Y木:多重人格ものか。
(あらすじ)
テレビドラマや映画で注目の若手女優・堀北真希が、男女ふたつの人格を併せ持つ少女という難役に挑戦したラブストーリー。幼い頃に両親を亡くした少女みなとの唯一の相談相手は、文通相手のナイト。同年齢の少年であることしか知らなかったが、彼にだけは本音を打ち明けることができるのだった。ある日みなとは、バイト先で出会った浪人生シュウと恋に落ちる。しかし初デートの最中に意識を失ってしまい、目覚めるとシュウの態度が一変していて・・・
S原:かなり前に、東京少年っていうバンドがあったの覚えてる?
Y木:覚えてない。
S原:結構、良いバンドやったんやけどな。ボーカルの笹野みちるがレズビアンをカミングアウトした自叙伝がでて、当時はちょっと話題になったんやけど。今回は、同性愛じゃなくて「多重人格」がテーマ。
Y木:アイデアで勝負!な映画というテーマで言うと?
S原:今回のアイデアは「人気女優の堀北真希が一人二役に挑戦。しかもラブストーリー」ってことやな。プロデューサーが「世界に類をみない企画!」と自負するくらいのアイデア勝負です。
Y木:世界に類をみない企画…でもないと思うけどな(苦笑)。これは二重人格ものやけど、ミステリーじゃないんやな。
S原:ちゃいます。ラブストーリーです。宣伝文句には「究極の恋愛劇!」と書いてあります。
Y木:いちいち大げさやな。それで、感想は?
S原:悪くないです。でもこれは、徹頭徹尾、堀北真希をみるだけの映画です。
Y木:それって、作り手側の狙い通りやろ。
S原:うん。とにかく堀北真希を魅力的に撮ろうとしていて、そこは良いと思った。堀北真希は角度によって、すごく顔の印象とか雰囲気が変わるねん。だから、多重人格という役に合ってるかもしれん。意外に、「男」になったときもハマっているしな。
Y木:へえ。ラブストーリーやろ。恋した女性が多重人格者だった…ということ?
S原:そうそう。主人公(堀北真希)は、文通をしています。相手はナイトと呼ばれている男性ですが、直接会ったことはありません。ある日、主人公はコンビニの男(石田卓也・医学部を目指す浪人生)と恋に落ちる。男とデートをしているときに、主人公は突然態度が変化してしまう。戸惑う男だが、やがて、「ナイト」は実在せず主人公の心の中にだけ存在していることに気づく。
Y木:主人公は、(自分が多重人格であることに)気づいていないの?
S原:ときどき記憶がなくなることは自覚していますが、理解していません。ただし、男性側の人格(ナイト)は、自分自身が別人格と理解しています。
Y木:それで?
S原:やがて多重人格になったのは、過去の事件がきっかけになっていることが分かる。男は、わざと主人公のトラウマ(子供のころに両親を事故で亡くしている)を厳しく責め立てて、「ナイト」を表に出させる。主人公が女性から男性に豹変する……この多重人格の演技が、映画としては売りになるわけやな。
Y木:演技はどうやったの?難しい演技やろ。
S原:堀北真希の演技は一部では酷評されてるけど、そんなにひどくないと思う。とくに、「ナイト」になったときの雰囲気は、なかなかやと思う。
Y木:俳優って、多重人格の役とかやりたがるよな。
S原:うん。演者の性やろうな。たしか筒井康隆が「役者というのは、狂った役を演じたがる、そういう狂った奴が多い」とどこかで書いてたと思う。
Y木:なるほど。で、最後は?
S原:男と対峙した「ナイト」は自分が堀北真希を守らないといけないと思い込んでいたが、それがかえって(堀北真希の人生を)邪魔をしていると気付く。そして、「ナイト」は消えていく…
Y木:なるほど。まあ、それしか終わりようがないかな。
S原:話はちょっと単純すぎたけど、これはこれで良いと思う。ただ、演出がちょっとなあ。
Y木:演出?
S原:堀北真希を丁寧に撮ってるし、ロケ、とくにナイトに郵便を出すポストの風景や公園のいる人物を遠景でとらえたショットとかもキレイ。なんやけど、どうもギクシャクしているというか。
Y木:ギクシャクって?
S原:観客はすぐに主人公が二重人格ということは分かるねん。でも、後半に丁寧に説明する場面を挿入している。言葉で説明するんじゃなくて、もう一度主人公と男との会話のシーンをみせて、「ここは、こういう意図があるんですよ」「ほら、ここは多重人格だから、こんな行動をしているんですよ」「この会話には、意味があるんですねえ」とすごく丁寧に教えてくれる。そんなん、観てたら気づくちゅーねん(笑)
Y木:丁寧すぎるんか。
S原:そのくせ、男の行動原理が分かりにくい。例えば、急に主人公に「実は二股をしている」「距離を置こう」とか冷淡になる。当然、主人公は傷つく。でも、男の冷淡な態度には、どうも主人公を助けようとする意図があるみたいやねん。わざと冷たくしてたみたい。どうもそのへんが、のみこみにくい。ただの嫌なヤツにみえてしまう。
Y木:そうなんや。
S原:全体としては悪くないです。でも印象に残らない。
Y木:印象に残らない、か。
S原:うん。映画の出来は悪くても、もっと言えば下手でも、いつまでも印象に残るっていう映画ってあるやん?なんとなくモゾモゾするというか。そういう映画とは対極に位置している、というのがぼくの感想です。
Y木:聞いているとテレビドラマっぽいな。
S原:あーそうかもしれん。さあ、みなさん。堀北真希ファンなら絶対におススメです。多重人格に興味がある人もOKでしょう。でも他の人は、ちょっと厳しいかも、です。テーマが重いわりにサッと観れる映画なので、気軽に楽しんでください。なんかいろいろと惜しい映画でした!