あなたの知らないワゴンセールの世界

ほとんどの人が見向きもしない中古屋やレンタル落ちのワゴンの中…しかし、その小宇宙にはまだ知らない映画たちが眠っている(はず)!そんな映画を語るブログです(週末 更新予定) 娘曰く「字ばっかりで読むしない」「あと、関西弁がキモイ…」そういうブログです

アイデアで勝負!な映画たち「グランドピアノ 狙われた黒鍵」(2013)の巻

ポスター画像

Y木:なんか、普通っぽいな。

S原:いいえ、今回はもうなんとも……

 (あらすじ)

過去の失敗からステージ恐怖症に陥り、演奏から遠ざかっていたピアニストのトムは、5年ぶりに表舞台へ復帰することになる。演奏会にはベーゼンドルファー社製の名器インペリアルが用意され、トムは恩師パトリックが残した難曲の演奏に挑むが、その譜面には「一音でも間違えたら、お前を殺す」というメッセージが記されていた。やがて会場に潜む謎のスナイパーの銃口が自分をとらえていることを知ったトムは、誰にも助けを求めることもできず、絶体絶命の中で演奏を続けるが……。

 

S原:ハッキリ言います。これは、大・珍・作です!

Y木:いきなりやな。これは、シチュエーションスリラーやろ?

S原:うん。公衆電話の場所からでられなくなる「フォーンブース」(2003)とか、ATMから出られなくなる「ATM」(2012)とか、スキーのリフトから降りられなくなる「フローズン」(2010)とか同じような感じやな。ちなみに、どれも結構面白いよ。

Y木:おー、「フローズン」っていう映画は、スキーのリフトから降りられなくなるんか。ちょっと面白そうやな。

S原:うん、結構面白かったで。かなり設定に無理あるけど(笑)でも、そういう「無理な状況」をいかに納得させながら面白くみせるか?が、腕の見せ所なわけやん。

Y木:そやな。

S原:この映画ではそこが完全に破綻していますねん、だんな。

Y木:なんで浪速の商人みたいな言い方やねん。

S原:この映画のユニークなところは、コンサートの最中、衆人環視、みんなが自分を見ている中で起こるってことやねんけどな。さっきも言ったけど、こういう映画って、あらかじめ限定された危機的な状況(動けない場所、迫ってくる時間、命を狙われている、他人には伝えれない等)で、主人公が果たしてどうするのか?が面白さの「肝」やん。観ている人が「あーその手があったか!」とか「へえー主人公は頭がいいなあ」とか「犯人の裏をかいて、そう動いたのか。やるー!」とか。

Y木:やるー!って(笑)

S原:ところが、なにもかもが変やねん。もう観ていて、こっちが悲しくなるくらいに……(深いため息)

Y木:演出が下手?

S原:それ以前の問題ですわ。だって観客が「え?」と思う前提をことごとく説明できていないもん。

Y木:うん?どういうこと?

S原:えーとですねえ。まず、主人公はピアニストやねん。ステージ恐怖症で5年振りにコンサートをする。難曲で有名な曲らしい。緊張する主人公。いざ、ステージに立ちます。期待されて万雷の拍手。主人公が楽譜を開くと、「一音でもミスをしたら、おまえを殺す」と落書きされている。主人公は驚く。でも演奏が始まってしまうから、しかたなくピアノを弾く。ページをめくると「うそじゃないぞ。おまえの恋人も狙っている」という落書き。観客席にいる恋人をチラッと見ると、赤色のレーザーポインターがねらってるではありませんか!本当に命が狙われていると知り混乱する。でもミスをせずにピアノを弾き続ける主人公……

Y木:まあ変な設定やけど、出だしはそんなもんでしょ。

S原:ところが、主人公は演奏の途中ですぐにピアノをやめて、楽屋に戻ります。

Y木:は?

S原:ほんまやねんって!たぶん「主人公がステージにいない時間 = ピアノは弾かないパート」という設定やと思うけど、オーケストラの演奏は続いてるねんで?本日の主役やで?いくらなんでもステージから黙って消えたらあかんやろ。

Y木:(セロニアス)モンクみたいやな。

S原:あー興奮したら演奏をやめて、踊ってしまうという変人ジャズピアニストね(笑)でも、モンクはノリノリなあまり、そうなってるわけやん。それにステージから降りるわけじゃないし。

Y木:しかも、お客さんも「あーモンクやからねえ」と笑って許してあげる(笑)

S原:当たり前やけど、映画の展開として『ステージからいったん消える』という場面が要るなら、それを観客にきちんと説明しないとあきません。「セッション」(2014)という音楽映画でも、演奏中にも関わらずビッグバンドの指揮者(鬼教官)が主人公(ドラマー)の近くまで来て、(演奏しながら)会話をする場面があるねん。 あれも「こんなことあるんかいな?」と思ったけど、「まあジャズやから、そういうこともあるやろ」と許容したけど、今回はクラシック、しかもオーケストラやで?変やろ?

