S原:今回は、フランス製のなんとも不思議な映画です。
Y木:これもパッケージ詐欺っぽいけどな。
(解説)
謎を解く鍵は、はじめから”そこ”にある。フランス発シチュエーション・スリラーの決定版!閉ざされた空間で、元刑事の孤独な頭脳戦(パズル)が始まる!!あなたにはこの謎が解明できるか。
”封鎖された病棟” ”消えてゆく患者たち” ”優しい病院職員” ”残されたクロスワード・パズル” ”立ち塞がる巨大な檻”
高速回転するルービック・キューブにヒントがはめられた時、驚愕の真実がそこに!
S原:これは異色作やと思う。
Y木:へえ。
S原:もちろん本家キューブとは無関係ね(ただし主人公はルービックキューブは持っている)。あらすじは簡単やねん。アルツハイマーにかかった元刑事が精神病院に入るところから映画は始まります。ぼくには「介護施設」にみえるけど、フランスの事情はわからん。完全閉鎖で自由がない感じではなく、すこし自由にウロウロ出来る感じの場所です。たぶん外には出れません。主人公はそこで過ごすことになるねんけど、この病院にはどこか不審な点があることに気付く。実は主人公は元刑事やねん。年老いても刑事としての「第六感」が働くというわけやな。
Y木:不審な点って?
S原:つぎつぎと患者が亡くなるけど、それが不審な死やねん。主人公は「殺人ではないか」と思い、単独で「調査」を始める。さっきも言ったけど、彼はアルツハイマーなので周りの人に話をしても妄想と思われてまともに相手にされない。
Y木:ほんまに妄想なん?
S原:観ている方も「妄想」なのか「殺人事件」なのかわからない作りやねん。最後にやっと真相がわかる。それまでは、どっちに転んでもおかしくない演出です。
Y木:へえ。
S原:結局、主人公は一人で調査していく。ただ、いくら刑事でもアルツハイマー型認知症やからな。新しいことが覚えられないし、自分が何の目的で何をしているか分からなくなる。ミステリーなんやけど、かなりひねった設定やねん。
Y木:面白そうやん。
S原:わりと良かったで。主役を演じたアンドレ・デュソリエがすごく良い味やねん。刑事としての頭脳のキレと認知症との狭間で揺れる感じの演技が絶妙やった。
S原:ただ、認知症の主人公の行動がメインやから、かなりのんびりムードやねん。普通、ミステリーやったら、主人公が危機一髪やったり、身近に要る人が手伝ってくれたり(そのあと裏切ったり)、伏線が上手く回収されたり、そういう展開で飽きさせへんやろ?
Y木:そうやな。
S原:この映画はかなりスローな展開で、さすがに途中は退屈やった。
Y木:映画全体のペースを認知症の主人公のペースに合わせてるんかな。
S原:かもな。その点もユニークなんやけどな。
Y木:一応、謎を解いてくのがメインの話やろ。
S原:うん。ちょっと面白いのは、例えば主人公が怪しい点をノートにメモする。そのノートを、職員に見られたらマズイから、そのページを破って別のところに保管しておく。しばらくして、そのノートを見た主人公が「ページが破ている!」「奴らが破ったんだ!」って、一人で勘違いして焦るねん。そういうのは、この主人公の設定ならでは、で良かった。
Y木:あぶない場面はあるの?
S原:少しあります。主人公がこっそり持ってきていた拳銃をトイレの貯水タンクにこっそりと隠すとか、なかなか味のある場面やで。何でも言うけど、本当にスローなテンポやから、人によっては退屈やろうな。
Y木:最後は……言われへんか。
S原:もちろん言えません。フランス映画らしく、あっさりと終わって、でも妙に印象に残る、そういうラストです。
Y木:それやったら、良いラストやん。今回の映画はアリちゃうの?
S原:完全に好みが分かれると思うから、おススメと強くは言えません。でも、これ普通に観て好きになる人はおるはずやねん。日本の販売会社が適当に「キューブ〇〇」とかつけるから、珍作B級映画風になってしまって、みんな敬遠してほとんどの人は観ないという。観た人でも「なんやねん、これ」とか「全然キューブじゃない」っていうレビューがほとんどやねん。便乗タイトルじゃなくて普通にタイトルをつけたら、「地味だけど、意外にイケる」という評価になるかもしれんのに。
Y木:原題は何?
S原:「CORTEX」。フランス語で大脳皮質という意味らしい。
Y木:なるほどな。そのままのタイトルやと、確かに地味すぎるかもなあ。まあ、販売会社にも言い分はあるやろうけどな。
S原:さあ、みなさん、これはパケージに騙されずに、ゆったりムードを楽しむつもりで観てください。あと、画像検索するとフランス版(?)のジャケットがでてきますが、映画の内容と雰囲気をつかんでるし、こっち方が良いですよねえ。