あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

1950年代の邦画を観てみる!「野獣死すべし」(1959)の巻

野獣死すべし [DVD]

S原:今回はこれ。松田優作よりも20年さかのぼった時代に作られた映画ですよ。

Y木:仲代達矢!若いなあ。

(あらすじ)

警視庁刑事が襲われ拳銃を奪われ殺される事件が起こる。捜査にあたる真杉(小泉博)と桑島(東野英治郎)の両刑事。捜査はやくざか前科者の仕業のように思われたが、奪われた拳銃は次々と犯罪に使われる。犯人は大学院生の伊達邦彦(仲代達矢)で教授から翻譯のアルバイトをしながら、犯行の機会を狙っていた。そして邦彦は大学の入学金の強奪の計画を着々と進めていく…

 

Y木:大藪春彦原作やな。大藪春彦は面白いよな。

S原:とくに「野獣死すべし」は有名やし、いまだにファンも多い。原作は本当に面白くて、学生時代にゾクゾクしながら読んだ記憶があるわ。晩年の作品はちょっとキツイらしいけどな。

Y木:で、この映画はどうやった?

S原:わりと面白いよ。ぼくは松田優作バージョン(「野獣死すべし」(1980))よりも好きやな。

Y木:ほんまに?

S原:松田優作は格好良いけど、1980年版は映画としてはそんなに出来が良くない。主人公の内面重視というか、どことなく陰鬱やし。こういうハードボイルドものって、やっぱりタフガイが信念をもって行動するのが格好よいやん?目的にむかっていくグイグイすんでいくのに爽快感があるというか。観客は、そういうのを期待してるから、松田優作版はちょっとな。

Y木:仲代達矢バージョンのほうが、ハードボイルド的ってこと?

S原:そうやな。まず白黒の映像が良い。監督は、須川栄三。知ってる?

Y木:知らん。

S原:ぼくも知らんかった。ウィキペディアによると「日本映画には珍しい、洗練されたハードボイルドタッチの作品を得意とする」と書いてあるから、こういうジャンルは得意なんやろうな。確かに、話の進め方とかキャラクターの性格がはっきりしていて、安心して最後まで観れます。

Y木:ほう、面白そうやん。

S原:ただ観ていて少し不満もでてくるのも本音やねん。なんというか、ハッとするカットとか、凝った場面が少ない。プログラムピクチャーの1本という感じで、かなりこじんまりとしています。

Y木:1959年の映画やろ。それは時代性もあるんちゃうの。で、あらすじは?

S原:上の通りです。主人公は伊達邦彦(仲代達也)。最初の場面で、刑事を撃ち拳銃と警察手帳を手に入れます。別の車に乗り換えて悠々と逃げます。一方で、ベテラン刑事(東野英治郎)と若手刑事真杉(小泉博)が犯人を追いはじめます。この伊達という男は、文学部の大学院生やねん。学内では優秀でアメリカに留学するつもりでいる。ボクシングで体を鍛えている一方、射撃も上手い。

Y木:典型的なピカレスクものやな。

S原:で、ヤクザを襲って闇カジノの売上金を奪ったり、それで恨みをもったヤクザが雇ったヒットマンに狙われたり、というエピソードがある。このあたりの展開も面白いんやけど、やっぱり伊達邦彦のキャラが印象的やねん。酒場で飲んでいると、おばあさんが花束を買ってくれ、と店に入ってくる。誰も買わないが、伊達は買ってやる。花を売ってもほとんど儲けはない、と話す老婆にむかって、さらにお金をポンポン投げて「金がほしいのなら、歌って踊れ」と言うねん。お金が欲しい老婆は、恥ずかしさに耐えながら歌を歌いながら踊るねん。それをニヤニヤしてみる伊達。

Y木:うわー…

S原:しかも、その酒場には刑事(真杉)も来ていてな。これが伏線になって、あとで会った伊達をみて、直感で「こいつが犯人だ!」と確信する。ボクシングのジムで刑事と伊達が話す場面があるねけど、刑事は(おまえが殺ったんだろう)と思いながら伊達に話す。一方の伊達は、そんな刑事の思惑に気付かないふりをして飄々と受け答えする。単純な場面やけど、ここは俳優同士の演技合戦って感じで、見応えがあったわ。

Y木:へえ。それからどうなるの?

S原:金に困っている貧乏学生をだまして相棒にする。2人で大学を襲い入学金(3000万円)を奪う。逃走途中で、伊達は貧乏学生をあっさりと殺して車ごと海に沈めます。

Y木:完全犯罪成立か。

S原:最後は、さっそうと伊達がアメリカに行く飛行機に乗る。ここで終わってもよかったと思うんやけど、この後に刑事2人の会話があるねん。

Y木:どんな会話?

S原:ベテラン刑事が「完全犯罪なんて成立しない。アメリカに行っても(こちらからの)電話一つであいつは死刑台さ…」と言うねん。伊達の犯罪が暴かれるような未来を暗示しておしまい、です。

Y木:なるほど。悪人が逃げてしまうラストは、作りにくかったんかもな。それこそ時代もあるし。

S原:最初に話したけど、話はわかりやすいしスタイリッシュな映像がこの物語に合っています。仲代達也も他の俳優の演技もいい。映画好きなら、観てもおいていい作品やと思うで。

Y木:じゃ、今回はおススメ?

S原:おススメです。はるか大昔にこんなクールな映画を作ってたやから、当時の日本の映画界にいかにパワーがあったかということやろうな。というわけで、乾いたタッチがたまらない魅力がありますので、観る機会があればぜひどうぞ~!