Y木:まあな。それで楽屋に行って助けを求めるの?

S原:なんか「イヤホンをつけろ」と言われて、イヤホンをつけてステージに戻る。

Y木:それで?

S原:イヤホンから犯人の声がきこえる。犯人と会話しながらピアノ演奏をする主人公。さあステージの上で、ピアノを演奏しながら犯人とトークタイムがスタートでっせ!

Y木:えーなにそれ。お客さんは分かるやん。

S原:何故か客はみんな気づかないんですわ。

Y木:ひどいな。というか、そんな会話しながらピアノ弾いたら間違うやん。難しい曲なんやろ?

S原:もうこの時点で「1音でも間違ったら殺す」という設定はなくなっています。

Y木:おいおい。

S原:そんななか主人公は、携帯(ガラケー)を取り出します。

Y木:え、携帯?どこから?

S原:スーツのポケットから、自然な感じで(笑)ここは大事なのでもう一度言います。主人公は、携帯を取り出します。

Y木:しつこいわ。

S原:念のため言っておきますが、ステージの上でピアノを演奏しながらですよ、あなた。

Y木:お客さんはみてるやん。

S原:お客さんに見えない位置にそっと置いて、ピアノの演奏の隙間にピコピコピコピコ……しかも途中でガラケーをステージ上に落とします。なのに、お客さんは全く気づきません!

Y木:うそつけ。

S原:ほんまやねんって!ほんまにこんな映画やねんって!もう面倒やから話を飛ばすと、犯人たちはピアノに隠された「鍵」が欲しいらしい。今回のピアノは特注品でやたらとでかいねん。「ラ・シンケッテ」という難曲の最後の4小節を完璧に弾ければ、その「鍵」が取り出せる。犯人はそれを狙っているというわけ。

Y木:その鍵って何?

S原:さあ?なんか高価のものとちゃう?説明があったかもしれんけど、全然覚えてない。

Y木:適当やなあ。最後は?

S原:ステージの上で、照明とか吊るす装置あるやん。あそこで、犯人と主人公がたたかいます。オーケストラは演奏している、その舞台の最上部でもみあう2人。ハラハラドキドキしますねえ。

Y木:……それ、ヒッチコックとかの時代の映画の演出やん。

S原:その後、2人とも落下して、ピアノの上にドーン!ピアノは木っ端みじん!お客さんは、ギャーって一斉に逃げ出します。全員逃げてホールには人っ子一人いなくなります。

Y木:なんで火事でもないのに全員逃げるの?普通は何が起きたか理解できなくてシーンとしたり、あわてて警察呼んだりするするやん。

S原:分かりません。犯人は死にます。主人公は足を骨折します。

Y木:それで?

S原:主人公は破壊されたピアノにむかって、「ラ・シンケッテ」の最後の4小節を弾きます。ガタンと音がします。たぶん「鍵」が出てた音です。主人公は、すごく頭が悪そうにニヤーと笑っておしまい。「これで、オラはお金持ちだっぺ!」という笑いです。

Y木:なんか、おまえの言い方は悪意があるぞ。

S原:いや、ほんまにこんな映画やねんって!信じられへんやろうけど、これはもう観てもらうしかない。製作費もかけてる。ちゃんと俳優は演技もしている。コンサートホールも使っている。カメラも音響も衣装も編集もまとも。なのに、珍作としか言いようのない怪作が出来上がる、いやー映画の製作ってほんとうに難しいですねっ。

Y木:水野晴郎か。

S原:いや冗談抜きで「シベリア超特急」シリーズのほうが、筋が通ってるって。あれはあれで楽しいやん。

Y木:まあな。

S原:いやーみなさま。本人たちは大マジメなのに、こんなメチャクチャな映画は久しぶりに観ました。出来が悪いとか、センスがないとか、B級とか、カルトとかとは全く違う次元の映画です。主人公の行動に目をつぶってもらえれば、十分に楽しめます。ぜひ一度観て下さーい!でも怒っちゃダメよ~!