っといた。ちょっとソリありやけどな。
S原:これ、珍しいんちゃうの。
K木:たぶんな。ディランが昔でた「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」(1973)もやっとこのまえ観たわ。
S原:へえ、ちゃんと演技とかしてるの?
K木:一応な(笑) セリフとかもあるしな。ナイフの達人の役。そうはみえんけど(笑)
S原:昔は俳優業にも興味があったんかな。映画としてはどうなん?
K木:結構良かったで。ペキンパー監督やしな。サントラネタとしては、なんといっても「天国への扉」(Knockin' on heaven's door)が収録されてることやな。
S原:この映画のための曲やったんや。知らんかった。

S原:ボブ・ディランといえば、あなた。
K木:あー「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」やろ。もちろん観たで。

S原:ディランファンとしては、どうやった?
K木:面白かった! 時系列を変えてて、史実と違うと怒る人もおると思うけどな。
S原:フィクションも交えてて作ってると。
K木:うん。でもまあ監督としてはああいう風に作りたいよなあ、と思うわ。
S原:最後は、エレキギターに持ち変えるのがクライマックスやろ。
K木:そうそう。
S原:あそこで「ユダ!(裏切り者)」と観客から言われるという。フォークファンから「エレキなんかで演奏するな!」という意味やろ。なんかあれも諸説あるみたいね。
K木:1966年のロイヤル・アルバート・ホール(ロンドン)での出来事となってるけど、本当はマンチェスターのフリー・トレード・ホールでのやりとり。さらに言うと、ニューポート・フォーク・フェスティバルでのやりとりと書いてある記事もあるけど、あれは完全に間違い。なんでロイヤル・アルバート・ホール説が長い間信じられたかというと海賊版のタイトルが「ロイヤル・アルバート・ホール」やったから。
S原:なるほど。
K木:結局、ブートレグシリーズで公式に音源がでたけど、タイトルは「ロイヤル・アルバート・ホール」のまま(笑)
S原:なんで修正せえへんの?
K木:もちろんわざと。海賊版(ブートレグ)に対しての皮肉やろうな。
S原:あー中古店で自分の海賊版CDを見つけたら、そのまま持って帰るという伝説がある人やもんな(笑)
K木:で、あの頃は前半がアコーステックのフォーク、後半がエレキでロックみたいな2部構成やったから、後半で観客が怒ったという説があるねんけどな。ただ、あのとき観客が怒ったのは3曲しか演奏しなかったことへの不満という説もあるねん。
S原:3曲か。それは怒るかも。でもフォークの信者にとっては、ボブ・ディランがエレキギターを持つのが嫌やったんやろ?
K木:うん。保守的なんやろうな。「商業的に成功するために魂を売った」みたいな。
S原:なるほど。
K木:昔は日本でもインディーズからメジャーレーベルでデビューするときに、古参ファンから「裏切った」とか言われてたやん。ラフィンノーズとか(笑)
S原:BOØWYが2枚目(インスタントラブ)で、パンクからニューウエーブに方向転換した時とかな(笑) 鮎川誠が東京に行くときも、地元の博多のファンから文句を言われたとか聞いたな。
K木:時代やなあ。いまならメジャーデビューしなくても自分でいくらでも配信できるもんな。
S原:話をもどすと、ディランのクライマックスは史実通りではないと。
K木:観客とのやり取りはそのまんま再現してる。judas!(裏切り者)って言われたディランが「I don't believe in you, you're a liar!」が言い返して、バンドメンバーに向かって 「Play it fuckin' loud.(でかい音で演ろう)」と呼びかけ「ライク・ア・ローリング・ストーン」を始める。
S原:良く出来たクライマックスやん。「ボヘミアン・ラプソディー」でもバンドエイドがクライマックスやもんな。あの映画では、フレディの動きを完全再現してたやろ。あんな感じではない?
K木:ちゃうな。ディランの動きを再現しているわけじゃない。でも映画としても面白かったし、おれはアリやな。
つづく