あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

80年代のスマッシュヒット映画 10番勝負!「哀しい気分でジョーク」(1985)の巻

あの頃映画 「哀しい気分でジョーク」 [DVD]

Y木:うわー、懐かしい。

S原:やろ?あのビートたけしが、毒舌コメディアン時代の主演映画を紹介します。

(あらすじ)

ラジオやテレビの司会者としてひっぱりだこのコメディアン・五十嵐は、私生活では妻に逃げられ、麻布の高級マンションで息子と二人暮らしをしていた。だが、仕事の忙しさのせいにして、息子のことはマネージャーにまかせっきり。そんなある日、息子が不治の病に侵されてることを知り─。

 

S原:実は、今回ちゃんと観たのは初めてやねん。

Y木:確か、これって難病ものやろ?

S原:うん。一時期、子供の難病映画ってあったやろ?かわいそうな病気の子供と親の話。「ジョーイ」(1977)とか「クリスマスツリー」(1968)とか。

Y木:あー「震える舌」(1980)とかな。

S原:やめてくれ、あの映画に触れるんはやめてくれー!

Y木:みんな、トラウマになってるんやなあ…おれもやけど(苦笑)それで、感想は?

S原:なかなか面白かった。だけど、駄作と言う人もおるやろうな。

Y木:どのへんが?

S原:簡単に言うと、バリバリ80年代!って感じやねん。服装とか髪型は当然やけど、演出がなー。

Y木:具体的にはどのへんが80年代風?

S原:子供が脳の病気(脳腫瘍)になってしまって、ビートたけしは、子供を連れていろんな医者の診察を受ける。主治医に手術は出来ないといわれたので、手術をしてくれる医者を探すわけ。せっかく新しい医者にかかっても、すぐにケンカになってしまう。例えば「命が助かる保障がねえのに、手術をするねんて言うんじゃねえ!」とか「てめえ医者なんだから、なんとしてくれよ!」とか。まあ、今まで父親らしいことをしていないから、息子のために必死になるという演出はわかるねんけど、いまの映画ならこんなセリフはないやろうな。だって本当に息子のことを考えたら、医者が多少横柄でも父親としてはじっと耐えると思うねん。このへんがな…

Y木:垢ぬけていないんやな。

S原:そういう時代と言ってしまえば、おしまいなんやけどな。説明的なセリフも多いし。でも、だからと言って、ダメなわけじゃないで。これは別ものとして観れば面白く観れると思う。

Y木:なるほど。

S原:基本は松竹のお涙頂戴路線なんやけどな

Y木:うわ、おれの大嫌いな路線!

S原:あなたに学生時代に散々聞かされたから、知ってるわ。でも、ビートたけしの存在感はやっぱりすごいよ。お涙頂戴映画なのに、どこか乾いた感じもしていて、すごくアンバランスやねん。

Y木:アンバランス?

S原:上手く言えないけど、単純なドラマなのに、どこか変やねん。ちょっと不思議な感じやな。難病映画やけど意外と湿り気がなくてそこは面白い。たけしが監督した「菊次郎の夏」(1999)も子供との交流を描く映画やったけど、たぶん、たけし本人はこの映画のイメージがあったような気がする。そっくりな場面もでてくるしな。この映画でうまく描けなかった部分を、自分なりに再チャレンジするみたいな。

Y木:結局、手術は出来るの?

S原:出来ない。なので、別れた妻(子供にとってはお母さん)に会いに行くことになる。オーストラリアにおるねん。オーストラリアロケでは、観光名所の解説テロップがでる親切さです。

Y木:お母さんと会えるの?

S原:会えない、というか会わない。すでに新しい家庭があって、結局は声をかけない。息子も自身が死ぬことを意識していて、母親に会うとかえって(母親を)悲しませると、たけしに言うねん。たけしは黙って言い返すことが出来ない。

Y木:なるほどな。最後はたしか子供は死ぬやろ。

S原:うん。日本に帰る飛行機の中で死んでしまう。帰国後、たけしは哀しみを隠して観客の前にでていく…というところでジ・エンド。

Y木:ラストはええ感じやん。というか、それが描きたかったんやろな。

S原:そうやな。何度も言うけど、この映画を楽しめるかどうかは、演出が古くさいのを許容できるかどうかやと思う。すごく悲しい場面に、これ以上ないくらいの悲しい音楽がかぶさる演出は、いまのヤングには逆に新鮮かもよ?でも、たけしはやっぱり良いと思ったで。セリフをがある場面よりも、じっと黙って座っている場面とかすごく印象に残る。もっと説明的なセリフがなくて「間」の多い映画にすれば、今でも語られる佳作になったと思うんやけど。

Y木:セリフが少なくて、静かな映画?無理無理、だって松竹やもん(笑)

S原:さあ、みなさん。いまや映画監督とても大御所で、テレビでよくわからないこと(聞き取れないこと)を言っているおじいさんというイメージがあると思いますが、ビートたけしの若いころは、アイドルの水泳大会に全裸で乱入したり、弱い者に毒舌をはくヤバい奴やったんですよ。たけしファンは必見。80年代カルチャーを堪能したい人、いまとは違うバタ臭い演出を楽しみたい人にもおススメです。よく考えれば、普通に働いたり生きたりすること自体が、哀しい気分なのにジョークを言うようなものですよ。これは、意外とレアです。中古店で見つけたらマストバイ!